Episode28 成り上がりと剣皇第一候補


 長期休みは、一年の三分の一が終了したことを意味している。

 寮生活をしている僕たちは、基本的に外出を許可されていない。

 でもこの期間だけは帰省が許可され、外へ遊びに行けるのだ。


 皇帝魔獣セラフィネとの契約により、僕の魔元素マナ量は飛躍的に多くなった。

 でも、まだ慣れない。

 特に戦いでは、この膨大な量を上手く使いこなせていないのだ。

 この調子でエキシビションマッチに臨んでも、二年生や三年生に勝つことはもちろん、優勝候補筆頭であるヨハネ皇子を下すことなどできないと考えている。


 そこで僕は、シェリーから特別な魔導剣士強化プログラムなるものを組んでもらった。シェリーによると、僕は基本的な体術こそ抜きん出ているものの、それだけではヨハネ皇子並の魔導士には勝てないと言われた。


『いいかい? 剣士の弱点は間合いの狭さだ。逆に魔導士は、とんでもない距離からでも相手を一撃で仕留めることが出来る。相手がヨハネ皇子並みの猛者だった場合は、やり方を変えなくちゃいけない』


 ヨハネ皇子は一年生ながらS級魔導士の称号を獲得している。

 適性魔法は水、風、光、陰という驚異の四属性で、非適性魔法もすべて扱えると言われている。

 そのなかでも、抜きん出て水と光属性が強い。


『キミの魔元素マナ量は申し分ないレベルになった。魔導剣士として最高の潜在能力ポテンシャルを持っている。あとはこの長期休み期間、ひたすら魔導剣士としての鍛錬を積んでいけばヨハネ皇子に勝てるだろう』


 ひたすら鍛錬のノルマをこなしていく日々。

 あまり楽しいとは言えない期間だったが、唯一の楽しみがあった。

 それは──


「いやぁ、F組みんなで強化合宿なんてなんか最高やん? しかも今回は教官の目も他クラスの生徒の目もない!! 自由を謳歌できるで!!」

「アンタねぇ、合宿の目的は休み明けの定期試験なのよ? 遊びに来たんじゃないわ」

「なんやと!?」

「……フィオナの言う通り……」

「うぅ、喧嘩はやめてください二人とも……」


 F組全員が集まって、休み明けの定期試験に備える。

 実技の成績をあげることも大切だが、勉強もできなければ総合成績がS+になることはない。F組の解体の条件の一つは、F組全員の成績をS+にすることだ。

 無理難題だと思う。全員をA+にする目標が急にS+に変更。反発されるかもと思ったが、みんなすんなり受け入れてくれた。

 

「よっしゃ! 俺らの底力を見せて、S組、A組、B組、教官たちの度肝を抜いたるで!! おまえら俺についてこい!!」

「なんで元副リーダーリヒトがリーダー面してんのよ」

「ええやんか別に!」

「まぁまぁ二人とも、落ち着いて落ち着いて。リヒトの盛り上げセンスには感謝してるんだから、フィオナも大目に見てあげなよ」

「むっ。……仕方ないわねぇ」


 喧嘩話はほどほどに。

 僕たちは一週間を過ごす合宿所に到着した。この合宿所は、ゲラマニ理事長が特別に貸してくれた別荘だ。さすが理事長の別荘ということもあって、建物は綺麗だし海も見える。周りに人もいないので、合宿には最高だ。


「あれ? あそこに誰かいるわよ」

「え……お、お化けですか……!?」


 フィオナとメルが青ざめた顔をしている。

 目をこらしてみると女の子だった。制服姿だから学園の生徒なのだろう。でもF組にはメルとユリアとフィオナしか女子生徒はいない。


「……え、なんでS組の奴がいるのよ!?」


 フィオナの言う通りだった。

 腰まであるような長い黒髪をポニーテールにしている美少女。

 右手に携えてあるのは、彼女の武器である槍だろう。

 それにしてもなぜ、S組の生徒がここにいるのだろう。


「マクロネアさんだよね」


 学年総合第七位のマクロネア。

 理事長の推薦で入学したと言われている。人によっては「エコヒーキ」だとも。

 だから《高貴なる会レギオン》メンバーにもS組内でも距離を置かれているらしい。


「私はゲラマニ理事長に言われてF組の手伝いをしに来た」


 表立って支援はできないと言っていたゲラマニ理事長。

 もしかして、彼女を遣わせることで僕たちF組を支援しようとしているのだろうか。


「申し出はありがたいけど、S組は私達の敵よ。まだ信用できないわ。アスベルはどう思うの?」

「マクロネアさんがS組で浮いてるということは知ってる。ゲラマニ理事長は信用してもいいだろうし、実際にS組にいる人から試験対策を聞けるのはありだと思う」

「S組では定期試験対策として特別な授業が開かれる。そのノウハウを君たちに教えよう」


 それはありがたい。

 ただ闇雲に暗記を繰り返しても、いいところで八割が限界。

 九割を目指さないとS+にはなれないだろう。

 

「そして、アスベルだったかな」

「なんだい?」

「君には優秀な剣術監督が必要だ。そこで、私は彼を連れてきた」


 そう言って、マクロネアさんは顎でくいと示した。

 玄関から誰かが出てくる。

 赤髪に純白の軍服姿の優男……──って。


「すでに対戦した相手だから知っているだろう。我がラクバレル財団が是非にと後見役を買って出たところ、受け入れてくれた。剣皇アーサー第一候補、ヴェルディ・ルチア・ベルベット。サルモージュ皇国で最高の魔導剣士だ。剣術は彼から教わると良い」

「どうしてヴェルディさんが?」

「ゲラマニ理事長に言われてね、アスベル君に魔導剣士の真髄を教えてあげてくれってさ。俺、理事長の教え子だから、まぁいいかなって」


 すごい。

 まさかヴェルディさんに剣術指導してもらえるなんて。

 こんな幸運滅多にない。

 

「ヨハネ皇子に喧嘩売ったんだって? 俺の指導がどれだけ助けになるのか分からないけど、よろしくね」

「はい、よろしくおねがいします!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る