歯車は廻る

舞は微笑みながら木葉に問う

「そう・・・、あんたも女の子らしくなったってわけね」

その問いかけに木葉は少しふくれっ面になり、返す

「らしくって何よお母さん?あたしは最初から女の子だよ」

「ふふ、まあでも風哉君のためだからと言っても無理な減量とかはしちゃいけないわよ、あんたは普通のままが一番かわいいから」

木葉は舞の助言を聞き、すこし間を置き答える

「・・・うん、分かってるよお母さん。でも風君も今まで一生懸命私のために頑張ってきてくれたんだもん、私だって頑張らなくちゃ!」

木葉は笑顔で自分の母親である舞に答えたが心の中では舞に対する罪悪感が出現していた。

(ごめんねお母さん、私本当はダイエットなんてしてないの・・・でも風君に対する気持ちは子供のころからずっと・・・)

「?どうしたの木葉」

舞は木葉が笑顔から急に深刻そうな顔へと表情を変化したのに気づき安否を確かめる

「やっぱり、どこか具合でも・・・」

「お母さん」

木葉は舞の方に目を向き真剣な表情で口を開いた

「私って嘘つきかな?・・・」

「え?」

舞は驚きの表情で木葉を見つめる

木葉はその舞の目線を確認しながらも口を動かす

「ほら、この前のお見舞いの時にさ私、小さい頃のお祭りの事お母さんに伝えたでしょ、お父さんに会ったって。」

舞は2週間前のことを思い出す

木葉は旅行から帰ってきて昭とすずからもらった百羽鶴と花束を手に病室に訪れた、その時木葉は旅行の事と祭りのことを伝えた後10年前の父親の事を舞に改めて謝罪をした。

母親の気も知らないで父親に会ったことをひっきりなしに伝えて母親を苦しめていたことを木葉は10年たった今でも心のどこかで片隅に置いていたのだ。

しかし、舞はそんな木葉を優しく抱きしめ「もう、お馬鹿さん」と言い、包み込むように木葉を許してあげた。木葉はその時久しぶりかもしくは初めて母親に抱き着き返し大声で泣いた。

だが、木葉の中ではまだあの頃のトラウマは完全には消えてはいなかったため、もしかしたら自分はどこかで虚言癖が妄想癖があるのではないかとも考えていた。

10年前の父親の事と言い、白命郷の事と言い、自分の体の安否の事と言い、嘘はつかないと誓ったはずが自分はとんでもないほら吹き人間だと木葉は自分を責め続けていた。

しかし・・・・やはり父親の事も白命郷の事も夢にしては現実感が尋常ではなかった。その感覚がより一層木葉を蝕んでいた。

もしかしたら、今自分の体に起きている現象もそれに対する罰なのでは!?

と木葉は日に日に痩せていき味覚が薄れていく現実に恐怖を感じていた。

「ごめんねお母さん。せっかく許してもらったのにまたこんな話ぶり返しちゃって・・・でも私・・・わたし」

木葉は下を向きながら舞に自分の過ちを謝罪しようとした。

「・・・木葉。顔を上げなさい」

舞の優しい口調に木葉は恐る恐る顔を上げる

顔を上げた木葉の前には優しい笑顔の舞に表情があった。

「実はね、戒も・・・あんたのお兄ちゃんも小さいころお父さんに会ったって言ってた頃があったの」

「え!?」

木葉は驚きのあまり大声を出す

「あれは確か、そうね・・・・13年ほど前だったかしら」

舞は思い出話を話すように木葉に語り掛ける

「あの時もたしかお祭りがあったわ、お母さんと戒と木葉とおじさん達で一緒に祭りに参加していたの、でもね途中で戒がいなくなってねお母さんとおじさんたち必死になって探していたの、あんたもそうだったのよ?お兄ちゃーん!お兄ちゃーん!って」

