第1章 【田舎へ行こう】  旅行

気が付くと私は暗闇を歩いていた。


気が付くと私は涙を流していた。


気が付くと私は誰かを探していた。


・・・・・お父さん・・・そうお父さんを探していた。


この暗闇の先に私のお父さんがそこにいるようなそんな気がした。


自然と早くなる脚、上がる呼吸、止まらない涙そのどれもが私には実感ができていた。


「お父さんそこにいるの?」終わりが見えないまるでブラックホールのような暗闇の先に向かって私は質問を投げかける。しかしその質問には答えてくれない。


しばらく走った後暗闇の中に小さな光を見つけた。その光は私が近づくにつれて大きくなり暗闇だった空間を白く照らしていってくれた。


そしてその光はヒト型のような形になり私の目の前に現れた。


お父さん、お父さんだ!!


その人型を見た瞬間私はとても嬉しい気分に駆られその人型に飛びつこうとした


「お父さーーーーん!!」


その人型も飛びつこうとしている私に両手を指し伸ばしてくれている。確信した、この人は間違いなく私のお父さんだ。私がずっと会いたかった私の・・・






「・・・・お父さん、私会いたかった・・・ずっと・・・ずっと・・・」


「木葉!!」


木葉の親友兼幼馴染の城戸灯(キド アカリ)がすやすやと電車内で眠っている木葉に呼びかけをした。


「はい!!」時野木葉(トキノ コノハ)は呼びかけに答えるには十分すぎるほどの声を上げ目を見開いた。


「全く、いつまでグースカ寝てんのよあんた。もうすぐで目的地に着くから、企画者のあんたが寝過ごしちゃ話にならないわよ?」灯はまだ寝ぼけている木葉に言葉をかける


(目的地?・・・あーそうだ、私たちは今から私のおばあちゃんの実家に遊びに行くんだった。ってことはさっきのはすべて夢だったんだ・・・・)


木葉は少し残念そうな表情を浮かべ寝ぼけ状態から解放された


「どうしたの?なんか落ち込んでる顔してるけど」灯は木葉に問う


「ううん、なんでもないよ。起こしてくれてありがとう。灯ちゃん」自分の安否を確認してくれた親友に笑顔で返答する。


そうこれからみんなと一緒に休校中のストレスを吹き飛ばすための旅行が始まるんだ。なのに序盤から暗い雰囲気なんて作ったらだめだと木葉は自分の両頬を両手でたたいた。


その時手に液体ようなものが付着したのが分かった。涎だ。自分の涎が自分の頬を触った手と頬を糸のように繋いでいる。


「あーもう子供じゃないんだから」と灯はポーチの中身をごそごそと探す。


この光景はそんなに珍しくはない、木葉はそう感じていた。灯は小さい時から謎の正義感というかおせっかい焼きというかいわゆるお姉さん系の友達だ。困ったことがあると私だけではなくほかのクラスメイトに手を差し伸べるいい子だ。そんな人が親友で幼馴染なんて自分はとても幸せ者なんだと木葉は少し微笑んだ。


その時自分たちの左から白いハンカチを指し伸ばしてきた手が見えた。


「使えよ」


そう男性の声が聞こえ木葉たちはその声の主を見る。


そこにいたのはキリっとした顔立ち、青い髪質


THE8頭身かつ優しい笑顔を放つ青年が立っていた。


青神風哉(アオガミ カゼヤ)


灯と同じく木葉の親友兼幼馴染の男子高校生だ。


風哉は木葉に涎を拭けよと言わんばかりにハンカチを指し伸ばす。


「ありがとう風君」木葉は風哉からハンカチをもらうと自分の口周りの涎を拭った。


「さすがは王子様、姫の事は全て自分が世話をするっての?」灯は嫌みったらしい笑みを浮かべ風哉に声をかける。


ヒューヒューと後ろから風哉をからかう男女の声が聞こえてきた。


振り返ると木葉達の幼馴染ではないがクラスメイトの浜田雄二(ハマダ ユウジ)、木谷夢菜(キタニ ユメナ)が前の座席から顔を向け風哉をからかっていた。


「やめろよ、ガキじゃねえんだから」と風哉は少し照れながら二人に言う。


その光景を見ながら再度木葉は自分は幸福ものだと実感できた。クラスメイトや下の学年、はたまた教師たちからも絶大の人気を誇りなおかつ成績優秀でスクールカーストの頂点に君臨するイケメン男性が自分の幼馴染なんて。さっきの王子様というのも他のクラスメイト達からの称賛の声から発展されたものだ。あの日から随分経とうとしている今でも昨日どころかさっきのように思い出す。


