【第3章  嵐の前の静けさ】 風に吹かれる木の葉

「カンパーイ!!」

7人の男女は一つの部屋でジュースやお茶をコップに入れ音を響かせる。

「んっんっんっ、ぷはー!!」

雄二はコーラを一気飲みして感想を述べる

「やっぱ、最高だな!!文化祭の後の打ち上げってのは!!」

テーブルの上に置いてあるお菓子に手を付けながら夢菜は口を開く

「それにしてもさ、開催できてよかったよね!文化祭」

夢菜の笑顔に灯は続く

「確かにね、急にサイレントが収まって被害者が15人未満になるとか3週間前は思いもしなかったよね」

「3週間前?ああ、あの旅行の日か?」

風哉は灯の話に問いかけをする。

「確かにね、あの旅行は自粛中で退屈だったから木葉ちゃんが行こうって計画した奴だったもんね」

真紀はスマホを片手にそう呟く

「そうそう、まさかあの日からサイレントが消えてくれるなんてな~、やっぱ平和が一番ってこった」

雄二は笑いながらポップコーンをかじる。

「にしてもさ、今回の劇ってぶっちゃけどうだった?」

夢菜は6人に問いかけるよう話しかける

「どうって、何が?」

優は夢菜に問う

「登校してから意思田っちがいきなり(劇の練習するわよーー!!)って言いながら教室入ってきたときは私神経疑ったもんね」

「まあ・・・意思田先生らしいといえば、らしいじゃん・・・」

苦笑いで優は答える

「いやまずさ、劇の内容はまだしも題名どうにかならなかったもんかね?」

雄二は他のみんなにそう質問した

「確かにあれはちょっとね・・・何だっけ?確か・・・転生したくて・・・」

思い出そうとする灯の横で真紀が口を開く

「転生したくてビルの屋上からダイビングしたら運良く助かって、一生懸命生きていこうとした矢先に洋服屋さんの試着室で異世界に召喚されてしまった俺って勝ち組なのかな?でしょ」

