女剣士オリザ
「結局ミアも辞めたんだ。でもあんなところ辞めて正解だよ、経験値はともかく、稼ぎで言えばもっと割のいいところはあるし。貴族の護衛は給料高いからおすすめだわ。危険や荒事もそんなに起こらないし」
確かに毎日のように危険がある冒険者に比べれば平穏な気もする。
「い、いえ、私は辞めた訳ではなく、その……」
追放された、というのを言いよどんだミアだったが、オリザは敏感に察したらしい。ミアが自分からは辞めなさそうなことも、勇者がミアを良くは思っていなかったことも、同じパーティーにいたから何となく想像がつくのだろう。
「そっか。何にせよ気にすることないって。それで今は冒険者やってるんだ」
「はい、あ、彼女はエルナと言って私の幼なじみなんです!」
そう言ってミアは少し誇らしげに私のことを紹介してくれる。私も軽く頭を下げて自己紹介する。
「初めまして。私は錬金術師のエルナ。よろしく」
「そう、ミアは任せたわ……なんていう義理は私にはないけど」
そう言ってオリザは少しだけ目を伏せる。彼女もミアを置いて辞めたことを気にしているのかもしれない。
「はい、ミアのことは任せてください!」
「もうエルナったら……」
ミアが赤くなったのを見てオリザはいたずらっぽい笑みを浮かべる。意外と茶目っ気もある人らしい。
「お、赤くなっちゃって青春だねえ」
「そ、そんなんじゃないです!」
躍起になって否定するミアも可愛い。
とはいえ、オリザはこんなところで何をしていたのだろうか。
ちなみに先ほど斬りかかられたリンは当事者なのに置いてけぼりにされていることに困惑している。
「こほん、それでオリザさんは何しているの?」
「ああ、忘れてた。私は今メイデーン子爵家の護衛に雇われてるんだけど、そこの娘が家の蔵から何かを盗もうとしてたから追いかけてきた訳」
あっさり正体を看破され、リンはびくりと肩を震わせる。
「え、でも何で分かったんですか?」
ミアが感嘆の声を上げる。
「いくら姿形が変わっていても、体格や歩き方、身のこなしは変わらないから。もちろん一般人ぐらいのレベルだったら変装なのかたまたま似た実力の人がいるのか分からないけど、彼女もAランクぐらいはあるんじゃないかな? Aランクの人なんてそんなにいないから」
オリザはあっけらかんと言い放つ。一流の剣士というのはすごいな、と感心する。
「……という訳でその娘を渡してもらえると助かるんだけれど」
「いや、実は……」
ミアがオリザに事情を話す。それを聞いてオリザは微妙な顔をする。
「うーん、可哀想なのは可哀想だけど、私も仕事としてやってるからなあ」
とはいえ、オリザもミアの性格を知っているためか、少し悩んでいるようだった。そこで私が口をはさむことにする。
「ちなみに捕まるとどのくらいの罰になるのかな?」
「一般的には窃盗は投獄だけど、子爵様なら奴隷に落とすとかするかも」
「それなら彼女を買い取ることは出来ない?」
「買う?」
「確かに、それが出来るならいいと思います!」
私としては出来れば円満に解決したかった。話を聞いてしまった以上この後リンがひどい目に遭うのは嫌だ。
「それなら一応子爵様に聞いてみる。多分いいとは言われると思うけど、そこそこの値段にはなると思う」
「分かった。じゃあお金稼いでおくよ」
「稼ぐ?……まあいいわ、では子爵様に聞いてくるから、それまでは逃げないでおいてね」
「はーい」
そう言ってオリザはひとまず帰っていってくれた。ミアとオリザが知り合いじゃなかったらこうはならなかっただろう。私はひとまず安堵する。
オリザが去ってようやくリンがほっと息をついた。
が、見ず知らずの私が買うとか言い出したことに不安を抱いているようだった。
「私のことを買い取ってくれるなんて本当?」
「うん、私たちお金を稼ぐのは得意だから」
「え、どういうこと?」
リンが首をかしげる。
「この街で一番高く売れそうなもの、もしくはたくさん売れそうなものって何?」
「一番高いのは知らないけど、剣は売れてる。神殿で儀式をするときに使うらしい」
「へえ、そういう需要があるんだ」
聖女や神官といった人々の使う魔法は信仰心が関わって来て、私たち魔術師が使う理論による魔法とは少し違うため私も詳しくはない。
「特に上質な銀の剣は需要があるらしいけど、作れるの?」
リンが疑わしげに尋ねる。普通はそういう反応になるのも無理はないだろう。しかし剣なら構造が単純だから作ることが出来る。材料が銀だから魔力の消費は多くなるだろうけど。
「じゃあミア、いくよ……クリエイト・ミスリルブレード」
「『詠唱短縮』『代償軽減』」
ポーションと違ってごっそり魔力を持っていかれるが、目の前に魔法の光とともに銀で出来た剣が出現する。とはいえ、エクスプロージョン・グレネードに比べればまだましだ。
「え、何もなしでそんなもの出せるの!?」
リンが信じられない、と目を丸くする。
私もいまだにずるいことをしてしまっているような感覚が抜けないけど。
「もちろん魔力はそこそこ使ってるけど」
「そうなんだ。でも実質無限だし一生働かずに食べていけるのでは?」
リンは思ったより庶民的な願いを口にする。
「それはそうだけど、一応作ったものを売らないといけないから。それにここまでの力があるのに働かないためだけに使うのも良くないと思って」
「ありがとう」
リンは頭を下げる。ちなみにいい話風にするためにあえて言わなかったが、例え無料で生産が出来ても定期的に購入してくれる先が見つからないと営業という仕事をしないといけないけど。
「じゃあリンはこの剣を売ってきてよ」
「え、いいの?」
リンは素直に首をかしげる。言われてみれば確かに逃げるかもしれないのか。
とはいえ、私たちから逃げてもいいことはないはずだ。オリザには追われるし、私たちも恨みを抱く。私たちは無限に剣を作って売れる以上、リンを買いとることはほぼ確実に出来る。そんな打算が私の脳裏をよぎる。
とはいえそれを言葉にするのも微妙かなと思い、もっといい言葉を探す。
「大丈夫、私はあなたを信じてるから」
すると、その言葉を聞いたリンはなぜか恥ずかしそうに頬を赤くする。
「そ、そんな初対面の相手のことを信じたら痛い目を見ると思うけど……」
「私だって信じる相手のことは考えてるよ」
リンは観念したように息を吐いた。
「そこまで言われたら敵わないな」
「エルナ、剣造りを再開しますよ」
そこへ私とリンの会話を遮るようにミアが割り込んでくる。
するとリンがふと気づいたように口を開く。
「あれ、もしかして嫉妬?」
「そ、そんなんじゃないですっ!」
こうして私たちは剣の製造を開始した。エクスプロージョン・グレネードに比べれば一回ごとの消費魔力は少なく済んだので、私はすぐにコツを掴むことが出来た。
私とミアがひたすら剣を出している間にリンは街の中へ入って剣を買い取ってもらえるよう交渉に向かった。
結局、昼頃までに私たちは30本ほどの剣を作り出した。リンは私がポーションを売った時と違って強気の値段で取引したようで、剣のうち十本が金貨8枚で売れたので、金貨80枚と剣20本が残った。今度別なところで売ろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。