「お兄ちゃん・・・あっ!」

木葉は舞の話を聞いて昔の遠い記憶を思い出した

「おにいちゃーん!どこーー!出てきてよーーー!!」

記憶の中の木葉は着物姿で泣きじゃくりながら兄を必死になって探していた。その周りでは舞と大人たちが手分けをして戒をあっちこっちに手分けして捜索をしてる光景だった。

「そしてその後ね」

「神社・・・」

「え?」

舞が口を開いた後木葉はボソッと発言した

「確かお兄ちゃん神社の境内の中にいたんだよね?」

木葉は蘇った記憶をたどって舞に問いかけをする

「よく覚えていたわね?そうそう祭りの役員の人が神社の方に向かってみたらその神社の境内の中に人影が見えて開けて見たら戒が倒れていたの」

木葉はその時の記憶を思い出す

「戒!?戒!?」 「お兄ちゃん!お兄ちゃん!」 「大丈夫か?おい!」

舞と木葉とおじさんたちは必死に目を閉じて倒れている階に呼びかけをしていた

「・・・うん?ここは・・・」

戒がそういいながら目を開けたとき舞と木葉は泣きながら戒に抱き着いた。

「で、戒が見つかって家に帰宅した後お母さん戒に聞いてみたの、何で神社なんかに行ったんだって」

「でもお兄ちゃんが神社に行ったのって好奇心からだったんじゃ?」

木葉は小さい時に母親から言われたことを思い出し、舞に問いかけた

「ううん、あの時はね木葉が心配しちゃわないように嘘をついたの」

「え?」

「あの時戒はね、お父さんに呼ばれたって言っていたの」

「お父さん・・・に?」

木葉は13年越しの真実に唖然とした。

「ええ、話によるとねあたしと木葉とあの子の3人で回っていた時にねあの子トイレに行きたいって言っていたでしょ?お母さんもついていこうかって聞いたんだけど一人で大丈夫だっていうもんだから一人で行かせたの。・・・今思えばあの時私が何としてでもついていくべきだったのかしら」

舞は天井を見ながらそうつぶやく

「でね」

舞は天井の視線を木葉に戻し、再度語り始める

「用を足した後あの子ねどこからか自分の名前を呼ぶ声が聞こえたっていうの。で、その声の方に目をむけたら木々の中に誰かいたんだって」

「木々の中・・・」

木葉は3週間前の激励祭の事を思い出した

「それでその木の中に入ってみるとねどうやらそれが、お父さんだったみたいなの」

「お父さん!?」

木葉は舞に聞き返す

「うん、おかしいかもしれないけどあれは確かにお父さんだったっていうの戒は。それでお父さんが自分を呼んでいたから、おかしいと思いつつもそのお父さんに近づいていったの、でも不思議なことにね走っているのに全然近づけなくてどんどん遠のいていくんだって」

「・・・・・遠のく」

木葉はあの木々の中の追いかけっこを思い出す

「で、走っていったら・・・確か・・・えーと」

「もしかして・・・洞窟?」

「あ、そう洞窟!でそのお父さんらしき人が洞窟の中に入っていったから戒もその洞窟の中に入っていったんだって」

木葉は食い入るように舞の話に耳を傾ける

「でもそこにお父さんはいなくてね。とりあえずその洞窟の奥に進んでいったの」

(洞窟・・・あの時と全く一緒だ・・・)

