命の色

@koronbiakoronbia342

プロローグ 【死者蘇生】 マサ

静寂という単語が似合うほどに辺りは静まりかえり、キーボードを叩く音とコンピューターのデータ音だけが研究上内で響いていた。


「大体あとどれくらいだ?」と一人の男は真剣な表情でパソコンを前にキーボードを打っている男性に声をかける。


「今バックアップを取ったところだからあと2、3分ぐらいじゃないかな」と質問を投げかけられた男性はキーボードのエンターキーを押し質問者の男性の目を見ながら返答をした。


「2、3分か・・・・長いのか短いのかよくわかんねえ時間だな・・・・」


男はそういうとポケットから煙草とライターを取り出し一服をする。


「お前も吸うか?一応まだ時間はあるみたいだし気分転換にでもさ」


パソコンの前の椅子に座っている男性にタバコとライターを向ける。


「あ、ごめん俺は・・・・」と男性は左手の薬指にハメてある指輪を向けた


「あーそうだったなお前禁煙始めたんだもんな子供のために。わりい」


男はタバコとライターをポケットにしまうと黒い天井に目いっぱい吸ったタバコの煙を吐き出した。


まるで夜空に浮かぶ雲のような光景をその目で見ていると自分たちが他社に忍び込みその会社のデータをハッキングするスパイという実感が沸かなかった。例えるならサービス残業を強いられているサラリーマンというのが適格だ。


「お前どう思うよ?」パソコンに座っている男が今度は一服中の男性に問いかける。


「何がだ?」と男性は返答する。


「この中身」パソコンの画面に指を指す。男はすぐには答えを出さなかった。というよりも出せなかったのだ


あまりこういうことは深く考えたくないという自分のポリシーがそれを邪魔していた。スパイというのは言ってしまえばコソ泥と同じだ、自分たちがしているのがまぎれもない犯罪行為だと心にいやというほど感じていたからだ。


「・・・・さあ。おいしい八宝菜の作り方か?」と男性は少しにやけながら冗談交じりの返答をした。


「じゃあおれにもってこいだな」と八宝菜が大好物のもう一人の男はそのにやけ顔に引きつられて笑みを浮かべる。


「もし鶏料理だったらどうすよ?」と少し間をおいて鶏料理に目がない二本の脚で立っている男がもう一度男性に質問する。


「それならおまえにやる」先ほどよりもにやけ顔が強くなった男が答える。


【バックアップが完了いたしました】


二人の男の談笑に終止符を打つかのように暗闇で光を放っているパソコンの画面にそう文字が浮かび上がった。


「なんだよ正確には1分と40秒ぐらいじゃねえか」と男は笑いながら肩を叩きつぶやく


「お前計っていたのか」と叩かれた男はキーボードに手を向けた。


さすがワープロ検定1級を持つほどのスピードだ、寸分の狂いもなくものすごい速さでキーボードがタップされていく。と男は感心しながらそのタイピングさばきを観察する。


そしてあっという間に印刷までの工程が終了した。


ブーブーブーと印刷機から書類が何枚も提出されているのを確認すると二人の男性は親指を互いに見せ合った。


男たちはその場を離れ印刷機に行くと書類が全て出たのを確認しファイルケースに収めた。そして今回のデータハッキングの大元である書類の内容に目を向ける


『死者蘇生』


表紙の紙にはそう書いてあった


「・・・・・・・は?」


二人の男は意識をしたわけではないがおんなじタイミングで声が漏れた。


その時 ジジジジジジジジジジジジジジジ ウィーンウィーンウィーン ピロロロピロロロ


と警報機が鳴りだした。


「やべえ見つかった!!」


その言葉を合図に男たちはその部屋の扉をけり開け猛ダッシュで暗い廊下を懐中電灯を頼りに駆けていった。


後ろでは何人もの人間の足音が聞こえていた。しかし振り返る余裕なんてあるはずがない、あったとしても振り返らない。


研究所の玄関を開け先ほどよりも走る速度をアップさせ道を駆けるスパイたち。今なら小学校の国語の時間で読んでいたメロスの気持ちがわかるぐらいだ。


自分たちが停めていた黒い車が見えもう大丈夫だと思った刹那


バーン 「うっ」


一つの銃声がなり隣で聞いたこともない親友の苦しみの声が聞こえた。


目を向けると真夜中でもわかるぐらいその親友が右肩を抑え片膝をついている。


「マサ!!大丈夫か?」


もう一人の男が片膝をついている男に安否の確認をする。


「気にするな・・・行くぞ!・・・・」


「でも・・・」


「待てーーーー!!」という叫び声と何発もの銃声が深夜の空間にこだました。目を向けると自分が想像していたものよりも何倍もの数の男たちが拳銃を手に追いかけてきているのが見えた。


