三人目

「本当にありがとうございます。このご恩、一体どのようにお返ししたらよろしいか」


 オリザが帰っていくと、リンは文字通り私たちに平身低頭の勢いで頭を下げる。

 確かに金貨百枚用立てはしたけど、そこまでかしこまられるとこちらが恐縮してしまう。所詮魔法とスキルの連打だけで生み出したものだ。それを売ったのはリンだし。


「まあまあ、頭を上げて。私たちがたまたまこういうスキルを持ってたから出来ただけだよ」

「そ、そうですよ。私たちの貯金から払ったとかじゃないんですから」


 私とミアは慌ててリンに頭を上げさせる。やっぱりここまでされるとやりづらい。


「いえ、この上は私も何かのお役に立ちたいのだけど……」


 私はミアと顔を見合わせる。おそらく二人とも脳裏には浮かんでいるのではないか。ただ、重要なことなので何となく自分から口にするのがはばかられているということだろう。仕方がないので私が先に口を開く。


「せっかく出会ったのも、何かの縁だしリンにもパーティーにも入ってもらってはどう?」


 ミアもリンも予想していた言葉だったのだろう、特に驚きはなかった。

 ちょうどリンの職業は盗賊で、私たちの不足を補ってくれる。レベルもそこまでは離れていなさそうだし、今はフリーの状態である。強いて問題があるとすれば前科があることだが、金を払ってる以上解決はしている。


「私は構いませんが、リンさんはどうでしょう?」


 ミアはちらりとリンを見る。


「も、もし私を入れていただけるのであれば異存がある訳はないのだが……」


 リンは乗り気のようだったが、台詞の最後はしりすぼみとなっていく。

 ただの遠慮というよりは何か心配事があるようだった。


「何か心配事があるの?」

「はい、今日言ったように私の魔剣は子爵家にある。だから今の私は大した戦力にはならない」


 リンは落ち込んだ様子で言った。

 そう言えば元々はそのせいでこのような騒動になったということを忘れていた。問題を解決した気になっていたが、リンから見ればスタート地点に戻っただけだ。


「それってどんな魔剣だった?」

「はい、エアブレードという風属性の……」

「エアブレード!?」


 まさかここでエアブレードが出てくるとは……。

 とはいえ、あれは風の魔力を帯びているものの、小ぶりで威力自体はそこまででもない剣だったような気がする。


「はい、しかもそれが二本」


 なるほど、双剣使い用だったのか。だったらあのくらいが使いやすいのかもしれない。それに、風魔法がかかっている以上身軽な戦い方には向いている。

 とはいえ、知っている剣で助かった。


「分かった、じゃあエアブレードがあればいいんだ」

「え、そうだけどそんな簡単に出せるものでは……」

「クリエイト・エアブレード!」


 私は魔法を唱え、ミアがいつものスキルを使う。

 すると私の手の中に緑色の宝石が柄に嵌まった短剣が現れる。


「ええええええええええええええええええええええええええ!?」


 一瞬の出来事にリンが絶叫する。

 「魔剣」と呼ばれる魔力が込められた剣は作るのが難しく、素材が稀少であることから高価で流通も少ない。多少値ははるが、一応量産されている銀の剣とは驚きが違うのだろう。


「え、何の材料もなく、しかも一瞬でこんなこと出来るの!?」

「だって銀の剣もそれで作っていたでしょ?」

「で、でも一応魔剣だし……」

「とはいえ、エアブレードが作れるのはたまたまですけどね」


 ミアが謙遜する。


「それに、今ので大分魔力使っちゃったから、もう一本は明日の朝になると思う」


 昼に銀の剣を量産して減った分の魔力がまだ完全回復していなかったからだ。


「いえ……一生ついていかせてください!」


 またリンが頭を下げるので私は慌ててやめさせる。


「そこまでしてもらわなくても……とりあえず今日は寝よう」

「う、うん」


 リンは興奮していたようだが、色々あって疲れていたのだろう、すぐに寝付いてしまった。まだ起きていた私はミアと顔を見合わせる。


「良かった? 私が押し切るみたいになっちゃったけど」

「はい、エルナと二人きりも良かったけど、やっぱりちゃんとメンバー揃えないといけません。特にこれから重大な事件を調査することになるんですから」


 ミアは真剣な表情で言った。前衛としての能力だけでなく、今後邪悪石について調べるときに盗賊の探索能力が必要になることもあるだろう。

 私に気を遣っているのではなく、本心からそう言ってくれている様子だったので私は安堵する。


「色々あったけど今後ともよろしくね」

「もちろんです」




 翌朝、私たちは朝ごはんを食べながらまずリンに私たちが現在追っている邪悪石の件についての説明をした。最近色んな人にこの話を説明している気がして、私もすっかり説明に慣れてきてしまった。


「とはいえ、今のところは狂暴化した魔物を討伐していくぐらいしか手がないかな。一応邪悪石は神殿に預けているから、もしかしたら作った人をある程度特定してくれるかもしれないけど」

「なるほど、そんなすごい任務を任されているとは」


 リンは感心したように頷く。


「それもあってメンバーは早めに増やしたかったっていうのはある」

「そうですね。今日はどこかで異変が起こっていないか、ギルド以外でも聞き込みしてみましょうか」

「それもそうだね」


 この都市もアドリアほどではないが、大きな神殿があるため、旅人の出入りはそこそこある。それに人があまりいない地域で魔物が狂暴化すれば討伐依頼は出されないこともあるし、ある程度離れたところで出た依頼は内容にもよるが近隣のギルドにしか伝わっていないこともある。

 そのため、噂話でも案外手がかりになるかもしれない。


 その後私たちは神殿や宿、商人らに手分けして聞き込みをしていくつかの情報を得ることも出来た。

 もっとも、人づての情報なので「魔物が暴れている」「前は出なかった魔物が出ている気がする」程度のあやふやなものであったが。その日はお互い考えを整理して、翌朝どこに行くかを決めようということになった。

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