7 これまでも、これからも

「馬車に……移動式の聖結界?」


「うん。王都にずっと張ってた、魔物を寄ってこなくする聖結界の簡易版みたいな感じかな。まあ簡易版っていっても、全然簡単じゃないんだけどね。完璧な物でもないし」


 私は苦笑いを浮かべながら言う。


「元々王都に張ってた聖結界は固定した座標に張る結界だから、動く物体にってなると全然違う術式に組み替えないといけなくってさ……その基礎を一から考えて構築して、無茶苦茶色々調整して……そしたら試作段階でも形にするのにこんなに時間掛かっちゃった。ごめんね、此処までクロードに無理させちゃって」


 思いついてから何度も何度もクロード一人に戦って貰っていたけど、本当だったらもっと早くに形にしたかった。

 クロードが怪我をする所なんて絶対に見たくないから。


 ……もし。もしもだ。

 ……もし先代の聖女達が同じ状況に立たされても、先代達ならもっと手早く完璧な物を作っていただろう。

 ……私にはこれが限界。


 だけど。


「いえ、無理なんてしてないです。それより……本当に凄いですよお嬢は。紛いなりにもなんて言いますけど、そもそもきっと形にする事自体が難しい。それをこの短期間でやってるんですよ。絶対に無能なんかじゃない……何度でも言いますがお嬢は凄いんです。自信を持って誇っていいんですよ」


「……ありがと」


 クロードはそんな私を褒めてくれる。

 他の誰もが向けてくれないような感情を、クロードだけは向けてくれる。


 それが本当に嬉しくて。

 それを本当に嬉しいと思えたから……私はこれまで頑張ってこれたのだと思う。

 これからも頑張って行けるのだと思う。


「ところで……それを使ってお体は大丈夫ですか? 折角王都に聖結界を張っていた負荷から逃れられたのに……また辛いような事になってませんか?」


「ううん、大丈夫。ほら、色々難しい事はやってるし、それも試作の聖魔術だから効果範囲の割に負担は大きいけど……流石に王都全体に聖結界を張るのと馬車周辺じゃ比べ物にならないから。今の私は変わらずすっごい元気だよ」

 

 だから私は笑みを浮かべる。

 虚勢の一つや二つを張るくらいは……頑張ってみるよ。

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