真紀の早口にみんなは拍手を送る

「よく覚えていたな・・・」

風哉は不意にそう声を出す

「それもそうだけどさ、配役ももうちょっと何とかならなかったのかな?」

夢菜はチョコレートをかじりながら愚痴をこぼす

「あれ?木谷さんは不満だったの?」

優は少し驚いた表情で夢菜に問う

「いや、私はね王女様のメイドだったから別に良かったんだけど、恵令奈がメイド長っていうのが納得いかなかったのよね~」

夢菜の発言に優は苦笑いをする

「まあ、しょうがないよ水木さんはなんか人に命令されるの嫌って感じがあるしね」

「しかも、恵令奈のあのノリノリの演技が無性に腹立つ!!」

そういいながら夢菜はチョコレートを貪り食べる

「後さ、あの二人なんか終始暗くなかったか?ほら1組の宮野(ミヤノ)と立中」

「確かにあの二人は劇の練習中もずっと暗かったな、まあ兵士役だったからよかったけど」

風哉はサイダーを飲むながら呟く

「それな!俺がお疲れって言ってもさあの二人〔はい・・・、どうも・・・〕しか言わねーんだもん!マジで腹立ったからな俺!」

雄二は思い出し怒りからか不機嫌になる

「でもさ、そういう風哉が一番はまり役だったよねー」と灯は風哉の方を見る

「それね!さすが王子様、敵軍のプリンスの演技は文句なかったわよ!」

と夢菜は風哉は褒める

「いや、なんとなくやっただけだからさ・・・」

褒められる風哉は照れながら返した。

「いいなー風哉君は僕なんか、村人Bだよ~」

「私は会社員・・・」

優は机に伏せながら、真紀はスマホをいじりながらそうつぶやいた。

「ってかさ俺の役意味わかんなくね?なんだよ、魔獣サーベルナイトって?」

「設定によるとサーベルタイガーを魔法によって人間にさせてから剣術を教えたってやつだったね」と愚痴をこぼす雄二に優は説明をした

「いやいや、サーベルタイガーは素のままが一番強いだろ、あんな役、俺以外にいただろうに・・・武蔵とか改(アラタ)とか哲平(テッペイ)とか・・・」

「武蔵は赤点で追試中で時間なかったし改はノリが軽すぎてサーベルに見えないし哲平は哲平で他のはまり役があったからさ」と夢菜は雄二を優しくフォローする

「サーベルに見えないってなんだよ・・・」

雄二がつっこみを入れた後風哉が口を開く

「しかしさ、主役が4組の竹田(タケダ)とは思わなかったよな」

と6人に問いかけをする

「確かに、竹田君はあまり目立たない感じだったもんね」

灯がそう言うと

「だったら私ももっと目立つ役が良かった」

真紀がスマホを地面にな放り投げ愚痴をこぼす

まあまあと言わんばかりに灯が真紀のコップにウーロン茶を注ぐ

「でも私はぶっちゃけ魅島(ミジマ)君が主役やるかと思った」

「え?2組の?俺は正直同じクラスの近藤とかいう奴かと思ったけど・・・」

夢菜の感想に雄二が口をはさむ

「近藤君は無理だよだって彼今入院してるんだから」

と優が説明をした

「マ!?」「ガチで!?」

と二人は驚く

優は落ち着いた表情で夢菜と雄二に説明をする

「うん、なんかね噂によると7月の中旬に友達でサイクリングで旅行してると大型トラックに轢かれて全治3か月の怪我を負ったんだって」

優の冷静な説明に二人は沈黙する

「・・・・・あ、そう。まあでも3か月ってことはもうすぐで退院できるみたいだし良かったじゃん!!」と夢菜は場を明るくしようと口を開いた、

「あ、そういえば」

真紀が突然そう口にした

「何?」

優が真紀の方に目を向け問いかける

「その近藤君だけど、今日劇見に来ていたよ」

「え!?」

5人は驚きの表情をする

「うん、なんかね松葉杖持ってて足に包帯巻いていたから近藤君かなって思ったら近藤君だったの」

と真紀は優と同じく冷静に説明をする

「あ、来ていたんだ・・・そうだったんだ・・・」

と夢菜が独り言をつぶやくと灯が真紀に質問をする

「でもさ、あれだけ人いたのによくわかったわね?」

「うん、だってその横の人がすごく変な格好していたんだもん」

「変な格好?」

真紀の返答に雄二が疑問を持つ

「よく見えなかったんだけど、確か・・ニット帽とコートと革靴を履いている長身の男性だった」

夢菜が言った容姿に灯が驚く

「え?それって!?」

「それ、この前木葉と灯が言ってた男の人の姿じゃん!」「え、まさかついてきたりとか?」

「ないない、きしょいきしょい!」

と夢菜と雄二は笑いながら否定をした

「・・・・・」

灯は驚いた顔を元の顔に戻しコップに入っているりんごジュースを一口飲む

そんな灯を安心させようと優は灯に語り掛ける

「大丈夫だよ灯ちゃん、心配しすぎだって」

「うん、そう・・・だよね」

灯はそう言ったが頭の中では3週間前の旅行の光景がフラッシュバックのように蘇ってきていた。

(頼んだぞ・・・)