あれは小学生のころ木葉たちの友達で弱弱しい男の子、黒峰優(クロミネ ユウ)が学校の近くの公園でいじめっ子たちから危害を加えられているのを発見した。それを見ていた木葉と灯は黙ってみてるわけもなくそのいじめっこたちに危害をやめるよう注意した。しかしそのいじめっこはやめるような素振りを見せず木葉を突き飛ばし砂場に倒れさせた。あの時のいじめっ子の悪徳じみた笑みは今でも忘れられない。しかしその時木葉たちに救世主が現れた。


「やめろ」


いじめっ子たちの後ろから男の子の声が聞こえた


いじめっ子たちはその声の方向に振り替えるやいなや一瞬のうちに倒れていった。


恐怖で身震いしている木葉たちにその男の子は手を差し伸べこう言ってきた


「俺が君を守る」


夕焼けに照らされたそのシルエットが今でも脳裏に焼き付いている。その男の子が約10年後にもこうやって自分自身を守ってくれているなんて今でも信じられない。だからこの現実に木葉はとても感謝している。


「あー照れちゃってる風哉可愛い」灯がそう言うと雄二と夢菜は先ほどよりも声を大きくヒューヒューと風哉をからかう


「だからやめろって」風哉は3人を落ち着かせようとするが効果はないみたいだ。それもそのはず青春まっしぐらな高校生たちにまるでドラマみたいな展開が今目の前で起きているんだこんなにおいしいことはない。でもこういうのも高校生っぽくて木葉は好きだった。


「あのーみんな」眼鏡をかけた青年がそう発言をした。みんなはその青年に視線を向ける


「なんだよ優」雄二は優に声をかけた


「静かにしよ?他のお客さんたちに迷惑がかかるから」と電車内を指さす


見てみると自分たちの雑談に注目をするかのごとくほかの乗客の人たちがこちらに視線を向けていた


そう、これは修学旅行ではなくプライぺートの旅行なのだ。マナーというのは守らなければならない。


雄二たちは少し会釈をし自分たちの席に着いた。


優もほっとした表情で席に着く。こういう時に優は役に立つ、昔からの心優しい性格は変わっておらずまさに【優】にふさわしかった。しかし弱弱しいのも変わっていない・・・・


目線を左に向けると風哉の横でイヤホンをしながらスマホで動画を見ている少女、安東真樹(アンドウ マキ)が自分の世界真っ最中だった。おそらく無料動画配信サイトMy tubeでも見ているんだろと木葉は思う。


大手インターネット会社 フリーダムロードが作り上げた動画サイトMy tubeはいつでもどこでも好きなだけ素人やどっかの会社が投稿した動画やアニメはたまた音楽でもいやというほど視聴ができる。おまけに今となってはそのMy tubeで利益を稼ぐものMy tuberというのが現代社会化していき子供たちの将来の夢TOP5に入る代物だ自分たちが子供のころは医者とか弁護士だったのに・・・木葉は自分たちが成長していく実感をどこか遠い思い出のように感じながら外の景色を見ていた。田舎を走る電車、その景色に人はいない、田舎だからではない今世界は経済的にも人間関係的にも危機を迎えているのが原因だ


この旅行もさっきのMy tubeも今の世界だからこそ必要なものだと木葉は思い込むようにしている。


「早く終わってくれないかな・・・・」木葉は不意に声を出した


「大丈夫よどんなものにも終わりはあるんだから」灯は木葉の独り言に返答をする。


「あ、でも私たちの友情は終わらないよ。というか終わらせないから」と笑顔で発言をする灯を木葉も同じく笑顔で頷いた。


(そう、自分にはこんなにも仲のいい友人たちがいるんだ。今の危機だってみんなで力を合わせれば乗り越えられる。だから私はさみしくなんてない。一人じゃない。そうだよね?お母さん、お兄ちゃん?)


