変わっていく日常

「あーくそ!、負けちまった~敵の難易度これ前より上がってね?」

雄二は格闘ゲームの椅子に座りながら愚痴をつぶやく

「休暇中に店員が難易度上げたんじゃねえのか?」

改はそういいながら反対側のゲーム機でボタンをタップする。

見てると改は雄二が難しいと言っていた中ボスを難なく撃破していた。

ガッツポーズをとっている改を無視し横に目をやる雄二

そこには雄二の友人である哲平がゲームセンターの外で道行く女の人に声をかけている様子が見えていた。

「あいつもこりずによくやるな・・・」

ゆうじはふとそんな独り言をつぶやく

「あいつも自粛中で溜まっていたんだよ」

改はゲームをやめ雄二に近づき語り掛ける

そして改は雄二の不機嫌さに疑問を持つ

「どうした?なんか浮かない顔して、あ、もしかして昨日の劇の役がまだそんなに後を引っ張ているのか?」

そう笑いながら言う改を雄二はうっとうして再度認識した

「うっせーな、ほっといてくれ」

雄二も気分転換にゲームをやめ武蔵のいるゲームセンターの外に出た。

ウィーン

自動ドアはそう音を立て雄二と改を外に招く

「あのお姉さん、今お暇ですか?」

武蔵はまだ午前11時ちょっとすぎの昼間にもかかわらず、見た目が75点以上の女性に手当たり次第声をかけまくっていた

「おい武蔵その辺にしとけ」

雄二はまるで居酒屋のキャッチのように声をかけている武蔵にやめるよう注意をした

「んだよ雄二今いいところなんだから邪魔すんなよ」

「どこがだ、全敗じゃねえか・・・」

改は武蔵につっこみを入れる

「てかお前もうすぐ試験があるのに大丈夫なのかよ?、こんなことしていて」

武蔵は改の問いかけに答える

「それはお前らもお互い様だろ、それに俺はこうでもしないと頭がどうにかなっちまいそうなんだよ!あ、あの~そこのおきれいなお姉様」

雄二と改は冷めた目で女性に声をかける武蔵を見ていた。

「赤点のやつに言われてもな・・・」

雄二のつぶやきに改も同意をする。

(にしても・・・)

雄二は太陽が輝いている青空に顔を向ける

(確かにいきなり収まったよな・・・サイレントウイルス)




「ふんふふんふふ~ん♪」

3年3組の副担任、中井 千恵子は鼻歌をしながら、自宅でスマホに入っている文化祭の写真を見ていた。

「あ、これ待ち受けにしよっと!」

彼女が待ち受けに選んだのは自分のクラス3年3組のクラス全員と文化祭の最後に撮った教室での写真である。

そこに写っている生徒たちは、先日の文化祭での衣装を着ておりまるで自分たちが異世界に迷い込んだみたいな写真だったため中井は気に入っていた。

中井はその待ち受けにした写真を眺めながらベットにあお向けになる

「・・・・・?」

その時、中井の中である違和感があった。

最初は気のせいだと思っていたが、そのクラス全員の写真を見れば見るほどその違和感は大きくなり中井にとっては過去にも経験したようなものであった。

「あっ」

中井はとっさに何かを思い出したかのように自分の机にしまっている写真を取り出した

その机の上で先ほど取り出した文化祭の写真、先ほど設定した文化祭の待ち受け画像をそれぞれ交互に見比べてみた

中井は机の前でしばらくの間その両方のクラス全員の写真を見つめる

(・・・・・・・・そうか!!)

中井は違和感の正体に気が付いた

(あの職員会議での違和感はこれだったんだ!!)

