探す者、探される者

真紀は機嫌が悪かった、というよりも怒っていた。


彼女は自分のお気に入りのMy tuber [X・Y・Ztv]が2日前に宣言していた某心霊スポットでの肝試し動画をプレミアム公開の10分前からスタンバっていた。だが、公開時間の40分を過ぎても配信される気配は全くない。




寝てんのか?


もしもーし聞こえますかー


アップ詐欺とかww大草原不可避www


いやマジでなんかあったんじゃねえの?


誰か警察よんでーー


↑お前が呼べよカス


マジレス乙




などとコメント欄では自分と同じ、動画を楽しみにしていた視聴者が様々なコメントを打っていた。


自分が投稿した動画には全然見かけないコメントが次から次へと入力されていき、真紀はそれを眺めている。


しかし、真紀はコメントは打たなかった。いや打つ気力がなかったのだ。


ウイルスが彷徨っている世間でニュースや動画はほとんど一緒のものばかり




・犠牲者1週間前から比較して1.5倍増


・政府開催東京緊急会議生中継 


・サイレントにおける親族の悲しみ 


・遺体はどこへ・・・?謎の神隠し事件




などと同じ表紙でつまらない日常の中で唯一の娯楽であるMy tubeだけが真紀の中のオアシスであった。


その中でも自分が一番大好きなX・Y・Ztvが動画を投稿しないなんて・・・最悪だ・・・


真紀はため息をするとスマホを畳の上に放り投げ、大の字になった。


「いっそのこと・・私も踊ってみようかな・・・」


真紀はダンス系My tuber【はぴねす!?ガールズ♥】の華麗なダンスを思い出しながら独り言を言った。


しかし、運動が大の苦手で傑作なほどの運動音痴の自分ではダンス動画で注目されるなど夢のまた夢のまた夢であった。


真紀は自分が投げたスマホを拾うと今日撮った動画の編集に移ろうとした。


「木葉ちゃん?帰ってきてないわよ」


隣の部屋からおばさんの声が聞こえた。真紀は耳を傾ける


「え?木葉ちゃんが!?」


おばさんの声が急に大きくなった


真紀は立ち上がりふすまを開けおばさんのいるリビングへと足を運ぶ、のぞいてみるとテーブルに座っているおばさんがスマホを片手に驚いた表情で電話をしていた。


「・・・分かったわ、優君達のことは任せてすずちゃんは私が今から迎えに行くから。」


おばさんはそういうと通話終了ボタンを押しスマホをポケットに入れ、クローゼットから上着を取り出しそれを着た。


「どうかされたんですか?」真紀がおそるおそる尋ねる。


おばさんは少し驚いた様子を見せたがすぐに真紀の質問に返答をした。


「真紀ちゃんがねいなくなったの、あと、灯ちゃんも」


「え?」真紀は驚いた、その拍子でスマホを床に落としてしまう。


「だから今あの人から連絡があって今から風哉君達と一緒に探すから遅くなるかもしれないって。私は今からすずちゃんを迎えに行くの」おばさんは着替え終わり廊下を歩きながらそう言った。


「警察には連絡したんですか?」木葉は尋ねる。


「一応連絡はしたけど、この村ド田舎だから来るのに2、3時間はかかるわ・・・」おばさんそう言って靴を履いた。


「とりあえず今からすずちゃんを迎えに行くから、・・・・えーと、真紀・・ちゃんだっけ?あなたは家でお留守番してて」おばさんは笑顔でそういうと玄関のドアを開けようとした。


真紀は少し下を向き前に顔を向けなおし口を開いた


「私も行きます!!」


おばさんは驚きつつ顔を振り向く


真紀の目は真剣そのものだった。


確かに自分はスマホ依存症で影が薄い存在だった・・・でもそんな自分をここまで良くしてくれたのは他でもない木葉だった。


小中と地味で引っ込みじあんで独りぼっちの私を木葉は助けてくれた・・・!!


真紀は高校1年の時に昼休み中スマホをいじっていた自分の前に手を差し伸べてくれた木葉の姿を思い出した。


「一緒に遊ぼ?」あの時の木葉の笑顔を私は絶対に忘れない。いや忘れたくない。それから木葉の友達とも仲良くなりはじめ、外で遊ぶのが大嫌いだった私を好きにさせてくれたのも木葉でMy tubeを見る方から作る方に決心させてくれたのも木葉で・・・・とにかく木葉には感謝してもしきれない感情が真紀にはあった。しかしスマホ依存はやめられない!


