パーティー結成と初陣
その後、私たちはいよいよ冒険者ギルドへ向かった。幸い私たちが買い物している間に勇者一行はもう別の街に向かったようで、私たちは鉢合わせを避けることが出来た。
ギルドに入ると、中にいた冒険者や受付嬢が一斉にミアを見て視線をそっと避ける。昨日あんなことがあっての今朝なのだからそういう反応になってしまうのも仕方ない。出来るだけ早く活躍してこの雰囲気を払拭しなければ、と決意する。
「私たち、新しい冒険者パーティーとして登録をお願いしたいのだけど」
私は周囲の空気を振り払うように受付に歩いていく。
すると受付嬢は微妙な顔をした。
「あの……勇者パーティーは本当に抜けられたんでしょうか? 冒険者の方々は時々揉めてパーティーを解散することもありますが、後悔しても元に戻ることもありますので」
「いや、ミアはもうあのパーティーに戻ることはない」
私は断言する。受付嬢はちらりとミアの方を向いた。ミアは視線を受けてしっかりと頷く。良かった、もし躊躇されたらどうしようかと思った。
「私たちが口を出すことでもないので申請は受け付けますが、パーティー解散の手続きを増やさないでくださいよ?」
「それはもちろん」
ちなみに勇者パーティーの実態について冒険者ギルドに告発するつもりはあったが、今はやめておく。多分ミアはそれを望んでいない以上、今度ミアがいない時に勝手にやろうと思っていた。
それに告発をするにしてもミアが私とパーティーを組んで実績を作ってからの方がいいだろうし。
「それで、パーティーはお二人でいいですか?」
「はい」
「二人ともすでに冒険者登録は済んでいるのでパーティーのリーダーと名前だけ決めれば登録は終了します」
「リーダーは、エルナがやって欲しいです」
ミアがそう言ってくれた。それについては異存はない。
ちなみにリーダーは依頼を受けたり、報酬を受け取ったりする権利がある。そのため、実力だけで性格を考慮せずにリーダーを選んでしまうと報酬を一人占めされたり、勝手に依頼を受けられたりすることがあるらしい。というか勇者じゃんそれ。
「分かった。名前についても案がある」
「どんなですか?」
「比翼の羽」
「却下です。そんな名前にしたら三人目のメンバーが入りづらすぎます」
ミアが真顔で反論する。それはそうだ。
気持ちとしてはずっと二人でもいいけど、さすがに魔術師二人きりでずっとやっていく訳にはいかない。
「じゃあ何かいいのある?」
「『紺碧の百合』というのはどうでしょう? 百合は様々な色がありますが、青ってないじゃないですか」
「いいね! どうせなら存在しないものを目指したいよね」
ミアが意図しているのかは分からないが、百合は「無垢」の象徴で、ミアに合っている。それに「無垢」というのは新しく出発しようという時には縁起がいいかもしれない。あと、ミアはローブの色といい、青が好きなのかもしれない。
「では『紺碧の百合』、リーダーはエルナさんで登録します。ついでに何か依頼は受けていきますか?」
「はい!」
受付嬢が依頼が束になった紙束を取り出す。
「ではAランクの依頼をお願い」
Aランクというのはレベル50以上の冒険者が受けるに適している依頼である。固有スキルが手に入るのはレベル50だから、ミアはすでに満たしているはずだ。私も今のレベルは43なのでAランクまであと少しであると言えなくもない。
が、私の言葉に受付嬢は驚きの声を上げる。
「お二人ともレベルはまあまあ高いですが、白魔術師と錬金術師というパーティー構成は人数が少ない上にバランスが悪いです。Bランクぐらいにしておいては?」
「そうですよ、最初ですし無難なものにしておいた方が」
ミアも少し不安そうにする。しかし私はミアの固有スキルと私の魔術があれば、Aランクくらいの依頼に出てくる魔物には勝算があった。
「大丈夫、一応緊急避難用のアイテムもあるから」
「分かりました。そこまで言うならエルナを信じます」
「ありがとう」
ミアが私を信じてくれたようで嬉しい。
私たちの間で話がまとまったので、受付嬢は渋々といった表情で依頼を見せる。とはいえ、時間がかかりそうなものや、ややこしい調査などが関わりそうなものを除くと、残るのはトロール討伐だけだった。
「じゃあこれで」
「分かりました。概要は一番簡単です。“魔の森”の奥深くにトロールが棲みついてしまったので、増える前に討伐して欲しいとのことです」
ここアドリアは魔術学校があるため、“魔術都市”などと呼ばれているが、東側に広がる“魔の森”と呼ばれる森があり、そこから採れる素材などの研究機関が元々の母体であった。“魔の森”は素材だけでなく魔物も現れる森で、こうして定期的に討伐依頼が出される。