木葉は自分の家族である兄と母の微笑んでいる姿を想像した。そして先ほど夢で見ていた人型を思い出す。


「お父さん・・」木葉はさっきの独り言よりも小声でそうつぶやいた


「ん?何?」灯もさすがに今の独り言は聞き取れず木葉に問いかけた。


「え・・あ、ごめんなんでもないよ灯ちゃん」木葉は少しの笑みを浮かべ灯を安心させた。


今はこの時間を大事にしよう。


木葉は心の中でそう誓いその誓いの証に首から下げているお守りを強く握った。








「夕凪駅、夕凪駅です。お降りのお客様はお忘れ物の無いようにお願いします。」


というアナウンスが田舎の駅に響く。しかしそのアナウンスに従うのはどうやら私たちだけみたいだ。


扉が閉まり電車は走る。それを見送る7人の男女。なんだか少し冒険をしている気分だった


灯は大きく背伸びをすると自然の空気を思いっきり吸った


「はーーーやっぱいいね田舎っていうのはさ、こう、なんていうかさ都会の心が洗われるって感じ?」


「確かにね、まあ自分たちの故郷っていうのもあるけどさ」優はかけている眼鏡を拭き再度かけなおした。


「しかしまああんたたちこんなところでよく15年間も暮らせたわね」と夢菜は灯たちに問う


「俺だったらまいっちゃうね、蚊は多いいし、一面緑だし、ゲームセンターはねーしでさ」


雄二が便乗して発言をした


「失礼ね、私たちはこの田舎があってからこその私たちなのよ。どんな豪邸よりもここが私たちにとってはエデンなの。ねえ?優?」灯は優に笑みを浮かべながらそう問いかけた。