木葉は心の中で呟き再度舞の話を聞く

「で、しばらく進んでいったら後ろから声が聞こえたんだってお父さんの、それで振り向いたらお父さんがいてそして・・・」

「そして?」

「えっと、それで・・・うーん」

舞は考えるように頭に手を乗せる

「光とかは出なかったの?」

「いや光はなかったような・・・」

舞は木葉の予想を否定し口を開いた

「あ、そうそうその後誰かに後ろから服を引っ張られたんだって」

「後ろから?お父さんじゃなくて?」

「うん、お父さんはその時前にいたからあり得なくて」

木葉は自分の体験との違いに疑問を抱きつつも舞に問う

「で、その後どうなったの?」

「その後は・・・」

舞は木葉に説明を続ける

「そっから気を失って気づいたら私と木葉達が呼びかけをしている神社の中だったって」

「・・・終わり?」

「うん、おしまい」

舞のあっけない終話に木葉は少し呆然としていた。

「あれ?私の時と違う・・・」

「うん?私の時?」

木葉の独り言に舞は聞き返す

「あ、いやそのこれは・・・」

木葉は旅行の時の記憶と兄の幼少期の時の記憶の違いを隠そうとした、しかし舞は木葉に向かって口を開く

「ああ、あの時ね。まあでも兄妹だから少し夢の内容が違っていてもいいんじゃない?」

「え?どゆこと」

舞は不思議な顔で木葉に問う

「ん?どゆことって、10年前の木葉の鷁霊祭迷子事件の事じゃないの?」

「・・・・・・あっそういえば」

木葉は10年前の記憶を鮮明に思い出した。

その時木葉は今までぼやけていてよくわからなかった亡くなったはずの父親に会うまでの過程を思い出す。

10年前の祭りの日、木葉は灯たちと優と舞の4人で出店を周っていた、しかし木葉は人ごみに紛れて灯たちとはぐれてしまい一人で祭りの中を彷徨っていた

「お母さーーん、灯ちゃーーん、優くーーん、お兄ちゃーーん、どこーー?」

呼びかけをするが返答は返ってこない

「ぐすっ、ひぐっ・・・うぇん」

木葉は涙をぬぐいながらも祭りの道を歩き続ける

その時

「木葉、木葉」

「え?」

どこからか聞こえてくる自分の呼びかけに木葉は辺りを見渡す

「誰?お母さん?お兄ちゃん?」

「木葉、木葉」

しかしその呼びかけるものは名乗りをせずにひたすら木葉の名前を連呼し続けていた。

「うん?」

木葉はふと自分のそばにある木々の中に目を向ける

そこにはぼんやりとしててよくわからなかったが何者かの人影があり、その人影が自分を呼んでいると木葉は瞬時に理解した。

「木葉、木葉」

その人影は何度も何度も木葉の名前を呼ぶ

「・・・・・・」

木葉はまるで引き寄せられるかのようにその木々の中に足を踏み入れる

次第にその歩みは早足になり、気づくと全力でその人影を追いかけていた。

しかしその人影はどんどんどんどん自分の元から遠のいていく

その時自分の目の前にトンネルのようなものが見えた

「なに・・・これ」

木葉はそのトンネルの闇の中に疑問を抱きつつも足を踏み入れる

ザッザッザッザッ

土の地面を踏む足音はその壁に反響して木葉に共感や孤独感を味わせていた

「どこにいるのー、いったい誰なんですか?ー」

木葉は兄からもらったお守りを両手で強く握りながら奥へと進む。

その目の前にある暗闇はまるで自分を飲み込んでいくかのような威圧感があり木葉を先へ進ませるのを躊躇させた

その時

「木葉」

「え?」

暗黒の闇の先に自分を呼ぶ声が聞こえた。

「木葉、木葉」

木葉はその声が初めて聴く声であったが自分にとってとても大事な人のような気分に感じ取られた

「・・・・おとう・・・さん?」

木葉は自分が何を言っているのかわからなかったが、その闇の先にいるのが自分が生まれる前に死んだはずの父親のような気分がした。

自然と早くなる脚、上がる呼吸、止まらない涙そのどれもが木葉には実感ができていた。

「お父さんそこにいるの?」

終わりが見えないまるでブラックホールのような暗闇の先に向かって木葉は質問を投げかける。しかしその質問には答えてはくれない。

しばらく走った後、木葉は暗闇の中に小さな光を見つけた。その光は木葉が近づくにつれて大きくなり暗闇だった空間を白く照らしていってくれた。

そしてその光はヒト型のような形になり木葉の目の前に現れた。

「お父さん、お父さんだ!!」

その人型を見た瞬間木葉はとても嬉しい気分に駆られその人型に飛びつこうとした

「お父さーーーーん!!」

その人型も飛びつこうとしている木葉に両手を指し伸ばしてくれている。木葉は確信した

(この人は間違いなく私のお父さんだ。私がずっと会いたかった私の・・・)

「・・・・・・・」

「木葉?」

舞はしばらく沈黙をしている木葉に呼びかけをした、木葉は舞の目を見つめ口を開く

「お母さん・・・私思い出したよ全部・・・あの日の事」

木葉の今まで見たことのない必死な表情に舞は驚きを隠す

「・・・あら、そう」

「確か私が言ったトンネルってそれお兄ちゃんが小さい時に見た洞窟の事だったんだね、木々の中から聞こえてきた呼びかけもそうだし・・・それに」

木葉は記憶をたどりながら発言をする

「あの時私お父さんからグレープキャンディーをもらったんだったよね?確か」

「ええ、そうよあんた家で目を覚ました後お父さんに会ってグレープキャンディーをもらったって私や戒に必死に伝えていたの」

「で、その後は・・・あれ?」

木葉はその後の記憶が思い出せずに頭を抱えていた

「確かあんたその後・・・あ、そうそうなんか、知らない男の人が現れて、光がどうのこうのって」

「男・・・光・・・」

木葉はその時思い出せなかった記憶を思い出した

(そうだ、あの後確か!・・・)