その違和感に気づいた瞬間、中井は固まる

「え・・・じゃあ・・・もしかして・・・」

ピンポーン

その時自分の家のインターホンが鳴る音がした

中井はインターホンの受話器に耳を当てる

「・・・あ、はい今開けます」

中井は玄関に行きドアの鍵を開ける

ガチャ、ギーーーーー

「こんにちは。今日は一体どうしっう!?・・・・」

中井は訪問者に口を手で塞がれた。




「はあ、はあ、はあ34・・・35・・・3・・・6!!」

腕立てをしている地面にぽたぽたと汗が落ち、優はそれに気づかず荒い息を上げていた

「3・・7・・・・・3・・・・・」

バタン

優は力尽き地面に倒れこむ。

「はあ、はあ、はあ、はあ、くそ・・・」

額の汗をぬぐい優は今度は腹筋に移った

「1,2,3,4,5,6・・・!」

しかし、腹筋などまったくやったことない優にとって10階という回数は荷が重すぎた

優はまたしても床に大の字になる

「はあ、はあ、はあ、・・・・・非力すぎる・・・」

優はそう言いながら自分の力の無さを呪った。

「風哉君・・・分からないよ・・・自分を貫くって・・・どうすれば?・・・」




「愁人くん?」

「・・・・・・・」

「愁人くん?」

「・・・・・・・」

「愁人くん、聞こえてるでしょ!?お願いだから返事してよ!」

愁人は返事を返さなかった

愁人は念を使わずに霊力によって姿を消す術(消)で石櫻高校を目指していた。

今愁人の通っている道は以前とは違い自粛を解放された人間であふれていた。しかし、それは今の愁人にとってはこれから起こる悲劇の被害者にしか見えなかった。

(早く行かねえと、取り返しのつかないことになる・・・)

心の中で愁人はそう呟く

「愁人くん!?待ってよ一人で行くのは危険すぎる!僕たちにも協力・・・」

プツン

愁人は霊神力で龍之介との通信を切断した。




「だめだ・・・また切れた」

龍之介は落ち込みながら昴達に告げる

「さようでございますか・・・」

昴はそういいながら顔を下に向ける。

その横では3番隊隊長の霞が声を荒げて発言をする

「一体何を考えてらっしゃるのですか、愁人は!!身勝手な単独行動なんて!それでも奴は以前私達と同じく龍之介様の・・・!」

「霞ちゃん」

隆介の一言で霞は口を閉じる

「も、申し訳ありません・・・」

霞は反省の顔をしながら体を落ち着かせる。

そんな霞を見て流之介は微笑みながら口を開いた

「きっと、愁人君にも愁人君なりのやり方があるんだよ、彼は思い付きで行動なんて絶対にしない。それは君たちもよく知っていると思う。だからこれが一番の改善策なんだと僕は信じている」

龍之介の無理に笑う姿は昴を含んだ兵士達や使用人たちにとっては心が痛むものであった。

「しかし、お言葉ですが龍之介様、なぜ彼は我々に全てを話してくれないのでしょうか?彼の目的も主様と同じもののはずです」

霞の発言に龍之介は考える

「それは・・・」


コンコン

龍之介達のいる部屋のノックをする音が響いた

「流之介様之介様!!2番隊隊長獅子丸ですただいま調査から戻りました!!」

「いいよ、入って」

龍之介がそう言うと獅子丸はドアを開け兵士たちを連れ部屋の中に入る

「報告いたします。ただいま結界の調査に向かいましたがやはり・・・色は変色しており強度は前よりも弱くなっております。」

獅子丸の報告に流之介達は考える

(なぜここにきて強度が弱まるのか・・・、奴らは一体どうやって木葉ちゃんに・・・、そしてなぜ愁人君は・・・)

