全ては忘れがたき復讐のために
「今日はありがとね木葉、灯ちゃん。わざわざ休みだったのにお見舞いに来てもらって」
「いいってそんな気にしないでよお母さん」
「そうですよ、多分これが最後のお見舞いになると思いますから」
舞のお礼に木葉と灯は笑顔で返答した
「そうね、退院したらまた家に遊びにおいで?いっぱいごちそう作っておくから」
「えーほんとですか!?うわー私おばさんの手料理久しぶりに食べて見たかったんです!」
灯は少しはしゃぎながら喜びの表情をする
「それなら、墓参りの後に遊びに行くってのはどう?」
「ナイスアイデア!」
灯は木葉に親指を見せて了承をする
「じゃあ二人は何が食べたい?」
舞は笑顔で灯と木葉に問いかける
「私は・・・あっ肉じゃが!おばさんの作ってくれる肉じゃが小さいころから好きだったんです!」
「私はグレープキャンディー!」
「それは無理があるわよ・・・」
灯は冷静な表情で木葉に指摘をした
「え?じゃあ・・・あっ私その時18歳になってるからケーキ作ってほしいなお母さん」
「ケーキね、任せて!」
舞は木葉の願望に了承をする
「それじゃあおばさん、退院の時また来ますのでそれまでお大事に!」
「じゃあねお母さん」
木葉と灯は笑顔で舞に手を振り病室のドアを開ける
「ええ、今日もありがとう木葉、灯ちゃん」
舞も二人と同様に優しい笑顔で手を振る
そしてその後、木葉達と舞の間を病室のドアが閉ざしていった。
ガラガラガラ・・・
「・・・・・・・・」
舞は一人っきりになった自身の病室の窓から病院の敷地を出ていく木葉と舞を眺めていた
夕焼けに照らされていく二人の影は体の面積と釣り合う大きさで地面に浮かび上がり、どこか者悲しさを表していた。
「・・・・・ごめんね木葉」
舞はその二人が帰っていく光景を目で見ながら謝罪という名の独り言をつぶやいた
「あなたが嘘をつく子なんかじゃないってお母さんはじめっから知っていたの・・・戒も同じく、あなたたちがお父さんに会ったっていうのは夢なんかじゃなかったのよね・・・」
そういいながら舞は涙を流す
「むしろ・・・むしろお母さんの方が嘘つき者よ・・・いつか言おうと、いつか絶対にあんたにも言おうと思っていたのに、こんなに年月がたっちゃうなんて!・・・お母さん最低だわ・・・」
舞はさらに泣きながら両手を手で覆う
「あなたのお父さんは・・・あの人はシャドウウイルスなんかで死んでないの。あの人はシャドウなんかで死ぬような人じゃない!!・・・・あの人は・・・あの人は!!・・・・」
「え?なんで?」
木葉は駅を降りて寮に帰る途中の道を歩きながら灯に問う。
「いやその・・・まあたまにはいいじゃない!私の部屋でお泊りしても、他人の家で泊まるのって結構面白いわよ?」
灯は先ほどの風哉との約束を守るべく木葉を自身の部屋で泊まらせるよう交渉をしていた。
「そんなもん?」
「そんなもんよ?私だってこの前の旅行すっごく楽しかったもん!」
灯は笑顔で木葉に伝える
「あっ猫だ!」
「え?」
木葉は道の端っこで眠っている猫を見つけて駆け寄る。もちろん猫好きの灯も同様についていく
「かわいい~」
「ほんとだ可愛い」
木葉と灯は猫の頭を優しくなでる
「あっ」
灯はその時散歩中に猫を見つけたときのことを思い出した
「うん?どうしたの灯ちゃん?」
木葉はそんな灯に疑問を抱いて振り向く
「・・・・あのさ木葉」
灯はあの時の木葉の病院帰りの事を聞こうと思い、思い切って口にする
「あんたさ、この前体調不良かなんかで病院に通っていたでしょ?」
「え・・・・」
木葉は驚きその場で固まる
灯の言葉で目を覚ましたのか眠っていた猫が目を覚まし、二人を見た後路地裏に逃げていった。
「・・・・そ、そんなことないよ灯ちゃん!私なら全然・・」
「私聞いたの」
「え?聞いた?」
灯は申し訳ないと思いつつも病室のドアで木葉と舞の盗み聞きしていた二人の会話を思い出す。
「あんたお母さんにも心配されていたでしょ?急激に痩せてどうしたんだって、それに味覚が・・・」
灯の深刻そうな顔に木葉は慌てながら灯に説明を始める
「ああ、それは・・・ほら前にも言ったじゃん私疲れているって、期末とか進路とか・・・お母さんの事とかで。それで」