「あんた正気か!?自分の娘に!!」

灰髪の男は木葉の父親に向かってそう怒鳴りつけていた

「え・・・お兄ちゃん・・・誰?」

灰髪の男は顔を後ろに振り向き木葉に告げる

「君の味方だ、ここは俺に任せて君は早く逃げろ!!」

男の目は物凄い形相で自分のその場から離れさせように指示をしていた

「え?でも・・・お父さん・・・」

木葉は震える表情で父親の方を見る

しかしその父親は先ほどの優しい表情とは違い、冷酷で鋭い目と表情でその男をにらんでいた

「お父さん?・・・」

「違う!!」

唖然としている木葉に男は言葉をぶつける

「こいつは君の知ってる父親なんかじゃない!!君の敵だ!!」

そう言うと灰髪の男は木葉の父親に構えのポーズをとる

「どういうこと・・・ですか?敵って・・・・」

木葉は涙を流し震えながら男に問う

「逃げろ!!早く!」

男の大声に木葉はビクッっとなって涙をあふれさせる

そしてその時木葉の後ろに眩しい光が見えた

それは先ほどの父親が発した光とは少し違うような輝きを持っているようなものだった

「早く行ってくれ!頼む!時野 木葉!!」

灰髪の男は先ほどよりも必死に声を大にして木葉に伝える

「・・・ひぐっ・・・うわああああん」

木葉は無我夢中でその男に言われた通り後ろに出現した光に向かって走る

「振り向くな!!その光に向かって走れ!!」

そう男の声が後ろから聞こえた後木葉は光の中に入り、気が付くと布団の中にいた。

「・・・・・・・」

木葉は父親のあの冷酷な表情の顔と謎の灰髪の男の記憶を思い出してしばらくの間呆然としていた。

すっ

そんな木葉の手を舞は優しく触れ木葉の方を見た

「木葉」

「?お母さん!?」

木葉が驚いた表情で見た舞の顔はどこか悲しげだった

「ごめんなさいね、今まで隠していて」

舞がそう言いながら木葉に謝罪をした

木葉は唖然としながら舞を見つめていたが舞はそんな木葉に自分の思いをつたえる

「あの時ねあんたがお父さんに会ったって言った瞬間、私、戒の時の事思い出したの・・・最初は単なる偶然だと思ったんだけどあんたの必死な訴えとそれに対する戒の真剣な表情に私ちょっと怖くなっちゃってね・・・」

舞は布団を掴んでいる手をぎゅっと強くして話を続ける

「それと・・・亡くなった父親の事を根に持つのは幼いあんたにはよくないと思ってあの時つい怒鳴っちゃったの、ほんとごめんなさいね木葉」

木葉の目を真剣な表情で見つめながら自分の気持ちの訴えと同時に舞は謝罪をした

「・・・シャドウさえ」

舞は顔を戻し涙目になりながら下を向く

「シャドウウイルスさえなければこんな事・・・・」

目を閉じ涙を落としながら舞は涙声で口にした。

「お母さん・・・」

木葉はそう呟き涙を流している母親を見つめる

その涙は自分のトラウマである母親の激怒の時の涙にも似ていた。

(そうか、お母さんは私やお兄ちゃんのために・・・)

木葉は心の中で明るみになった真相を実感していた

「・・・・お母さん」

涙を流している舞に近づき木葉は舞を呼ぶ

舞は木葉の方に目を向ける

ぎゅっ

木葉は舞を優しく抱きしめる

「え?」

状況が呑み込めない舞に木葉は包み込むように告げる

「もう、お馬鹿さん」

木葉の笑顔の言葉に舞も悲しみの顔から自然と笑顔になる

(やっぱりこの子はいい子ね。・・・あの人や戒と一緒で・・・)