「え、ああ、そうだね灯ちゃん」優は慌てて返事をする。


「ただいまーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」


木葉が突然駅の前の田舎の村全体に響くように声を出した。


「ちょっと木葉、山じゃないんだからこういうところでそういうことするのやめなさい迷惑なんだから」灯が注意をする。


てへ⭐︎。というように後頭部に片手を乗せ片眼を閉じ舌を出しながら木葉は反省をした。


「まあいいんじゃねえの?俺たち以外だれもいないみたいだし・・」雄二がそう言おうとしたその時


「おかえりなさい」と後ろから声がした


「うわっ」雄二は驚いた様子で後ろを振り返る


すると小さくてよく見えなかったが売店の中で編み物を編んでいるおばあさんがこちらに向かって優しく微笑んでいた。


「あ、どうも」と雄二は挨拶を交わす


「ところでさ、今何時?」夢菜が灯に質問する


「15時24分」灯は自分の左手につけている腕時計を確認しながら返答する。


「あーもう結構経過してるね。家まで大体どれくらいなの?」夢菜は今度は木葉に質問をした。


「えーとそうだねー大体・・・・うーん、2時間ぐらい?」木葉はピースサインをした


「2時間!?」雄二と夢菜は驚いた声を上げた


「え!?そんなかかんの?」雄二は灯に疑問をぶつける


「うんかかるよ」灯は即答し夢菜は優の方に目をやる


優は頷いてリュックサックを背負いなおす。


「マジかよ・・・・」雄二と夢菜はその場にへたれこむ


「バスは?」雄二が希望のまなざしで灯たちに問う


「とっくの昔に廃止だ」風哉が後ろからそういいながら近づいてきた


再度がっくりする雄二


「大丈夫だよ、田舎の散歩ってとっても気持ちがいいよ」と木葉は雄二と夢菜に笑顔で言葉を送る


「限度というものがあるでしょ・・・・」夢菜が愚痴のようにつぶやく


「そこでへたれこんでも仕方ないからさっさと行くわよおばさんたち待たせてるんだからさ」


と灯がしゃきっとした声で二人を起こす


「ところどころに休憩所あるからさ」優がすかさずフォローを入れた


雄二と夢菜はまるで老人のようにゆっくりとその場に立ち上がる。現役高校生とは思えない。


「じゃあ、出発となればその前にエネルギー補給だ」


風哉はそういうとフルーツキャンディーの袋を差し出してきた。


「さっきあのおばあさんとこの売店で購入したんだ」そう説明しながらキャンディーの袋を開けた。


「好きなのどうぞ」風哉の言葉に甘えるかのように雄二たちはそのキャンディーに近づく


「じゃあ俺は・・・・」


「私グレープ味!!」木葉は一目散にキャンディーの袋に手を入れグレープ味のキャンディーを手に取った


「ちょっと木葉意地汚いよ」灯が木葉を注意する


「ほんと木葉ちゃんはグレープ味好きだよね」と優が呆れた顔で木葉を見つめる


「だって思い出の味なんだもーん」木葉はそういいながらグレープキャンディーを口に放り込む


やれやれと言わんばかりにほかの男女も各々の好きなキャンディーを手に取り口に運ぶ


「真紀は?」灯は未だにイヤホンで動画を見ている小柄な少女、真紀に質問をする。


「・・・・・・・」返事はない。当たり前だ今彼女は自分の世界に没頭しているのだから


夢菜は少し怒った表情でフルーツキャンディーの袋を風哉の手から奪い真紀に近づき耳にしているイヤホンの片方を外し大きく息を吸った


「戻ってきなさーーーーーい!!」真紀の耳元で夢菜が大声を出す


真紀の顔が苦痛に歪んだ


「うるさいな、用があるんだったら普通に言ってよ!」真紀は怒りながらそう言い返す


「普通に言っても返答がないから大声で言ったのよ。ほらもう出発するからエネルギー摂りな」


夢菜は真紀にキャンディーの袋を差し出す


「・・・・じゃあイチゴで」真紀は袋からイチゴ味のキャンディーを手にしポケットに収めた


「それとあんた、もう目的地に着いたんだからマスクしなくてもいいのよ?」と夢菜は今度は真紀を説得させるかのように言葉を投げかける


「いいの、これはファッションでもあるんだから」真紀は夢菜の提案を拒否した。


夢菜は小さくため息をして灯たちに向けOKサインを出した。


「じゃあ全員準備万端ってことで出発進行ーーーー!!」と木葉はさっきと同じように大声で


天高くこぶしを突き上げる


「だから木葉あんたね・・・」と灯が再度説教をしようとしたが優がまあまあというように灯をなだめた


それに従うように雄二と夢菜と風哉が「おーーーー!!」と木葉と同様に拳を上げる


真紀も挙げはしたが声には出さなかった


それを見た灯は観念したのか普通の音量ではあるが拳を天にあげ、優も笑顔でそれに賛同した


「いってらっしゃい」売店のおばあさんがやさしい口調と優しい笑顔で木葉達に言葉をかけた


「行ってきます!」木葉は元気よく返答をし駅の出口へ向かう


それに続くよう木葉を筆頭に7人の男女は次なる目的地へと足を運ぶ。




一番最後尾の真紀が振り返った。


しかしそこには売店のおばあさんしかいない駅のホームがあった。


「・・・気のせいかな?」


「安藤、行くぞー」雄二が真紀を呼ぶ


真紀は慌てて木葉達についていく。


木葉達が駅のホームを去った後ホームの柱に隠れていた男が姿を現した


まだ暑さが後を引く9月だというのにその男は灰色のロングコートを身に纏い、黒いニット帽


そして茶色の革靴を履き、口元はコートの襟で隠れていた


その男性は売店の方へと足を運ぶ


「いらっしゃいませ」おばあさんは木葉達に向けたように同じくその男に笑顔を向けた。


男はポケットから100円玉2枚を取り出し売店のテーブルの上に置いた


「コーヒー・・・釣りはやる・・・」




「おばあちゃん。来たよー!!」


木葉が戸を開け元気よく家の中で声をだした


ダダダダダと家の奥から走り音が聞こえてくる


「木葉お姉ちゃんいらっしゃーい!!」小さな男の子と女の子が木葉達を迎えてくれた


「昭(アキラ)君にすずちゃん!おおきくなったねー!」木葉は二人の少年少女の頭を撫でる


「失礼しまーす」と灯が入るのを先頭に残りの4人の男女も家の中に入る


「はー疲れたーーー」雄二が汗だくで玄関に腰を掛ける


雄二と全く同じように夢菜も腰を掛ける


風哉は手に持っていたリュックを優に渡し、それを受け取った優は「風哉君ありがとう、ごめんね僕が非力なばかりに」と申し訳なさそうに風哉にお礼を告げる


「いいっていいって気にすんな」と風哉が微笑みを浮かべた。優はそういう趣味は全くないが風哉にガチで惚れそうだった。


「着きました。ここが私の友人の実家です。ご覧くださいとても風流な作りですね」と真紀はスマホを片手に木葉の実家の説明をしていた。「真紀あんたいつまでMy tuberみたいなことしてんのよ」


