「主様、3番隊隊長、臥螺奇(ガラキ)ただいま推参いたしました。」


不気味な笑みを浮かべた白い仮面をかぶっているその男は、黒と紫が絶妙に調和している禍々しくも美しい色を放ち、部屋の真ん中に存在しているその主と黒い布を隔てて報告を始める。


「只今常害豪の看守のものから連絡が入り、24番と25番が脱獄をしたもようです。24番は餓と化し既に1番隊の憐隊長が処分をしたようなのですが、25番は未だ逃走中とのことです。」


主は布を隔てて沈黙をする。


「それと別件でもう一つ、あちらの方に希望が参ったとの報告が・・・」


臥螺奇は顔を上げ主の方を見るも黒い布越しで顔をみえず未だ沈黙をしているようだった。


「・・・・この以上の2点から推測をするに申し上げにくいのですが、全てはやつらの計画どうりで・・・・」


「知ってる」


臥螺奇は仮面越しで驚きの表情をした。


「白命郷の方に希望が来たのも、25番、愁人が脱獄をたくらみそれを実行したのも全てとっくの前から知っている・・・」


主はそう臥螺奇に言うと、臥螺奇は慌てたように口を開く。


「で、ではお言葉ではありますが!なぜ今までそれを黙っていられたのですか?主様の目的はこの街に希望を招き入れ主様の・・・」


臥螺奇がそう口にし、主の本心を代弁しようとした


「焦りは禁物だ、それに復讐には年月がかかる。早く済ませたら復讐に味気がないだろ?」


主は臥螺奇にそう問いかけた。


「・・・・し、しかし」


「奴らが計画通りに行動をするのが私の中では計画通りなんだ、それに白命郷のやつらには散々世話になった・・・ここから我らの真の計画を実行しこの神命郷と生者の世界を占領するのだ!・・・」


臥螺奇は黒い布越しで顔は見えなかったがその主が笑っているのを確認ができた。


「し、真の計画とは?・・・」


臥螺奇がそう言うと主は笑いをやめ臥螺奇に告げる


「そこでだ、お前に命を送る」


そういうと臥螺奇の前に小さな渦が出現しそこから小さな木箱が現れた。


臥螺奇は慌ててその木箱を受け止める。


「木箱?・・・」「中を見よ」


臥螺奇は主に言われた通りに箱の中身を確認する。


「!?こ、これは・・・」臥螺奇は言葉を失った。


「それを志月に渡してこい」


主は仮面越しに驚愕している臥螺奇にそう言うと。臥螺奇は驚きながらも口を開く。


「・・・志月?志月隊長の事ですか?」


「ああ、そうだ・・・」臥螺奇の質問に主は答える


「今の希望には霊力と霊神力が備わっているこのままでは我らの計画が遂行できなくなる。だからそれを志月から希望に送り込んで我、器(うつわ)にするのだ・・・」


「器・・・!!」


臥螺奇は箱の中身を目で見つめそうつぶやく。


「・・・・承知いたしました。この臥螺奇主様の命に従って必ずしや志月隊長に送り届けて見せましょう!!」臥螺奇はそう言い木箱の箱を閉め立ち上がり木箱を鎧の隙に入れる。