「・・・・・でも、もしあの男だったら・・・」

そう灯が呟いたとき

「おい、木葉大丈夫か?」

風哉が突如口を開いた

風哉の方を見ると

木葉はオレンジジュースのコップを持ったまま無言でテーブルを見つめていただけだった。

「どうかしたのか?さっきから黙ってばかりだけど?」

風哉が木葉にそう言うと木葉は閉じていた口を開いた

「うん、大丈夫・・・なんでも・・ないよ」

木葉は無理やり作ったような笑顔で風哉達を安心させる

「なんかあったの?もしかして自分の配役が気に入らなかったとか?」と夢菜が言うと

「確かに、服屋の店員役はモブすぎるかもしれないけど時野にはピッタリだったぜ!!」

と雄二が元気づける

「それフォローになってないよ・・・」

真紀がボソッと言うと雄二はしょんぼりした

「木葉?本当に大丈夫なの?何かあったらすぐに言うのよ?」

「ありがとう灯ちゃん、でも私今日ちょっと疲れただけだから心配しないで」

と木葉はまたしても作り笑いで6人を安心させようとする

「疲れたんだったら今日はもう休んだ方がいいよ」と優が言い

他の5人もうなずく

「そう、じゃあ悪いけど私自分の部屋に行って休むね・・」

と木葉は立ち上がる

「木葉私たちもついていくわ」と灯も立ち上がり木葉に問いかける

「俺も」「僕も」と風哉と優も灯と同じく木葉の見送りに駆り出す

「じゃあ・・・」と雄二たちも立とうとしたが

「あ、大丈夫だよ雄二君達は楽しんでて・・・」と木葉は3人に告げ灯たちと一緒に優の部屋を出た。

雄二と夢菜と真紀の3人は4人が出て行った部屋で少しの間沈黙をしていた。

「・・・・・なんかあったのかな?」

と雄二が口を開く

「当たり前でしょ、3週間前はあんなに元気ではしゃいでいたのに学校に登校してからというもの急に落ち着いたりして・・・・なんていうか木葉らしくないわよ今の木葉は」

そう言いながら夢菜はクッキーを口に放り込む

「だよな、まさかサイレントに感染したとか!?」

「バカ、サイレントはもう収まっているし木葉は毎日手洗いうがい消毒をしているのよ、子供っぽいから」

雄二は夢菜にそう言われると考えごとをするような顔になる

「じゃあなんで・・・」

「痩せてる」

真紀がボソッとそう言うと二人は真紀の方に振り向く

「え?」

夢菜が真紀に問いかける

「木葉ちゃん、最近痩せてきている・・・」





「ありがとうみんな、今日はごめんねせっかくの打ち上げだったのに」

木葉は学校の寮である自分の部屋の前で灯たちのお礼を言った。

「ううん気にしないで僕たちよりも自分の体の方が大事だから」

「明日は文化祭の振り替え休日だからゆっくり休みなさい」

「じゃあ俺たち優の部屋に戻るから」

優達は木葉と玄関先で別れを言った。

「うん、じゃあねみんな・・・」

玄関を閉じた木葉の顔は、やはりどこか苦しそうだった。

バタン

玄関の扉が閉まり3人は2階上の優の部屋に戻る

「木葉ちゃんどうしたのかな?」

と優が言い

「顔色悪いっていうか、最近元気がなかったわよね。今日も劇の練習の時もあまり笑わなかったし」

と灯は優に返す

「あ、そういえば」

灯が何かを思い出したかのように口を開く

「ん?どうした?」

風哉が灯に問う

「いや、今日の文化祭でね2年生のタピオカミルクティーを木葉の二人で飲んだんだけど、木葉一口飲んで私にあげるって言って去っていったの」

「木葉ちゃんタピオカ嫌いなのかな?」

灯の話に優が疑問を持つ

「まあ、関係ないわよね。・・・多分」

そう灯が言うと3人はしばし無言で階段を上る

3階に着いたとき風哉が二人に言った。

「ごめん、俺ちょっと木葉の所に行ってくる」

「え?」

優と灯は風哉の方を振り向く

風哉はそう言うと回れ右をして階段を下りていく

「あ、ちょっと風哉!」

灯はそう言ったが風哉の耳には届かなかった

「二人っきりにしておこうよ灯ちゃん」

「・・・・・そうね、今の木葉には風哉が一番だもんね」

灯と優は微笑みながら部屋に戻った。


パン

木葉は冷蔵庫から取り出したクリームパンの袋を開け一口かじった。

「・・・・・・」

木葉はしばらく咀嚼をし止まると裏の賞味期限の欄を確認する。