「確かそうやっておばさんにも説明していたわよねあんた・・・」
木葉は驚きの表情で灯を見つめ、灯は冷静な表情で木葉を見つめる
「木葉。本当のことを言って、あんたのその痩せ方尋常じゃないわよ、それにまだそんなに寒くないのにそんな厚着をして・・・」
「こ、これは・・・その」
木葉はためらいながら灯に伝える
「私なんだか最近冷え性になったからこれを着ているだけで、痩せたのはダイエットしてるからなの!」
「ダイエット?」
灯は木葉の発言に疑問を抱く
「うん、多分疲れや味覚なんかもダイエットのし過ぎから来ているものだと思うの私。」
灯はさらに疑問を抱いた。木葉は小さいころから自分よりも少し小柄で華奢な体形をしていた、今までダイエットなんか気にせずに好きなものを好きなだけ食べても太ることのない、そんな木葉がいきなりダイエットだなんて・・
「何でダイエットなんか始めたの?」
灯は木葉に問いかける
「え?何でって灯ちゃん私とお母さんとの会話を聞いていたなら知ってるんじゃ?」
木葉はそんな灯に逆に疑問を抱く。
「ああ、盗み聞きしたことは悪かったわごめん。でも私そのあとちょっと電話がかかってきてその場を離れたのだから全部は聞いてないわ」
木葉は再度灯に問う
「じゃあ、風君のことは聞いてないの?」
「風君?風哉がどうかしたの?」
「あ・・・」
木葉はまるで漫画のように両手で口を押える
(しまった口が滑った・・・)
慌てて後ろを振り向く木の葉を灯は少しみつめにやける
(あ、そうか・・・この子風哉に・・・)
灯は心の中でそうつぶやくと木葉に問う
「どうしたの木葉ちゃん?風哉君に用事でもあるの?」
からかい気味に問いかける灯に木葉は少し顔を赤くして答える
「う、ううん何でもないよ」
木葉の必死の否定に灯はさらににやける
「あ、そう。まあ何でもいいけどあまり無茶なダイエットはしちゃだめよ?あんたは今のままで十分可憐だから」
「それお母さんも言っていたやつだよ・・・」
そう言うと木葉と灯は夕焼けが照らされていく帰り道を並んで歩き始めた
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
しばらくの間二人は無言で歩いていた。しかし木葉は内心少しもやもやしていた
「・・・・あーーーーやめたやめた!!隠し事なんて私に似合わない!」
「は?」
急に大声を出した木葉に灯は驚き木葉の方を見る
そして木葉は笑顔で振り向き灯の方を見つめる
「木葉ちゃんには伝えておくね私の一番の友達だから」
「・・・・うん何?」
灯はもうわかってはいたがあえて知らないふりをして木葉の言葉に耳を傾ける
「私ね・・・」
「うん・・」
木葉の沈黙が少し続いた後木葉は顔を赤くしたまま灯に告げる
「私、風君に告白しようと思っているの!!」
「やっぱり?」
「え?」
返答する灯は、物凄い驚きの表情をすると思っていたのにその表情はいつも通りの笑顔だったため木葉はあっけにとられて灯を見つめる。
「あ、ううん何でもないの。でいつ告るの?」
灯は慌てて木葉に問う
「・・・あ、ええと実は・・・明日」
「え?明日!?」
灯は物凄い驚きの表情をした
明日音は唖然とした表情で戒を見つめる
「・・・・それは本当ですか?」
「ああ、本当さ・・・黒命郷の主は死者蘇生によって0番隊を・・・」
戒の表情は深刻で真剣そのものだった
「でもどうやってそんな極秘情報を・・・」
「愁人だ」
「・・・え?愁人さん?」
明日音は驚きながら戒を見つめる
「愁人が俺にだけ教えてくれたんだ念を使って。」
明日音は驚きながらも疑問を抱く
「で、でも念は白命郷の主である龍之介様とでしか・・・」
「忘れてない?」
戒の発言に明日音は戒を見る
「俺は、3年前は生者だったんだよ」
「・・・・ああ、そうでしたね。あなたは特別でしたもんね・・・」
戒の説明に明日音は納得をする
「そして0番隊のやつらも特別さ・・・やつらはとんでもない霊力と執念を抱いて木葉と同じ学校にいる」
戒はそう言うと拳を握る
「戒さん・・・」
明日音はそんな戒を見つめて呟く
「しかし、何で愁人さんはそんな重要なことを主様や私達に伝えなかったんでしょうか?」
