11 追憶 Ⅱ《クロード視点》

 クレアは何処にでもいそうな、可愛らしい普通の女の子だった。

 だからこそそんなクレアと顔を合わせて改めて感じる。


 自分達の生活が普通の女の子の犠牲の上で成り立っているという歪さを。


「どうしたんですか? 執事さんあまり顔色良くないですけど」


「あ、いや、大丈夫です。気にしないでください」


 クレアに指摘され思わず慌ててそう答えた。


「そ、そうですか。なら良かったです」


 そう言ってクレアは少し安心したように笑みを浮かべる。

 そしてそれから一拍空けて、クレアに問いかけられた。


「ところで、私は執事さんの事をなんて呼べばいいんでしょうか?」


「クロードで構いませんよ」


「じゃ、じゃあクロードさん」


「別にさんもいりません。それに先程から俺に敬語を使ってますが、俺は聖女様に仕える立場の人間です。元々そういう話し方なら構いませんが、そうでないならもっと肩の力を抜いて喋って貰っても大丈夫ですよ」


「そ、そう? えーっと、じゃあ……改めてよろしくね、クロード」


「はい、聖女様」


「……私の事もクレアで良いのに」


「いえ、私はあなたに仕える立場なので。そういう風に言わせてください」


「う、うん。まあクロードさん……ううん、クロードがそうしたいなら、それで良いと思うけど……」


「じゃあそれで」


 そう、そういう立場だ。

 立場が違う。

 これからこの国を一人で支えようという立派な女の子と自分なんかの立場が一緒であってたまるか。

 きっと本質的には……王よりも重い。


 決して口に出せるような話では無かったが、クロードの中ではそういう事になっていた。


 クロードの中だけはそういう事になっていた。





 クロードは初めてクレアという少女に出会った時、彼女の事を普通の女の子だと思った。

 実際それから接していてもそれは間違っていなかったと思う。

 立ち振る舞いも思想も全部。普通の範疇を超えていない。

 普通に可愛くて普通に優しい。

 多分こうして聖女に抜擢されなければ、どこかで平凡な幸せを掴んでいたのだろうなと思う。


 だけどそんな普通なクレアは、聖女としては異端もいいところだった。


 聖魔術の覚えも遅ければ出力も低くて脆く穴がある。

 今までの聖女と比較して遥かに無能。


 そんな評価を下されたクレアへの風当たりは、あまりに酷く鋭い物だった。

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