Episode33 準々決勝とフィオナの涙 ※3人称


 長期休み期間中、アスベルはヴェルディから魔導剣士としての立ち振舞い方を教わっていた。魔元素マナ量が多い者なら、攻撃に重きを置きつつ敏捷性や防御面にもバランスよく振り分けることができる。でもそれは、力量が同じくらいの相手と勝負するとき。


 エキシビションマッチ一回戦の相手ロイードは、初めて見る1年生チビアスベルに対して何の警戒心も抱いていなかった。だからアスベルは防御に回す魔元素マナを大幅カットし、初撃決着を望むべく敏捷と攻撃に魔元素マナを回し、見事勝利した。

 二回戦、三回戦も同じ要領だ。体力ともに魔元素マナの節約にもなる。アスベルの強さに気付いた相手選手は警戒を強めていたものの、スピード負けして初撃で破れている。


『魔導剣士は魔導士レベルで魔元素マナの扱いに長けていなければならない。戦況を見極め、自分の魔元素マナの絶対量と相談しながらどの項目パロメータにどれくらい魔元素を振るのか、強者相手にその一瞬の判断が命取りになる』

魔元素マナの扱い……』

『俺はそこまで量は多くないけどね。状況判断力がすごいって、当時の学園の教官から褒められたことがあるんだ』


 魔元素マナの量はアスベルより少ないものの、攻防の最中瞬時に魔元素マナ振りの項目変更パロメータ・チェンジできる天才児。それが剣皇アーサー第一候補たるヴェルディの強さだ。

 指導を受けながら、アスベルはずっとヴェルディの一挙手一投足を観察していた。言うなれば、見るだけで彼の魔元素マナの流れを掴み、自分のものとしようとしていた。


『君の何がすごいって、なにより魔元素マナの量が多く練り方が上質なことだ。だからもっと高度な戦い方ができると思う』

『高度な戦い方……?』

『ああ。普通の魔導剣士は、あくまでサブにしか魔法を使わない。俺が思うに、君ならもっと大胆な上級魔法の行使もできると思う。魔導士みたいに大技を何発も撃てなくても良い、ここぞというときの一発をぶち込むんだ』

『……魔導士みたいに』

『特に、相手がヨハネ皇子のような化け物級の魔導士ならこの戦い方のほうがいいと思う。──まぁ、今からエキシビションマッチまでに仕上げるのは大変だろうけど、どうする?』

『やります。やらせてください、ヴェルディさん』

『ああ。俺も卒業生のよしみで最後まで付き合ってあげるよ。どこまで上り詰めるのか楽しみにしておこうか』


 それからというもの、アスベルは常に自分の魔元素マナと向き合っていた。

 剣士として立ち振る舞えばどれくらいの魔元素マナがなくなり、どんな魔法なら使用できるようになるのか。


 

 進化を試すのはもうすぐだ──



『なんということでしょう!! アスベル選手の快進撃が止まることを知りません!! 準々決勝をまたもや一撃で仕留め、明日の準決勝に進出いたしましたっ!!』

「いいぞ!! アスベルっ!!」

「すごいわ、アスベルさんっ!!」

「1年のくせにやるじゃないか!!」 

 

 歓声があがる屋内競技場。

 アスベルは軽く手を振り返し、明日に備えるために控室に戻る。

 いろいろなものを荷物に詰め込んでいるとき、フィオナとユリアがやってきた。


「準決勝進出おめでとう、アスベル」

「……おめでとう……」

「二人ともありがとう」


 フィオナは複雑な表情を浮かべている。

 アスベルには心当たりがあった。


「負けたのか……?」

「うん。さっきの準々決勝でね。ベスト16には入れたから目標は達成したんだけど……」


 フィオナは自分の実力を試したいと言ってエキシビションマッチに参加していた。

 とても悔しかったのだろう。

 目元が赤く腫れている。

 

「いざ負けると……とっても悔しくて悔しくて仕方ないのよ。おかしいな、私はただ孤児院のみんなが笑顔で暮らせるように、奨学金を送って満足だったのに……」

「……フィオナ……」

「いいのユリア。──私ね、あなたの隣に立ちたいの。あなたの仲間である以上に、背中を預けられるくらいのパートナーとして隣に立ちたいの。それは……ダメ?」

「ダメじゃないよ」


 濡れそぼった瞳が、再び大量の液体をたたえ始める。

 それは嬉しさだ。

 フィオナはアスベルに憧れた。同時に、アスベルにとって自分とは背中を預けられるような


「ありがとう。これだけ聞けたら、いいわ。私はもっと上を目指す。もっと強くなるわ」


 そして、それを見ていたユリアは──

 フィオナの幼馴染であるユリアは、悲しみをこらえるようにそっと目を伏せていた。

 大好きな親友フィオナに芽生えた新たな感情。それを、自分の我儘で押さえつけてはいけない。

 報われなくたっていい。

 ただ笑顔で一緒にいれればいい。

 ユリアは、あくまでフィオナの幼馴染のユリアとして、フィオナの隣にいると決めていた。


「ユリア……? 大丈夫……?」

「……うん。大丈夫……」


 フィオナがユリアの不安げな様子で見つめている。

 アスベルもそんな二人の様子を気遣い、「さ、疲れたし帰ろう帰ろう」と、わざとおどけた調子を見せる。


 そんなとき、ちょうど最後の準々決勝が終わったようで、盛大な拍手が控室まで響いていた。

 アスベルは控室にあるモニターをつける。

 

『3年生トップクラスの魔導士をくだし、準決勝最後に進出した者はなんとラクバレル財団のお嬢様!! マクロネア・ラクバレル選手ですッ!!』

「あ、あいつこんなに強かったの!?」

「らしいね。マクロネアさんは確か槍使い。学年総合第七位なだけあるよ」


 続いて、司会進行係が準決勝の組分けに移った。

 残っている四人は、アスベル、ヨハネ皇子、マクロネア、2年生学年一位の戦斧使いの女子生徒だ。


(さて……誰と当たるのやら……)

 

『Aブロックで戦う選手が決定致しました。1年F組アスベル・F・シュトライム選手と、1年S組のマクロネア・ラクバレル選手です!!』


(マクロネアさんか……)


 長期休み期間中、マクロネアはフィオナたちに勉強を教えていた。

 情報は少ない。

 それでも、アスベルは絶対に勝つ自信があった。


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