主を目指して

 

「・・・・・・・・」


包帯を巻いた男は僧侶の後ろをついていき明日音達と同じく幻霊館へ向かっていた。


道を通るたびに街の住人はその包帯男に注目の目線を浴びせていた。


「・・・・・・・」「よいか、晴太(ハルタ)。わしたちの目的はただ一つじゃ」


僧侶は背中を向けた状態で包帯男にそう問いかける。


「今日この日がこの街・・・いや生者の世界にとっても希望の日となる。おぬしもそれは存じているじゃろう?」「はい・・・」包帯男は僧侶の問いかけに返事をする。


「念を押すように申すが、くれぐれも失敗をするんでないぞ?」「はい・・・・・・」包帯男は先ほどと同じトーンで僧侶に返す。


「おぬしが今この街にいるのも今日この日のためだからな・・・にしても包帯巻きすぎではないか?」「・・・・・・・・」


僧侶の疑問に包帯男は沈黙してしまう。








灰色からまるで絵に描いたような青色に変わった空に1羽の鳥が大空を飛んでいた。


「あー見て見て灯ちゃん!あの鳥すごい珍しい模様してるよ!!」


「ん?あ、あれは・・・」灯はその鳥を見てそう口にしたとき木葉も口を開いた


「私知ってる、不死鳥でしょ!!」木葉は自信満々に灯に言った。


「・・・・・・・・」灯は思った、この娘はどこまで天然なんだと


それは不死鳥ではなく鷁(げき)だった。なぜそれを灯は知っていたかというと先ほどまで自分たちのいた村の祭り鷁霊祭の象徴の印に中国の伝説の大鳥がその鷁であったからだ。


「・・・・そうよ・・」灯は一瞬本当のことを伝えようとしたがやはり面倒なため黙っておいた。


「木葉さんって面白いですね」明日音はクスッとはにかみ木葉にそう言った。


「?」木葉は正解を言ったはずなのになぜ面白いのだろう、といった表情で明日音を見つめた。


「もうそろそろでつきますよあちらが幻霊館です」明日音は自分を見つめる木葉を避けるため目的地である幻霊館を手で指した。


木葉と灯はその館の方を見る


「は・・・・すごい・・・」灯は思わず声を出してしまった。それは自分たちが先ほど遠くから見た姿とは比べ物にならないほどの美貌と構造そしてオーラのようなものを噴出しており。自分たちが中学の修学旅行で見た金閣寺や清水寺とは天と地の差ほどの絶景だった。