そこに書いてあった賞味期限の日付は今日から約2か月後の日付が記載されていた。

木葉はそれを確認するとゴミ箱を開け、そこに一口しかかじってないクリームパンを捨て入るとベッドに倒れこんだ。

「・・・・寒い」木葉はそう呟き、毛布を体にかぶせ部屋の電気を消す。

外では自粛解除された人々が半袖で蒸し暑い夜道を歩いていた

「私どうしちゃったんだろう?・・・」

木葉は毛布の中で独り言を言う。

「・・・・・・まさか・・・あれが」

そう言うと木葉は3週間前の旅行の日に自分と灯が迷い込んだ世界、白命郷の事を思い出した

しかし思い出してつかの間木葉は首を横に振る

「そんなわけないよね、だってあれは夢だったわけだし、仮に本当だったとしても明日音さん達みたいないい人が・・・・いい人が・・・」

木葉は3週間たちあの街の住人の異様なまでの親切さに違和感を覚えた。

「・・・・・・明日お見舞いに行こ」

そう言うと木葉は目を閉じ眠りに入ろうとした。

ピンポーン

とその時自分の部屋のチャイムを鳴らす音に目が覚める

「・・・・はい」

木葉はそう言うとドアスコープでチャイムを鳴らした人物を確認する

そこには先ほどの風哉が心配そうな顔で玄関の前に立っている光景があった。

(風君!・・)

木葉は急いで玄関の鍵を開ける

「あ、ごめんな木葉。やっぱりちょっと心配になってさ・・・何か変わったことはないか?」

風哉はいつもどうりの木葉に対する心配性をむき出しに問いかけてきた。

「・・・・ううん、本当にちょっと疲れただけだから心配しないで、わざわざありがとう風君」

木葉は一瞬本当のことを言おうとしたが、みんなの笑顔を思い出し風哉に自分の安否をつたえる。

「・・・・・そうか、わかった。じゃあ何かあったらすぐ言えよ!駆けつけるからさ!」

と木葉の部屋の下の階に住んでいる風哉は真剣な表情で木葉にそう伝えた。

「風君・・・」

木葉はその時自分と風哉が初めて会った公園の砂場の光景を思い出した。

「・・・・・木葉?」

風哉は自分をボーっと見ている木葉に問いかけをした。

木葉はその風哉の言葉を聞いて我に戻る。

「あ、ごめんねちょっと・・・考え事してただけだから。じゃじゃあ風君、バイバーイ」

そういいながら木葉はドアを閉めた

風哉は不思議の顔のままその閉じられるドアを見ていた。

バタン

木葉はその自分が閉めたドアの玄関で数秒間立っていた。

「・・・・・・風君」

木葉は自分の体の不調からか自分の身に何か良からぬことが起きているんじゃないのか?

という被害妄想に取りつかれていた。以前の自分ならいつものポジティブ思考でそんなものはねのけてしまうのが当たり前だったのに今回ばかりはいつもと違う・・・・

木葉は考える・・・

(もしかしたら、私もお母さんと同じように入院するんじゃ・・・そうなるとみんなともほとんど会えなくなるし、最悪の場合・・・)

木葉はこの時初めて死というものを意識した。

そしてそれと同時に灯たちの笑顔を思い出す。そのなかでも風哉の笑顔だけが木葉の中で一番輝いていた。

「みんな・・・風君・・・」

その時木葉は3週間前の旅行を思い出した

「乙女回路が壊れてるんじゃないの?」

夢菜のからかい

「これからも木葉ちゃんの彼氏として木葉ちゃんを頼むよ!」

おじさんの風哉に対する期待

「やったーとれたー」

鷁霊祭での念願の風哉との金魚すくい

そのどれもが今の木葉の記憶には鮮明に思い出される

木葉は涙目になりドアノブに手をかける

「壊れてなんか・・・ないもん・・・!!」

ガチャ

「風君!!」

木葉の言葉に風哉は振り向く

「!・・なんだ?」

風哉は少し驚いたように顔だけこちらに向けている

この時の木葉の鼓動は祭りの日の時よりもはるかにドキドキして、体温が下がっている体が高温になりそうなぐらいだった。

「えーと、そ、その・・・」

木葉は赤面しながら風哉に伝えようとしたがうまく言えない

「やっぱり具合が悪いのか?」

風哉はそんなことも知らずにいつも通りの様子で木葉に近づく

「は、はわわわわわ」

木葉はいつも見ていたはずの風哉の顔が、この時ばかりは王子にも勝る神のように見えた

心臓の脈は速くなり、次第に足を震えてきている。

しかし、ここで言わないと!!