明日音の疑問に戒は答える
「あいつは・・・今回の争いは自分の血のせいだって言ってたよ・・・」
「血?・・・」
「だから、自分達が蒔いた種は自分で始末したいのが愁人の願いなんだ。」
戒は説明をしながら自分の手のひらを見る
戒の手のひらは先ほどの強く握りしめたときに傷がつき少しばかり出血していた
戒はその赤い血を見ながらつぶやく
「この今流れてる俺の血だって愁人と同様に呪われている血なんだ・・・でも木葉は木葉だけはその呪縛から解放したい」
戒は手のひらを胸に当てる
「それが時野家長男として、あいつの兄としての俺の義務でもあるんだ!・・・」
「・・・・戒さん・・・あなたそこまでして木葉さんを・・・」
切ない表情で戒を見つめる明日音に戒は振り向き木葉に告げる
「だから、だからお願いします明日音さん!!」
戒は思いっきり頭を下げる
「木葉を・・・俺の妹を俺と一緒に救ってやってください!!」
明日音はそんな戒を真剣な目で見つめる
「あいつには、あいつには・・・・」
戒は灯や風哉と優と一緒に遊んでいる木葉のとても嬉しい笑顔を思い出しながら言葉にする
「木葉には生者の世界で俺の分まで幸せに生きていてほしいんです!!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
戒の悲願の後二人の間に沈黙が訪れた
「・・・・嫌です」
「え?」
戒は頭を上げて明日音を見る
明日音は冷静な表情のまま口を開く
「木葉さんだけじゃなく、生者の世界の人と白命郷や黒命郷。そして戒さん、あなたも幸せにするというのであれば応じます」
冷静な顔から笑顔に変えながら明日音は戒に告げた。
「明日音さん・・・・」
「ふふ、さあ行きましょ!木葉さんと生者の方々のために!!」
「はい!!」
戒は舞い散る桜の木に向かって手のひらをかざす
「待て」
後ろから男の声が聞こえた
「え?」 「誰だ!」
明日音と戒はそろって後ろを振り向く
「駆け落ちをするんだったらわしらにも伝えろ」
そこにいたのは戒の師匠である友數と明日音の師匠である則男。そして寺に仕える修行僧たちだった
「師匠!?」
二人はまたしてもそろって口にした
「はははは、そうじゃわしらはお前らの師匠じゃ、おぬしらと同じこの白命郷を守るな」
「明日音・・・お前・・・」
笑いながら語る友數とその反対に涙目になる則男に戒は告げる
「・・・・すいません師匠。俺どうしても行かなくちゃいけないんです!これは俺にしかできないことなんですよ!!」
明日音も戒に続く
「そ、そうですよ私も戒さんと同じです!確かに白命郷の事も大事ではありますが・・・今私たちに必要なのは希望の・・・いえ木葉さんの!!」
「分かっておる」
友數は笑顔で答える
「おぬしらがそういうただならない正義感を抱いていたのはわしらははじめっから知っておった、なあ則男?」
「え?・・・ああ、うん・・・」
友數の問いかけに同意しながら則男はめそめそ涙を流す
「だからわしらはおぬしらを止めたりはしない、むしろ見送る。この二つ目の目ではっきりとな!!」
友數はそういうと両目を人差し指で指し二人に告げる
「友數師匠・・・」
「そこまでして私達を・・」
「そこでだ、おーい持ってこい」
友數は後ろの修行僧たちに告げ道を開ける
その空いた道に修行僧の何人かが大きな木箱を抱えて持ってきた
「この日のために用意しておいたんだ」
そう言うと友數は地面に置かれた木箱のふたを開ける
「これは・・・」
その木箱に入っていたのは自分たちが着ている寺の服よりも、光沢があり厳重な製造で構成され収められている、まさに神秘そのものというほどの服が2着入っていた。
「これを私達にですか?」
明日音の疑問に友數は頷く
「もうおぬしらはわしらを完全に超えた、白命郷の守護者として文句ないほどの実力を備えている。だからこの服をおぬしらに内密で作り上げ今日みたいな旅立ちの日に授けるつもりだったんじゃ!なあ?」
「・・・・・ぐすん・・・ぐすっ」
「なあ!!」
「え!?ああ、そうそう授けるつもりだったんじゃ・・・」
友數は笑い則男は未だ涙を流していたが、その瞳の奥は二人を激励する瞳そのものだった
