Episode29 仲間が四人に増えた
強化合宿が始まり、すでに三日が経過していた。
僕はヴェルディさん指導のもと、魔導剣士としての戦い方を覚えている。やっぱりヴェルディさんはすごく強い。特別授業のとき、互角に戦っていたように見えていたけど、手加減してくれたのだと痛感した。
ヴェルディさんは二十一歳だから、僕とは五歳も離れている。
純粋な経験の差なのだろうか。
「そろそろ休憩しようか」
「いえ、僕はまだ出来ます!」
「若いな。ぶっ続けでやりすぎても筋肉が休まらないぞ」
仕方ない、休むか。
僕は逐一ヴェルディさんの動きを観察していた。
ヴェルディさんはお手本だ。
化け物級の強さと折れない精神面を兼ね備えている。魔導剣士としてあまたのS級魔導士を下し、最年少で
学んで自分の糧として、必ずヴェルディさんを超えるような最強の剣士となる。そう僕は強く思っている。
「休憩時間?」
「そ。そっちは?」
「朝から苦手な暗記問題に四苦八苦しているところ」
リビングには、ボトルに口をつけて水を飲んでいるフィオナがいた。
僕も冷蔵庫からボトルを取り出して口に含む。
「あぁ、うまい……」
「ふふっ……」
「え、なんで笑うの?」
「だって、首からタオル掛けて、前髪がおでこに張り付くくらい汗かいてるんだもの。あのアスベルがよ。編入して早々模擬試合で派手にB組をぶっ倒したり、《
そんなに笑うことなのかな。
「アスベルでも汗ってかくのね」
「当たり前だよ。っていうか稽古中はいつも汗だくになるまでやってるけど」
「え、なにそれ稽古中? そんな激しい運動、いつやってるの?」
「いつって、朝登校する前とみんなの剣術指導が終わった放課後だけど」
登校するまえの二時間と、放課後の一時間。F組や他クラスの剣術指導の時間と、勉強にあてなければいけない時間があるため、どうしてもこれくらいの稽古時間になってしまう。
もう六年も前からやっている習慣だ。
「やっぱり、アスベルってすごいわね」
「そんなことないよ。僕はみんなに認められたい思いが強いだけなんだ」
「そう思っても、行動に移せるのはすごいことよ。私はそこまで努力してこなかったから」
「他人の努力を尊敬するのもいいけど、それは自分のやってきた努力を否定することに使っちゃいけないよ。自分ができる範囲の努力をすればいいと思う」
「できる範囲の……」
フィオナは頷き、そして僕のほうに近づいてくる。
「最近ね、アスベルを見て思うようになったの。アスベルは本気で、私たちのようなF等級の子が虐げられる状況を救おうとしてる。でも私は? 私は孤児院に援助するためだけに学園に入学したわ。でもそれは、その場限りの支援にしかならない。孤児院にはたくさんのF等級の子たちもいる、その子達を救うには根本的な行動を起こさないといけないって」
「うん」
「改めてお願いしたいの。私をあなたの仲間にいれて」
「いいよってあの保健室のときに言ったと思うけど」
「あのときは……正直、そこまで深く考えていなかったわ。ごめんなさい。でも今回は違うの。より深く決心したわ」
フィオナが大きく頭を下げた。
今、彼女の目には決意が表れている。
きっと簡単には折れないだろう。
「ありがとう。僕はフィオナみたいな強くて綺麗な女性が仲間になってくれて、とっても嬉しいよ」
「つよ、強くて綺麗っ!?」
え、そんなに反応すること?
あまりにも大きなリアクションだったため、僕も少し戸惑ってしまう。
「こほんっ。そ、そんなことより、休み前に言ってたじゃない? リヒトやユリアやメルに話すって」
「あぁ、そうだね」
「私が連れてくるわ」
そして。
僕は自分の考えていること、その革命的な思想を三人に話した。
正直、笑われたっておかしくないような話だったけど、三人とも真剣に聞いてくれた。
「わ、私は……本当に、アスベル君に感謝してます。今までずっと、周りの目を気にしすぎて、自分に自信がなかった私を、真剣に変えようとしてくれました。だから私は、アスベル君についていきたいです……」
「メル、ありがとう」
微笑みかけると、メルは恥ずかしそうに頬を赤らめた。
「わたしは……フィオナの背中を守るって決めてる。フィオナがアスベル君についていくと言うのなら、わたしもそのあとを追いかける」
「ユリアはそのままでいいよ。むしろ、フィオナの背中にいるユリアのほうが強い気がするし」
「うん。フィオナ、わたし……二番目でもいいよ……?」
「……なに言ってるのユリア。私にとってユリアは一番よ???」
「うん……!」
一番と言われたユリアの嬉しそうな顔といったら。
なんか、微妙に切なくなるのはなぜなのだろうかと──
「おっほん。最後は俺やな。いやぁ、アスベルのベストパートナーたるリヒト君の答えなんて決まってるも同然やわ。なんたって俺は始めっからアスベルがすごいヤツって──」
「話はまとまったわね。アスベルの夢にも一歩近づくってわけね」
「俺の話は!? ねぇ副リーダー、俺の話はっ!?!?」
「あんたの話なんて誰も聞いてないわよ」
「ひどいっ!?!?」
「まぁまぁ二人とも」
フィオナとリヒトをなだめる。
とにかく、僕は仲間を増やすことに成功した。
F等級の大躍進はこれからだ──
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