エクスプロージョン・グレネード
「そうですか……そういうことでしたら仕方ないですね」
翌日、私はミアに商人から苦情が入ったことを伝える。私と違って心優しいミアはそれを聞いて、素直にポーションたたき売りをやめることを了承してくれた。
ちなみにミアが少し残念そうにしていたのはお金儲けが出来なくなったからではなく、お店屋さんが楽しかったからなのだろう。
「じゃあ今日はまたギルドの依頼をこなしましょうか?」
「いや、その前に一つ欲しいものがあって。というのも、この前のトロールにはあの方法で勝てたけど、知能が高かったり、地面に足をつけない相手には同じ手は使えないから別の攻撃手段が欲しい」
もちろん体内鉄剣生成という技はあるが、それも相手の体内を剣で貫かなければならず、剣の腕はその辺の兵士と同程度の私にとっては危険な手である。
そのため、現状戦闘では嵌め殺しが通じる相手には負けないが、そうでない相手には歯が立たない。極端な話、遠距離からひたすら魔法で攻撃してくる相手には対抗できない。
「だから、普通は高価だから気軽に使えないけど、威力が強いアイテムを錬成出来るようになりたい」
「なるほど、一度作り方が分かれば無限に作れますからね」
「という訳で手っ取り早く作り方が分かる物で一番強そうなアイテムって何だと思う?」
この辺は勇者パーティーでハイレベルな戦闘を経験したミアの方が詳しいのではないか。
「エクスプロージョン・グレネードでしょうか? 前にエリーさんが買って、魔力が尽きた時にひたすら投げてましたが、なかなかの威力でしたよ」
「エクスプロージョン・グレネード?」
聞いたことがない。もしかして高価すぎて縁がなかったとかだろうか。勇者パーティーの魔術師が予備とはいえ武器に使ってるぐらいだろうから性能はなかなかなのだろう。
「はい。投擲かスリングで使う小石ぐらいの大きさのものです。合言葉を唱え、投げて数秒経つか、相手に触れると込められた魔力が爆発するアイテムです。威力は高いですが、それ以上に高価なので、通常は高レベル冒険者の予備武器として使われますね」
確かに高価な使い捨て武器なら縁がなくても仕方ない。
「なるほど。じゃあ錬金工房に行ってみよう」
錬金工房というのはその名の通り、錬金術師が営んでいる工房である。私と違って正道を歩んでいる錬金術師たちは、アイテムを見ただけで作り方が分かるような汎用スキルをとり、自分でアイテムを解析している。
「すみません、ちょっと用があるんだけど」
「何だ?」
私がエクスプロージョン・グレネードを作っていると言われる工房に出向くと、体中を煤だらけにしたドワーフの男が出てきた。
「あの、エクスプロージョン・グレネードの作り方を教えて欲しいんですが」
「嬢ちゃん、見たところ錬金術師だろ? それくらい自分で調べろよ。それにこっちだってそれ売って稼いでるんだ」
ドワーフの男の対応は素っ気ない。
確かに私も無限にポーションを作る方法を教えてと言われて素直に教えるかと言われると微妙だけど。
「そこを何とかお願いします」
ミアも一緒に頼み込む。するとドワーフはふむ、と考えこんだ。なぜミアが頼むと対応を変えるのだろうか。私は少しだけ嫌な気持ちになる。
「まあそんなに言うなら仕方ない、金貨十枚で教えてやろう。どうせ作り方が分かったって材料がなければ作れないしな」
「何だ、それでいいのか。ちょっと細かいのになるけど、ごめん」
そう言って私とミアは合わせて百枚の銀貨を差し出す。これで金貨十枚換算であるが、それを見てドワーフは目を丸くする。
「何でこんなにたくさんの銀貨を……。しかもそんなに気軽に……。こほん、まあいい、作り方自体は簡単だ。一回しか言わねえから忘れるんじゃねえぞ」
彼が言うには、魔鉱石と言われる魔力が凝縮された結晶が混ざっている石に炎の魔力がある紅鉱石を組み合わせ、安全装置をつけるだけで作れるという。
ただし、どちらの鉱石も高価な上、純度の低い魔鉱石で作った物を売ると威力が出ず、不良品扱いされて怒られるので素材はきちんとしたものを使わないといけないという。
確かに、魔物と戦っている時に投げてみるまで威力が分からない武器なんてあっても役に立たない。
「ありがとう」
「ありがとうございます」
私たちがお礼を言うと、なぜかこいつはミアにだけ笑顔で手を振る。私は何となくいらっとした。
その後私たちは街の外に出た。エクスプロージョン・グレネードの試し撃ちをするにはかなり広い範囲で人気のないところに行かなければならない。私たちは街を出て、さらに人の往来が激しい街道を外れて原っぱの方に向かう。
そちらの方には何もないため、ほぼ人影はいなかった。
「よし、じゃあここでやるか……クリエイト・エクスプロージョン・グレネード!」
「詠唱短縮、代償軽減!」
十分の一とはいえ、稀少な素材を使っているだけあってそこそこの魔力を持っていかれる。そして私の手元に手の中にすっぽり収まるぐらいの赤身を帯びた石が出現する。合言葉を唱えると安全装置が外れたので、思いっきり遠くに投げつける。
次の瞬間、ドカーン、という轟音とともに十数メートル先で大爆発が起こる。空気がぴりぴりと震えてこちらにまで伝わってくるようだ。
「おお、これはなかなか……」
「あの、私も投げてみたいです……///」
ミアが少し恥ずかしそうに言う。確かに投げるのはちょっと楽しいかもしれない。何か手ごろな岩とかにぶつけて爆破したらもっと楽しいような気もするけど。
「じゃあ、どうぞ」
私は次のグレネードを手渡す。
「えいっ」
ミアは見事なまでの女の子投げでグレネードを投げる。グレネードはよろよろと数メートル飛んで地面に落ちる。
「危ない!」
「マジックシールド!」
慌ててミアが防御魔法を張る。グレネードの爆風の一部が防御魔法をかすめた。爆発の半径が広くて投擲が下手だと投げた本人が巻き込まれるらしい。
「すいません、私投げるの下手で……」
「これはちょっと練習した方がよさそうだね」
白魔術師も自前の攻撃手段がないため、エクスプロージョン・グレネードは有効な攻撃手段となるだろう。
「は、はい」
「でも、その前に普通の石でやろうか。まず投げるときの姿勢はこう」
結局、私はミアにまず物を投げるときの姿勢から、文字通り手取り足取り教えることになった。
が、私がミアの姿勢を修正していると、なぜかミアは変な声を上げる。
「ひゃいっ」
「どうしたの? 顔赤いし体調悪いなら今日はもう終わりにしようか?」
「いや、むしろずっとこのままで」
「え?」
「いえ、何でもないです! 次こそちゃんとやります!」
そんなよく分からないやりとりはあったものの、何とか私はミアに投擲の仕方を教えるのだった。とりあえず、爆風が自分にかからないぐらいの距離は投げられるようになったから良しとしよう。
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