「あ、ありがとうございます・・・こんな素敵なもの・・・」
明日音はそう言い服を手にする、戒も同様に
「着てみてくれ!」
友數は笑顔で二人に頼んだ
「どう・・・っすか?」 「似合ってますか?」
戒と明日音は師匠たちに与えられた服に着替えて姿を現す
その姿を見た途端修行僧たちは拍手を送り友數は笑いながら頷き則男はさらに号泣する
「うん立派だ立派、さすがわしが見込んだ男!!華も今のお前を見たら喜んでおるぞ?」
「明日音・・・お前、ほんとに成長したの・・・」
二人の称賛の声に戒と明日音は少し照れる
「それとこれをお前らにやる」
友數はそう言うと袖から巾着袋を渡した。
「これは?」
「開けて見よ」
戒は言われた通りきんちゃく袋の紐をほどく
そこに入っていたのは白いビー玉のようなものが5つ入っていた。
「え?・・・白の霊玉(れいぎょく)?」
「師匠これは?」
戒の疑問に友數は答える
「それはおぬしらも知っての通り霊玉じゃが、いつもの霊玉ではないぞ?・・・それはこの白命郷に授かりし聖なる霊力を凝縮した物、名付けて・・・聖霊玉(せいれいぎょく)じゃ!」
「聖霊玉!?」
戒と明日音は二人して口をそろえた
「いいのですか?こんなに貴重なものを、しかも5つも」
明日音の問いかけに友數は笑う
「お主たちだからこそ、その霊玉は必要なのじゃ。」
「俺たちだからこそ?」
戒の疑問に友數は説明を始める
「まず5つの内3つはおぬしら管理者の分。残りの内の1つは愁人の分。そして最後の一つは・・・・わかるな?」
明日音はそれを聞き口を開く
「木葉さんの分・・・!」
「ご名答、その霊玉を体内に含めば例え0番隊だろうが、なんだろうが返り討ちにできる」
「師匠さっきの俺のセリフ聞いていたんすね・・」
戒の言葉に友數は微笑む。
「・・・分かりました、この聖霊玉は必ず木葉さんに渡して生者の世界と白命郷と、そして・・・木葉さんを救ってみせます」
明日音はそう誓うと聖霊玉の入ったきんちゃく袋を服の隙間に入れる
「もし無理そうだったら逃げてきてもいいんじゃぞ?明日音・・・」
バコッ
泣きながら告げる則男の頭に友數は拳骨(げんこつ)を入れる
「それじゃあ師匠、みんな3年間お世話になりました!!」
「ああ、よく頑張ったな戒!!」
友數は涙目になりながらも笑いを崩さず戒の肩を叩く
修行僧たちも近づき戒に別れを告げる
「明日音・・・こんなわしに今まで尽くしてくれて本当にありがとう・・・ありがとう・・・」
則男は頭にたんこぶを抱えたまま泣きじゃくり明日音の手を握ったまま別れを言う
「いえいえ、私こそ長い間本当にいろいろとありがとうございました。皆さんもありがとうございました!」
明日音のお礼に修行僧たちは近づく
「明日音さん、ご武運を!」 「明日音さんこれ私が作った髪留めです。よろしければどうぞ」 「師匠の事は任せてください」
明日音は涙を流しつつも一人一人の別れのセリフに耳を傾ける
ゴクッ
戒と明日音は聖霊玉を飲み込むと師匠と修行僧たちの方に体を向ける
「それじゃあ行ってきます!!」 「世界を救って必ず帰ってきます!!」
友數は腕組をし笑顔で頷き、則夫は泣きながら手を振り、修行僧たちは両手で思いっきり見送りをしていた
そんな師匠たちに戒と明日音は心の底から感謝と感動をしていた
「じゃあ行こうか?明日音さん」
「はい!」
戒は桜の木に手をかざそうとする
「あれ?」
その時桜の木の隙間から光が漏れその光は大きくなり戒と明日音の前に出現した。
「どうしました戒さん?」
「いや、俺霊力まだ使って・・・」
戸惑う戒の後ろから友數の声が聞こえてきた
「余分な霊力は使うな!」
二人は振り向く
そこには片手を前に出して霊力で生者の世界との光の空間を出現させた友數がいた
「おぬしらの道はわしが作る、ほら行ってこい!!」
「・・・・・はい!!」
二人は友數の優しさに改めて感謝をしその光の空間に入る
その空間は二人が入った後閉じられ、元の大桜の木に戻った
「うっ・・・」
則男はその場で倒れこみ大声泣く
「うわあああああ、明日音えええええ!!負けるなあああああ!!」
「・・・・・・・」
友數はその大桜を見上げて涙を流す
(戒、明日音殿・・・それがお主らの答えなんじゃな?)