車までもうすぐ・・・「走れるか・・・?」と男は怪我をしている親友に問う


「当たり前だろ・・・バカ」と男は笑いながら返答した。


そして先ほどと全く同じように猛ダッシュで車に向かって全力疾走をした。


車に乗り込むと1秒もかからないぐらいの速さでエンジンキーを差し込み回す。


ブーーーンというエンジンが鳴り響くと目いっぱいアクセルを踏み研究所施設の門を通過し道路に出た。


どれくらい走っただろうか・・・・・怪我を負っている男は座席に備えられている救急箱から包帯や消毒液を取り出し自分自身の手で応急処置をした。まるで兵隊の様なふるまいを見てこの男は初めてこの親友をかっこいいと思った。


「さすが真の科学者、いついかなる時でも完壁にこなすってか?」運転手の男は安心からか少しの笑顔を浮かべた


「まあお前とは違うからな」止血を完了した男は運転手の男と同じように笑顔で返答する。


「とりあえず今日は峠を越えるのは無理そうだからあそこ行くか」と笑顔から真剣な表情に変え運転手に問いかける。


「俺もそう思ってた」そういうとアクセルを先ほどよりも強く踏み真っ黒の道路を車が進んでいく・・・




「ふぅー疲れた・・・」洞窟の中に敷いてあるクッションに腰を下ろし怪我を負った男性をそう口にした


「ひとまずここで仮眠をとった後アジトへ戻ろう。多分ここなら追手はこないと思うから。」とランプの光に照らされている男はそう提案をした。


「賛成」手を挙げ同意をした


「しかしお前が撃たれた時俺マジで終わったって思ったもんな」と満面の笑みを浮かべながら男は置いてある椅子に腰を掛けた


「かすっただけだ何も心配することはねえ」と血がにじんだ包帯を指で指しながら自分の体調を教える。


「まあなにはともあれ俺たちだけで祝杯を挙げるか!」と男はバックから酒とつまみを取り出した


「よ!待ってました!」男は拍手を送る


缶ビールとウォッカを開けるおとが洞窟内で響いた。


「・・・・・・・・ぷはーうめーーーー!!」


この声も先ほどとは比べ物にならないほど洞窟内で響く


「まあでも冷えていればさらにうまいんだけどな」つまみのさきいかをかじりながら不満をつぶやく


「贅沢言うなよ。ってかおまえよく銃で撃たれた後にウォッカとか飲めるよな」そういうとポテトチップスを口に放り込む。


「俺はこう見えて酒豪なのさ」とウォッカをぐびぐび飲み自分は酒豪なんですよと言わんばかりのアピールを見せつける。そしてむせる


それを見て笑う男。まるで居酒屋にでもいるみたいな気分だ


しかしそんな楽しい時間は長くは続かず二人にまた静寂が訪れた。


「死者蘇生って・・・・どういう意味かな?・・・」缶ビールを片手にそう口を開いた。


「どうって・・・・・そのまんまだろ・・・・」男の疑問に返答する


「そのまんまって・・・・無理に決まっているだろ!!死人を生き返らせるなんて!!」そういうと男は立ち上がり大声を上げた


「俺に言われても知らねーよそういう疑問は社長に言え」相手を落ち着かせるように言葉を投げかける


その効果があったせいか立ち上がっていた男はまた椅子に腰を下ろす。


「やっぱ、シャドウが関係しているのかな?」


顔を下にしたままそう声を出してきた。


「・・・かもな」顔を上にしその言葉に反応する


そしてしばしの静寂がまた流れた・・・・・


「ちょっと見回りに行ってくる・・・」急に口を開き洞窟の出口へと足を向けた


「気をつけろよ」見回りにいく親友の背中にそう問いかけをするがその問いかけに返答はなかった。


親友の姿が見えなくなり男はウォッカを一口飲む


そして自分たちが持ち去った書類に目を向ける。


そこには絶対に見間違えではないように正真正銘漢字で『死者蘇生』と記載がされている。


男はその書類のページをめくっていく・・・・


冗談だとは思っていたがそこに書かれている文は冗談ではクオリティが高すぎるほど精密かつ近代的に記入がされていた。


「・・・・・マジかよ」不意に独り言のように言葉が漏れる。


そしてこの時一つの思考が彼の脳をよぎった


「・・・・・・・これ・・・・その気になれば俺が・・・・」


ザッザッザッ


足音が出口から聞こえてきた。


親友が帰ってきたのを実感し男は慌てて書類をファイルケースに収める


帰ってきた親友の顔はランプに照らされ先ほどよりも暗い顔をしていた。


「どうした?虫にでも刺されたか?」と冗談交じりの発言をするが無反応


「・・・・ガソリン切れか?ガソリンならここにあるぞ」と自分の横にあるガソリン缶を叩く


反応がなく無言


「おい、なにがあった?」男は真剣な顔で男に問う


「・・・・・・・・マサ・・・・・ごめん・・・」


そう男が言うと後ろから先ほど自分に銃弾をくらわせた男たちが姿を見せた


「・・・・は?どういうことだよ・・・・」


マサは自分の血の気が引いていくのを実感した


「ちょっと待てよ意味わかんねえ・・・説明しろよ!!」


と怒りをあらわにして立ち上がった


「動くな」追手の一人が銃をマサに向け動きを封じさせた


「手荒な真似はしたくない、おとなしくするなら危害は加えない」


