代償軽減

 急にレベルアップしたので私は改めて自分のスキルを確認する。


『職業:錬金術師 レベル:56

固有スキル

「魔力素材」 錬金術を行う際、必要な素材を魔力で代用することが出来る

汎用スキル

「魔術遠距離化Ⅱ」 魔法の射程を延長する。

「魔力強化Ⅱ」 術者の魔力を増やす』


 ちなみに固有スキルはレベル50以降で確か10ごとにもらえるスキルだ。ただしどのスキルを取得するか選ぶことは出来ない。とはいえ完全にランダムという訳でもなく、無意識な願望を反映しているという説やその人の本性にふさわしいものを神が与えているという説がある。


 実際、私が得た『魔力素材』も錬金術師以外が持っていても意味がないスキルと言える。レベルアップで汎用スキルも上げられるようになったので魔力強化を上げた。

ちなみに私は戦闘向けのスキルを持っているが、普通の錬金術師は『鑑定』『素材知識』『ポーション製作』などの汎用スキルをとることが多い。


「嘘……急にこんなにレベルが上がるなんて」


 隣ではミアも驚いていた。経験値は同じパーティーで、戦闘に参加していれば均等に割り振られる。人数で頭割になるので、二人だけで魔物を倒せれば得られる経験値は多くなる。


「どのくらい上がったの?」

「50から60になって、次の固有スキルも手に入りました」

「嘘!?」


 私が一気に12レベル上がったのも異常だが、ミアが一足跳びに次の固有スキルを手に入れたのも驚きである。


「はい、『代償軽減』というスキルで、魔法に使う魔力の量を十分の一にすることが出来るみたいです」

「え、十分の一!?」


 ミアの固有スキルは毎回効果値が大きすぎやしないだろうか。私のスキルとはまた違う方向にやばい気がする。


「今私、魔力で素材の代用を出来る固有スキルを手に入れたんだけど……」

「そんなスキルもあるんですね! それも十分の一ですかね。やってみましょうか」

「うん……『クリエイト・ヒーリングポーション』」

「『詠唱短縮』『代償軽減』!」


 私は試しに、空のガラス瓶を置いてポーション作成の魔法を唱えてみる。すると何の素材もなしに目の前の瓶がポーションで満ちた。魔力も大して減っていない。


「おおおおおおおお、すごいです」


 ミアがポーションを見て歓声を上げる。


「これ何本ぐらい出せるんですか!?」

「これぐらいなら百本は行けるかな」

「百本!?」


 正直、毎日ポーションを作って売るだけで一生働かずに生活することも恐らく可能である。休息をとって魔力回復を挟めば一日千本はいけるかもしれない。


「他にどんなものが作れるんですか!」

「ポーションはHPだけじゃなくて状態異常回復とか、HPが大回復するのも作れる。あと、武器は剣とか弓とかは一通り作れる。シンプルな構造の剣なら大体いけると思う……あ、ミアも剣いる?」

「使えはしないですが……でもせっかくなら記念に欲しいです」

「分かった。じゃあ玉鋼の剣出しておくね」


 一応玉鋼は普通に流通している金属では一番硬質な金属である。私が呪文を唱えると、目の前に日の光を浴びて輝く剣が出現した。


「きれい……でも切れ味はどうなんでしょう? えいっ」


 ミアはいきなりその辺に生えているあまり太くない木の幹に斬りつける。見た感じ素人のような斬り方だったが(可愛い)、それでも木の幹は真っ二つになった。


「すごい……さすが玉鋼の剣です! エルナからのプレゼント……大切にしますね」

「う、うん」


 私は自分で作りだした剣の強さに引きつつも、ミアが喜んでいるので良しとした。


 その後私は玉鋼の小手や肩当などを作って身に着けた。あまり大がかりな鎧を着ると動けなくなるけど、要所要所に装備すると安心感がある。



 そこでふと私は、倒れていたトロールの身体がなくなっているのに気づいた。より正確に言えば、いつの間にか腐るようにして全身が消滅していたのである。この世界の魔物は一部の特殊な存在を除けば、別に倒したからといって消えることはない。

 が、このトロールはまるで倒れてから数年間が経過したかのように、骨だけになっている。その骨もみるみるうちにさらさらと溶けて粉のようになっていった。まるで超高速で腐食しているかのようだが、それが正しいのかは分からない。


「何あれ!」


 見たことがない現象だ。私の声に釣られてミアもトロールの遺体を見る。


「こんなの、見たことありません……。でも少しですが、邪悪な気配を感じます」

「邪悪な気配?」


 白魔術師は支援魔術の他にアンデッドや魔神など邪悪な存在に対する魔法も覚えているため、邪悪な存在の気配にも敏感らしい。


「はい……あの、あれ」


 そう言ってミアが指さしたのはトロールの胸があった辺りである。その部分にあった骨もなくなっていき、そこには赤黒く輝く拳大の宝石が見えた。言われてみれば邪悪そうな色をしている。少なくとも見たことない材質だ。トロールの体が溶けていくようにして消えたのと関係あるのだろうか。


「私も分からない。戻ったら聞いてみようか」


 私は危険な素材を手に入れた時用に、魔力を遮断する袋を持っている。例え呪われた物質であっても袋に入れておけば安全である。私は宝石をしまうと荷物にしまう。




 私たちがギルドに戻ると、受付嬢が怪訝な顔で出迎えた。


「随分早かったですが、やはり他の依頼にしておきますか?」


 てっきり諦めたと思われたらしい。心外だ。


「いや、倒したけど」


「へ? 二人でですか? 本当に?」


 彼女は信じられない、というように目を丸くする。

 そんなに驚くのは失礼ではないだろうか。


「うん、レベルも上がったし」


 私はギルドの登録証に手を翳す。ミアもそれに倣った。すると私たちのレベルが現在のものに更新される。


「え、一気に二桁も上るなんて……いくらAランクの魔物とはいえ、普通はそこまでは上がらないですよ」

「もしかしてこれと関係あるのかな」


 私は例の袋を取り出すと、宝石を見せる。

 すると受付嬢はえっ、と声を上げた。


「知ってるの?」

「知ってるというよりは……前に変異種と言われる上級の魔物を倒した時にドロップしたものと似ていまして……ということはもしやAランクの変異種を倒したんですか?」

「まあ、そういうことになるのかな」


 私も全く実感はないが。


「変異種ともなればHPや攻撃力がとてつもなく高かったのでは?」

「ほぼ即殺だったし、攻撃は受けてないから分からない」


 私の言葉に受付嬢は頭を抱えた。


「そんな滅茶苦茶な……とはいえ、急激なレベルアップはそれが原因だと思います」

「あと、これ邪悪な気配がするんですけど大丈夫なのでしょうか?」


 ミアが尋ねる。


「いえ、前の時は邪悪な気配なんてありませんでしたが」


 そう言って受付嬢は首をかしげる。これは魔術学校の教授の元にでも持ち込んだ方がよさそうである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る