灯がいまだに玄関の外にいる真紀に言うと「みたいじゃなくて私は本物よ」と灯に返答をした。というよりも屁理屈だ。「おばさんたちに迷惑がかかるから早く入りなさい!」と真紀を玄関に誘導する


少し不満そうな顔を浮かべた真紀はスマホに向かって「皆様大変申し訳ございませんが本日の配信はここまでです。次回の投稿をお待ちください。チャンネル登録高評価よろしくお願いします。それではまた see you again!」そういうとスマホをポケットに入れ玄関に入ってきた


「あらあらあらいらっしゃい、よく遠いとこから来てくれたね。」と中年女性と中年男性が出迎えてくれた。


「おばさんおじさんお久しぶりです。」灯はその二人に頭を下げ風哉と優も同じように頭を下げた。


「長い道のりで疲れたでしょ。ささ上がって」おばさんは笑顔で木葉達を家へと招き入れた。


「お母さん木葉が来たわよ」おばさんが座敷でそういったのが聞こえた。中を見ると70後半の老婆が座布団に座りテレビを見ていた


「おばあちゃん!!会いたかった」木葉はその老婆に抱き着いた


老婆は笑顔を浮かべ木葉を抱きしめる。


その光景を見ていた灯たちも自然と笑みが浮かんできた。


「お父さん、兄さん。木葉が来てくれたよ」おばさんは仏壇の間の上に飾ってある2枚の遺影に向かってそう声をかけた。見てみるとそこには1人の老人と1人の中年男性が笑顔を浮かべていた。


その中年男性の遺影を見ると灯たち幼馴染グループは少し悲しい表情を浮かべる。


「あの本当にすいませんでした、おじさんの葬儀・・・」灯はおばさんにそう謝罪をした


おばあちゃんに抱き着いていた木葉も灯の方を向く


「いいっていいって急だったし姉さんのこともあったからしょうがないことだったのよこれは・・・でもまさか今年の正月に撮ったあの写真が遺影に使われるなんて、兄さん自身すごく驚いていると思うわよ。」と少し無理に笑いながらおばさんは答える。


雄二と夢菜はこの場の雰囲気を見てこの旅行には何か事情があるんだなとすぐに察した


「これってもしかして・・・・・」雄二が口を開く


「うん、間違いないサイレントよ・・・・」夢菜も口を開く


そして真紀さえも口を開いた「あのーすいませんここって撮影・・・・」真紀がおじさんにそう言おうとしたとき二人は真紀の後ろの襟首を引っ張って黙らせた


「はいはい、こういう話はこれでやめにしましょせっかく旅行気分で来てくれたんだからさ」


おばさんは場の雰囲気を明るくするため手拍子をそう発言をした。


「みんなおなかすいたでしょ?すぐにご飯にするからちょっと待ってて」とおばさんは台所へ向かう


「あ、私手伝います」と灯が声を出したそれに続くように「僕も」「俺も」と優と風哉が台所へ向かおうとした。しかしおじさんが3人の前に立ちふさがる。


「君たちはここにいてくれその方が木葉ちゃんのためにもなるからさ」と灯たちに告げる


3人は木葉を見る。木葉は一斉に向けられた視線を不思議そうに見ていた。


「・・・分かりました」灯を先頭に優たちもその言葉に従った。


「ありがとう、自分の家だと思ってくつろいでいてくれ」おじさんはそう言い残し台所へ向かった


灯は少し顔を下に向け黙っていた。


横を見ると木葉が昭、すずと一緒に手遊びをしている。その光景を見ていると自然と心が晴れていくようなそんな気がした。「あたしも混ぜて」と灯が輪中に入る。「僕も入れて」優も輪中に入った。5人が仲良く手遊びをしているのを見ていると自分たちもこの空気を読もうと雄二と夢菜が目を見つめい軽く頷いた。その二人に風哉は「ありがとう」と感謝を述べる。木葉のおばあちゃんも笑顔でお茶を飲んでいた。