木葉は震える足をしっかりと止め風哉の目を見て伝える

「か、風君!そ、その・・・・明後日の放課後・・・」

「ん?放課後」

木葉の言葉を風哉は通常の表情で復唱する

「え、えーと・・・・放課後・・・」

木葉の脚は先ほどよりも震えだす・・・

「ほ・・放課後・・が、ががが学校の」

バタン

木葉は震えすぎている足の震えに自分の体重が支えきれなくなりその場で倒れてしまう

「おい、木葉!!」

風哉はその場で倒れた木葉に急いで駆け寄る

(やっぱり・・・私には無理だ・・・)

そう木葉は心の中で自分に非難をした

「木葉」

風哉の方に顔を向ける

その木葉の目に映った風哉は昔と変わらないいつも通りの風哉だった

「やっぱ体調がすぐれないのか?だったら今すぐびょうい・・・」

風哉はポケットからスマホを取り出そうとした

「ううん、大丈夫」

木葉はそう言うと立ち上がった

「え?」

風哉には状況が良く理解できなかった

「ごめんね急に呼び止めちゃって、やっぱりさっきの言葉は忘れてちょうだい」

そう木葉は笑顔で風哉にお願いをした

(そうだよね、風君は私の事を必死に守ってくれるいい人だもんね。これ以上私が風君を困らせたらいけないよね・・・)

木葉はこの瞬間、自分の青春の幕を自分の手で下ろした。

「いいのか?忘れて」

風哉は少し間をおいて木葉に投げかける

「うん、だから・・・さようなら・・・」

木葉は後ろを向いたまま風哉にそう伝えた

「・・・・そうか、分かった・・・じゃあな」

風哉はそう言うと玄関のドアを閉めてその場を去った

木葉は泣いた。自分のしたことの愚かさではなく風哉の自分に対する思いやりからでもなく、なんというか・・・ただ切なくなった感情から来たものであった。

「私・・・何やってんだろ・・・」

木葉はそう独り言を玄関で呟く

ピロリン

その時自分のテーブルの上に置いてあったスマホからメールの着信音が聞こえた

木葉は悲しみと自分の体調の不具合からフラフラしながらもスマホを手に取りメールの内容を確認する。

「・・・・え?」

木葉は画面を見た瞬間声を漏らした


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

風君:明後日の放課後、体育館裏でいいか?

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


そこには先ほど会話をした自分の幼馴染、青神 風哉からのメールが来ていた

木葉はそのメールを見た瞬間背筋が伸び、収まっていた鼓動が再び動き、おそるおそるメールを打つ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

風君:明後日の放課後、体育館裏でいいか?


このは:来てくれるの?

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


送信を押しわずか10秒ほどで返信が来た。

木葉は画面を確認する。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

風君:明後日の放課後、体育館裏でいいか?


このは:来てくれるの?


風君:もちろん、だからもう泣くな。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


そのメール内容を見たとき木葉は風哉に申し訳ないという気持ちがあった。

先ほどよりもメールの画面が見えなくなってしまうほどの涙があふれてしまったからだ。

木葉は涙をぬぐいそのメール画面をしっかりと確認すると文字を入力し、送信ボタンを押す。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

風君:明後日の放課後、体育館裏でいいか?


このは:来てくれるの?


風君:もちろん、だからもう泣くな。


このは:屋上でお願い!!