「頼んだぞ、臥螺奇隊長・・・」


「はい、では行って参ります。」


臥螺奇はお辞儀をした後ドアを開け部屋の外に出た。


臥螺奇が去った後黒い布の向こうでは主が写真を片手に眺めていた


その写真にはとびっきりの笑顔の少女が写ってあり主はその少女の写真をしばらく見つめるとボソッと呟く。


「時野・・・木葉・・・」


主しかいないその部屋で主の独り言が響いた。








「え!?それは本当ですか!?」


尊は驚きの顔をし憐に問いかける。


憐はいつもと同じ表情のまま尊の説明を始める。


「ああ、愁人が脱獄をしたことから。全ては白のやつらの計画通りだったことが予測される。


おそらく、いや絶対に希望はもう白命郷に足を踏み入れやつらは希望に霊力と霊神力を与えているだろう・・・」


尊は憐からそう聞かされると唖然の表情から悲しみの表情に変え口を開く


「・・・・では僕たちの計画は失敗に」


「いや、失敗ではない。むしろ成功ともいえる。」


憐の発言に尊は憐の方に目を向ける


「白のやつらの計画は主様はもう存じ上げていたはずだ、主様は恐らく今から計画の最終段階に移ろうとしている。」


憐はそう尊に言いながら、二人は常害豪の破壊された門をくぐり中へ入る。


「最終段階・・・それは、一体・・・!?」


尊は憐に問いかけ常害豪の中を目視し思わず、えずいてしまう。


「ひ、ひどい・・・」


その光景は地獄よりも無残なものだった。


辺りは黒一色で染められており、その黒にまみれた看守や他の囚人、はたまた兵士や研究員たちが横たわりもう誰一人として息をしていない様子だった。


「これが、餓の力・・・」尊は口を押えながらその光景を見ていたが、憐は表情一つ変えず奥へ進む。


尊は驚きつつも憐の後をついていく。


尊は憐の後ろをついていく間もその道に転がっている死体を見てえずいたりしていた。


「心配するな・・・」憐はえずく尊にそう声をかける。


尊は憐の方に目をやる、憐は自分の腕を見つめながら口を開く。


「私たちは餓になったりなどしない、全ては主様のおかげだ」


そういいながら憐と尊は足を奥に運ぶ。


「・・・・それにしても25番は一体どこへ?」


尊は周りを見渡しながらそうつぶやく。


「言っただろ、全てはやつらの計画通りだと。25番が10年間もこの常害豪にいたのも全てはやつの思惑だったんだ。」


憐は尊に問いかける。


「なあ、尊?もしお前が何かしらの罪で捕まり、刑務所から外に出ることができたらまず最初にどこへ行く?」


尊は憐からの急な質問に固まりつつも少し考え答える


「大事な・・・場所でしょうか?」


「そう・・・まさに愁人は今大事な場所へ向かったんだ」


尊は意味が分からなかったが憐の顔は真剣そのものだった。


「奴はおそらく今生者の世界へ向かおうとしている」


「せ、生者の世界に!?」


尊はさらに驚きの表情をし憐に問いかける


「生者の世界って、奴はもうとっくに死んでいるのに生者の世界に行けるわけが!・・・」


「ああそうだな・・・主様の力を借りないと行くことはできない・・」


憐はそう言うと足を止めとある部屋の前に体を向ける。


尊はその部屋を確認した。その部屋は何重にも分厚い鉄のような物質で作られておりその真ん中には丸い輪っかが何重にも重なっていてその中心に月のマークが記されていた。


「こ、ここは確か・・・」尊が目を見開いてその扉を見ていると横で憐が尊に言った。


「尊、ここから先は私一人で行く。」


「え?隊長お一人で?」


尊の言葉に憐は頷く


「計算通りだったとはいえ我々を手ごまにしたことに変わりはない、25番・・・愁人は私がこの手で葬る!・・・」


そう言った憐の目は赤く染まり、鎧の下の肉体はその鎧からでもわかるぐらい血管が浮き出ているのが尊の目には見えた。


(やばい、憐隊長はガチだ・・・)そう心の中で理解した尊は口を開く。


「し、承知いたしました。では私・・いや僕、じゃなくて私はここで見張りを・・・」


「いやその必要はない」憐は尊の提案をすぐさま却下した


「君は魂の調達に行ってくれ。」「た、魂ですか?」憐の命令に尊は確認をする。


「ああ、これから我らは最終局面へ移行をするそのしかるべき時にそなえて我らの糧を補充する必要がある。わかるな」鋭い目つきでこちらを睨まれた尊はビクつきすぐさま姿勢を正す


「わ、わわ分かりました1番隊兵士尊!ただいまより魂を調達してくるであります!!」そう言い駆け足で先ほど通ってきた道を戻りだした。


「・・・・・・・」憐はその後姿をしばらくの間見つめ門の中心の印に手をかざす。


するとその扉は青白く光りゴゴゴゴゴゴゴという金属が引きずられるような音を立て憐を扉の中へ招き入れた。


(やはり、奴も霊神力を・・・)と心の中で考えながら憐は扉を入ったすぐ先に設置されている貯蔵庫から、青く光る魂にかぶりつきながら奥へ進む。


その先にある階段を降りる頃には魂は全て平らげ、魂で汚れた口元を腕で拭い階段を下りて行った。


「愁人・・・貴様を消す・・・」


そう小声でつぶやき、憐は先ほどよりも真っ赤に染まった眼光で階段を降り終え暗い道を進んでいった。








バキッ!!