ドンッ 「うわっ!」


灯は幻霊館の美しさに惹かれて何者かにぶつかりその場で尻餅をついてしまった


「あ、どうもすいませ・・・」灯はその自分がぶつかった相手に謝罪をしようとした。


「きゃあああああああああああああああ!!」


その時灯の絶叫が街中に響いた。


明日音と木葉は慌てて振り返る。


そこには顔中包帯だらけの男が包帯の隙間から見える目で灯を凝視していた。


「どうされました!?」「灯ちゃん!」二人はその場で腰をついている灯に駆け寄る


「あ、あああ・・・ミ・・ミイラ男」灯は震える指でその包帯男を指さす


二人はその男を見る


「え?・・・コスプレ?」「なわけないでしょ!!」灯は木葉の底を見ない天然さに怒りを覚えるほどだった。


しかし、明日音はその男を見ると立ち上がり笑顔を見せた


「晴太さんではありませんか!、お久しぶりです」明日音はお辞儀をする。


「は・・・晴太?」灯はそう言葉を漏らした


「・・・・・どうも」包帯男は明日音に会釈をする。


「あ、お知り合いなんですか?」木葉の問いかけに明日音は頷く


「はい、この方は私と同じ霊力の管理人で先ほどお伝えした卿藍寺の方です」


「あのお寺ですか?」木葉は自分たちのいる場所よりも少し離れたところに建ててあるお寺を指さし、うかがった。


「ええそうです」明日音はそういうと晴太に問う。


「晴太さんがここにいるってことは、友數(トモカズ)師匠もおこしになっているのですか?」


「それが・・・・」晴太がそう口にしたとき遠くの方から声が聞こえた


「これ晴太!!先に行くではない!少しは老人をいたわらんか!」といいながらいかにも僧侶のような恰好をしたご年配の男性が晴太に近づいてきた。


「すいません・・・師匠」晴太はその僧侶に頭を下げる


「友數師匠!やはりいらしていたのですね!」明日音は再度笑顔で友數にそう言った。


「おや?明日音さんではありませんか?どうしてこの敷地に?」友數は不思議そうな顔で明日音に問いかける。


「あ、実はこちらのお二人生者の世界からおいでなすったお客様方で幻霊館へ行きたいと申されたものですからご案内をしているのです」と木葉達を手で指しそう答えた。


「ほう、生者の方から?それは珍しい」と友數は微笑みながら木葉達を見た。


「あ・・・こんにちわ」と木葉は近づきながら友數に挨拶をした。灯も立ち上がり木葉と同様に近づく。


しかし、灯は躊躇をしていた。それは友數にではなくその友數の後ろでこちらを見つめている包帯を巻いた男晴太の存在にだ、灯は木葉の後ろからその晴太の方をちらちらと見つめていた。


「・・・・・・・」晴太はじーっと二人を見つめる


灯の目線に気づいたのか友數は笑顔で二人に説明をした。


「あ、こいつですか?こいつは私の弟子で寺の管理者でもある晴太というものです。これ晴太!挨拶をせんか!」友數は叱るように晴太に命令した。


「晴太です・・・・よろしく・・・」晴太はどうにか聞こえるほどの声量でボソッと自己紹介をした。


二人もとりあえず会釈をする。


「すまんね~こやつは生者の世界でも人見知りが激しくて、こっちの世界でもずっとこんな感じなんじゃ。」と説明をしてくれてはいたが灯が求めていたのはその顔中に必要以上に巻いてある包帯の説明の方だった。木葉は今の説明で十分の様だったが灯は納得がいってない様子だった。


「・・・・・・・」「・・・・・・・」灯と晴太の視線が火花を散らしているようにも見えた。


「あ、これかい?あはははこれは失礼した!確かにこんな包帯野郎に自己紹介されても安心せんよな~」友數は笑いながらそう言い灯の待っていた包帯の説明を始める


「こやつ・・いや晴太はな?包帯が好きなんじゃ」友數の説明に二人は首をかしげる


友數は続けて詳細を離す


「いやその、人見知りのせいか単なる恥ずかしがりのせいかは知らんが、晴太は自分の素顔を見せるのに抵抗があるようでな、全く変わったやつよのう。わはははは!」と大笑いをしながら友數は説明を終わらせた。


灯は苦笑いをする。「コミュ障の最終形態がこれか!?・・・・」なんてことを心の中で考えていた


「・・・・・・・・」木葉は自分たちを見つめる晴太の方を不思議な目で見ていた。


「ところでお二人はどちらへ行かれるのですか?」明日音は友數に新たな問いかけをする。


「あ、実はわしらもな今から主様の所へ向かおうとしていたところなんじゃ!ちょっと霊力の報告をしに行くのとご挨拶がてらにな」とあっさり返答をする。


「まあ、それは奇遇ですね私たちも主様の所へ向かうところなのでご一緒に参りましょうか?」


と明日音は提案をする


「よろしいですよね?お二人方?」


明日音は木葉と灯の方を振り向きながらそう問いかけをする。


「え・・・・?」灯は急に提案された疑問に戸惑う


(あのニコニコおじいさんはまだしも、包帯男と一緒なんて・・・。)灯は周りの住人の方を見る


案の定その包帯男を見世物を見るかのような目で凝視している人たちばかりだった。


(明日音さんと同じ管理者でもここまで差が出るなんて・・・あんな人と一緒に歩いていたら私たちまで・・・)「別にいいですよ」「は!?」


灯がそう考察している最中に木葉はあっさりと許可を出した。


「良かった、ありがとうございます。では向かいましょうか」「晴太、今度は先に行くではないぞ?」そういいながら明日音と友數についていくように晴太も先を進みだした。


それと同様に3人についていこうとする木葉に灯は問う。


「あんた正気!?あんないかにも何かありそうな包帯死者と一緒に行動を共にするなんて!?」と灯は少し怒り気味に言ったが木葉は「大丈夫だって、あの人悪い人には見えないから」とあっさり返し先に進んだ。「ちょ、ちょっと!」灯も仕方なく明日音達についていく。