龍之介はしばし沈黙をした後、昴達に伝える

「とにかく黒命郷の住人たちが今から良からぬことをしようとしているのは事実だ、だから今の内に霊力を蓄えておいて。後この白命郷の住人の人たちにも警告をしておいて」

「御意!!」

龍之介の命令に昴達や兵士たちも同意をしその部屋を出る

一人になった流之介は窓から外を見つめる

そこには、1か月ほど前にはなかったはずの薄暗く淀んでいる壁が遠く離れている幻霊館から確認できていた。

そんな光景を見つめながら龍之介は呟く

「愁人くん・・・彰吾くん・・・バカなことはしないでよ・・・」




「号外!号外!」

白命郷の道を走り回りながら瓦版売りは瓦版をばらまいていく

それを拾う人々はその記事に目を疑う

【危機か、予兆か、立ち入り禁止の更地に出現する謎の黒い影!?】

「え?」 「なんだこれ・・・」 「どういうこったよ!?」

などと住民は混乱をし中には怒りに震えて瓦版を破り捨てるものも存在した。

「終わりだ・・・黒命郷が攻めてくる!・・・」

その一言で街の人々は震えあがり小屋の中に入るもの、または幻霊館に押し掛けるものも存在していた。

そんな中、明日音はいつもなら白命郷の観光場所であり、住人たちのたまり場になっている大桜の木に向かっていた。

「・・・・みなさん」

明日音の独り言を聞いた者、はたまた聞けた者はだれ一人としてそこにはいなかった

その事実を受け止めつつ明日音は落ち込んだ様子で桜の木に向かう

「おや?」

その桜の木に近づいたとき木の向こう側に影が見えた

明日音はその木の方に向かう

「戒さん!」

明日音の呼びかけに戒は振り向く

「あ、明日音さん・・・待ってたよ」

戒は笑顔で明日音を迎え入れる

「戒さん・・・あの・・・街の住人の方々が・・・」

明日音は悲しい表情でそう言い戒も笑顔をやめ思いつめた表情になる

「・・・龍之介様から聞いたらんだ」

明日音は戒の方に顔を向ける

「今、愁人が木葉に向かっているって」

「ええ、ですので今からご一緒に生者の・・・」

「あいつは・・・」

「え?」

戒の言葉に明日音は聞き返す

「・・・彰吾は木葉を殺すつもりだ。おそらく・・・」

戒の目は真剣そのものだった。

その真実に明日音は驚く

「そ・・・そんな、何で木葉さんを彰吾さんが!?」

「多分・・・世界を救うために・・・」

明日音は涙になり再度戒に問う

「あんまりです!・・・世界のために木葉さんを殺すなんて!間違っています!!」

明日音は声を荒げながら戒にぶつける

「じゃあ守りたい?木葉を」

戒の質問に明日音は即答する

「当たり前じゃないですか!早く行きましょう」

明日音は桜の木の大木に向かって手のひらをつけようとする

「それは【時野 木葉】を守りたいから?」

「・・・どういう意味です?」

戒は明日音の方に体を向け明日音の目を見る

「明日音さんは、死者蘇生って信じる?」




「えー何で?」

4人の女子高生たちは私服でアイスクリームを片手に都会の道を歩いていた。

「いいじゃん、紹介してよ夢菜~、青神君今彼女いないんでしょ?」

恵令奈はそう言いながら夢菜に悲願のまなざしを向ける。

「だ~め、風哉君を紹介することはできませ~ん」

夢菜は恵令奈のおでこを人差し指で押す

「ちぇ、なによ・・・あ、まさかあんた青神君のことを狙って・・」

その恵令奈の声で他の友人二人も夢菜の方に目を向ける

「ち、違うわよ!私には雄二がいるもん!」

そういいながら夢菜は溶けかけのアイスクリームを頬張る

「え~じゃあなんで紹介してくれないの?」

「風哉君にはもう心に決めている人がいるみたいだから。10年前に」

その夢菜の発言に3人は驚く

「えー!!うそっ!!誰、誰!?」

夢菜は振り向き3人に口を開く

「さあね?」

3人は落ち込んだ様子でアイスクリームをなめながら歩みを続ける。

(木葉、風哉君を頼んだわよ)

夢菜は心の中でそう言いとアイスのコーンをかじった。





「はっ、はっ、はっ、はっ」

その男の風貌を見る人々は全員不思議な目で見ていた。

太陽が出ているにもかかわらずその男はサウナスーツを纏い公園のウォーキングコースを走っていた。

しばらく走るとその男は止まりサウナスーツのフードを外す。

「え、何あのイケメン?」

「うわ~かっこいい・・・」

公園に座っている女性がその男に注目の目線を送っていた

男はその目線に気にも留めず自販機でミネラルウォーターを購入し飲む。

甘いマスクをより輝かせる汗、キリっとした顔立ちや頭身

やはり風哉は王子という名にふさわしい美貌を持っていた。

「・・・っぷは」

風哉はペットボトルの半分を飲み干すとキャップを閉めサウナスーツのポケットにしまう

そして昨日の木葉とのメールでの出来事をふと思い出す。

【屋上でお願い!!】

風哉は止めていた足を再び動かしその先にあるウォーキングコースの道のりを駆け始める

「先生・・・僕、最後まで守りたいものを守って見せます!!」

恩師の言葉を胸に秘め風哉は走りながら誓いを口ずさんだ。




「こう・・・かな」

真紀は自身の部屋でスマホから動画を流し振り付けをしていた。

《この振り付けなんですが、コツは右足を後ろに回すように》

真紀は言われた通り足を後ろに回す

「キャッ!」

しかし、運動神経の鈍い真紀にとってはその振り付け一つ一つが至難のものであり、見事その場にこけてしまう。

「うるさいよ・・・姉ちゃん」

居間で振り付けをしている真紀に向かって一人の男子がそう声をかけた

「あ、淳(ジュン)起てたの?」

淳は冷たい目線で真紀を見つめる

「いや、あんたが起こしたんだよ・・・なにやってんの?」

「見ればわかるでしょ」

「・・・・・・・・」

淳はわからなかった

「とりあえず静かにしてよ、俺具合悪いんだから・・・」

そう言いながら淳は自身の部屋に戻っていく

「はいはいおやすみー」

体調不良で学校を休学した弟に向かって真紀はそう言うと再度振り付けの練習を再開する。

(今に見てなさい!めちゃくちゃうまくなってダンス系My tuberとしてみんなをあっといわせてやるんだから)