真紀はスマホに夢中らしい。






「おかわりーーー」「俺もーーーー」


暗闇を照らす家の光の中で多数の声が響いていた。


「ちょっとあんたこれで3杯目よ遠慮しなさいって」夢菜がそう言うと


「いいっていいってじゃんじゃん食べて頂戴」とおばさんが笑顔で昭君と雄二の茶碗に大盛ご飯を乗っける。


「いやほんとすいません。めちゃくちゃおいしくて箸が止まりません。」雄二は満面の笑みでご飯を受け取り。食卓の中心に山積みにされている唐揚げを口に運び米も運んだ。


「ほんとすごくおいしいです特にこのかぼちゃの煮つけなんて最高です!!」優は箸でかぼちゃの煮つけを指す


「こら優、お行儀悪い」灯が指摘する。「あはは、灯ちゃんは相変わらずね」さっきとは全く別人のようにおばさんが笑顔を浮かべながらみそ汁に口をつける。


「そうそう灯ちゃんはね、すごくいい子でみんなの人気者なの。ねー」木葉が灯に問う。


「ちょっとやめてよ木葉」灯は名前の通り赤くなった。


「お姉ちゃん可愛い~」すずが横からそう言うと灯はすずの好物のエビフライを2本ほど小皿に取りすずの前に置いた。


「おいちょっとこの漬物辛くないか」おじさんがおばさんにそういうとおばさんは「何言ってんのよお漬物は辛いのが一番おいしんだから」と笑顔で返す


「いやだからといってもこれは辛すぎるよねえ?」雄二に投げかける


「いやぜんぜんいけますよこの漬物」という雄二「えーそうかなあ~」という昭「あんた何でもおいしいって言うでしょ」という夢菜


「ねえ風哉君?」夢菜は笑顔で風哉に問いかけた


「え?何?」漬物を箸でつかんでいる風哉はそう答えた


「あのーこの唐揚げのレシピ教えてくれます?料理動画で使えそうなので」と真紀がおばさんに質問をすると「その唐揚げはねうちのお母さん秘伝なの」とおばあちゃんの方に目線を向ける


それと同じように他の食事をとっているものも目線を向ける


テーブルの上に黒豆を乗せているおばあちゃんは軽く挙手をした。


その時


「そういえばおばさん明日だよね?鷁霊祭(げきれいまつり)」と木葉が口を開いた


「何それ?」と夢菜が木の葉の問いかけをした


「うちの村に昔から開催されている一種の伝統。何年後に開催するとかいう具体的なものはないんだけど大体この季節に開催されているの」と夢菜に木葉は説明をした


「そうそう。今の時期だから中止しようっていう声もあったんだけど、この村一帯に感染者は一人もいなかったし、感染で亡くなった人達のためにも開催した方がいいってことで開催が決定したの、まあ勿論ちゃんと予防は徹底的に行うつもりだって」おばさんは箸を置きそう言った。


「どういう意味ですか?亡くなった人たちのためって?」夢菜が再度疑問を問う。


「鷁霊祭にはね昔から亡くなった霊を一度呼び起こし安心して成仏させる風習があるんだって」灯がおばさんの代わりに夢菜に説明をした


「呼び起こすって、それ大丈夫なの?」夢菜が少し心配そうな顔をした


「大丈夫だよ、霊って言っても悪霊じゃないからさ」優が夢菜を安心させるように口をはさんだ。


灯は少し考え事をするような顔をして「確か前に私たちが鷁霊祭に行ったのって小2の頃だったよね」と口を開く。


それを聞いたおばさんは思い出話を聞いたように「覚えてる覚えてる確かあの時木葉ちゃん迷子になっちゃったんだよね?」と喜びながら発言をする


「あの時みんなで必死に探したんだよ僕なんか川の所まで探してびしょびしょになったもん」と優が思い出話に花を咲かせるように盛り上げる。


それに続き灯や木葉も笑みを浮かべる。


「でも一番必死だったのは戒さんで・・・・」優がそう口を走らせたとき、今まで笑っていた木葉と灯が暗い表情を浮かべた。


「バカ・・」風哉が小声で優にそう放った。優は「ごめん・・・」と小さく謝る。


少しの沈黙が流れその間に昭とすずは不思議そうな表情で木葉達を見ていた。


「気にしないで、お兄ちゃんいつも私のそばにいるもん」木葉はお守りを優達に見せた。


木葉が笑顔でそう言ってくれたせいか優は少し目に涙を浮かべた。


「ほら食べましょ料理冷めちゃうから」おばさんが場を和ませるためにそう言うと雄二は「冷めてもうまいっすよ、この料理!」とさらに場を明るくしてくれた。この時灯は久しぶりに雄二に感謝をした。