「で、最近どうだ?則男(ノリオ)の様子は?」「則男師匠は相変わらずお元気です。まあだらだらしているのも相変わらずですが・・・」


「・・・・・・・・・」


友數と明日音を筆頭に晴太・木葉・灯の3人は幻霊館を目指す


しかし灯はこの組み合わせに未だ納得入っていなかった。


「・・・・・・・・・・」


(あの人は無口になる呪いでもかけられているの?・・・)なんてことを考えながら晴太の背中を見ていた。


晴太はその視線に気づいたのか後ろを振り向く。それと同時に灯も目線をずらす。


(目が合ったらなにされるかわかったもんじゃない・・・)と心の中で自分に言い聞かせる。


しかし晴太の目線は灯の方ではなく木葉の首にかけられているお守りの方に注目していた


「・・・・・・・・」晴太はしばらくの間そのお守りを見つめると首を元の場所に戻した。


「・・・・・・・・・」木葉も灯と同様に晴太の後ろ姿を眺める


「木葉、あまり見続けない方がいいわよ。おかしいのはわかるけど・・・」と小さな声で木葉の後ろから灯はそう助言した。


「いや、そうじゃなくて・・・・」「?」木葉はそう口を開き心のなかでつぶやく


(この人の目・・・どこかで・・・)