真紀は再び転んだ





【あの悲劇から18年。シャドウイルス被害者の会】

西村はその看板が設置されているビルの5階の部屋に入り、受付で自分の名を言い名札をもらうと、いくつもの並んでいるパイプ椅子の3列目に腰を掛ける

前を見ると司会者の女性とモニターらしきものが設置されており、自分と同じく喪服を着ている男性や女性たちの中では会話をしたりもう既に涙をハンカチで拭うものが多数いた。

その光景を西村は心に焼き付け18年前の悲劇を思い出す

「姉さん・・・・」

あれは忘れもしない小学校4年生のころだった・・・

病室で目を閉じている中学生になったばかりの姉に一生懸命呼び掛けている小4の自分の光景が西村には簡単に思い出せていた

涙を流す両親、顔を下に向ける医者、号泣し大声で姉の名を呼ぶ自分。

西村は思わず涙目になり指で涙を拭いた。


「今日は本当に皆さま、ありがとうございました」

司会者の女性がそう言い終えると西村を含む男女が一斉に拍手をその司会者に送った

西村は司会者の心からの訴えに気力をもらい、明日からも高校教師として頑張っていこうと誓い被害者の会が行われた部屋を出る。

エレベーターに乗り、外に出て、外の空気を吸う。

シャドウウイルスやつい最近まで流行していたサイレントウイルスがあったころは、マスクをしており、こうやって思いっきり空気を吸うことなんてできはしなかった。

西村は当たり前の平和に改めて心から感謝をした。

「うん?」

西村は自分の横を通っていった一人の女性が財布を落としたことに気づいた。

「あの!」

西村の呼びかけにその女性は振り向く

「・・・はい?なんでしょう?」

その女性は60後半の女性で急に呼び止められたことに疑問を抱きながら西村に返事をした。

「あの、これ・・・あっ」

その女性の顔を見て西村は3組の井上 泉の事を思い出した

(似ている・・井上さんに似ている・・・)

鼻や目、そしてどことなく井上の雰囲気がその女性からは漂ってきており西村は財布を持ったままその女性を見つめていた。

「あの?・・・」

その女性の言葉で西村ははっとする

「・・・・あ、すいません、これ落としましたよ」

西村はその女性に財布を渡す

「あ、どうもすいません」

女性は申し訳なさそうに西村から渡された財布を受け取る

「いの・・・う・・・え?」

財布を渡すときその女性の右胸についている名札には(井上)と記載がされていた。

女性は西村からの発言に思わず右胸を見る

「!?すいません、これ返さなくちゃいけないんでしたっけ?」

女性は笑いながら慌てて西村に問う

(もしかしてこの人、井上さんの・・・)