そんな木葉がいなくなって知らんぷりなんてできるわけがない!!真紀は恩返しのつもりで志願をした。


「・・・お願い」おばさんは微笑みながらそう言った。


真紀は久しぶりに笑うとおばさんと同じように靴を履こうとした


「どうしたんだい?」後ろから木葉の祖母が尋ねてきた。


自分たちの会話や足音で騒ぎに気付いたのだろうとおばさんは瞬時に理解し


「あ、御母さん。こ、これは・・・」と躊躇しながら説明をする


言うべきだろうか・・・いや言ってしまったら心配をかけてしまう・・・


「肝試しです」


真紀の突然の発言におばさんは耳を疑う


「いまから鷁霊祭で特別行事の肝試しがあるんです、私も参加したくて~でも祭りまでの道は暗くて怖いからおばさんについてもらうことにしたんです。ね?おばさん」真紀はおばさんにウィンクをした


おばさんは真紀の思考をさっし空気を読む「そ、そうなんですよ~で!すずは年齢対象外だから私が引き取りに行くんです。夜道は危険ですから」と愛想笑いで答えると


おばあちゃんは「そうかい」と笑顔で言い自分の部屋に戻った。


おばあちゃんの姿が見えなくなるとおばさんは真紀にお礼を言った


「ありがとう、助かったわ。あなた思考の回転早いわね。」


おばさんの称賛の声に真紀は返す


「いえいえ、肝試しのうそつきは私以外にもいますから」


真紀の笑顔の返答におばさんは少し疑問を持ったが気にも留めず玄関の戸を開く。






「木葉ーー!!灯ーーー!!どこにいるのーーーー!!」


「木葉ちゃーん出てきてくれー!!」


「木葉お姉ちゃーん、灯お姉ちゃーん一緒に踊ろうよー!!」


「あの、すいません。二人組の女の子見ませんでした?一人はショートカットで浴衣を着ていてもう一人はロングの髪で・・・」


夢菜たちは祭りの中で木葉達を探していた。


他人の迷惑も視野に入れていたが、それでもこの呼びかけを止めることはできはしない。


夢菜は小一時間ほど前の食事の席でのおばさんの言葉を脳内によみがえらせる・・・


(確かあの時木葉ちゃん迷子になっちゃったんだよね?)


まさかあれが伏線になってしまうなんて・・・しかも灯のおまけつきなんて・・・


夢菜は呼びかけを続ける


「木葉ー!!灯ー!!もうわかったからーー!!あんたたちの勝ちでいいからーー!!」


夢菜の大声に人込みは振り向いていたがその中に木葉と灯は見当たらなった。




「あ、ちょっといいっすか?いやナンパとかじゃないんで。ちょっと女の子探してて、・・・いやだからナンパじゃないっすから!俺彼女いますから!!」雄二は手当たり次第に人に聞き込みをしている。


10回ほど人に聞き、木葉や灯についての情報を探りだしてみようとしたが、収穫は0であった。


最初はトイレにでも行っていると決めつけ笑いながら踊りを再開したり、踊り疲れてたこ焼きにかぶりついていた自分を雄二は思いっきりぶん殴りたいほどだった。


雄二は周りを見ながら心の中で考える


(まさか・・例の神隠しじゃねえよな!?・・・あの二人あんなに元気で生きていたんだぞ!!・・・)




風哉は人ごみの中を駆ける。名前の如く、風のように足を走らせながら


しかしそれは風というよりも暴風に近くもしくは嵐ともいうべきだった。


風哉にぶつかりその場で倒れる人がいても風哉はまるでぶつかって相手を倒れさせたということに気づいていないかのように木葉を探す。


「木葉!!・・・木葉!!・・・・このはーーーーーーーーーー!!」


その声は祭りの人のざわつき声や祭りの中心に設置されてある太鼓の音色よりも大きく、高らかに、そして悲しそうだった・・・


風哉は走りながら涙を流していた。


(俺のせいだ、俺のせいで・・・俺が目を離したせいで、木葉は・・・)


風哉は祭りの隅から隅、そして木々の中にまで入り木葉を探す。


壁に当たれば方向を変え、浴衣女性の姿が見えればその女性に駆け寄り、出店の裏、祭りの外、はたまた


祭りとは全く無関係の川の所まで足を運んだ。


甘いマスクの顔が泥に濡れ、美しい肢体をより一層引き付けるファッションが汚れ破け、手やひざから血が流れても風哉は木葉を見つけるまで足を止めない


(俺が君を守る)


そう自分があの時木葉に言ったのに・・・誓ったのに・・・どうして俺は・・・


風哉は果てしない後悔を背負いつつも足を加速させる。


(先生・・・僕最低です・・・あなたの言いつけを・・・


頼む・・・木葉、無事でいてくれ、お前にもしものことがあったら俺は、俺は・・・・・俺は!!)










