鷁霊祭

「お兄ちゃん・・・・どこにいっちゃったの?」


木葉は石段に腰を掛け不意にそう疑問をよぎらせる。


思い出してはいけないとわかっていても自分の家族の一人である兄が突如別れを切り出してしまうなんて自分には信じられないことだった。


今、目の前で開催されている祭りだって前までは兄と母親も一緒に参加して楽しいひと時を過ごしていたのに・・・木葉はお守りを見つめる。


「このお守り。木葉にもやる。そのお守りをしているとな幸せになれるんだ、だから絶対に外したりするんじゃねえぞ。」


兄の優しい笑顔と、同じお守りを首から下げている母親の光景がよみがえる。このお守りは自分が5歳のころ誕生日に兄が自分と母親にプレゼントしたものだ。兄からもらった初めてのプレゼントで物凄く喜んでいたのは今でも思い出せる。母も同様だった。それからというのも兄の言いつけ通り学校の時も家にいるときも食事の時もお風呂の時や寝るときもそのお守りを外すことはなかった。外してしまうと兄が悲しんでしまうかのようなそんな気がしたからだ。でも・・・まさかこのお守りが兄の形見になってしまうなんてことは・・・そんなのは絶対に嫌だ!!お兄ちゃん、戻ってきて・・・そしてお母さんを助けて・・


木葉は目を閉じてそのお守りを両手でつかみながらそう祈った。


「木葉ーなにしてんのー」灯が木の葉を呼ぶ声が聞こえる。


目を向けると灯や風哉がこちらに向かって手を振っているのが見えた、木葉は慌ててその場から立ち上がり灯たちの方へ駆け寄る。


「ごめんねちょっと休みたくなっちゃって」木葉は灯にうそをついた


「そう?具合が悪かったら無理しなくてもいいわよ」灯は心配そうに木葉に問う


「大丈夫、もう治ったみたいだから」胸を叩き木葉はそういった。


「もしきつくなったら遠慮なく言えよ俺が家まで送って行ってやるから」風哉が木葉にやさしくつぶやいた。


「うんありがとう風君。でも本当に平気だから」木葉は風哉の提案を丁重に断った。


「じゃあ行こっか!」灯は木葉の手を引っ張り雄二たちの所へと足を向ける。


この光景を見ていると小学生時代を思い出す。学校の終わりに灯と風哉と優の4人でよく鬼ごっこやかくれんぼをしてたあの光景を。遊び過ぎて空が暗くなると自分の母親や灯ちゃんのお母さんたちが自分たちを探しによく来てくれてたっけ・・・・確かお兄ちゃんも・・・


木葉は届かぬ願いだとしても届きますようにと必死に願う気持ちで心の中でつぶやく


「お兄ちゃん、絶対にまた会えるよね?」その問いかけに返答は返ってこない。


3人の足音は祭りの中心へと向かっていった。






「諸君!!時は満ちた!!これより我々は本格的に占拠に進軍し忌々しき歴史を我らの勝利の二文字で鮮やかに彩るのだ!!」


壇上に登り鋼色に光る鎧を着ている男は高らかにそう言うと、壇上の下にいる大勢の兵士は歓声をあげた。


その歓声をしばらく聞いた男は手を挙げその歓声を止めると再度演説を始める。


「しかし、我々の邪魔をしようとするものも存在する。これは由々しきことだ、我々が未だに侵略ができていないのも元をただせばやつらのせいでもある。だが、我々も黙ってそれを見ているだけでは我らの主に顔向けができない。」


男は目を閉じ呼吸を整える。


「本日!!我らが長年求めていた希望が舞い降りてくる!!その希望が舞い降りてきたその時こそわが軍は次なる進化を遂げ世界を我らの手中におさめるのだ!!」拳を強く握りしめ男はそういった。


