破綻したぼくの日記帳

ゆき

第1話 赤い花

いつか見たことがあるドラマのワンシーンで、主人公のイケメン男性がヒロインの女性に赤い花を渡して、ヒロインの女性にぶたれるものが思い出された。


今、ぼくはホテルの一室にいて、この日記を書いている。


ぼくには日記を書く習慣というものがなくて、初めてのことだ。


しかし、書かなくてはいけない気がしてきて、今日から書く事にした。


今日は、出張でこのホテルに泊まっているのだけど、妙な気がしている。妙な気がしているというのは、妙な気がしているという気分的な問題なんだ。


トートロジーなことを書いているということは理解しているんだけれど、妙な気がしてるんです。信じてください。


日記なのに誰に向けて丁寧語で語りかけているんだという感じ。


だけど、そう言いたくなる何かがこのホテルにはあるっていうことなんだ。きっと明日になったら、そんな違和感なんか消えて無くなってて、ぼくが自分自身で書いていることをわからなくなってるという期待の元に書いているんだ。



とにかく、今日ホテルのロビーについた時のことだ。


冒頭に書いたような出来事があった。より正確な描写はこうだ。


男が赤い花を女に渡したんだ。何事かお祝い事かのような雰囲気で「おめでとう」みたいなことを言っていたと思う。そして女は、目から血?のようなものを流しながら男を殴った。


そしてぼくは気づいたらホテルの部屋にいて、パソコンの前にいた。


つまり、ぼくは自分でも知らない間にチェックインを済ませて部屋に入ってラップトップを立ち上げていたということだ。


もう少し正確なことを言うと、ぼくは服も着替えており、ホテルに備え付けの浴衣に着替えている。財布等の貴重品は盗られていないか確認はしたが、問題はなさそうであった。つまり、基本的には問題は起きていない。



問題があるとすると、ぼくの記憶が欠落していると言うことだけだ。



ぼくは記憶力に自信がある方ではない(実際高校の時の歴史の試験の成績は最悪だったので思い出したくもない)けれども、今日みたいな記憶の欠落というものを経験したことがなかった。それもあって、今回日記を書いてみる事にしたってわけだ。



女から出ていたのは血のような涙のようなものであったが、ゾッとするようなおぞましさを感じたために、あまり詳しく観察することはできなかった。


現在、時計の針は22時を指している。


明日は早朝から打ち合わせがあるため、早く寝ようと思う。


隣の部屋から

「フゴーフゴー」

というような動物の鼻息のような奇妙な音が聞こえてきて、それも気味が悪いのでさっさと寝る事にする。



記憶の欠落は気になるとはいえ、出張費用は会社持ちだし、お給料をもらっているサラリーマンの身分なので、仕事に支障をきたさないように耳栓でもしてぐっすり眠る事にする。





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