木葉がそう考えている間先頭の友數と明日音は木葉達に聞こえないように小声で会話をした。


「まだばれてはいないだろうな?・・・」「ええ、ご心配なく・・・全ては作戦どうりです・・」


「・・・・・・・・」


晴太の耳には二人の会話が聞こえていた。




「着きましたここが、幻霊館です」明日音は振り返りながらそう言った


その屋敷の門は自分たちが知っている門の何倍もの大きさと美しさを保ち何年もの間、この館を守ってきたような作りで木葉達を魅了していた。


「これが・・・幻霊館」木葉はボソッとそう言い門を見上げていた。灯も全く同じ状況だった。


しばらく見惚れた後、門とこちらをつなぐ橋の方を見ると前方に三人の兵士らしき男が話し合いをしていた。おそらくこの館に仕えるものだろうと二人は察した。


「ん?あ、友數殿に明日音殿ではありませんか」その3人のうちの一人がこちらに気づきそう言いながら橋を渡り歩んできた。


よく見るとその男は橋の向こうにいる二人よりも丈夫そうな装備をしており、上司の様だった。


「とう館になにか御用時でも?」男は友數たちに問う。


「いえ、私と晴太は霊力の報告に参ったのですが、明日音さんたちは・・・」と友數は明日音の方に目を向ける


「ん?晴太?」男の疑問に包帯男の晴太は友數の後ろから姿を見せる


「っ!あ、そうか・・・で、明日音殿、今回はどういったご用件で?」男は明日音の方に質問を向ける


「はい、本日は主様にご用件があって参りました。」その返答に男は少し驚き


「主・・・龍之介(リュウノスケ)様にですか!?」と明日音に言った


「ええ、というのも実はこのお二人・・・」と木葉と灯を男に紹介する。


男は木葉と灯を一目見ると、表情を戻し「なるほど、お二人は生者ですか・・・」と口を開く。


木葉達は「はい」と返答をし男は笑顔を見せる。


「わかりました、では私から龍之介様にお伝えしますのでそうぞお進みください。」そういい男は橋を渡り二人の兵士に事情の説明をすると門の鍵を開けてくれた。


門はものすごく豪快な音を立てゆっくりと二つに割れた。


門の中からはまるで虹色のような光があふれ木葉達を歓迎してくれている様子だった。


「きれい・・・きれいすぎる・・・」「うん・・・・・」と木葉と灯は門を見ていた時よりも見惚れていた。


「木葉さん?灯さん?」明日音の問いかけに二人は正気を戻す。


「あ、すいません。つい綺麗すぎて」木葉は照れながらそう言い灯も照れている様子だった。


明日音と友數は微笑み橋を渡りだす。晴太も二人についていくように門の中に入ろうとする


門の端では二人の兵士が自分たちにお辞儀をしていた。


「いい?木葉、さっきも言ったけどバカなことするんじゃないのよ?」灯は橋の上を歩きながら木葉にそう言いかける。


「灯ちゃんこそ変な気起こさないでよ?」木葉も灯にそう念を押しておいた。


「何言ってんのよ?私はちゃんと状況を見計らって行動するタイプよ」


「じゃあ私もそれで!」


二人は目を見つめあい、笑い、手をつなぐ。そして門の中に足を入れる


(主様だったら知ってるかもしれない・・・)と木葉は思う


(この街の創造主だったらきっと知っているはずだわ・・・)と灯は思う


(死んだお父さんの事!!・・・)(あのコートの男の事!!・・・)