「全ては、忘れがたき復讐のために!!!」


「全ては、忘れがたき復讐のために!!!」


男のセリフに兵士たちも反応した。


その演説を遠くの監獄で聞いていた灰髪の囚人は鼻で笑い地面に寝転ぶ。




演説が終わると鎧をまとった男は壇上の陰に足を運んだ。


「お疲れさまでした憐(レン)隊長」一人の男はそういいながらコップに入った水を男に差し出す。


憐は何も言わずその水を飲み干し鎧を脱ぎトレーニングを始める。


「もう鍛えるのですか?少しお休みになった方が・・・」男はそういったが憐はその警告を無視するかの如く、傷跡のある腕で腕立て伏せを続けていた。


「・・・・・・憐隊長・・・本当に大丈夫なのでしょうか?」男がそう言うと憐は腕立てをやめその場から立ち上がる。


「どういう意味だ?」憐は男に背を向ける体制のまま質問をする。


「本当に希望は我々の所へやってくるのでしょうか?なんだか胸騒ぎがするのです・・・もしかしたらやつらが邪魔をしそうで・・それに・・・」


「愁人(シュウト)か?」


男は憐の発言に図星をつかれたかのように黙ってしまう。


憐は壁にかけてあったタオルで汗を拭き振り返る


「うろたえるな、我々だって白痴ではないすべては計画しつくされている」


憐はそういいながらタオルを首にかけた


「計画って、それは本当なのですか?」男は憐に問いかける。


「当然だ。主様が無計画でここまで来たと思っているのか?護衛はすでに徹底されている。」


「護衛ですか?」男はさらに憐に疑問を抱く。


「ああ、希望に護衛は必然だ・・・」


憐はそういうと横に設置されている冷蔵庫の扉を開けた。


(頼んだぞ、志月(シヅキ)隊長。全ては貴方にかかっている・・・)


憐は小さく点灯している薄緑の球体にかぶりついた。








太鼓の音が響き、人々はその音色に合わせて舞を踊る。日本ならではの伝統のようにも見える。


光の代わりに照らせている提灯がその光景をより一層神秘的に彩り祭りの参加者を幻想のような世界へといざなう。


「よくあんなに踊れるよなー浜田と木谷」風哉が踊りの外でそう言ったのが聞こえた。


「都会の人はこういう経験滅多にないからね、好きなだけ踊らせておきましょ。」灯は雄二と夢菜が仲良く太鼓の周りを踊りながら回っているのを眺め風哉に言った。


「でも良かったよ雄二君も夢菜ちゃんも喜んでくれているみたいで」木葉は体育すわりのポーズをとり風哉と灯に語り掛けた。


確かにそうだ。この旅行のイベントの一環でもある祭りがここまで賑やかになるなんて、休校中で旅行を提案してくれた木葉に感謝をしなければならい。


風哉と灯は微笑みを見せた。


そして3人はしばらくの間無言で祭りの風景を鑑賞していた・・・


「・・・卒業・・・できるかな」風哉が突如口を開いた。


木葉と灯は風哉の方に目を向ける。


「どういう意味?」灯が疑問を持つ。


「こんなこと言うのもなんだけどさ、今年中に終息するかも定かじゃないんだろ?サイレントウイルス、このまま犠牲者が増えていくと俺たち・・・」風哉が深刻な顔になる。


「ちょっとやめなさいよ風哉、せっかく祭りに来ているんだから」灯がそう言ったとき


「そうなったら留年でまたみんなと1年間学校生活過ごせるかもね!」と木葉が笑顔で二人に告げた。


祭りの灯のせいもあったがその時の木葉の笑顔は今まで見てきた笑顔よりもいっそう輝いていて、まるで女神の様だった。


その時灯は考える。


(また木葉に助けてもらってしまった・・・本当は木葉は誰よりも泣きたい感情にとらわれているのに、その彼女に私たちが慰められてしまっては木葉に申し訳が立たない。)


