いつも一緒

「帰り、遅くなってごめんな」

 

 わたしは首を振った。謝らないで。きみの悲しそうな目を見る方がつらいから。


 さびしくなかったよ。嘘じゃないもん。


 頭を撫でられて目を細めていると、体を持ち上げられていた。不意打ちでお姫様だっこするのはずるい。きみの腕に顔を擦り寄せた。


 はぁ~。きみの匂い大好き。

 枕の匂いをこっそり嗅いでいるけれど、本体の心地よさには敵わない。


 だから、抱えたまま歩かないでよ。匂いを堪能できないでしょ。

 キッチン? ベッド? どこに行くつもりなの。

 

 首をのけぞらせて経路を確認する。

 そう言えば、あれって二週間ぶりだったような。


 わたしは腕から擦り抜けて逃走を図る。

 やだやだ。あのシャンプー高いから使わせない!


「やっぱりバレたか」

 

 きみは小さく舌打ちをする。

 ソファーの影に隠れたわたしと目を合わせ、ふわりと微笑んだ。


「お風呂行こうよ」


 つぶらな目に心が吸い寄せられるのを必死で耐えた。洗ってくれる手は好きだけど、ほかのことを考えていることは知っている。


「アンジェ。僕はただ、綺麗なきみでいてほしいだけだよ」


 不満が溶けていく。「いい子、いい子」と頭を撫でられれば、身を委ねることに後悔はない。


「今日はティーツリーの犬用シャンプーを買ってみたんだよ。かなり体質に合った成分だと思ってる。アンジェも気に入ったらリピートしようかな」


 洗った感覚を考えながら、次のシャンプーに狙いを定めていたのね。


 わたしにお金かけなくていいから、自分に投資しなよ。

 そばにいてくれるだけで幸せだから。

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