門は5人を館の敷地の中に入れると豪快な音を立てゆっくりとしまった。




「龍之介様聞こえますか・・・? 1番隊隊長の昴(スバル)です。」 「」


「いま、この館に例の人物が参りました。」 「」


「はい、そうです、【希望】です。どうやらやつらの計画は崩れ、我々の勝利みたいです」 「」


「ええ、わかっております最後まで油断をせずに護衛を徹底するつもりです。つきましては彰吾(ショウゴ)殿にはあちらでも継続して・・・」


「」 「あの男?」 「」 「ああ、彼ですか、はい来ております。希望と同じくこの幻霊館に」


男は晴太の姿を思いだしながらそう言った。


「」 「もちろん、そのつもりです。何もご心配することはございません。今日で長く、憎悪に満ち溢れた復讐劇にやっと幕を下ろせます・・・」 「」


「はい、では後程。しばしお待ちを龍之介様」


そう言い終えると昴は誰もいない部屋から出て、階段を上っていった。










「・・・・・・」


その少女は自分の目の前にある立札を見ていた。


【関係者でも立ち入り禁止】


立札にはそう書いてあった、しかし漠然とした更地の上にただ一つぽつんと立たれているその立て札は危険性よりも好奇心をくすぐっていた。


少女はその立て札を通り過ぎその先の見えない更地に足を踏み入れようとした。


「コラ!胡桃(クルミ)ちゃん!!」少女の後ろから女性の声が聞こえる


振り向くと着物姿の女性がその少女に向かって走ってきていた。


「ダメでしょ!立て札無視しちゃ、ここは危険っておじさんたちが言っていたの忘れたの!?」


女性は少女にきつく注意をする。


「ごめんなさい・・・おばさん・・・もう行かないから」少女はそう涙目で言うと女性に手を引っ張られ街に戻った。




「ちぇ50点かよ・・・」 「お前4点も上がってよかったじゃねえか!」寺子屋から出てきた二人の少年がそう言い街を歩いていた。


「ふん!こんなもの!」 「あっ!!」 答案用紙をもっていた少年はその紙を丸め吹いてきた風にのせてどこかへ飛ばした。


「お前、おばさんにばれたら叱られるぞ」 「平気だよあのおばさんちょろいから」少年は笑いながらそう言った。


「誰がちょろいですって?・・・・」


後ろから聞こえた聞き覚えのある声に少年はびくつく、そして振り返る


そこには涙目の少女と手をつないでいる女性の姿があった。


「あ、おばさん・・・今のは・・・」


「あんた、今日のテストは?」おばさんは怒りの表情で少年に問う。


「そ、それが答案用紙が風に吹かれちゃって・・・」少年は目を泳がせ冷や水を流しながら恐る恐る答える。


「そんなわけないでしょーーーー!!!」女性は少女の手を離しものすごい勢いで少年に近づく


「うひゃああああああ!!」少年は全速力で女性から逃げる。


「あ、おばさーーーん!」「走ったら危ないよー!」


競争をしているような二人に置いて行かれた少年と少女はそういいながら二人の後をついていった


そんな日常の街の上では鷁や鴇、そして人魂がのどかに飛んでいてその中に先ほどの少年が捨てた答案用紙も混ざっていた。


その紙は先ほどの少女がいた立ち入り禁止の看板を通り過ぎ更地の中に入っていく。


まるで行く当てもない旅人のようにゆらゆらゆらゆらと空を泳ぎ更地を答案用紙が独り占めしているようだった。






そして見えない何かにぶつかり一瞬にして灰になった。










「ようこそ幻霊館へ」 


「わざわざ遠いところからどうも」


「ごゆっくりおくつろぎください」


「おや、生者の方!!お待ちしておりました。」




館内を歩いている木葉達にその館の使用人や兵士たちはその場で立ち止まりお辞儀をしてくる。


「すごーいまるで旅館みたいだね。」木葉の例えは灯にはわかりやすすぎた。


「うふふ、お二人が可愛らしいからですよ!」と明日音がいい


「まったくそのとうりだ!!がはははは」と友數は笑い


「・・・・・・・・」晴太は無言だった。


「えーそうですかー、ありがとうございます」木葉は照れながらお礼を述べていたが灯は怪しげな表情をしていた。


(やっぱりおかしい・・・いくら自分たちが生者の世界から来たものとしてもここまですんなり歓迎されるなんておかしすぎる・・・・やはりなにか・・・)


灯は心の中でそう考えていた。(まあ主様に聞けばわかるだろう。)


「ではわしらはここで」突き当りで友數がそう言った


「え?どうしてです?主様に用があったんじゃ・・・」不思議そうにそう言った木葉に明日音は説明をした。


「霊力管理の報告は主様ではなく、獅子丸(シシマル)隊長に報告をするのです」


「獅子丸隊長って誰?」灯は明日音に疑問を持つ


「この幻霊館の兵士部隊の長です、先ほどの人は1番隊隊長昴さん、獅子丸隊長は2番隊、そして3番隊隊長は・・・あ、あの人です!」


明日音はそう言うと廊下の先に指を指した。


見て見るとその先には先ほどの昴隊長と同じ服装をした金髪で髪の長い美女がこちらに向かって歩いてきていた、後ろには何人かの兵士も同行しているようだった。


「え、女性?」「うわーーーー綺麗な人・・・」


そう木葉と灯がつぶやく


「霞(カスミ)隊長!」明日音はその女性に手を振る。


女性はそのまま近づき明日音たちの前に来る。


「大変お待たせいたしました、我が主流介様が席に参りましたのでどうぞ4階へ」


そう言いお辞儀をすると廊下を通り過ぎていった。


「かっこいい・・・・」「どっちよあんた」そう二人がやり取りをしていると


友數が口を開いた。


「それじゃあわしたちはこの2階にいる獅子丸隊長に報告に行くからお二人さんは主様の所へお気をつけて向かってくだせえ。」そう言うと友數と晴太はまっすぐ道を進んでいき左へ曲がった。


灯は喜んだ、やっとあの気味の悪い包帯男から解放されると。


「じゃあ友數さんたちは報告に行くみたいだし私たちも行きましょうか?」灯の笑顔に木葉も同意した。


「ではこちらです」明日音は先ほど霞が通ってきた道を手で指し案内をする。


二人はその案内に従い4階にいる主の場所を目指しだした。


「あの~明日音さん」3階に上りしばらく歩いたときに木葉が明日音にそう言った。


「どうかなされましたか?」明日音は心配な顔をして木葉に問う。


「ちょっと・・・おしっこ」明日音は照れながらそう口にした。


「あんた女の子なんだからもっときれいな言葉で言いなさい」灯は呆れたように木葉に注意をする


「え?例えば?」「例えばそのお花を摘みに行くとか、」「私お花なんか摘まないよ?」


「・・・・もういいわ」なんて会話をした後明日音は木葉に笑顔で言った。


「ではお手洗いまでご案内します。灯さんも行きますか?」明日音は灯の方にも笑顔で問いかける


「いや、私はいいわ、したくないし」灯は手のひらを向け断る


「では、私と木葉さんが戻ってくるまで待機していてください。木葉さんこちらです」明日音と木葉は右の道を通り姿を消した。




「ふぅ~すっきりした。」木葉は独り言を言い個室を出て手を洗う。手洗い場の大鏡に顔を向け木葉は自分の顔をじっと見つめる。


「お父さんがどこにいるか教えてください!・・・」「お父さんがどこにいるか教えてください!・・・」木葉は鏡を使って主様への質問の練習を一通りすると、笑顔でお手洗いのドアを開けた。