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「わかった・・・っと」

優の部屋の階、3階の階段の登りきったところでそう呟き送信ボタンを押す。

空を見上げると、薄暗い雲に隠れきれていない三日月が堂々と夜空を飾っていた

風哉はその三日月を見ると微笑み優の部屋に向けて歩みを進めた。




「いやー皆さん今日はほんとお疲れさまでした!!」

学校の門の前で柏木が教師たちに言うとほかの教師たちも頭を下げ各々感想を述べる

「一時はどうなるかと思いましたが、何とか開催できて良かったですね」

「まあ急ということもありましたのでみんなドタバタしてましたけど・・・」

意思田の感想に小野は苦笑いを浮かべる

「私は反対だったんですけどね・・・また再流行する可能性がありましたし」

泊が冷静な口調でそう言うと柏木が明るい口調で返す

「考えすぎですよ、泊先生!!もうサイレントは完全に終わったんですから大丈夫です!!」

柏木は泊に親指を見せる

泊は柏木の明るいノリが苦手だった

「なぜそこまで言い切れ・・・というかそもそも今回の3年生の劇が何で全クラス一環だったんですか?」

泊の疑問は意思田に投げかけられた

「え?いや~その・・・ほら!こういうのって少人数より多くの人数でやった方が絶対に楽しいですから!!」意思田は慌てた様子で泊に話す。

泊は不貞腐れた様子で意思田を見ていた。

「ところで」

伊志田は話題を変えるべく副担任の中井に声をかける

「ばっちり撮れてますか?今回の文化祭」

「ええ!もうばっちりですよ!」

中井は笑顔で意思田に返した。

「でも、何枚かに変な人が写ってるんですよね・・・」

そう言いながら中井は不思議な顔でスマホを意思田たちに見せる

「この人なんですけど・・・」

全員はその写真に目を向ける

「うわ、怪しい・・・」

そのスマホに写っていたのは木葉や灯を不思議な世界へと招き入れた張本人であるコートをまとった男であった。

「寒がりなんですかね?この人」

西村は恐る恐る口を開く

「確かに、まだ暖かいぐらいなのにこんなあからさまに不審者みたいな恰好・・・」

泊も続けて発言をする

「・・・ははは、まあ世界にはいろんな人がいるわけですから!気にしないのが得ですよ!」

そういい柏木は話を終了に導いていった

しかし、他の職員はどうも納得がいっていない様子だった

柏木は少し考え話を変えるべく他の職員に言った

「じゃあ今から皆さんでパーッと飲み会にでも行きますか!!」

「さんせーい」「僕も!」意思田と柏木はノリノリの様子で手を挙げる

小野も挙手をし泊は少し考えている様子だった

「泊先生も行きましょうよ~たまにはいいじゃありませんか?」

意思田の提案に泊は返す

「しかし、私には子供たちが・・・」

「ちょっとぐらいいじゃありませんか?こうやって息抜きしないと身が持ちませんよ?」

柏木の笑顔の問いかけに泊は妥協する

「では・・・・3時間ほど・・・」

「やったー!じゃあ私、野崎〔ノザキ〕先生と道峰〔ミチミネ〕先生も連れてきます!」

意思田はそう言うと振り向き1組の副担人、野崎と4組の副担任、道峰を連れてくるべく学校の昇降口に駆けていく。

「あれ?間〔ハザマ〕先生は?」小野は2組の副担任の間の名前を言ったが柏木が小野に説明をする

「もう帰られました」

小野はいつも足早に帰っていく間の姿を想像し苦笑いをする。

「あの~」

そんな二人の話中の間に西村が入る

「?どうされました、西村先生」

小野は不思議そうな目で西村をひとみに映す

「すいませんが、私も今日の飲み会は2時間ほどで・・・」

「あれ?西村さんの所お子さんいらっしゃいましたっけ?」

小野に続いて柏木が不思議な顔をしたが西村は否定をする

「あ、いえ、そうじゃなくて明日ちょっと・・・用事があるもんで」

西村が笑いながらそう言うと二人は納得し柏木はスマホで今から来店可能な居酒屋の店にアポをとる。



「あれが石櫻高校か・・・」

そんな教師たちのいる石櫻高校から遠く離れた町のビルの屋上に上り、愁人は独り言をつぶやいた。

「いよいよ、終末ってか?」

愁人はそういうとポケットから紫色の玉を一つ、口の中に放りこんだ。




「・・・・・・・」

先ほどの中井が撮った文化祭の写真の中に紛れ込んでいたコートの男は、石櫻高校の近くにある学寮の前で、寮を見上げていた。

男は学生寮をしばらく見つめるとその場を去っていく。

男が通る道に生えてある木には、風によって吹かれている木の葉があり、夜空には雲によって隠されていく三日月の姿があった。




そして・・・・・・

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