そう破壊音が研究所内で響き木製のドアは壊れた。


いや、壊されたのだ。囚人服をまとった灰髪の男によって


その男はその研究所に足を踏み入れると、引き出しや冷蔵庫、鷹の絵が描いてあるキャップの下、棚の中を全部確認する。


「っち、どこにあんだよ・・・」舌打ちをし焦るように何かを探す囚人。まるで鍵でも探しているようだったが、今の彼には鍵など不必要だった。


その時男の目にある者が写った。


金庫だ


ダイヤル式の金庫がまるで隠されるように試験管やビーカーが置いてあるテーブルの下に転がっていた。


男はその金庫を手でつかむと力を入れ念じる


バンッ!!


先ほどのドアを壊した木製音よりも甲高い金属の破裂音が生じその金庫の中から、紫色のビー玉のような玉が20個ほどあった。


「ビンゴ!」男はそう言うと手でその玉を4個ほど口に放り込み咀嚼し飲み込む


残りの玉は研究上の引き出しにあった小袋に入れポケットに入れた。


男は先ほどよりも存分に体調を取り戻しその研究所内に設備されてあった、謎の金属の物体や指紋認証のパネルが付いた装置、パソコン、フラスコなどを破壊した後、冷蔵庫に入っていた液体を排水溝に全て流した。


カツン・・・


その時男の後ろから足音が聞こえた。


振り返ると男が破壊したドアの所に目を真っ赤にした憐がものすごく鋭い目つきでその男をにらんでいる。


「よお、いらっしゃい」男、いや愁人は笑いながら憐を歓迎した。


憐は愁人から目線を外し破壊された金属や装置、液体によって染まっている流し台を確認すると口を開いた


「・・・・・愁人。貴様最初からこれが目的で」憐の問いかけに愁人は答える。


「いやー苦労したぜ、いくら作戦だからと言っても10年間あんな狭いところで一人暮らしをするなんてよ。もうすぐで霊力が尽きちまうとこだったぜ」と言いながらポケットに入っていた袋を取り出し憐に見せる。


「それは・・・」憐はそれを見ると地面の方に目を向ける、そこには先ほど愁人が霊力で破壊した金属が転がっていた。


「うまかったから全部もらっていくぜ」と愁人は憐に言う。


「・・・・フフフフフ」憐はその言葉を聞き急に笑い出した。


「なんだ、壊れたか?悪いが修理はできないぞ」と愁人は憐にそう言ったが憐は笑いをやめない


しばらく笑った後憐は下げていた顔を上げ愁人を見る


「いや、ここまで計画通りだとは。正直思わなかったよ」憐の発言に愁人は驚く


「!?どういう意味だ・・・」愁人の真剣な問いかけに憐は答える。


「貴様ら白の計画を主様が存じていないと思っていたのか?」憐はなおも説明を続ける


「お前が10年前に希望を助けたあの日から全ては始まっていたんだ・・・」


愁人は歯をかみしめる


「お前が霊神力を持っていることも、24番を餓にさせたのも、10年経過した今、貴様らが希望を白命郷に招き入れたのも全部!!主様の計画通りだったというわけさ・・・」憐は不気味に笑いながら愁人にそう問いかけた。


「へっ!ああ、そうかい・・・じゃあこれから俺がお前らの主が送り出した護衛を潰しに行くっていうのも知っていたのか?」


「愚問だ・・・・0番隊の事だろ?」愁人の質問を憐は鋭い目つきで答える。


「言っておくが手掛かりもなしにあの部隊を探し出すことは、砂浜に隠された一つの砂粒を見つけるように不可能だぞ。あの部隊は極秘部隊でな、詳細を知っているのは主様と私を含めた3人の隊長だけだ」