と銃を向けている男は発言をした


自分の感情が焦りか恐怖か怒りかおそらく、そのすべてを実感していると確認できる時間は今のマサには幸いながらもあった。


「お前・・・・裏切ったのか!!」


憤怒の表情でマサは親友の男に言葉を浴びせる


「違うんだマサ!!実は・・・」


親友は焦ったような口調で言葉を放そうとした


「分かってる!!金だろ?」


マサがそう言葉に出すと親友は唖然とした表情をしている


「お前の親父は多額の借金を残して蒸発しその借金は息子であるお前に押しかかっている。そしてそのお前はもうすぐ父親になるそうだろ!!」


自分が今まで見せたことのない表情と口調で親友に問いただすとその親友はグーの音も出ないような表情を浮かべていた。


「俺が知らないとでも思っていたのか?なあ?借金があるのによく子供なんて作れるよな!!その神経には惚れ惚れするよ、父親になるっていうのがどういうことか俺の親友のお前ならとっくに知っているだろ!!」


声を荒げても親友の表情は変わらない


「・・・・そうか・・・・分かったよ・・・・お前のことを親友だと思っていた俺が果てしなくバカだったよ・・・」


マサは今度は新たに生まれた感情悲しみにより先ほどよりも声を抑え言葉にした


「捕らえろ」銃を下ろし男はそういうとほかの仲間たちに命令を出した


その号令に従い何人かの男たちがマサに向かって歩みを始める


「フフフ・・・ハハハハハハハハハ」


マサは急に高笑いを始めた


その高笑いにとらえようとした男達。命令を出した男。かつて親友だった人間が驚く


自分が騙されていた愚かさからの笑いではなくもう自分でも今どういう感情でいればいいのかわからなくなったマサはとりあえず笑った、腹の底から笑った。そして止まった


「なあ?そんなにこれが大事か?この死者蘇生ってやつがよ」


マサはファイルケースから書類を取り出し男たちに見せつける


「それは我々が極秘に計画している秘密事項だ。今後の日本の将来に役に立つかもしれないものなんだ返せ!!」と男は焦りながら言う


「じゃあこれで日本の将来は真っ暗だな・・・・」


そういうと書類を地面に放り投げ自分が先ほどまで飲んでいたウォッカをすべてたらした


「っ!何をする!!」そう疑問を投げかけられたマサは


「これじゃあ足りねえよな‥‥」と横に置いてあるガソリン缶に目を向け脚でそれを倒し夥しいほどのガソリンを地面にぶちまけた


そして次の瞬間暗い洞窟を照らしていたランプを手で取り上げ地面にたたきつけようとした。


バン!!


洞窟内に銃声が響きランプを持っていたマサの左手が血で赤く染まりランプが転がった


「くっ!・・・」左手を右手で抑えるマサに男は銃を握りしめ「もうよせ・・・我々だったこんなことはしたくないんだ」と柔らかい口調で話す


「マサ・・・頼む彼らに従ってくれ!!」と元親友はマサに投げかける


「・・・・・・・・気安く俺の名前を呼ぶんじゃねえ・・裏切者が!!」


マサは右ポケットからライターを取り出し火をつけた


「焼けろ」


そう声が聞こえた瞬間洞窟内が一瞬で火の海と化した


「うわーーーーーー」「逃げろーーーーーーー」


という男たちの声や


「助けてくれーーーー!!」という火だるまになっている男たちの声が反響しまるで地獄絵図のような光景だった


「っつ!・・・」男は考えた。自分のせいで憤怒の鬼となってしまった親友をどう助ければいいのかそれとも自分もここで罪を償い死ぬべきなのか・・・・


そう思考が交差する中、口を押えている左手に目をやる


そこには日に照らされて光っている結婚指輪があった


「・・・・マサ・・・俺は最低だ。でも生きていたいんだ、家族のために!!」そういうと男は出口とは別方向のよく見ないと見つからない小さな穴に体をねじ込ませる


もしものために作っておいた抜け穴がこんな所で役に立つなんて作るときは考えもしなかったと男は実感していた。


そして抜け穴から外に出た男はその洞窟から離れ洞窟が小さく見える場所まで避難をした。


火の海の中でマサは銃で撃たれた左手で写真を掴んでいた。痛みなどは全く感じず心の中で悲しみの感情が渦巻く中、自分の妻、息子、そして自分自身が笑顔を浮かべている写真を眺めていた。


「ごめんな・・・・帰れなくて・・・」マサは燃えていく写真に向かってそうつぶやいた


自分の家族が火によって燃やされていく所を目で確認すると今まで家族に対する悲しみの感情がだんだん自分を裏切った親友への怒りへと変わっていった


「・・・・あいつが俺を・・・俺の家族を・・・全て・・・・・」


そう考えると今この洞窟を燃やしている火よりも業火にふさわしいほどの炎が体の中から吹き出しそうだった


「神谷(カミヤ)・・・・・神谷・・・・カミヤーーーーーーーーー!!!!!」


マサの絶叫が洞窟内で響き火が彼の体を包んでいった。


「マサ・・・・・」


煙が出ている洞窟を遠くで見ながら神谷は自分にしか聞こえないほどの声量で言葉にした。


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