「明日音さんお待たせしました!」


・・・・・・誰もいない


「・・・あ、明日音さん?」木葉は廊下や広間の方に向かったがそこには明日音の姿はどこにもなかった。


「もしかして、下かな?」木葉は階段で2階に降りようとした。


その時


っ!?・・・


体の自由が利かない!!・・・


木葉は階段を3段降り、4段目に足をつけようとしている状態だったためとても不安定な姿勢でぐらぐらしていた。


やばい!このままじゃ、階段から落ちてしまう!・・・・


そう考えていた刹那その予想どうりに自分の体が段差に倒れようとしていた。


近付く段差。木葉はとっさに目をつむる。


パシッ


何者かが自分の腕を掴む感触があった。


木葉は目を開け自分の腕を掴んでいる者に目を向ける。


そこには顔中を包帯で隠している晴太が自分の腕を掴んでいる姿があった。


「晴太さん・・・」木葉はそう言い両足を段差の上につける。


晴太は木葉の腕を右腕で掴んだままじっと見つめていた


「晴太さん、大変なんです!体の自由が・・・あれ?」木葉は先ほど自分が階段の段差に足をつけたことを思い出し体の動作を確認する。


いつもどうりに動く手、いつもどうり動く足。先ほどの現象が嘘のようにその体は自分の意思によって行動が可能だった。


木葉は苦笑いをし晴太に言う。


「あはははは、すいません。私がボーっとしてたみたいです。でももう大丈夫ですから。ありがとうございます助けてくれて。」


晴太は木葉の腕を掴んでいる。


「あ、もう本当に大丈夫ですから。腕、離してくれていいですよ?」


木葉は笑顔で晴太に言ったが晴太はそのセリフを無視するかのように木葉の腕を掴んでいる。


「あ、あの・・・・晴太さん?」木葉はおそるおそる晴太の顔をのぞき込むように問いかける。


それでも晴太は腕を掴んでいる状態だった。


(・・・・やっぱりこの人の目、前にもどこかで・・・)木葉がそう心の中で感じていた時。


晴太は手を離し左に曲がっていった。


「あ、晴太さん!?」木葉は階段を上り晴太が曲がった左の方を見た。


晴太は何事もなかったかのように廊下の奥を進んでいき左へ曲がり姿を消した。


「・・・・・・・」木葉は晴太の姿が見えなくなると先ほど晴太に掴まれた左腕に目を向ける。


(あの人の手・・・暖かかった・・・)


「木葉さん!!」階段の下から自分の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。


木葉は階段の方に目を向ける


そこには明日音が階段を急いで登ってきている光景があった。


「明日音さん。」「すいません木葉さん、使用人の方から霊力についてお話があるので2階の獅子丸隊長の所へ来てくれって言われたもので、でももうお話は済みましたから大丈夫です。」