憐はさらに付け加える


「仮に見つけ出したとしても貴様など赤子以下の存在だ。一瞬のうちに塵と化す・・・」


憐はの発言に愁人は鼻で笑った。


「へん、手掛かりならもう掴んである。」そう言いながら自分の手をぎゅっと握りしめた


「・・・そうか貴様らも護衛を。」憐はボソッっというと怒りの表情に顔を変えた


「くっ!どこまでもムカつくやつらめ・・・」


「それに!」憐が独り言をつぶやいてる最中愁人は口を開く


「勝てるかどうかは戦ってみねえとわかんねえだろ?想像なんかで決着をつけんじゃねえ」と愁人は憐に言い放つ。


憐はしばしの沈黙の後また不気味に笑った。


「やはり、何も知らないということはこれ以上ない幸せだな・・・」


「何も知らない?なんだ、それもお前ら黒命郷(コクメイキョウ)の大好きな計画通りってやつか?」


憐に反発するように愁人はそう言った。


「違う・・・」「え?」憐の否定に愁人は驚く


「ここから先は主様ではなく、私の計画だ・・・」憐はそう言うと目を赤色に変え肉体を強靭にした。


「ほう、戦闘準備ばっちりってか?なるほどお前を倒すことのできない俺が0番隊に勝てるわけがないとそう言いたいわけか?」愁人は笑いながら憐に問いかけをする。


「それも違う、ただ私は個人的に貴様を消したいだけだ・・・」憐は先ほどよりもさらに不気味に笑う


「おお怖いね純粋な殺人願望ってやつは、それもお前たちの主の実験の賜物か?」


「それが遺言でいいんだな!!」憐の表情と声は先ほどよりも険しいものとなり既に右手は腰にかかっている刀にかけられている状態だった。


「・・・じゃあお手柔らかに頼むよ、憐隊長?いや、憐お兄ちゃんかな?」愁人は挑発をするような笑みでそう口にした


「ほざけ!クソガキっっっ!!!」そう発したのと同時に憐はものすごい勢いで刀を抜き愁人に襲いかかる。


バシッ


愁人はその自分の首を狙ってきた刀を片手で受け止めた。


受けて止めた手からは一滴の血も垂れてはこない。


「な、なぜだ・・・!」驚愕している憐に愁人は答えた。


「俺のは本物お前らのは偽物、そういうわけだ。」そう言うと掴んでいた刀を押し憐を後ろに突き飛ばした。


「ぐっ!」憐は受け身をとり後ずさるそして自分の目の前まで来た愁人の蹴りを紙一重でかわし再度刀を愁人に向かって切り込む。


ガキャン


そう金属音が研究所内に響き憐は愕然とする


自分の振り下ろした刀が愁人の口で受け止められ歯でカタカタ振動していた。


「みゃっじゅ・・」愁人は口で刀を噛んだまま憐を後ろに放り投げる


研究所のテーブルの上に着した憐は体制を整え前を見る。


すると自分の方に向かって木製の椅子やフラスコグラスが投げられてきて、憐はそれを刀で切り崩す


「お見事」そう愁人の声が聞こえると愁人は上空に飛び上がり憐に向かって踵落としを仕掛けてきた、憐はそれに対抗すべく刀で迎えうつ。


踵と刃が重なり合っても愁人の踵には傷一つつかなかった。


(これが・・・真の霊神力!)と心の中で実感をし憐は愁人を押し返す。


愁人は上空で一回転をし地面に着地をする。


着地をし片膝をついている愁人と刀を構えている憐はしばらくの間にらみ合っていた


「飽きた」不意に愁人はそう口にし顔をつまらない表情に変えた。


「な、何!?・・・」憐はあまりのことに動揺しつつも愁人に問いかける


「ど、どういう意味だ貴様!!」憐は怒りをあらわにしている様子だったが愁人は変わらずつまらない状態で口を開く。


「だってさ、お前と戦っても時間の無駄だもん」錬の憐のやる気のないセリフに愁人はさらに逆上する。


「ふ、ふざけるなあああああ!!!」そう言いながら刀を上に振りかざし愁人に駆け寄ってくる。


「うっ!!・・・」


カラン


突如憐の動きが止まり握っていた刀が地面に落ちた。


「あ、もうそういう展開うざいから」愁人はそう言いながら手のひらを憐に向けていた


「貴様・・・なにを!?・・・」憐は身動きが取れない状態のまま愁人をにらむ。


