第5話

 嫌悪感に苛まれていると彼が立ち去ったようだ。

 ずっと考え事をしていた。彼女は明日からどんな顔をして彼に接するのだろう。盗み聞いた会話の限りでは笑いながら何事も無かったかのように話すことが出来ると推測できる。自分を振った人に私は笑顔を向けることは出来ない。私はそんな強くないもの。

 階段に座り自分と向き合っていると負のイメージが頭を過りすぎてしまう。

「背負いすぎかな」

 そう考え友人が待つ教室へと歩き始める。


 私の顔を見ると友人は

「おかえり」

 と一言優しい言葉を掛けてくれる。その後顔色を探りながら次の言葉を考えているようだ。

 何を話そうって顔に書いてるみたいだ。とても気を使ってくれている。それでいて優しく私を落ち込ませないように徹頭徹尾、ベストな距離感で支えてくれている。

「一先ず落ち着きそうだよ」

「そっか、色々お疲れさん」

「ありがと」

「最初入ってきた時暗い顔してたから彼は慰めてやらないとって思ってたけど大丈夫かな?」

「そう、かもね」

 彼女の気遣いに救われながらも私は完全に負の感情を払拭できたわけではなかった。

 心の奥底に潜む私の側面が自己嫌悪に浸らせてくる。だけどこれは私が自分で咀嚼しなければと思う。彼女はとても優しく、心の拠り所だ。だけど甘えてるだけじゃ私は前を向けない。

「ふーん、まあとりあえず帰ろっか」

「うん」

 腑抜けた私の体を引っ張るように私の先を歩く友人。

「どこか寄っていこうか」

「今日はいいや」

「そっか」

 今はそんな気力はないし、一人でこの倦怠感と向き合いたい、そんな気分でもあって。

 そんな私に寄り添って家まで送ってくれた友人には今度改めて感謝を伝えなければと思いつつも、自室に入るとベッドに倒れ込んでしまう。

「私ってこれからどうしたいのかな、彼が気になってるって言ってた子って誰だろう。 あんなの聞いた後にどんな顔をして話せばいいか分かんないよ」

 はぁ、と溜息も漏れる。

 なんか眠くなってきた。せめてお風呂には入りたいけどこのまま寝てしまいたい。

 二度漏れる溜息と共に私は眠りについた。

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