心の中でそうつぶやいた友數は流れている涙を笑顔でぬぐった。
「できましたよ戒さん」
明日音は包帯を巻き終わると戒にそう報告をした
「ありがとう明日音さん。ごめん・・・わざわざ巻いてもらっちゃって」
戒は立ち上がり明日音にお礼を述べる
「いえいえ、いいのですよ。同じ管理者じゃありませんか、私たちは」
光の道の間で明日音は戒にそう問いかける
「・・・・・ああ、そうだな。白命郷と生者の世界を守るのが俺たちの使命だもんな!」
戒はそう言うと明日音は笑顔で口を開く
「黒命郷もですよ?」
「あ・・・悪い」
明日音は戒の謝罪に微笑むと戒に伝える
「それじゃあ行きましょうか戒さん。いえ晴太さん」
戒は明日音に返答をする
「ああ、行こう!!」
二人は光の奥に歩みを進める
「・・・・・・・あの、明日音さん」
「はい?」
少し進んだ後戒は明日音に問いかけをした
「・・・・・・ありがとう、木葉のために・・・」
「・・・・・っふふ、どういたしまして。」
戒の感謝の言葉に明日音は笑顔で応答をし、生者の世界に向かうべく二人の管理者は光の先に進んだ
黒峰 優は石櫻高校の周りを走っていた
しかしそれは走るというよりも早歩きにちょっと速度を加えたようなもので、買ったばかりのサウナスーツは似合ってはおらず荒い呼吸と汗が優を苦しめていた
「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、ラスト1周・・・!!」
優は自分が住んでいる学寮の前で両ひざに手をつき少し休んだ後先ほどのジョギングコースを再度走り出した。
そんな中、学寮では木葉は灯の部屋で雑談をしていた。
「え?じゃああんたが言ったの?風哉に屋上に来てくれって」
「うん・・・でも最初は体育館でいいかって風君からメールがあったんだよ?」
木葉と灯はまさに女子高生の女子トークのようにパジャマに着替え二人で仲良くお話をしていた
「で、どういう風に言うわけ?風哉に」
灯は木葉に笑顔で問いかけると木葉は少し照れながら口にする
「え~どうっていわれても~、まあなんていうかその~」
灯はもったいぶっている木葉は両目でしっかりと見つめていた。
「はい!」
「え?」
木葉は急に返事をして灯はそれに驚き声を漏らした
「ど、どうしたの急に?」
灯は恐る恐る木葉に問う
「え、いやなんか今誰かに、呼ばれたような・・・」
「ちょっと怖いこと言わないでよー、今、夜の8時ちょっと過ぎだから結構不気味って言ったら不気味なんだから」
「あ、ごめんごめん。・・・で、何の話だったっけ」
木葉の天然さが引き起こす物忘れに灯は呆れ顔で口にする
「だから、風哉の・・・」
「・・・・・・・・・・」
コートを着ている男は学寮の木に隠れて木葉と灯のいる学寮を見上げていた。
「・・・・・・明日か・・・・辰臣(タツオミ)師匠・・・どうかお許しを・・・!!」
男は独り言をつぶやくと学寮を去っていった。
「はあはあは・・あれ?」
優は学寮の前に来た時、角を曲がるコートの服が見えた。
「もしかして・・・今のって!?・・・」
優は疲れていながらも思いっきり走りその角を曲がる
しかしそこには夜の8時ということもあり誰もいなかった。
「・・・・・・・・」
優は10日ほど前の下校時間に目撃した学校の陰に進んでいくコートの男の事を思い出した。
「・・・・・・・・まさかね」