一度完全に制圧して人間の管理下に置こうとしたところ素材なども産出されなくなったことがあり、最近は魔物の出現がないか定期的に見張りと討伐は行われているものの、それ以外は放置されている。
そして受付嬢は大体の位置が描かれた地図を手渡してくれる。場所まで分かっているなら本当にトロールを討伐すれば終わりという訳か。
「じゃあ早速行こう!」
「は、はい」
こうして私たちは森に向かった。
アドリアの街を一歩東に出ると、遠くの方に広大な森が広がっているのが見える。とはいえ、森までは歩いても一時間ほどだ。
「随分慣れてるようですけど、エルナは森には入ったことあるんですか?」
「うん。この街で冒険者してると大体森関係の依頼だから。魔物討伐か素材採取。あと個人的に素材を集めに入ったときもある」
「そうですかそれなら安心ですね」
ミアはすっかり私を安心してくれているようなので嬉しい。同時に、絶対にミアに失望されたくないというプレッシャーもあるけど。
“魔の森”と言っても入ってすぐの辺りはただ木と草が生い茂り、普通の小動物がいるだけだ。奥に向かって歩いていくにつれて、少しずつ珍しい植物や動物などが増えていく。
トロールはAランクの魔物というだけあって結構奥にいるようだった。途中、ウルフなどの下級魔物を倒しつつ奥へ向かうと、開けた空間に出る。
十メートルほどの広場になっている空間には巨大なボロ小屋が立っており、周辺には小動物の骨や皮が無造作に転がっている。この辺りの地面はトロールが整地(?)したのか岩肌がむき出しになっている。
私たちが近づいたのを察したのか、小屋のドアがぎしぎしと音を立てて開くと、中から棍棒を持った褐色の肌をした巨人が現れる。
トロールだ。身長は私たちの二倍ほどもあり、歩くたびに地響きが伝わってくるような気がする。普通のトロールはあまり装備などは身に着けていないと聞いていたが、こいつは皮鎧のようなものを纏っていた。
トロールは小屋に立てかけてあった二メートルほどはあろうかという棍棒を掴むと、振り上げる。
「大丈夫でしょうか?」
ミアが不安そうに声を上げる。
「うん、ただ私が詠唱したら詠唱短縮だけお願い」
「分かりました」
ミアが頷くと、いつも携帯している錬金術の素材となる鉄の粉を目の前の地面に撒く。トロールはそんな私の行動を無視してこちらに進んでくる。トロールが鉄の粉を踏んだところで私は呪文を唱える。
「クリエイト・ソード!」
「詠唱短縮!」
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
不意にトロールが悲鳴を上げる。見ると、トロールの分厚い足を突き抜けて剣が生えていた。トロールの足元で生成された剣がトロールの体重に踏みつけられて足を貫いたのである。通常錬金魔術は至近距離でなければ使えないが、私が取得した汎用スキル『魔術遠距離化』のおかげで少しなら離れていても使える。
とはいえ、足を貫かれたトロールは棍棒を振り回して暴れ回っており、容易に近づくことは出来ない。とりあえず棍棒を消すか。
「ディスアセンブル!」
「詠唱短縮!」
そのため今度は棍棒に対して分解の魔法をかけた。二メートルもあった巨大な棍棒はあっという間に私が持っていた鉄粉のようにさらさらと溶けていく。これも本来は相手の武器を分解する魔法ではなく、アイテムや製品を素材に戻す魔法だったけど、遠距離化して詠唱短縮すれば戦闘にも使えてしまう。
そこで私は自分の剣を抜くと、柄に鉄粉をまぶす。そして立ち往生しているトロールに向かって剣を突き出す。
錬金術師であったがこの一年、一人で冒険者をしていたため人並みには剣も使える。
「ホーリー・ウェポン」
ミアが掛けてくれた支援魔法で剣が白い光に包まれる。トロールは腕を振り回して私を叩き潰そうとするが、苦痛で動きが単純化しているので読みやすい。私はトロールの腕を潜り抜けて懐に入り、剣を突き出す。効果を増した剣は皮鎧と分厚い皮膚で守られたトロールの下腹部を貫く。そして。
「クリエイト・ソード!」
私は唱えるなり。すかさずミアが詠唱短縮をかけ、魔法が発動する。
次の瞬間、私の剣に付着していた鉄粉がトロールの体内で剣になり、トロールの腹からだらだらと血があふれ出す。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおお!」
突然内蔵をぐちゃぐちゃにされたトロールは悲鳴を上げて腹をかきむしるが、どうにもならない。やがてトロールはばたりとその場に倒れた。
『トロールを倒したのでレベルが上がった!
職業:錬金術師 レベル:43→56
固有スキル「魔力素材」を取得しました』
何か、思ったより急速にレベルアップしたな。
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