古びた廃墟。誰が見てもそういうであろう。その廃墟は人里離れた森の中に立たずみ、見るもの全てに不気味さを与えるようだった。


そんな廃墟をバックに3人の若者はスマホを固定し、合図を出す。


「いぇーい!!、どうもみなさん、俺たち? X!Y!Ztv!!」体でアルファベットの文字の真似をしたその男たちは深夜だというにも関わらず大声で自己紹介をした。


「はいというわけでね、今回はここ!!有名な心霊スポット。ゴーストドラッグへきております・・」


リーダーであり、鷹の絵が描いてあるキャップを頭にかぶっている男は不気味そうに廃墟の説明に入る


「ここはですね、昔大手製薬会社だったのですが、不慮の事故により倒産し今は誰も寄り付かない廃墟となっております。」


横の金髪の男は両手で口を押えわざとらしくリアクションをとる。


「噂によるとですねこのだーれもいないはずの廃墟から誰かが歩いているような音や話し声が聞こえると言われているんです・・・」


キャップの男は怪談をしているような口調で説明をすると横の派手なマニキュアをしている男の方に指を指し大声を上げる


「お前だーーーーーー!!」「いやーーーーーーーー!!」「キャーーーーーーーー!!」


3人の大袈裟すぎる茶番が深夜の森の中をこだまする


「はい、というわけでね、さっそく入っていきたいと思います!!Let,s try」


リーダーの男がそう言うと3人は廃墟の中へと向かっていった。




老朽化した廊下を懐中電灯が照らしその明かりを頼りに3人の男は進んでいた。


「でな、みんながいうには、薬会社がつぶれた後もな事業開いたりしたんだけどなその事業者や社員がいなくなってしまうんだってさ」リーダーがそう言うと


「えーマジで?コッワww」と金髪の男が笑いながら返答する


「なんで取り壊さないんやろ?」マニキュアの男が疑問を持つとリーダーは答える


「そう思うやろ?それがなできへんねん、工事のおっちゃんとかみーんな行方不明になるんや」


「何それ?サイとレントの神隠しやんww」と先ほどの金髪よりも吹き出しながら口にする。


「おい、お前それやめろww」リーダーも我慢できず吹き出してしまったようだった。


恐らく編集でこの場面にはピー音を入れるだろう。




「ちょっこれみてヤバない?」マニキュアが言うと2人も確認する


「うわーえぐいなこれー・・・」二人はガラスが割れたトイレの鏡を見ながら感想を述べる


「そんなに不細工やったんかな」「どんだけブスやねんそいつww」と冗談を言い混じっていたが


リーダーは考えていた


今この世間で注目されていて子供たちからも大人気という声がしており、尚且つ今波に乗っている自分たちがこんな中学生のような動画で再生回数を稼げるのか?


My tubeでは今もどこかで誰かが自分たちよりも面白い動画を投稿しているはずだ


もしそいつらに追い抜かれて自分たちの人気が下がったら・・・ここまで築き上げたものが一瞬で泡になってしまう。なんとかせねば!