優は目の前にある電灯の紐を見つめ続けていた。視界がぼやけてよく見えないが自分は今眠れないという状況に陥っていたのだ。


右を見ると雄二はいびきを立てながら爆睡している。ここまでの道のりによほど疲れたんだろう。その間には昭も布団を蹴散らし雄二と同様に爆睡している。いっぱい寝て大きくなってもらいたいもんだと優は何気なしに思った。左を見ると風哉が布団をかぶって優に背を向けるように横になっている。


「・・・・・・・風哉君・・・・起きてる?」不意にそう質問した


「・・・・・・ああ」風哉は返答した


少し驚いたが優は少し嬉しくもあった眠れないのが自分だけではなかったからであろうか、よくわからなかったが嬉しかった。


「木葉ちゃんってさ・・・・強いよね。僕なんかよりずっと・・・」優は風哉に話しかける。


「なんで?」風哉はそう問う


「だってさ、お兄さんは3年前に家出して消息を絶って、お母さんはそれから間もなくして入院。そしてお父さんは・・」


「・・・・・シャドウ・・・だろ?」風哉の問いかけに優は押し黙ってしまう。


「あいつだって苦しいんだよ生まれる前に父を亡くし、母と兄は3年前に自分のもとから去っていきあいつはたった一人で今日まで生きているんだ・・・このサイレントが渦巻く世界の今日まで・・・・」


優はさらに黙る。


「だから、あいつは俺が守る。俺が・・・・絶対に・・・!」


風哉はそういうと布団を掴んでいた拳を強く握る。


「・・・・風哉君・・・おしえてくれないかな?」優が口を開く


「どうやったら君のように強くなれるのかな?・・・・僕・・・分からないよ・・・・」優はまた涙をこぼす


「僕もさ小学生の時君が僕を守ってくれたように誰かを助けれる強い男になりたいんだ!・・・なのに僕は今も・・・」


優が流した涙は敷いてある布団を濡らしていく。


「・・・・・・とりあえず涙を拭け。そしてもう流すな誰かを守れるまでは」そう風哉が告げると風哉は立ち上がった


「どうしたの?風哉君」優は立ち上がった風哉を見上げながら問いかける。


「トイレだ」そう答えふすまを開ける風哉


「・・・・強くなろうとするのは罪ではない。でも弱さも罪じゃない。自分を貫き通すのが正しいこともある」そう言い残し風哉はふすまの奥へと消えていった。


「自分を・・・貫き通す・・・」優は自分の手のひらを見つめ強く手を閉じた。




「だからいないって」


「えー一人ぐらいいるでしょ?」


夢菜は灯にしつこく問いかけをした。


「いや本当にいないんだってこれが答えなの」灯はだんだん面倒くさくなり夢菜にそう言葉を返す


「18歳の女子高生が好きな人がいないなんてそんなのありえないよねー木葉」夢菜は木葉に問いかけをした


「え?ありえないの?」木葉は不思議そうな顔を浮かべる


「・・・・さすが天然」夢菜は心の中でそう思った


「あんたね浜田君がいるからって調子に乗ってんじゃないわよ」灯はと夢菜に注意をする。


「調子になんて乗ってませーん私たちはただラブラブなだけですーーー」と小ばかにしたような表情を向けてきた。


さすが現役カップル一つ一つの行動がうざったい・・・・灯は改めて実感した


「真紀はいる?好きな人とか?」夢菜は真紀に質問をする


案の定真紀はスマホとにらめっこ中だ


駅のホームでやったようにイヤホンを外しまた大声を耳元で出してやろうかと思ったがやめておいた。


あれは本気モードの真紀だ


真紀は自分の大好きなMy tuber【X・Y・Ztv】をイヤホンをしながら至近距離で見るのが大の趣味なのだ。


昼休み時間でも下校時間でも家に遊びに行った時でもあの真紀を崩すことはできない。崩したら後が怖い・・・


夢菜はあきらめた様子で顔を向けなおした


その時自分の視界に木葉の顔が見えた


天然だけど、恋愛なら・・・ 夢菜はそう思い思い切って寿葉に質問を投げかける


「木葉は好きな人いる?」


突然の質問で少し動揺したが木葉は答えた


「い、いるよ」


「えーだれーー?」夢菜はテンションが上がり木葉に問いただす


「え、えっと・・・」木葉の顔が次第に赤面していくのが分かった


「ちょっとやめなさいよ夢菜」灯が止めようとするも夢菜は止める気配を全く見せなかった。それもそのはず寝室で女子同士の恋バナをやめようとするほうがどうかしているんだ。夢菜は遠慮なく問いただす。


