短章 無限ポーションの影響

 その夜、ミアと別れた私は56から58ではあるが、レベルが上がっているのに気づいた。ポーション872本分の経験値は膨大だったらしい。つまり、これをひたすら繰り返せば私のレベルはどんどん上がっていくのか、と思ったがおそらくミアのレベルは上がっていないので少し申し訳ない。



 とはいえ、あんなに儲かるならあと数日はやってもいいかな、などと思いつつ帰宅していると。


「あの、エルナさん」


 不意に私は声を掛けられた。振り返ると、そこに立っているのは商人の男である。私が一人で冒険していた時代、何度かポーションを買うのにお世話になっていた。


「何でしょう?」


 こんな夜更けに何の用だろう、と思っていると彼は言いづらそうに言った。


「誠に申しづらいのですが、ポーションを半額で売るのはやめていただきたいと思いまして」

「どういうこと?」


 街の中では勝手に商売していい場所悪い場所とかがあるらしいが、街の外では誰かにとやかく言われる筋合いはないはずだ。


「我々街の中でポーションを売っているのですが、今日の売上ががくっと下がりまして。もちろんエルナさんが悪いことをしているとは言わないのですが、このままでは街の中のポーション商人が全て破産してしまいます」


 言われてようやく私は理解した。確かに872本のポーションが売れたということは、その分街の中で売れるはずのポーションが売れなくなったということだろう。


 別に私は不正をした訳ではないので罪の意識を持つ必要はないが、かといって別に悪いことをした訳ではない商人たちを破算に追い込むのは後味が悪いし。それにポーション商人が全員破産して、私たちが他の街に旅立つと街は大変なことになる。それにミアもそのことを知れば悲しむだろう。


 今後はやるにしても色んな品物を出すとか、一つの街であまりやりすぎないとか何かしら考えよう。大きすぎる力というのも考えものだ。


「分かった、じゃあ代わりにお願いがあるんだけど」

「何でしょう」

「ちょっと世の中に広めて欲しい情報がある。だからもし他の街とかに行くことになったら広めて欲しい」

「なるほど……まあ、デマとかでなければ」


 商人は信用が第一だから嘘は言えないのだろう。それは本当のことだからいい。


「大丈夫、事実だから。実は勇者パーティーって国の圧力で知られてないけど内情はかなりひどいの」

「そう言えば、ミアさんが脱退するという事件がありましたな」


 さすがに同じ街で起きたことだけあって耳が早い。


「そうそう。その原因っていうのがパーティーの、というかほぼ勇者の性格の傲慢が原因なの。だからそれを広めて勇者パーティーに入ってひどい目に遭う人が出ないようにして欲しい」

「なるほど……」


 商人の顔が引きつる。それもそのはず、事実とはいえ勇者パーティーを貶めるような噂を流せば、国や勇者にどのような報復を受けるか分からない。

 とはいえ、受けるかもしれない報復よりも、今ポーションを半額で売り続けられることで発生する不利益の方が明らかに多い。


「分かった、じゃあミアに聞いた話をするからそれで判断してよ」


 こうして私はミアから聞いた話を商人に語った。最初は半信半疑だった彼も、剣士オリザとミアが脱退しているという事実がある以上、信じるしかなかった。

 オリザも人格に問題はないし剣士として一流であると名高い人物であったため、よほどのことがない限り脱退することはない人物であった。


 全てを聞いた商人は観念したように息を吐いた。


「分かりました。ではそれに協力いたします」


 こうして私は思わぬところで復讐の二歩目を踏み出したのであった。

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