リーダーはスマホの録音機能を止める合図を出し二人に話を始める


「おい、こんな動画じゃ面白くねえからもっと先に行くぞ。」


「え?でもこの先はマジで危険って噂されてるぜ・・・」


「だから行くんだよ再生数ほしくないのか?」金髪の呼び止めもリーダーの前では無意味だった。


リーダーはスマホを手にすると奥へと進んでいった。


メンバーの二人もリーダーの後を追う




【休憩所】


その扉の上にはそう書いてあった。


「こういうところが一番やばかったりするんだよな・・・」リーダーは笑みを浮かべドアの取っ手に手をかける


二人は止めようとしたがすでに遅かった。


リーダーが開けた休憩所の中は想像通りの光景だった


古びた時計、ボロボロのソファ、今は珍しいアナログテレビ、床にある無数のシミ


いかにも廃墟らしい構造でリーダーはがっかりした様子だった。


「ちぇつまんねえの。おい、お前ちょっとあそこのカーテンに隠れてろ」リーダーはマニキュアに命令を出す


「は?まさか、やらせをするつもりか!?」マニキュアは驚く


「当たり前だろ、ここまで来たらこうでもするしか急上昇行かねえだろなあ?」金髪に同意の声を求める


「・・・いや、逆にばれないか?」冷静な対応にリーダーはイライラする


「なんだよ!!どいつもこいつも面白くねえな!!」そういいながらリーダーは足でボロボロのソファを蹴り飛ばした


「あ」マニキュアが急に声を出した


「なんだよ蹴っちゃいけねえのか?」リーダーがそう言うとマニキュアは地面を指さした。


その先を見ると地下に続く扉のようなものが出てきた


「なんだこれ・・・?」金髪がぼそっと言うと


「地下室かな?」マニキュアが考察する


リーダーはその扉を見てにやけ顔になり「面白そうじゃんこれは再生回数稼げるぜ!!」というとその扉を開けた


中からはほこりや煙が立ちこんでいてその先には階段があった。


「やめとこうよ、この先はなんか危険なにおいしかしないからさ・・・」マニキュアはそう言ったが


リーダーは鼻で空気を吸い「いい匂いだ」といって階段を下りていく


二人も仕方なく階段を下りて行った。








暗い・・・果てしなく暗い・・・


しっかりと目は開かれている感触はあるのにその目から見える光景はまさに闇だけだった


手探りで地面を触りながら場所を確認する。


その時何かが自分の手に当たった


手だ・・・間違えないこれは人の手だ


その時恐怖ではあったが確かめたい事実がそこにはあった


「・・・・木葉・・・・いる?」


灯は暗闇の中で声を出した


「・・・・・・・」


静寂だった・・・


灯の返答は返ってこずまるで闇に溶けて行ってしまったかのようだった


違う、私が欲しいのは静寂じゃなくて木葉の・・・!!


その時灯は思い出したようにポケットを探る


「よかった、あった!」


灯はスマートフォンの光を頼りに周りを照らした


すると自分のすぐ横で目を閉じて倒れている木葉の姿があった。


灯は安心したのもつかの間木葉を起こす


「木葉、木葉、大丈夫?」


体を揺さぶり木葉を起こそうとする灯の表情は真剣そのものだった


しばらく揺さぶると木葉は閉じていた眼を開け灯をの方を見た


「・・・・あ、灯ちゃん・・・おはよう・・・」


木葉は笑いながらかすかに照らされている灯の顔を見ながらそう言った。


灯は少し笑みを浮かべ自分たちの周りにスマホの光を当てる


光を照らしてもその先にあるのは出口か入り口に続く道だけだった。


「・・・ここ、どこ?」木葉は目をこすりながら灯に問う


「さあね、あのへんな男が私たちをこの場所に突き落としたのは確かだけど、目的やこの場所の詳細はまだ不明のままだわ。」灯はそういうと辺りを照らしていたスマホの画面を確認する。


「やっぱ、圏外か・・・・」灯のスマホにはそう感じ二文字で書かれていた。


ザザッ


その時木葉の立ち上がる音がした。灯は急に立ち上がった木葉に光を当てる。


「木葉?」光に照らされた木葉の顔は先ほど自分が洞窟内で見たその顔そのものであった


灯は嫌な予感がしたがそれが見事的中した。


「お兄ちゃん・・・お兄ちゃん・・・!」と言いその場を駆けだそうとしていた


灯は本能からやばいと察し慌てて木葉の腕をつかんだ


「やめなさい木葉!この場所なんかおかしいから!!」自分の親友のため灯は木葉に必死の警告をする


しかし木葉はうつろな表情のまま自分の兄を探すためその正体不明の道を進もうとしている


「お兄ちゃん、お兄ちゃん・・・」まるで壊れたテープレコーダーの様な声と速度に灯は恐怖と怒りが込みあがってきた。


灯は渾身の力で木葉を引っ張ると自分の前に振り向かせ浴衣の襟を掴み木葉にぶつける


「よしなさいって言っているでしょ!!なんでそんな危険なことばかりするのよわからず屋!!」


スマホのかすかな光に照らされてよくは見えていなかったがこの時の木葉の顔は驚きの表情だった。


「あ、灯ちゃん・・」木葉の震えた口からそう声が出た。


よく見てみると木葉の目線は自分の顔よりも少し下でそこを指で指し示していた。


灯はその方向に目をやり光を照らす。


自分の服に何かがついていた。


灯はそれを手で取り確認する


光には照らされていたが正確な正体まではわからなかった、しかしそれは花びらのような形をしてあり灯を困惑させる


「何これ?花?」自分たちがここに来るまでは花のあるところなんて通った覚えはないが、それは見れば見るほど花だと灯を確信させていた。


「桜・・・じゃないこれ?」木葉は灯にそう言った


灯は驚く「桜って・・・あんた今9月の中旬よ?桜なわけ・・・・」灯はそう思ったがその花びらは見れば見るほど自分たちが4月の時期に学校に登校するときに頭上から大量に落ちてくる桜の花びらそのものだった。灯は考える・・(なんで桜の花びらが・・・)


