第2話 いまだに彼は駅を出ない
開いたドアから空気と同じくらいの勢いで人が流れ出た。
僕はその一端を担っていることは確かだけど、勢いをつけたのは僕ではないので別の人が犯人だと思う。
犯人を集合として捉えるかどうかの是非を脳内の自分に投げかけても、その返事は返ってこない。
宇宙人からの交信程度の信用性しかない返答に期待するよりも、目の前のことに想いをはせる方が有益ということを僕は15年で学んでいた。
数刻まえの一人会議の無意味さに半ば呆れながら、僕は古いホーム目新しさに気を取られた。
そこには涼飲料水の広告がでかでかと鎮座していた。
中央に透明感のある女性、右端にその飲み物の写真が使われており、デザインに疎い僕には女性の広告なのか、飲み物の広告なのかは一目で判断することができなかった。
確か、その人はインフルエンサーとして活動していて、SNSでのフォロワーが最近、急上昇しているとかなんとか。
インフルエンサーか。
ことばを額縁どおりにとれば、影響力のある人ということになるが。
そもそも影響力のない人間なんているのだろうか。
時間遡行モノによくあるバタフライエフェクトなんてその最たる例だ。
どんなに小さな行動だって誰かの影響を受けているものだ。
こうして一人考えている内容だって、途方もない時間が過ぎれば、誰かの悩みの種ぐらいにはなっているかもしれない。
苦悩の原因に自分からなるほどの英雄性は僕には皆無なので、きっとそんなことはないだろうけど。
何時だって、僕たちは自分の影響の範囲内でしか、作用できない。
件のバタフライエフェクトだって、因果関係のない物事は存在しないだけのこと。
一つ一つの行動の影響というよりも、結果から因果を強引に結び付けているだけではないのか。
そう考えれば彼女の影響力は相対的にあることになる。
一介の高校生が判断すべきことではないだろう。
彼女も不服に違いない。
そんな小生意気な思想はポケットからのバイブによって中断させられた。
人の流れの途中の淀みまたは中州に身を移した。
『今日のおやつは雑誌の奈緒ちゃんおすすめのトゥンカロンだよ』
母親からである。
かあさん意識が若いな。
そもそもトゥンカロンってなんだ。
というかやっぱ影響あるじゃねぇか。インフルエンサー。
奈緒という名前を胸ポケット位にしまって僕はホーム階段を軽く見上げた。
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