「もしもし?」

灯は画面上の通話ボタンを押し耳に当てる

「あ、もしもし灯か?」

電話の相手は画面に表示されている通り風哉だった。しかしいつもの風哉とは少し違いどこか焦っている様子だった。

「うんそうだけど、どうしたの?」

灯の問いかけに風哉は答える

「あのさ、今そこに木葉居るか?」

「え、木葉?今はいないけど一緒におばさんのお見舞いに来てるわ」

「あ、そうかならよかった」

風哉の安堵の声に灯は疑問を抱く

「何かあったの?」

風哉は返答をする

「ああ、実は・・・・」


「え!?コートの男が?それはほんと?」

灯の声に待合室でテレビを見ている人も灯の方を振り向く

「ほんとだ、だからもしかしたらあの男、木葉や灯の言った例の怪しい人物かもしれないから厳重に注意してくれ。・・・・灯?」

灯はあの洞窟の中の出来事を思い出していた

(もし、あの男だったとしたら一体どうやって木葉の所に・・・というかあの男いったい何者なの?謎の光を出現させるしそもそもあんなところに洞窟なんてなかったはず・・・まさかあの洞窟ってあの男が!)

「灯!!」

電話口の向こうで大声で自分の呼んでいる風哉に灯は慌てて返答をする

「あ、ごめんごめん。で、何だっけ?」

「なんだっけって・・・だからこのまま木葉を寮に戻らせたら危険だから今日はお前の部屋に泊めてくれって言ったんだよ」

風哉は灯に少し怒り気味の声で伝える

「ああ、そうね分かったわ木葉に伝えておく」

「頼んだぞ、俺はとりあえず警察に連絡してコートの男を探すから」

「うんお願い。でもあんまり無理はしないでね明日学校あるから」

「心配するな、何かあったら真っ先に俺に言え、すぐに駆け付けて木葉を守るから」

「フッ」

風哉の宣言に灯は少し微笑む

「なんだ、俺変なこと言ったか?」

意味が分からず疑問を抱いている風哉を少し可愛らしいと思いつつも灯は風哉に伝える

「いや、あんた昔っから変わってないなって。そのなんていうか・・・バカ真面目に木葉を守るってところが」

灯の説笑みに風哉は少し間をおいて発言をした

「木葉は・・・あいつは俺たちにとって、無事でいてほしいやつなんだ絶対に」

「無事で、そうねあの子は風哉だけじゃなくて私や優達にも必要な子だもんね」

灯は幼いころの公園や小学校の休み時間で遊んだ、自分を含む木葉と優と風哉の仲睦まじい記憶と高校生で出会った雄二と夢菜と真紀を含んだ7人での駄弁りや休みの日のカラオケ・ゲームセンター・はたまた3週間前の旅行の思い出を思い出しながら風哉に返答をした

「とにかく灯、今日は木葉の事頼んだぞ」

「うん任せて、あ、でも寮に帰った後警備だからと言って寝ている隙に私と木葉の部屋に侵入したらタダじゃおかないわよ?」

灯は少し挑発気味の風哉に警告をした

「・・・・・・わかってる」

そう言うと風哉は通話を終了した

「え、いやもう少しつっこんでよ。なんか・・・寂しいじゃん・・・」

灯はそう独り言を言うとスマホをポケットの中にしまう

そして木葉と木葉の母親である舞に飲み物を渡すべく灯は病室へ向かう

病室の前まで来た時灯は心の中で木葉に告げる

(木葉、あんたは絶対に一人なんかじゃないからね!私たちが!・・・)

ガラガラガラ

灯は病室のドアを開いた





「う~ん?」

中井は目を覚ました。その自分の視界に写っているのは自分の住んでいるいつものアパートの部屋の光景だった

(あれ?私何してたんだろ・・・たしかベットに寝転びながらスマホで待ち受け画面変えて、そこでインターホンならされてそして・・・)

その時中井はいつもの自室のアパートにいる自分がいつもとは違うことに気づいた

(え?なんで?)

中井は自身の身に起きている違和感に気づく

中井の手と足はロープでぐるぐる巻きにされており、口にはタオルで声が出せないように縛られていた。

(どういうこと!?なんで私が・・・)

中井は焦りながらロープをほどこうとしていた

「お目覚めですか?」

自分の部屋の奥から男の人の声が聞こえた

中井は驚きながらもその声がした方へ目を向ける

すると中井のいる部屋に一人の男が足を踏み入れた

「すいませんね、あまりロープは使ったことがなくて、ちょっと雑に縛っちゃいましたか?」

中井はその男を見て驚愕する

(どうして・・・どうして小野先生がここに!?)