優は気のせいだと自分に言い聞かせ、ジョギングのノルマ回数を達成したことを忘れ、もう1周走り始めた
「主様!!」
憐は黒命郷の主の部屋で黒い布越しに主に向かって声を出す
「1番隊隊長、憐!!」 「2番隊隊長、烈・・・」 「3番隊隊長、臥螺奇」
「只今参りました!!」
憐を含む3人の隊長は片膝をつき主に報告をした
「・・・・・よくぞ集まったな我、優秀なる隊長達よ・・・」
主は黒い布越しに語り始める
「集まってもらったのは他でもない、明日いよいよ白命郷に我黒命郷の勢力をかける」
主は片手を握りしめ3人に伝える
「は、存じあげております!!」憐がそう言うと臥螺奇は口を開く
「しかし、主様。話によれば白命郷の管理者共が希望のいる校舎に同じく明日到着するとか」
「何?明日だと!?、はっ・・・失礼いたしました!許可なき私語をお許しくださいませ!」
「構わん・・・」
主は私語を発した憐を許すと臥螺奇に告げる
「よく知っているな・・・その通り明日、希望もとい時野 木葉のいる石櫻高校に白命郷の管理者4人が集うだろう」
臥螺奇は主の話を聞いた後、口を開いて発言をする
「ここから先はあくまでも私の推測ではありますが・・・管理者はその希望を殺害するのではないかと思うのです・・・」
「・・・・・・」
「なっ!?」
憐は驚き、主は臥螺奇の推測を聞き沈黙をした
「奴らに残された手段はもはや希望を葬り去り、主様の器にさせないべくすることかと思われます。ですので・・・」
臥螺奇は冷静な口調で主に問う
「霊力を一人に蓄えそのものに希望を黒命郷に連れ去るのが得策ではないかと・・・」
憐は立ち上がり臥螺奇に指摘をする
「貴様!!主様の計画を台無しにしようというのか!!」
「よせ、憐」
「・・・申し訳ありません・・・」
主は興奮する憐を落ち着かせ再び跪つかせる
「臥螺奇よお前の考えていることは一理どころか五里はある。しかしそれは無理な話だ・・・」
「なぜでございます?」
臥螺奇の問いに主は答える
「奴には霊神力の加護がある、約13年前から続いている加護が・・・」
主はそういうと改めて説明を始める
「仮に一人の兵士に霊力を上限以上蓄えたとしても、霊神力という一つの個には勝つことはできない、近づいてもはじき返されるのがオチだ」
主の説明を聞いた臥螺奇は主に再度問う
「随分と詳しいでございますね。過去に経験があったのですか?」
「・・・・・・・・」
主は再び沈黙をした
「とにかく、今の希望に近づけるのは私が送り出した護衛、0番隊の5人だけだ。奴らに管理者の排除を任せれば問題はない。そうだろ?」
「・・・・・はいそうでございました、私が間違っておりました」
臥螺奇は仮面の下で不気味に笑いながら自分の間違いを認めた
「・・・・・・」
そんな臥螺奇を憐は怪しげな目で見つめる
「ところで、烈隊長」
「はい」
40代前半の髭を生やした男は主に返事をした
「結界の方はどうだ?」
主の質問に烈は答える
「問題はございません・・・明日にはもう完全に破壊できます」
「そうか・・・・」
主は少し間をおいて烈に尋ねる
「で、その奪い取った霊力は・・・分かっておるな?」
「ええ、もちろんでございます」
烈も臥螺奇と同じく不気味にほほ笑み、顔を下げた
(こいつも臥螺奇とおなじで・・・・まさか、私に知らされていない裏の計画があるのか!?)
