半端もの青春譚
すらっしゅ
第1話 始まりは鈍足で
電車に揺られていた。
周りのスーツを着た大人はびしっとネクタイや髪を整え、車窓に目を向ける体力もないのか。
彼らの目はどこか虚ろで、液晶を見ているか目をつぶっているかのどちらかであった。
目をつぶっている人の目は予測の範疇でしかないのだが、目を休めている以上タブレット使用者よりはつかれていると考えるのは自然ではないだろうか。
車掌の聞きなれない駅名。
車窓からの知らない景色。
そのどれもが僕にとっては初めてで、慣れないものだった。
自分の降りる駅すら読みしか覚えていない。
目の濁った彼らの背中も未来の自分がそうなる可能性を除けば、景色の一つとして見過ごすことができなくもない。
これから彼らに会う可能性は、利休が思うよりはあるだろう。
奇抜な服や行動をする人よりもまっとうに生きている(ように見える)人の方が目に付くし、なぜか覚えている。
景色は進み。
時間も進む。
車内の弛緩した空気は、ドアが開くときに数人のため息とともに外に逃げていく。
新鮮な空気を求めての行動なんてメルヘンに決めつけることは得意ではないし。
そんなご時世だったら、車内広告の週刊誌のような、人を貶めてまでコンテンツを産み出す職業が跋扈することはないだろう。
そもそもその発想はメルヘンなのかという疑問は捨てきれないが。
聞き覚えはあるが、イントネーションに違和感がある名称が車内スピーカから聞こえてきた。
出願時や受験の行きかえりの際は、正直アナウンスなんて聞く余裕がなかった。
さらにいえば僕は受験生であることの楽しみを単語帳を移動中に読むことで補っていたのだ。
今…すごい受験生してる。と感慨に浸っていたことは1ヵ月前の話とは信じられないほど懐かしい。
ドアが開き、外の空気と中の空気が交信しだす。
ドア近くに移動して置き去りに警戒していた僕は、そんな心配が杞憂であるかのようにゆっくりと開きだすドアと吹いてくる風に数十分ぶりに対面しているのだった。
車内にばらばらに待機していた同じ制服をまとった人たちは開いたドアを目視してから行動に移しているようだ。
なんだか、いろいろ考えて位置取りまでしていた自分が恥ずかしくなるほどのこなれた動き。
そんな先輩たちを流し目がちに視界に映しながら、僕の新生活の第一歩は始まった。
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