灯は昨晩の出来事を振り返る


「もしかして、風哉君?」 「ち、違うよ~」


木葉をからかうように問いただす夢菜と照れながらそれを否定する木葉の姿を想像し、灯はせめてもの恩返しのつもりでその場から立ち上がった。


「どうしたの?灯ちゃん」木葉が急に立ち上がった灯に疑問を抱く。


「えーと、そのー」灯はとっさに立ち上がりはできたがその動機については頭が追い付いてはいなかった。


「トイレか?」風哉が灯に問いかけた。


灯はそれだと思い口を開く


「そ、そうそう急に催したくなってさ多分戻るの遅くなると思うから二人で仲良くしてて」そういうと出店の裏の方に走っていった。


「二人で?」風哉は首をかしげる。


木葉は天然ではあったがこの時の灯の考えていることをすぐに察した。


木葉は少し考え風哉に提案する。


「か、風君。灯ちゃんもなかよくしててって言ったみたいだしさ。二人で回らない?」


風哉は一瞬驚いた顔をした。


木葉は鼓動が高まる胸を必死に抑えながら踊りの方を指さし


「ほ、ほら夢菜ちゃんも雄二君もまだ踊り足りないみたいだからさ。ここでじっと座っていてももったいないじゃん。だから、ね?」


木葉は勇気を振り絞り風哉に言う。


風哉はすぐには返答はしなかった。


「・・・・・そうだな、回ろうか」そして返答をしてくれた。


この時木葉はなんだか成長できたような実感が生まれ、急いで立ち上がった。


風哉も同じように立ち上がる


「じゃあ行こうか」


「待って、」祭りを回ろうとする風哉を木葉は呼び止める


「なんだ?」風哉は不思議な顔をした。


木葉は今にも自分の心臓が爆発しそうなぐらいドキドキしていたが、ここで言わなくちゃ一生後悔すると覚悟を決め風哉に口を開く。


「あのさ・・・・手、繋いでいい?」木葉はドキドキのまま笑顔で風哉に提案した。


風哉は何の躊躇もなく木葉の手を握った。


木葉は一瞬今自分の身に起きている状況の整理がつかなかったが


「喜んで」という風哉の声に嬉しさがこみあげてきた。


風哉の顔を見ると昔から変わらない優しく包容力のある笑顔がそこにはあった。


この時木葉は風哉を本当の王子様だと心の底から思った。




「やったーとれたー」木葉は赤い金魚をすくい子供のようにはしゃいでいた。


横では風哉が微笑みを見せている。


金魚すくいを終えた木葉と風哉は一通り満喫した出店渡りが過ぎると当てもなく歩いていた。


でもこの歩みこそが一番楽しいものだ、風哉と木葉は誰がどう見てもカップルのような容姿で人込みをくぐっていく。


「次どこがいい?」風哉は木葉に問う。


木葉は今幸福を実感している最中だった、昔から自分を守ってくれると誓ってくれた幼馴染と今こうやって夢である鷁霊祭でデートができるなんて。今まで一度も異性と付き合ったことのない木葉にとっては風哉こそが心の支えそのものであった。木葉は灯に再度感謝をする。


・・・しかしそれと反面、疑問のようなものを木葉は抱いていた。


なぜこんな人間が出来上がっている幼馴染が自分みたいなバカで冴えない女と行動を共にしてくれるのか? なぜ彼は私と今こうやって祭りを回ってくれるのか?  なぜ風君はあの時私を守るなんて言ってくれたのか?


疑問は幸福と等しく膨らむとそれが脳内から簡単には離れない。木葉はだんだん笑顔が消えていった


「木葉?どうした?やっぱり具合でも悪いのか?」風哉は木葉の状態に気づき安否の確認をする。


その優しさが木葉にとっては嬉しくもあり反面怖くも感じた。


木葉は先ほどとった金魚の袋を掴んでいる手を握りしめ思い切って風哉に切り出した。


「あのさ、風君ちょっと静かな場所に行きたいんだけどいいかな?」


風哉は少し不思議だとは思ったが了承し祭りの陰である木々の中に足を運んだ。


祭りの音や人々の声が遠くに聞こえる場所まで来た木葉と風哉は静寂をその場で感じていた。


「・・・・・・・」 「・・・・・・・・」ここまで来るように誘導したのは自分だがやっぱりこんなこと言うのはいけないことなのだろうか? もしかするとこんなことを言ってしまうと風君との関係がここで終わってしまうのではないだろうか? そんなのは絶対に嫌だ、だって私は風君のことが・・・


「つまらないか?俺と一緒にいても・・・」思考が葛藤する木葉に風哉は突如そう問いかけた。


木葉は振り向き慌てて否定をする。


「そ、そんなことないよすごい楽しいよ!わ、私昔から鷁霊祭で風君とこうやって楽しむのが夢だったんだもん」木葉は風哉に誤解を解くように笑顔で伝えた。


「そうか、ならよかった」風哉は安心した様子だった。


「・・・・・じゃあいったいどうしてこんなところに?」風哉は次なる疑問を木葉に問いかける。


「・・・・・・・そ、それは・・・・・」木葉は少し黙秘をし腹をくくって風哉に話した。


「風君はどうして私と一緒にいてくれるの?」


「え?」風哉は驚く 木葉は先ほどと同じようなドキドキを実感していたがもう引き下がれないと感じ質問を続ける。


「どうして風君はあの時私を守るなんて言ってくれたの?私もうすぐで18歳になるんだよ? そろそろ教えてくれてもいいんじゃないかな?」木葉は風哉に伝えたい気持ちを全部伝え風哉の返答を待った。