「とにかくこれで役者は全員揃った・・・」
主は立ち上がり3人に告げる
「良いか、本当の時は明日満ちる!!明日で我らの計画は完全遂行をなし、生と死の理を無にして我が黒命郷が成し遂げる理想の世界を創り上げるのだ!!」
「はっ!!!」
主の言葉に3人は一斉に返事をする
「そしてその理想郷の暁には、私に変わり新たな主が誕生する・・・」
主は壁に貼られている木葉の写真を見つめながらそうつぶやく。
「そこで貴殿らは、明日行られる白命郷との争いに向けて全力を尽くすように!!」
主は息を吸い込む
「全ては忘れがたき復讐のために!!」
「全ては忘れがたき復讐のために!!」
ゴクッ
3人は主の言葉を復唱した後、紫の霊玉を口に含み飲み込んだ。
「烈、臥螺奇」
憐の呼びかけに二人は振り向く
「なんだ?そんな真剣な顔して?」
烈の問いかけに憐は口を開く
「一体・・・何を考えている?」
「は?何を?」
何のことかさっぱりだと言わんばかりの二人に憐は声を荒げて問いただす
「とぼけるな!!、お前たち私に内密でなにか別の計画を隠しているんだろ!!」
憐はそう言うと烈の方に目を向ける
「烈、主様の後を継ぐ霊力研究長の貴様なら何か知っているんじゃないのか!?」
烈は無表情で憐を見つめる
「黙っていないで何とか言え!!」
「何とか」
烈はそう言うと通路の奥へ進んでいった。
「・・・・待て貴様っ!!」
はらわたが煮えくり返るほどの怒りから烈を後を追おうとする憐を臥螺奇は止める
「だから、落ち着けって憐、お前はイノシシか?」
憐は烈への鋭い眼差しを臥螺奇に向ける
「おお怖い怖い、そんな怖い顔するなよ。お前が何を言っているかは知らないが、別に俺たちは隠し事なんてしてないから安心しろ」
「・・・本当か?」
憐は落ち着きを取り戻し臥螺奇に問う
「ああ、本当さ。その証拠にお前に包み紙を渡したろ?主様はお前をのけ者外れになんかしてないって」
「・・・・・・」
憐は臥螺奇からもらった包み紙の入っているポケットを見つめる
「それに・・・」
臥螺奇の言葉に憐は再度目を向ける
「復讐心があるのはお前だけじゃない俺や烈や主様もみんな一緒さ・・・」
「復讐心・・・」
憐はその言葉を聞いて遠い昔の記憶を思い出す
(なんでだよ夏美(ナツミ)・・・なんでそいつと) (ごめんね憐、だってあんたとのデート面白くないもん。行こ?)
(わりいな憐、つまんねえ自分を呪うんだな!!ははははは)
(あ・・あ・・あ・・・・)
憐は自身の恋人を友人に寝取られた忌々しい記憶をよみがえらせる
ブーーーーン
(お前らが悪いんだ、お前らが・・・)
憐は自身の車のアクセルを思いっきり踏みつけ仲良く路地を歩いている彼女と友人に突っ込んでいく。
バァンッ!
鈍い音がして彼女と友人は憐の車に轢かれ即死をした
しかし憐はそれでもアクセルを緩めず路地に立っている電柱に向かって、先ほどよりも速度を上げ突っ込んでいった。
「ほんとに・・・」
電柱が憐の目の前まで来る
「つまんねえ人生だよなぁ!!」
ガシャァァァン!!
憐は涙を流し笑いながら電柱に衝突した。即死だった。
「・・・・・・そうだったな臥螺奇すまなかった・・・」
憐は自身の忌々しい生前の記憶を思い出すと先ほどまで疑いの目線で見ていた臥螺奇に謝罪をした
「いいって気にするな、お前のそう言う真剣なところは俺も尊敬している。でもだからと言って熱心になりすぎると身を亡ぼすから気をつけろよな。ってもう俺たち死んでるけどな!」
「・・・・ああ、わかってる」
臥螺奇の言葉に戸惑いながらも憐は返答をし、臥螺奇とともに通路を歩く。
「じゃあ臥螺奇隊長。明日はよろしく」
「ああ、任せろって!憐隊長」
通路の分かれ目で憐は臥螺奇に別れを告げ右の通路を進んでいった。
「・・・・・・・」
臥螺奇は憐の歩いていく後姿を見ると、仮面越しに笑みを浮かべボソッと呟く
「騙されやすいのも気を付けないとな・・・」
臥螺奇はそう言うと左の通路に進んでいった。
「・・・お呼びですか?龍之介様」
愁人はかったる表情で龍之介と念で通信を始めた
「愁人君!?なんで今まで出てくれなかったの!?すごい心配したんだから!!」
龍之介は愁人の安否を確認した後、急いで問いかける
「愁人君今どこにいるの?」
愁人は目を開け周りを確認する。
そこには校門の前に石櫻高等学校という札が記載されていた
「今、希望のいる学校の前に来ていますけど?」
「え!?」
愁人の報告に龍之介は驚く
「それじゃあ君はもう木葉ちゃんとその0番隊ってのがいる学校の前に着いたってこと!?」
「はい、でも今はもう夜中なんで誰もいないですね」
愁人は少し笑いながら返答をした
「何笑っているんだ!今からでも遅くない君一人じゃ分が悪すぎる、今すぐこっちに戻ってきて。白命郷との扉なら僕が今から・・・」
「いえ、せっかくのお心遣いですがお断りさせていただきます」
愁人は即座に龍之介の提案を拒否した
「・・・どうしてだい・・・なんでそこまでして!!・・・」
「これは!!」
龍之介の言葉に重ねるよう愁人は口を開いた
「これだけは、私自身の手で解決しないといけないんですよ。・・・父との約束ですから・・・・」
(頼んだぞ・・・私の自慢の一人息子、愁人!!)