「もしかして、風哉君?」


「!?」木葉の顔が一瞬のうちに驚きの表情に変わった


「正解だーやったー」と夢菜が喜んでいると


「ち、違うよ~」と木葉が慌てて否定をする


「あれれ~おかしいな~あんなイケメン幼馴染を好きならないなんて。乙女回路が壊れてるんじゃないの?」


と木葉をからかう夢菜


「・・・・・」木葉は回答はしない


「違うんだったら教えてくれない?す・き・な・ひ・と」夢菜はからかいのお手本のように木葉に問いかける


「いい加減にしなさい!夢菜」急に灯が怒りの表情を見せ体がびくつく


「ちょっといきなり声荒げないでよびっくしたじゃない」


「あんたのせいでしょ!!」灯は構わず声を荒げる


「しー静かに、すずちゃん起きちゃうじゃん」夢菜は隣で寝ているすずちゃんを指さす


「だったら寝なさい、明日も予定があるんだから」木葉がそう答える。


夢菜は潮時だと思い仕方なく布団をかぶった。


それを見た灯も安心して布団をかぶる


「ごめんね、木葉もっと早く止めてれば」灯が木葉に謝罪をする


「そんな、謝んないでよ灯ちゃん。私なら大丈夫だから」木葉は少し笑みを見せた


子の笑顔にどれだけ私は助けられただろうか・・・・


今思えばこの笑顔があったからこそ私と木葉はここまで喧嘩一つせず仲良く親友としてやっていけたんだと実感した。


「・・・・そういえばさ行きの電車で私寝てたじゃん?」木葉が話を変えるためにそう言ってきた


急に変わった話題に少し驚いたが自分を慰めようとする木葉のやさしさだと思いこの話題に乗ることにした


「あ、そうだったね例の涎の」「ちょっとやめてよ~」木葉は少し照れた


「あの時ね私夢を見たの」「夢?」灯は木葉に問いかけた


「うん。その夢の中でね私、お父さんに会ったの」


木葉がそう言うと灯は驚き


「え?お父さんって、だってあんたのお父さんは・・・」と言おうとしたが、やめた。これ以上言うのはいくら幼馴染でも失礼すぎる。


「でも私確信しているの。あれは間違いなく私のお父さんだった。」木葉は笑顔でそういった。


「すごく暖かくて優しくて、私の頭を何度も撫でてくれたの」木葉はそう言い自分の頭に手を乗せた。


「私すっごく嬉しかったの、お父さんにまた会えて」木葉は灯の方に目線を向けはっきりと発言をした。


「だからさ灯ちゃん・・・心配しないで私大丈夫だから。夢で逢えただけでも私は満足・・・お母さんもお兄ちゃんもきっと私の所に戻ってきてくれるはず。・・・だって家族だから」


木葉は視線を天井に戻しながらそう言った。


天井を見つめている木葉の目に一粒の涙が見えた時灯も思わずもらい泣きしそうだった。


「そしてなにより私には、灯ちゃんたちがいるからさ」木葉はもう一度灯の方へ目線を向ける


「木葉・・・」自然と口から言葉が漏れた


「・・・ごめんね旅行中なのにこんなこと言っちゃって。さあもう寝よ!明日は川遊びとかサイクリングとか、あと鷁霊祭!!まだまだやりたいことたくさん残っているからさ、おやすみ!」木葉はそういうと目を閉じた


そうだ、今は旅行中なんだ。企画者でなおかつ旅行の主役である木葉がこんなに頑張っているのにその幼馴染で親友の自分がうじうじしていてどうする。


この旅行を楽しむんだ!!


灯は頷き木葉と同様に眠りにつく。








私すっごく嬉しかったの、お父さんにまた会えて


(・・・・また?)


夢菜は布団をかぶったまま、先程聞き耳を立てて聞いていた木葉の言葉を思い出す。


(どういうこと?木葉のお父さんは木葉が生まれる前にすでに・・・)


・・・・やめておこう、深く考えたら眠れなくなる。夜更かしは美容の天敵だ


夢菜も眠りについた。

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