【勇者サイド Ⅱ】 魔術師の決断

 少し時は遡る。勇者ジークと魔術師エリーの二人はスネールの脱走後、新入りの勧誘のため、次の街を目指していた。仕方がないのでスネールに持たせていた荷物は二人で持った。


 そもそもジークの力なら自分の荷物を持つことは余裕であるし、エリーに至っては魔法をかけて荷物を自分の周りに浮かせていた。それなら最初から他人に荷物持ちなどさせるなということではあるが。

 有り金は全部持っていかれたものの、道々適当な魔物を狩りながら進んでいけば、金には困らない。


 とはいえ、一連の出来事がもたらした衝撃は大きく、二人は無口で歩いていた。次の街についた二人はギルドで希望者を募ったが、やはり現れなかった。


「あの、ところで国の方が見えられているのですが」

「何だ? もしかして仕事か?」


 ちっ、こんな時に。ジークは内心毒づいたが、そんなことを言っていられない仕事だということも分かっている。それに足手まといだったミアやスネールがいなくなったところで戦闘力自体はそこまで落ちていない。

 二人は別室に通され、そこに騎士風の恰好をした中年の男が現れる。おそらく国から派遣された者だろう。そして二人を見て目をぱちぱちさせる。


「あの……残りのお二人は?」

「あいつらは辞めた」


 事実ではないのだが、ジークは簡潔に述べた。それを聞いて男は再び目を開いたり閉じたりする。


「それは本当ですか?」

「本当だ?」

「次の加入者の見込みは?」

「ない」


 が、そこでエリーが口を挟む。


「最近私たちの、というかこいつの変な噂がギルドに流れてるみたいなんだけど、何か私たちに恨みでもあるの?」

「いえ、そういう訳では……そうなのですか?」


 男は何も知らなかったのだろう、逆に困惑する。


「とはいえ、二人ですか。すみません、しばしお待ちください」


 男は動揺したように部屋を出る。そして数分して額に大粒の汗を浮かべて戻って来た。おそらくギルドの通信網を借りて上司と相談でもしたのだろう。


「このたびはお二方の活躍をお聞きしたので、少ないながらも報奨金でございます」


 そう言って男は小さい金貨の袋を机に置く。それを見てジークは額に青筋を浮かべた。そしていきなり立ち上がると、男の襟首をつかむ。


「貴様! 今何か任務があったのになかったことにしただろう! どういうつもりだ!」

「そ、そんなことはございません」

「ふざけるな! 人数が二人でも俺より強い者はこの国にいないはずだ! それは分かっているだろう!」

「す、すみません、すみません」


 男は涙目で平謝りを始めた。どうやらこの男は使いっ走りで上が決めたことをうのみにしているだけなのだろう。


「あーあ。私は酒でも飲んでくるから好きにして」


 エリーはこれから始まることを予想し、気だるそうに部屋を出た。

 一時間後、ギルドの裏口に半殺しにされた男の体が打ち捨てられ、ジークは建物を出た。


 その後二人は魔物討伐を行いながら魔物との国境付近で旅を続けた。

 が、国にはギルドでの評判を改善するよう要請したのに、新しい加入希望者は一向に現れない。たまに現れたと思ったらレベルがやたら低い。それどころか二人の、というかジークの評判はどんどん悪くなっているような気がする。


「おい、最近ギルドだけではなく、街の人も俺たちを変な目で見るようになってないか?」


 とある街に来たとき、おもむろにジークは言った。


「そうねえ。あなたの悪行もいい加減知れ渡ってきたんじゃない?」


 エリーはどこか他人事のように適当に答える。

 エリーにとってはパーティーが二人だと経験値の半分が自分に入ってくるので悪くないと言えば悪くなかった。パーティーの空気は最悪だったが。


「くそ、国の奴らめ。散々俺たちを利用しておいて最後はこれかよ。こうなったらもうなりふり構っていられない。国からの依頼が来ないならどんな奴をパーティーに入れても問題ないだろ」

「は? ちょっと、クズみたいなやつをパーティーに入れるのはやめて欲しいんだけど」


 勇者パーティーは公式依頼を受けることがあるため、ある程度構成員は人格者であることが望まれていた(勇者以外)。そのためジークはここまで選択肢から外していたのだが、どうせ公式依頼が来ないなら開き直ればいいと思い立った。


「クズでも何でも、戦えりゃいい」


 そう言ってジークは宿を出た。

 翌朝、ジークは見るからに目つきの悪い男二人を連れてきた。どこにそういうコネがあるのかは分からないが、40レベルの大柄な大斧を背負った眼帯の戦士と、33レベルの曲刀使いの盗賊である。


「こいつらが今日から俺たちの仲間だ」

「……そいつら一体何者?」


 さすがにエリーは眉をひそめた。


「何でもいいだろ。仲間になったからには過去の詮索はやめようぜ」


 逆に言えば、過去に問題があると言っているのも同然であった。

 それはまあいいのだが、エリーはこの二人がパーティーの紅一点になってしまった彼女をいやらしい目つきで見てくることが不愉快だった。


 その夜、四人は親睦会と称して飲み屋に入った。宴もたけなわになってくると、男たちはエリーの体に手を伸ばし始める。エリーはとっさに彼らの手をはねつけると、ジークの方を見た。


「そろそろ解散にしない?」

「いいじゃねえか、新しい仲間なんだから仲良くしてやろうぜ。どうせ減るものじゃないだろうし」


 ジークの言葉に二人は歓声を上げる。

 そう言えばスネールはパーティーカーストをよくわきまえていたのでエリーには手を出すことも舐めた口を利くこともなかった。


「大体、俺との時はあんなに喜んでたじゃねえか」


 冗談ではない。ジークは顔は悪くなかったし、何よりも勇者という肩書きがあったから身を任せたまでのことだ。こんな得体のしれない奴らはまっぴらである、とエリーは思った。


(まあそろそろ潮時かな。しばらく勇者と二人で冒険したから経験値は荒稼ぎしたし。ここまで評判が地に落ちたら今後大した任務も回ってこないだろうし。こんな奴らと魔物退治なんて御免だわ。とはいえ、せっかくなら離脱ついでにちょっとした善行でも積んでいこうかしら)


「ではちょっとお色直しに」


 そう言ってエリーは席を立った。

 十数分後、残った三人が酒を飲み続けているとどかどかと足音を立てて衛兵が現れた。


「おい、ここに逃げた山賊の男がいると聞いたのだが!」


 それを聞いてジークは事態を悟った。


「あの女め、最後にクソみたいな嫌がらせをしていきやがって……。悪いな、俺は面倒事はご免だ」


 言うが早いか、ジークはその場を脱出し、ぽかんとしていた二人のならず者はそのまま衛兵に取り押さえられるのだった。


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