第3話 歩みは自分の意志か、それとも
道の端から、少々寂しくなった人の塊に加入する。
この団体はおそらく比較的時間に余裕のある集団だと思う。
先ほどまでの幅やら鬼気やらが迫った団塊とは性質からして異なる。
もっとも彼らに最も迫っていたのは時間であろうが。
自分が先ほどの集団に対して軽くマウンティングをしていることを感じている間も、僕の足は歩を進めていた。
白いタイルを踏みしめながら,改札の列に並ぶ。
列の前の方に並んでいる初老の男性があたふたしながらカバンをごそごそ探っているのが見えた。
これが朝のラッシュ時であるならば空気は殺伐とし、舌打ちが立体音響のように降りかかっていただろう。
ようやく男性がカバンの中から定期のようなものを取り出し、改札のタッチパッドに触れさせた。
周囲を弛緩した空気が流れた。
少しは男性に影響力があったのか。
はたまた、周りの人に少々余裕がなかったのか。
それ以降はつつがなく、列は連射された銃弾のように数を減らした。
ジャムることなく自分の番になる。
電車に慣れてはいないとはいえ、改札を通るのに支障はない。
ICカードを接触させると、液晶は乗る前よりも少ない額を示した。
定期券を買うための生徒証は、今日の入学式後に配布の予定だったはずだ。
どうして、初日の交通費をコラテラルなものにしようとするのかは、労力と経費を天秤にかけることを渋った先生方に聞くしかわからない。
先生からの心象の悪化と数百円を天秤にかければ、どちらが傾くかは火を見るより明らかだった。
改札を出てすぐに、駅前特有の太くも細くもない道路に突き当たり、曲がることを強要される。
左右のどちらが近道になるかは登校0日のルーキーには難易度が高く、おとなしく同じ制服を着ている人についていく。ちなみに左だった。
駅に隣する小規模なロータリー交差点はタクシーとバス専用になっているらしい。
その周りをぐるっと高めのビル群——都心のビル群とは高さも数も足りない——が囲んでいる。
そのビルにはカラオケや食事処が構えてあった。
後々、できるかもわからない友人との未来を描きながら、駅の外周に沿って先輩方についていく。
駅と周りの道とをつなぐ交差点まで足を進め、歩行者用信号機に阻まれる。
車用信号機にはスクランブル式と書いてある。
ふと思いつきスマホをぽちぽちくぱぁといじっていると新たな発見が。
スクランブル式交差点と聞くと渋谷のアレを思い出すが、人通りがやけに多いだけで日本初でもないらしい。
追加すると、日本初のスクランブル交差点はは熊本県らしい。
そんな雑学を脳に詰め込んでいる間に信号機は寒色に変わり、一人が歩みを進めると連鎖的に足音が増加した。
どうも彼らは信号機の色の変化よりも周りの行動の方が気になるらしい。
僕がとまるぐらいにはあとから何人かが団体に加盟したことを考えると、考え事の間に次の列車が駅に到着したようで。
流動的に変化するグループに属している僕は流れに沿って歩を進めた。
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