愁人は10年前の記憶を思い出しながらそう口にした
「父・・・約束・・・・一体どういうこと!?僕たちにも教えてよ!仲間じゃないか!?」
「ええそうですよ、仲間だからこそ、私は今ここにいるんです。」
「愁人君・・・」
龍之介は愁人の信念に感服しそうだった
「・・・じゃあさ愁人君一つ聞いてもいいかな?」
「・・・・なんなりと」
「彰吾君はどこにいるか知ってる?」
「・・・・・・・」
愁人は返答をしない
「ねえ、愁人君。君なら知っているでしょ?彰吾君と同じ生者の世界にいる君なら!」
「・・・・・・・」
「彰吾君もね愁人君と同じように念を使っても全然連絡がつかないんだ。だから・・・・」
「知りません」
龍之介の質問に愁人はボソッと呟いた
「え?知らない?」
「はい、何も知りません・・・」
しかし龍之介は愁人が嘘をついていると瞬時に理解した
「・・・・嘘だ、そんなわけないよ!知らないんだったら何ですぐに知らないって言ってくれなかったの?」
「・・・・・・」
愁人は再び黙り込む
「ねえ愁人君、本当のこと言ってよ、本当は彰吾君に何かあったんでしょ!?・・・あっもしかして彰吾君も今、木葉ちゃんの所に・・・」
「知りません、私は本当に何も知りません・・・」
龍之介は知らないと一点張る愁人に問いただす
「何で隠すんだい!!僕たちだって木葉ちゃんを守りたいんだよ君と一緒で、何も一人でしょい込む必要なんてないだろ!」
「本当に何も知らないんですよ私は。勘弁してください龍之介様・・・」
「今だってね白命郷と黒命郷の結界に異変が生じているんだよ?これも何か関係しているんじゃ・・・」
「何度も言わせないでください、知りませんから・・・」
愁人と龍之介はなおも口論を続ける
「とにかく帰ってきてくれ愁人君!」 「それはできません」
「どうしてなんだい?君が言ったことがもし本当なら策を練って再び木葉ちゃんの所に向かえば」 「もう時間がないんです・・・」
「・・・・時間がないってどういうこと!?」 「それは・・・・」
「やっぱり彰吾君が何か関係して・・・」 「だから関係ありませんって!」
「じゃあ何で?」 「・・・・・」
「愁人君!ちゃんと答えてよ!」 「・・・・・・・」
「聞こえているでしょ!」 「・・・・・・」
三度黙り込む愁人に龍之介は苛立ちを感じ大声でぶつける
「君だって昔は昴君達と同じ主に仕える2番隊隊長だったんだよ!?それなのになんでそんな風に・・・!」
「ごちゃごちゃうるせーーんだよクソガキ!!いいから黙って俺の言う通りにさせればいいんだよ!!何度も何度も念を使って俺の名前を呼ぶんじゃねえ、耳障りだ!!」
そう言うと愁人は目を開け龍之介との通信を切り、辺りを探索する
(申し訳ありません龍之介様・・・でもこればかりは何としても俺の手で・・・)
愁人は心の中で龍之介に謝罪をしながら夜道を走っていく。
自身に背負わされた罪滅ぼしのために
ピピピピピピピ ピピピピピピピ
「ん・・・・んっんっ」
灯は目覚まし時計を手探りで探しボタンを押す
「ふぁああああああ」
灯は体を起こし背伸びをした後カーテンを開ける
いつもの日常の日光が灯と木葉のいる部屋に注いだ
「ん?・・・」
灯の声と日光で目を覚ました木葉は灯と同様に布団をどかし体を起こす
「あ、起きたの木葉?おはよう」
灯の挨拶に木葉も返す
「灯ちゃん・・・・おはよう。」
木葉の顔はいつも通りの笑顔だった。
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