「・・・・・・・」風哉は難しい顔をする。


この時の沈黙の秒数は恐らく10秒ほどだっただろうが、木葉にとってはそれが1時間にも2時間にも感じた。


しばらくたったあと風哉は目線を木葉に戻し口を開く。


「君をずっと見ていたんだ」風哉の返答に木葉はびくっとなる。


「あの日、公園で君と会ったのが初めてじゃなかったんだ。俺はその前から君のことを見ていた」


風哉は、自分の話を聞いて驚いている木葉を気にも留めず話を続ける。


「俺、施設で育てられたって言っていたろ?でもな最初からじゃないんだ・・・俺元々普通の家庭の一人息子として生まれたんだ。」木葉は驚きが止まらなかった。

確かに小学生のころ風哉に初めて会い、家はどこ?と木葉が質問をした際に風哉は家はなく施設で暮らしていると答えたが、その前は普通の一般家庭で暮らしていたなんて初耳だった。


「でもな・・・」風哉は暗い顔になる


「毎日のように虐待があったんだよ・・・父さんからも母さんからも・・・」風哉は自分の頬をさすりながら低い声でそういった。


「理由もわからず意味不明に殴られて学校にも行かされなくてさ、もうほんと死にたかった・・・」


風哉は涙を流す


「でもなその家から俺逃げ出して施設の人に救われたんだ、めちゃくちゃいい人でさ俺を本当の子供のようにかわいがってくれて学校にもいかせてくれたんだ。」風哉は今度は笑顔で話した。


「その学校に転入する1か月前に君を初めて見たんだ」木葉は一瞬ドキっとなったが風哉の話に再度耳を傾ける


「初めて見たときな感じたんだ。この子と友達になりたいって、理由はないけど仲良くなりたいって


・・・・この子を守りたいって」


木葉は初めて聞く真実に驚きはしたがその真実を泣きながら話している風哉をかわいそうだと思った。


「俺も、先生のように誰かを救える優しい人になりたいんだ」風哉は優しい口調で木葉に語る。


「せん・・せい?」


「俺を拾ってくれた施設の先生だ、その先生が言ってくれたんだ(君が守りたい人を守ってあげなさい)って」


風哉は顔を上に向けそういうと今度は顔を下に向け話を再開した。


「だからさ・・・・俺、お前が思っているようないいやつじゃないんだ・・・ほかの人たちに嫌われたくなくて勉強をして、いい人ぶってるだけで本当は俺、歪んでいるんだ・・・」


風哉は涙を流す


「人に優しくしていればガキの頃の虐待の記憶が薄れていくようなそんな気がするだけで、自分の勝手な都合でただいいやつを演じているだけなんだよ・・・」


風哉は膝を地面につける。


「みんなは俺の事、いい人とか聖人とか王子様とか言うけどそんなんじゃないんだ!!