「灯ちゃんちょっと貸して」木葉は灯のスマホを手に取るとその光を頼りに先の方に歩みだした。


「あ、ちょっと木葉!」灯もあわてて木葉の後を追う


「先に進むのは危険よ、ここどこかわかんないんだし」灯がそう言うと木葉は返す


「あそこでじっとしていても埒が明かないんだから先に進むんだ方が得策だと思うけど」


「・・・・・」木葉の珍しい正論に灯は何も言えなかった。


「あ!」木葉は地面にしゃがみ込み桜の花びらを手に取る


「これさっきとおんなじ・・・」その手にあったのは先ほど自分の服についてあった桜の花びらと全く同じうり二つのものであった。


灯は考える、もしかしたらこの先に・・・


「木葉・・・行くわよ!」灯は木葉から自分のスマホを奪い返すと木葉の手を引っ張り道を進んでいく


「え?・・・う、うん」木葉も灯の意見に同意をした。


どれくらい進んだかはわからないが桜の花びらはところどころに落ちてあった


木葉は声を出して誰かいるのかを確認しようとしたが灯はそれを止める。


当たり前だどこかも分からなく誰がいるのかも不明な場所で声を出すなんて、大量の蜂のまえで蜂蜜を持っていくようなものだ。灯はコートの男の姿を思い出し鳥肌が立った。


灯たちはまるで忍のように前進を進める、進んでいくとだんだん道が細くなっていくのを感じた。間違えないこの先がきっと出・・・その時前方にかすかな光が見えた。


その光は洞窟で見たような不気味な光ではなく灯たちにとってまるで天から漏れた光の様だった。


「・・・!?木葉、あれ!」灯はその光を指さす。木葉もその光を確認した


「お兄ちゃ・・」灯はそう口にしようとした木葉を鋭い目つきでにらむ


木葉は一瞬びくつき「で、出口かも」と言い直すと灯は頷く。


その光に続く一直線の道を二人は走っていく。その光に照らされた地面には桜の花びらが無数に落ちてありそれはまるで天国へと続く幸福への道のようにも見えた。


灯と木葉は笑顔でその光の方へ飛び出した。


・・・・・・灯は目を疑った・・・・


「なに・・・これ?・・」


木葉も灯と全く同じ感情だったと思う


その前に広がっていたのは、巨大すぎる桜の木。推定300メートル 白寄りの灰色の空。赤や黄色の光で照らされている沢山の小屋。 普通の道に設置されてある鳥居。 川の上を進んでいる木製の船。その上では男女や子供が笑顔でお話をしている。


そしてその見たこともない街の住人らしき人々は木葉に似た浴衣や着物、和服を着装していた。


灯たちは一瞬のうちに理解した。ここは自分たちのいた世界ではない・・・


今目の前にある光景は自分が幼い時に家族で映画を見に行った際に興奮した和風を題材にした冒険映画の世界そのものだった。主人公たちが鮮やかな和の世界をかっこよくうつくしく通っていく演出から、いつか自分もああいう世界に行ってみたいと灯は内心どこか思っていたが、まさかその自分の願望のせいで・・・?


灯は目の前の下半分にのみ作られている壁に駈け寄り、目を見開きその街の景色を見渡す。


夢なんかではない・・・これは現実そのものだ・・・木葉も駈け寄り景色を見渡す。


よく見ると自分たちのいるこの場所もお屋敷のような造りになっておりこの壁と同じく木製になっている床には先ほどの暗い場所で道しるべにしておいた桜の花びらが大量に落ちていた


トントントントン


その時横から何者かが自分たちに近づいてくる足音が聞こえた。


木葉と灯は横に目を向ける


そこには着物姿で髪を結んでおり、赤い髪留めをしている色白の美少女が自分たちに歩み寄っていた。


(・・・誰?・・・)灯はその少女が誰なのか全く見当はつかなかった。


木葉はその少女の姿を見るとあるものが脳裏をよぎる


(逃げろ!!早く!・・・)そう男は自分に言い放った。


今のは一体?・・・木葉は謎の現象に戸惑いながらも歩み寄ってくる少女を目で確認する。


その着物の少女は木葉達の目の前まで来ると無表情だった顔を笑顔に変えお辞儀をした。


「ようこそおいでくださりました、可愛らしいお客様方。」


と少女は二人に言った。

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