西村の脳内に職員会議でのアルバム写真が蘇る

「あの!!」

西村は勇気を振り絞ってその女性に問いかける

「!・・・はい?・・・」

女性は西村の方に再び不思議な目線を送る

「もしかして・・・井上 雪子(ユキコ)さんのお母様ですか?」





【黒命郷 訓練武道場】

ここでは主の命に従う兵士たちが集いし戦いの場

剣・槍・斧・刀

様々な武器や防具が総部可能なこの戦場において、憐は自身の武器である刀さえも捨て拳だけで訓練をしていた。

「ぐあっ!!」

「くっ・・・・・次!!」

憐の赤い瞳が兵士たちに向けられる

「ひっ・・」

その目はまるで呪いにも似ている悲しき瞳のようで兵士達は思わず後ずさる

「・・・どうした・・次と言っているだろう・・・束でも構わん!・・・」

憐はそういいながら一歩ずつ近づいていく

「た、隊長少しお休みになられた方が・・・」

「そ、そうですよ!もう隊長3時間ぶっ通しで戦ってますから」

「俺たちなら自己流で・・・」

兵士達憐を落ち着かせるようにそうなだめた

しかし、今の憐には無意味そのもである

「見くびるな・・・私ならまだ!・・・」

「憐!!」

武道場の入り口からそう声が聞こえた

憐や兵士たちはその声のした入り口に目を向ける

「臥螺奇隊長!・・」

憐がそう言うと臥螺奇は白い仮面をかぶりながら憐に近づく

「何があった?3週間前から急に戦いに執着心を燃やして」

兵士たちは臥螺奇と憐が対立しているのを見てさらに後ずさる

「貴様には関係ないだろ」

「ああ関係ないね。だからこそ好奇心がわくんだ」

憐は臥螺奇に鋭い目でにらむ

「・・・・愁人か?」

臥螺奇の発言に憐は動揺した。

「あいつに何を言われたかは知らないが、個人的な感情で主様のご期待を損なうことはしてはいけない。お前は黒命郷の第1部隊そうだろ?

もう少し冷静になるんだ」

白い仮面から発せられるその言葉は憐に冷静さよりも不気味さを与える。

「それを言うためだけにわざわざここに来たのか?」

憐は反論のつもりで臥螺奇に問う。

「それもあるが、第1はこれだ」

そういいながら臥螺奇は袖から包み紙を憐に差し出す

憐はその包み紙を見て口を開く

「・・・何だ?私にこれを捨てろというのか?」

「っふふ、お前も冗談を言えるようになったんだな」

臥螺奇は少し笑っていたが憐の顔は真剣な表情であった。

「まあ、今のお前にはこれは毒になるか・・・」

そういいながら臥螺奇は袖に包み紙をしまう

憐の表情はまるで変わらなかった

「で、2つ目はこれだ」

臥螺奇は憐に近づき告げる

「25番が希望のいる学校に向かっている」

その言葉で兵士たちはざわついた

「・・・そうか」

憐は冷静な様子で刀を拾い出口へ向かう

「ちょうどいい、私がこの手で奴を・・・」

「待て待て待て待て」

臥螺奇憐の肩を掴み、止める。

「考えもせずに即行動するのは貴様の悪い癖だと何度も言わせるな。今のお前には生者の世界にいるのに必要な霊力もなければ奴を倒せる力もない」

「っ!?」

憐は臥螺奇に鋭い目つきで振り向く。

「単に感情に任せて修行を積んだところで霊神力の差は埋められない、お前もそれはとっくに知っているはずだろ?お前の役目は俺と同じ白命郷を潰すことだ。」

「ふざけるな!奴には貸しがある、愁人を葬るのはこの私だ!!」

「いや、愁人を仕留めるのは0番隊だ」

臥螺奇の率直な発言に憐を含む兵士たちはその場で固まる

「幸いなことに志月隊長を含む5人の護衛は学校に集結している。例え愁人や白命郷の管理者が全員集まったところで奴らを倒すことなど無理そのものだ。」

臥螺奇は連に背中越しで説明をする

「0番隊の方々は我々とは違い死を超越し新たな生命を授かりし主様に仕える忠実なる生命体だ、あの方々にもう二度と死が訪れることはないといえる。」

憐はグーの音も出ない様子でそれを聞いていた。

「その中でも特に・・・志月隊長は」

臥螺奇は憐の耳元で囁くようにつぶやく

「・・・・っふ」

臥螺奇は憐の耳元から離れた

「やめとおこう、あの人の凄さは口頭では説明ができない。むしろ失礼にもあたる」

そういうと臥螺奇は出口へ向かった

「まあ、俺が言いたいのはそれだけだ。明日いよいよ主様の真の計画が始動される、生者の世界・白命郷、全てが我々のものになる。だからお前たちも今の内に霊力を温存しておけ」

「は、はい!!」

兵士たちは臥螺奇の忠告に返事をする

「待て!臥螺奇!」

その中で憐は臥螺奇を呼び止める

「・・・・・・」

臥螺奇は立ち止まり振り向く

兵士たちは驚きの表情で憐を見つめる

「・・・・・その包み紙、私が捨ててやろう」

憐は臥螺奇に手を指し伸ばしながらそう言った。

「・・・・・落とすなよ」

臥螺奇はそう言うと袖から包み紙を取り出し憐の手に置くと何も言わず武道場を出た。

憐はその包み紙を開ける

「・・・・・面白い」

憐は独り言をつぶやきながらにやけ、包み紙を閉じるとポケットにしまった。

「憐・・・隊長・・・」

尊は自分と同じ兵士たちのいる中で憐を悲しげな瞳で見つめ、そう口にした

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