・・・・・・俺は・・・俺は・・・」


そう嘆き悲しむ風哉に木葉は優しく頭に手を乗せる。


「ありがとう風君、全部話してくれて」


木葉の優しい言葉に風哉は顔を上げる


「君はいい人だよ、昔から。そしてこれからも」


木葉は風哉を慰めるように笑顔を見せる


「木葉・・・・」涙顔の風哉がそうつぶやくと木葉は風哉を優しく抱きしめた。


「今だけは、私のことをお母さんだと思ってくれていいよ」


風哉は思いっきり号泣した。




「ごめんな浴衣濡らしちゃって」


「ううん気にしないで私がしたことだから」


木葉と風哉は出店が並ぶ道を歩いていた。


今見ている光景は先ほど見た出店の光景を全く同じものだが、なんだかものすごく澄み渡って見えた。


風哉は木葉の方を見つめる。


木葉はその視線に気づいたのか風哉の方を見るが風哉は慌てて反対方向に目を向けた。


それを見た木葉はクスッっと笑みを浮かべる


「おーい木葉ちゃーん」


遠くから自分を呼ぶ声が聞こえる。


振り返ると人ごみの先におじさんとすずちゃんがこちらに向かって手を振っているのが見えた。


「おじさん!」


木葉と風哉はおじさんとすずちゃんと合流をした。


「おじさんも来ていたの?」


木葉の呼びかけに頷く二人


「ほかのみんなは?」おじさんは周りをキョロキョロしながらそう言った。


「あ、今はちょっと木葉と二人で回っているんです」風哉は答える。


するとすこし笑みをかべ「おやおや~ということは私たちはお邪魔だったかな~」と風哉に質問した。


「え、いや、そんなんじゃないですから//」風哉は照れ笑いをしながら手を横に振る


おじさんは木葉の方に目をやると不思議な顔をし口を開く


「あれ?なんで木葉ちゃん浴衣濡れているの?」


「あーこれはさっき風君が・・・」


「あーこれはさっきラムネこぼしちゃって!!」風哉が木葉を遮るようにそう言うと木葉は


「え?私ラムネなんて飲んで・・・」


「ところで!!優達はどうしてます?」風哉が慌てておじさんに問う


「ん?優君?優君なら今家で昭と一緒にすやすや眠っているよ。それともうひとりのー・・・あのー誰だっけ、マスクをしてスマホを見ている・・・・」


「あー安藤ですか・・・あいつまだスマホとにらめっこしてるのか・・・」


風哉が独り言を言うと


「そうそうその子なんだけど、なんかすごい機嫌悪そうだったよ」


と言ってきた。


スマホ依存症の人間の考えていることはよくわからないが、恐らく一コメでも打てなかったんだろうと風哉は思った。それかもしくは通信制限だ


「ねーパパ、はやく太鼓の所に行きたい」すずがりんご飴を片手に横でおじさんの袖を引っ張りながらそう言った。


「あ、そうだったな。あのー悪いんだけどさ太鼓のある場所分かるかな?ここ広すぎてさ」おじさんが風哉に言うと


「それならこっちです」と風哉は後ろを指さし誘導する


おじさんとすずと木葉は風哉を先頭に太鼓の場所を目指し始めた







・・・のは



ん?


・・・・このは


誰かが自分を呼んでいる


木葉はその声のする方を目で確認した。そこには木々が並んでいるだけだったがよく目を凝らしてみるとその先にぼんやりとした人影が写っていてまるで自分を招いているようだった。


・・・・灯ちゃん?


木葉は風哉達に人影のことを伝えようとしたがほんの一瞬目をそらしたすきに3人は人ごみに消えて行ってしまった。


その間にも人影は木葉を呼んでいる。


このは・・・このは・・・こっち・・・


その正体が灯かどうかは不明だったが、もし灯だったら何かあったのかもしれないと悟りその木々の中に再び入る。


その人影は木葉が近づいて行っているのに全く近づく気配はなくむしろどんどんどんどん遠くなっていっている。


「誰?あなた誰なの?」木葉はその人影に問いかけをしてみたが勿論人影は名乗らない。


木葉は仕方なくその人影についていくように木々の奥に入っていった。


でも不思議なことに、その人影をみた木葉はどこか懐かしい気分を感じていた・・・






「わー!すごーい!」祭りの踊りをその二つの目で見たすずは不意に大きな声が出た。


「これが鷁霊祭の太鼓か」おじさんも目を丸くしている様子だった。


祭りの中心である太鼓はそう簡単に終わるわけはなく2時間経過しても音色は変わらなかった


太鼓をたたいている男たちは交代をしたようだが、汗できらきら光る肉体と真剣な眼差しは前回の演奏者と同じ、もしくはそれ以上だった。


その太鼓の音色で踊っている人たちの中には雄二たちはおらず、自分が木葉と回る前に座っていた腰掛に雄二と夢菜が座っていてこちらに手を振っていた。それに振り返す風哉


「パパ私も踊りたい」もうすでにりんご飴を食べ終えたすずは満腹からか太鼓に合わせて踊りたい様子でうずうずしているようだった。


「そうか、よーし!!じゃあパパと一緒にたくさん踊るか!!」とおじさんが言うとすずは笑顔で頷き踊りの中に参加した。


風哉はその光景を微笑みながら見ていた・・・


(俺もああいう風に親と仲良く踊れることができていたら、今頃・・・)


そう思考がよぎったが風哉は首を横に振り、背中越しで木葉に声をかける。


「ごめんな木葉。さっきはでたらめ言っちまって」


返事はない。


「なんだよ怒ってんのか?後でラムネ買ってやるからさ機嫌直せよ」


返事はない。


「・・・・木葉?」


振り向いたがそこに木葉はいない。


「・・・・・この・・・は?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る