小野は冷静な口調で中井に語り掛ける

「まあでも、じたばた暴れでもされたらかえって迷惑なのでそこはご了承ください」

小野の不気味な笑みに中井は戦慄を味わった

そしてその時中井は先ほどの事を思い出す

(そうだ!あの時確かインターホンで小野先生がいたからドアを開けたら急に小野先生に口を手で塞がれて)

中井はその記憶を思い出すと目の前にいる小野を恐怖のまなざしで見つめる

「どうしたんですか?そんなにおびえちゃって。いつもの中井先生らしくないじゃないですか?」

そう言いながら小野は近づき中井は身動きが取れない体でずりずりと何とか後ずさる

「・・・・でもですね」

小野は急に声のトーンを低くし笑みをやめ不気味な表情に変える

「あなたがいけないんですよ中井先生。あなたが私たちの秘密を知ってしまうから・・・」

小野は右腕の裾をめくりあげ腕を見せる。しかしその腕はいつもの肌色から灰色に変色し、所々禍々しい痣のような模様が浮かんできて中井にさらなる恐怖を与えた

「あの職員会議の時ね私決めたんですよ。あなたは障害になるから早いところ排除しないといけないって」

小野の腕は先ほどよりも色が濃くなりバチバチという音を立てて肥大化し血管が浮き出ていった

中井は目の前の現象を理解できず頭の中で大混乱をしていた

(秘密?・・・職員会議?・・・もしかしてあの写真?)

そう中井が考えている間にも小野はその腕を振り上げ中井に近づく

「すいませんね中井先生。でもこれもすべて私たちのためなんですよ、黒命郷や主様の計画実現のためのね」

小野は中井の目の前まで足を運び腕を最大まで振り上げる

その時中井の目に写った小野の瞳を見た瞬間中井は絶句した

「まあ、でも安心してください。死後の世界は意外と楽しいもんですよ?」

(この人も・・・あの子と同じだ・・・)

「ほんと・・・」

(あの写真の子と同じで・・・)

「ムカつくほどにね!!」

(瞳孔が!!・・・)

小野は腕を振り下ろした。




プルルルルルルルル

プルルルルルルルル

プルルル

ガチャ

「あ、もしもし志月隊長ですか?巧(タクミ)です」

小野はスマホを片手に通話をしていた

「あの例の障害なんですが・・・あ、そうです中井です、たった今排除を完了いたしました。」

小野は床に転がって白目をむいている中井を見ながら志月に伝える

「はい、言われた通り仮死状態にしました。これなら後程黒命郷の兵士たちが遺体を回収に来ると思いますので問題ないかと思われます」

ガチャ

ギー

玄関のドアを開けて小野はアパートの外に出る

「え?大丈夫ですよ証拠は一切残していませんから。それに仮に見つかったとしてももうすぐでこの生者の世界は終わりを迎えます」

小野は階段を下りる

「はい存じ上げております、恐らく・・・いや確実に明日、白命郷の管理者が石櫻高校に来られるはずです。来週にはもう希望の霊力解放は完了されるわけですのでもう奴らには明日しか猶予はありません。明日の内に我ら黒命郷は白命郷の殲滅を実行します。それもこれもすべて志月隊長あなたのおかげです」

小野は電話越しに志月にお礼を述べた

「まあご安心を、たとえ明日管理者が学校に来ても我々だけで奴らを消して見せます。志月隊長の出る幕をございませんので悪しからず」

「はい、分かっております始(ハジメ)達にもちゃんと伝えておりますのでご心配には及びません」

「ええ、全ては忘れがたき復讐のために・・・」

小野は不気味な笑みでそう言うと通話終了ボタンを押しスマホをポケットにしまう。

顔を前に向けると夕方の夕焼けをバックに大人や子供たちが歩道を歩いている日常の光景があった

「生と死の概念を覆すか・・・・っふ」

小野はそう言いながらほくそ笑むとその日常に紛れ込んで、他の歩行者と同様に歩き始める。




「・・・・・・・・・」

意思田は通話終了されたスマホの画面をしばらくじっと見つめていた

数秒ほど見つめて意思田はスマホをテーブルの上に置きベッドの上で大の字になり寝転ぶ

目の前にある自分の部屋の天井を見つめながら意思田はボソッっと呟いた

「厄介なことになってきたわね・・・・」

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