「ん?これ?明日音姉ちゃん直伝、【霊身封(れいしんふう)じ】相手の体を金縛らせるやつ」と軽く説明をした。


「まあ、安心しろ1分も立てば体が元どうり動くから。後遺症も0」そういいながら愁人は憐の横を通り過ぎその部屋から出ようとする。


「待て、貴様!!私を仕留めないで行くつも・・・」「あ、そうだ!」


愁人はドアの前で背中越しにそう言い、振り向く。


「お前、あんま強くないな」「な!?・・・」


愁人はそう言い残しその部屋を出た。


それから数秒後愁人の言った通り憐の体は解放され元どうり動くごとができた。


「はあ、はあ、はあ、はあ、」憐は両手両足を地面につけた状態で自分の顔から流れ落ちてくる汗を見ながら先ほどの言葉を思い出した。




(俺のは本物お前らのは偽物、そういうわけだ。)


(だってさ、お前と戦っても時間の無駄だもん)


(お前、あんま強くないな)




その愁人の言葉を思い出した憐は悔しさから拳を握り地面に何度も拳を叩きつける。


「うああああああああああ!!・・・・」怒りや自分の無力さからの悲しみからうめき声をあげた憐の拳は血で真っ黒に染まってもなお、地面を殴り続けていた。














ざっざっざっざっ


愁人は先ほどの廃墟から外に出て森の中を駆けていた。


木の枝を踏み水たまりを渡りまずは森の中を抜けることが大前提と考えがむしゃらに走っていた。


しばらく歩くと前方に赤と黄色と白い光のようなものが見えてきた。


「懐かしいなあの光」などと考えながら愁人は森の中を潜り抜けた、そこには町の夜景が見渡せるような絶景になっており車や、ビルの光家の灯が確認できていた。


その夜景をしばらく見続けていた愁人は生前の記憶を思い出す。


(パパ夜道怖いよ~) (大丈夫だお化けが出てきたらパパがやっつけてやるから!)


(じゃあその時はお願いねあなた)


幼少の自分が父と母の両方と手をつなぎ夜道を歩きながら家に帰宅していた頃を脳裏に蘇らせる。


「・・・・・・」それと同時に自分の父親の葬式の事も思い出す。


(阿弥陀如来・・・)(ぅうぅうぅう・・・)(・・・パパ、何で・・・)


「親父・・・・」


そう呟いた愁人は思い出したくはなかったが、もう一つの記憶も思い出した


(ママ・・・)(ごめんなさい、愁人。ママ・・・もう疲れたの・・・)


愁人は拳を強く握りしめ目を閉じ最後の記憶を思い出してみた。


(逃げろ!!早く)(え?お兄ちゃん誰?)(君の味方だ!!急げ!・・・)


自分の後ろを首からお守りを下げた幼い少女が走り去っていく光景を思い出し目を開ける。


「見えるか親父、お袋・・・あと少しで、全てが終わるよ・・・」


そう小声で言うと愁人は再度走り出しその夜景の街に飛び込んだ。


〔消(しょう)!!〕そう心の中で唱え愁人は姿を消した。


バンっ!


愁人は物置小屋に着地してその音に気づいた家の住人が窓を開ける。


「だ、誰だ!!・・・・ってあれ?」姿を消している愁人を家の住人は確認ができなかった


「変だな~確かに今音がしたんだけどな~?」「ちょっとあなた外に出ちゃ危険よまだサイレント終息してないんだから!!」夫婦がそんなやり取りをしている目の前を姿を消した愁人は通り過ぎていく。


その家の門から出ようとしたとき愁人はその家の物干し竿にかけてある服を見つけた。


「お、ちょっと借りますよっと」愁人はそう言うと姿を現し着替え、すぐさま姿を消した。


そして愁人はその奪った服を着たまま姿を消した状態で夜道を走る。しかしその夜道は自分以外、外出しているものは誰一人いなかった。


しばらく走り、愁人は公園のベンチに腰を掛ける


目の前にある誰も乗っていないブランコを見つめながら愁人は独り言を言った。


「0番隊か、他のやつらとは違いそうだな。


・・・・志月って誰なんだ?」

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