極々東日記
※高校生の頃に書いたものの改訂版です。
古語を現代語訳したものなので拙いですが、どうぞ。
時系列としてはキャラバン加入前です。
極々東日記
国々広しといへども最果てあり、果ても果て、東端なるは極々東
そう高貴な身分でもなく、楽器の弾き方も知らず、さらには都がどうなっているかも知らず、極々東に住んでいる兄弟がいた。
兄の名前は禅承丸。彼は抜剣の道を学びたかったのだが嫡男だったので学に生きる道を選ばされ、窮屈な毎日を送っていた。
弟の名前は清凛丸。こちらは幼いながらに大人びており、それでいて美しく、兄弟の父母はかわいらしい清凛丸にばかり構っていた。
特に父、信蔵は何かにつけ反発する禅承丸を嫌っていた。
この日記は彼らの世話役の女たちが噂していたものを書き付けた書物である。
「禅と清」
禅承丸と清凛丸は、大変仲の良い兄弟である。いつ見てもしかめ面で悪人面の禅承も、かわいい清凛の前だけでは笑って見みせ、清凛も暇があるときには何かしら理由をつけて離れで書物を読んだり歌を詠んだりしている兄を訪ねていた。
しかし禅承は幼いころ外国から持ち込まれた匕首の呪いで病を患っている。
その呪いが清凛に災いをもたらしては困ると、二人の父母は禅承を離れに置き、食事なども持って行かせ、清凛に離れに行かないように言いつけていた。
最も、兄弟が離れることをかわいそうに思った世話役の女が取り次いで、二人は手紙などを送りあっていたようだが。
そんなある日のこと、清凛がいつものように「禅兄さまから手紙は届きましたか」と聞いたところ、女房役の女は不思議そうな顔をして、
「清様、歌が書かれております。」
と言い読み上げた。
わが身のみ 七重に八重にこと紡ぎ 花のいろはも 尋ねむ方なし
それを聞いた清凛丸は、世話役の女にこんな文を持たせた。
はなよりも 清らからなる 籠鳥の おちにぞおちる しづくなりけり
その歌を聞いた禅承はただただ涙をこぼして
「もう「禅にいさま、ぜんさま」っつって俺の後を追って歩く弟は、いねえんだろうな」
と、会うこともかなわない弟の今までの成長を見れないことを悲しんだという。
幾年か経ち、禅承は元服し、名を篤琉と改めた。
さすがに元服後に閉じ込めてはまずいと思ったのか、父も離れから禅承を出し、
清凛の護衛をしているときという条件下でのみ、禅承が家から出ることを許した。
今までの文学、歌の練習に加え、武道の稽古や護身術も学ぶようになり、禅承自身の時間はますます減っていき
また、このころから禅承の室に同じ血を分けた沃野内家、春夏秋冬家の女が幾人も出入りするようになった。
「禅承、深淵を覗くのこと」
如月二十日のころ、篤琉は夜もすがら清凛への文を書いていた。
これは父信蔵との確執を考えると、清凛が当主になったほうが安泰だと思う、といった内容でこのころ春夏秋冬家への婿養子入りが持ち上がったことなども考えたうえでの
「天津カ原に残れ」という遠回しの警告であった。
篤琉にしては珍しく、日付も変わってしまったころ庭のどこかから
「禅承様、こちらへいらっしゃってくださいまし」
と呼ぶ声が聞こえた。その声はこの家にいる誰の声にも似ておらず奇妙で、これを聞いた篤琉は
「おお、怖え。清が聞いたら、また一人で厠へ行けなくなっちまうなぁ…。」
と言って傍らにあった匕首をひっつかんで上着も着ず、靴なども履かずに庭に飛び出した。バケモノ退治のつもりだったのだろう。
最近は清凛を狙う輩も多い。どちらにしろちょうど文も書き終えたところだったので、寝る前の捕り物だ、と思った篤琉はのんきに構えていた。
聞こえた音のにぎやかなのをたどって篤琉はとうとう池のほとりまでたどり着いた。
「おいおい。池の中から声が聞こえんぞ。」
池から聞こえたような音は、水面のあちらの方からかすかに聞こえている。
篤琉は自分の傍らに匕首を置き、四つん這いになって池を覗き込んだ。
「気色わりいな。聴いたこともねえ。都のやつらか?」
と篤琉がつぶやき、もっと見ようと池に向かって身を乗り出した時、
「っ、」
手元が滑った彼の体はどっぷりと池に沈んでしまった。
三十分ほどたち、一時間ほどたち、ついに鶏が朝を告げても彼の体はとうとう浮かんでこず
池のほとりには彼の゛正妻゛である匕首がただ落ちているだけであった。
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