Episode34 準決勝マクロネア戦、そして ※3人称



 翌日──

 準決勝は昨日よりも観客が多い。ただでさえ超満員だった観客席は、立ち見客が外にまで溢れそうな勢いになっている。

 それもそのはず、今年のエキシビションマッチは3年生がおらず、2年生が一人しかいない。

 1年生は三人もいて、うち一人がF組でF等級の生徒なのだ。詳細を知りたい生徒が屋内競技場に詰めかけるのは当然だった。

  

『準決勝、第一試合が始まります! まず登場致しますのは、1年生の学年総合第七位! 閃光の槍使いと呼ばれた天才少女! マクロネア・ラクバレル選手ッ!!』


 会場の声援に答えながら、背丈の高い女子生徒が進む。

 ゆるくポニーテールされた髪は、艷やかな黒青色の光を放っている。

 意志の強そうな白金色ゴールデンスノーの瞳が、向こうから会場入りするアスベルを捉えた。


『続きましては、初撃決着記録を現在進行系で更新中の期待の新星! アスベル・F・シュトライム選手!!』


 盛大な歓声を受けながら、少年は手を振っている。

 やや寝癖混じりの純白髪に、瞳は血の色のように真紅。

 女顔とも言われるくらい幼い顔立ちながら、剣を握れば雰囲気が変貌する。


『それではルール変更についてお伝えします。準々決勝までは模擬武器、ダメージカウント型の試合形式でしたが、準決勝決勝では実戦用とダメージフルカウント型となります』


 模擬武器から実戦用へ。

 単純に魔元素マナ伝導率が飛躍的に向上することを意味する。

 ダメージフルカウント型というのは、一方が降参するか戦闘不能になるまで終わらないということ。

 

『それでは試合開始です!!』


 ──とんっ。

 音は静か。しかしとんでもなく速い。

 驚異的な脚力で一気にマクロネアの懐まで突っ込んだアスベルは、なめるように剣を閃かせた。明らかに準々決勝とは異なるスピード。そして威力。


 驚く暇すらなく、マクロネアは観客席を護る魔法障壁まで吹き飛ばされた。


『速い!! なんという速さ!! マクロネア選手、果たして大丈夫か!?』


 しかし──これで倒れるようなマクロネアではなかった。

 彼女はすぐに体勢を立て直すと、自身の身長を優に上回る魔槍・エブゼサリアを握る。彼女の魔元素マナがあらゆる能力項目ステータス・パロメータに注ぎ込まれていく。


「正直、ここまでとは思っていなかったぞ」

「そりゃどうも。こっちだって今の一撃で沈めるくらい頑張ったつもりなんだよ?」


 にしては、余裕のそうな笑みを浮かべるアスベル。

 事実、アスベルの一撃は本気ではなかった。決勝戦を見据えて六割ほどの力しか出していない。

 舐めていたわけではない。様子見だ。

 

「────ッ!」

 

 動き出したのはマクロネア。

 閃光の名に恥じない強烈な連続突きが繰り出され、アスベルも目をみはる。


(速い……でも……)  

 

「なに…………っ!?」


 掠っただけでも大ダメージを受けるようなマクロネアの刺突。

 ならば当たらなければいい。

 アスベルは巧妙に回避と受け流しを繰り返す。僅かに乱れた攻撃の合間を縫って踏み込み、斬撃を浴びせかける。間髪入れず魔槍エブゼサリアを手で引き寄せ、よろめいたマクロネアの横腹に強烈な蹴り飛ばしをヒットさせた。


「がはっ……ッ!!」


 魔元素マナによって防御力上昇ディフェンスアップされていない部位を的確に狙った攻撃。

 アスベルは、あの攻防のさなかで相手の魔元素マナの流れを見切り、躊躇なく行動に移した。剣皇第一候補ヴェルディに教えられた魔元素の流れを、たった一ヶ月ちょっと完璧にマスターしている。

 

「末恐ろしいことこの上ないな。ヴェルディあの男が興味を抱くわけだ」


 アスベルの疾駆。

 マクロネアは真正面から応えようと、槍を構えた。


「【魔元素解放リリース】──」

魔法攻撃アサルト・マグナかッ!?」


 革命の青冰剣リベラルフェーズが冷たく輝く。

 遠距離からの斬撃波か、それとも懐まで突っ込んでくるのか。

 コンマ数秒の判断を迫られ、マクロネアは槍で薙ぎ払いを行う。


「【確立ロック】──」


 そこに、アスベルから放たれた斬撃波が衝突して──

 薙ぎ払いきれなかった威力が、マクロネアの意識を容赦なく刈り取った。

 宝石が赤色に光り輝く。


『終了ぉおおお!! アスベル選手、準決勝をまたもや無傷で勝ち抜き決勝戦への切符をもぎ取りました!! 私は、私はぁぁぁあ、感動して涙が出そうですぅぅうう!!』

『ミリア部長!! 放送中に鼻水ジュルジュルしないでくださいッ!!』

『おめでどうございまず、アスベル選手ぅぅうううッ!!』


(いやいや、さすがに泣きすぎじゃない?)


 笑い半分、困惑半分。

 まぁ、彼女は置いておくとして。

 アスベルは倒れたマクロネアを起こしに行った。

 そのときにはすでに意識を取り戻していたが。

 

「大丈夫かい?」


「ああ。大丈夫、一人で立てる」


 毅然とした態度のマクロネア。

 成り上がり成り上がりと称されているだけあって、精神面はタフだ。

 

「ありがとうアスベル。戦えて良かった」

「こちらこそ。マクロネアさんと戦えて楽しかったよ」

「ん……」

 

 アスベルは、マクロネアと硬い握手を交わした。




 ◇



 そして。

 フィオナを倒した戦斧使いのロミとヨハネ皇子による、準決勝第二試合が始まろうとしていた。


『今まで、その場から一歩も動いていないヨハネ皇子です。いやはや、さすがに準決勝ともなれば少しは攻防が──』


 進行係の声は、けれども突如として途絶えた。


「【希望を知らぬままに深海の底に沈め】」


 ヨハネ皇子は、表情を一切動かすことはなかった。

 ただ腕を無造作に伸ばし、力のある言葉を放った。

 戦斧使いのロミは綺麗な長方形に区切られた紺色の水に囚われ、一気に意識を奪われた。


 ひどくあっけなく。

 準決勝第二試合はヨハネ皇子の勝利で幕を閉じた。


「……最強の水の使い手。紺色の水に閉じ込めた人間を一瞬で意識不明に陥れる。しかも底の見えない魔元素マナ量と扱う魔法の多様さ。冷静沈着で頭もキれる、か」


 それが、アスベルが決勝戦で戦うヨハネという男だ。

 しかし最初から予想していた。多くの対策を練って周到な準備もしてある。エキシビションマッチという公の場で、ヨハネ皇子に勝つために。

 いや────


「あの我が強くて自信過剰な皇子を地べたに這いつくばらせて、真正面から叩き潰してやる」


 すべてはF組の解体のために。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る