明日音は息を切らしながら事情を説明した。


「あ、私は大丈夫ですが・・・」


木葉がそう言うと明日音は笑顔になり


「そうですか、なら良かったです。では灯さんの所へ戻り主様のお部屋へ向かいましょうか」


そう言うと自分を先頭に木葉を灯の方に誘導を始める。


「・・・・・あの」「何でしょうか?」


木葉の質問に明日音は笑顔で返事をする


「その、獅子丸隊長のお部屋には友數さんたちはいたのですか?」


「それが友數師匠はいたのですが晴太さんはいらっしゃいませんでした。まあ恐らく木葉さんと同じくお手洗いにでも行かれたのでしょう。」


「そうですか・・・」


自分の質問に返答した明日音の後姿を見ながら木葉は灯の方へと足を進める。


木葉は先ほど晴太が自分を助けてくれた光景を思い出し心の中でつぶやく


(・・・・偶然だよね、きっと)そう思い込み木葉は明日音と同様に長い廊下を歩く








「上出来だ」


その二人を廊下の陰で見ていた友數はにまりと笑い背中越しで晴太を褒める


「・・・・・・・・」晴太はしばらくの無言の後、木葉の腕を掴んだ右手のひらを見つめていた








「遅いわね・・・」


灯は腕を組んだ状態でそう独り言をつぶやく。


灯はお手洗いに行った木葉とその木葉をお手洗いまで案内して行った明日音の二人を廊下で待っている状態だったため、ただいま絶賛退屈真っ最中だった。


「・・・・・・・」灯は退屈をかき消そうと廊下を行ったり来たりキョロキョロしていた。


「ん?なにあれ?」廊下を見渡していた灯は廊下の先にあるものを見つけた。


灯は近づく。それは木製の枠ぶちに飾っている見取り図のようなものでありその見取り図には上の方にはっきりと【白命郷】と書かれていた。


それがこの街の見取り図だと理解した灯はいい退屈しのぎになりそうだとにやけ、見取り図を確認する。


「なるほど、ここが幻霊館でここがさっきまで私たちがいた光兩寺で・・・・あ、これが宋明寺か」なんて見取り図を見ながら灯はぶつぶつ呟きをする。


「にしてもこうしてみるとそこまで広くは・・・あれ?」灯はその見取り図を見てあることに気づく。


本来街というものはその面積に沿って店の配置や家の数、そして形などが計算されて出来上がっているものだがこの見取り図を見る限り極端に店や家がないところが存在し、そしてその先の形はその街の終了を意味するかのように唐突に終わっているような形をしていた。


「おかしな配置をしているのね、まあ死者の世界だからこれが普通なの・・・ん?」灯はまたしてもあることに気づいた。


その木製の枠に飾られている見取り図は横からよく見ると2段重ねになっておりその見取り図の下にはもう一つ木製の枠ぶちが隠されるようにあった。


「これは・・・」灯はそう言い白命郷の見取り図を下からめくるように上げ、もう一つの木製の枠ぶちの中身を確認する


その中身は先ほど自分が見た白命郷の見取り図よりも大きくちゃんとした店や家の配置がしてあり街の形も自然な形で記されている見取り図だった。しかし、その見取り図は白命郷の見取り図よりも前から作られていたようなものであり、ボロボロで所々文字が滲にじんでいるようだった。


「なにこれ・・・」灯は見てはいけないものを見てしまったような背徳感を味わいながらもその見取り図を確認し上の方に目を向ける。そこにはその街の名前が滲んだ字で書かれていた。


「神・・・命・・・郷?」灯は不意にそう口を開けた。


滲んでいてよくはわからなかったが、その文字は灯の目から見て漢字で【神命郷(しんめいきょう)】と書かれているように見えた。


(どういうこと・・・この街は白命郷だったんじゃ・・・)


灯はそう心の中で考察をしていた


「灯さーーん」


灯はその声が聞こえ慌てて白命郷の見取り図を下ろしその声がした方に顔を向ける


そこには明日音と木葉がこちらに向かって歩いてきていた。


灯は落ち着きその二人の方に足を向ける


「あ、ごめんねちょっと・・・暇だったからうろうろしていたよ」


灯は心臓がどきどきしているのを実感しながらも平然を装い明日音たちと合流した


「もう、明日音さんといい灯ちゃんといい急にどっかに行ったりしないでよ」と木葉はふくれっ面をし、「申し訳ありません」と明日音は苦笑いをした。


「何かあったの?」と灯が木葉に尋ねると「いえいえ、そんなたいしたことではないので。さあ皆様集合したわけですし、4階へ参りましょう」と明日音は慌てた様子で二人を4階へ案内した。




4階へ上ると昴隊長と4人の兵士が部屋の前で整列をしていた。


明日音は昴の方へ向かい「お待たせしました昴隊長」とお辞儀をすると「お待ちしておりましたこちらが幻霊館の主、龍之介様のお部屋です」と木葉と灯に説明をする。


「ここが主様の・・・」木葉と灯はその部屋を目で確認する。


その部屋は自分たちが見たこともない金属の扉でできており豪勢かつ神秘的な風貌を二人に与えていた。


昴はその扉をノックした。


コンコン


まるでその指の音と共鳴をするかのような音色を廊下内に響かせ昴は扉越しに報告をする。


「龍之介様、生者のお二人をこちらへお連れに参りました。」


・・・・・・・ 返事はない。


「はい、失礼します」


昴はそう言うと扉のとってに手をかける


(え?今返事したかな?)


木葉が心の中でそう思った瞬間


前方の金属の扉は開かれ、部屋の光景が木葉と灯の視界に映った。










「やあ、よく来てくれたね。」

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