Episode23 圧倒的な力を見せつけて
どうやらノーザンは、“生徒指導”で見せしめにしたいらしい。
屋外訓練施設に着いた頃には、生徒たちが集まってきていた。
ほとんどがA組の生徒だ。
そのうちの一割は僕に好意的だ。毎日の放課後、剣の稽古について指導している者たちだから、慕ってくれている。ちょっとだけ嬉しい。
もう半分はF等級が嫌いな者たちだろう。僕に対して唾を吐きかける者もいる。
『なんじゃなんじゃ、喧嘩か?』
軽くストレッチをしていると、狼の姿をしたセラフィネがやってきた。
「喧嘩じゃないよ、ただの見せしめ。たぶん僕をいたぶってS組の格をあげたいんじゃないか?」
『なるほどな。最近、貴様の人気はうなぎ登りじゃから、嫉妬したんじゃな。まぁしょせんは小者がすることよ。少しは遊んでやれ』
「遊ぶって……。っていうか人前に出るのを躊躇わないところなんて、さすがセラフィネだな」
魔獣としての気配や瘴気は完璧に消しているものの、狼として登場したセラフィネに驚いている生徒は多い。学園には契約魔獣としてセラフィネを登録しているから、バレるのは別に構わない。
魔獣を使役する人間として、さらに注目されて
『余は余のやりたいように、快楽のなすままに行動する。それを誰かが制限しようなどと、たとえ主たる貴様でも出来ぬことよ』
ま、契約で無理やり命令したら出来ないこともないだろうが。
そこまでして彼女の行動を制限したいわけではない。
「妙な獣を連れているのだな。F等級は猛獣使いでもあったのか?」
「そのとおりだよ。あ、言っておくけど彼女には手出ししないよう言ってある。ちゃんと一対一で戦おう」
「ふん。俺様としては、たとえ反則となろうとも二対一できてもいいのだぞ? F等級風情が、この俺様に勝てるわけがない」
『貴様、余の主を侮辱したな。後悔させてやるぞ』
「待てセラフィネ」
牙をみせて臨戦態勢になりそうだったセラフィネを止める。
ノーザンの言う通り、学園内では使役した魔獣を戦わせてはいけない。なぜなら、魔獣が暴れて生徒を死亡させた事件が起きたからなのだという。魔獣を連れ歩いていいのは寮内だけだ。
「このまま戦うよ」
「いい度胸だ。学園の剣士決闘方式に則るぞ、それでいいな?」
「ああ」
剣士決闘方式は二種類ある。
教官立ち会いのもと戦うものと、教官が立ち会わないものだ。
今回の場合は教官が立ち会わないほう。実剣の利用は許されず、模擬剣でのみ使用が許可される。相手が降参するか、剣を弾き飛ばしたら試合終了。
寸止めが推奨される方式だが──
「全力で叩き潰してやる。F等級などにたぶらかされた、A組やB組の連中の心を醒まさせてやるぞ」
相手が寸止めしそうにないから、僕も寸止めしない。
全力で叩き潰しにいこう。
「いくぞッ!!」
ノーザンが突っ込んでくる。
確かにノーザンの動きはかなり速いし、一発一発はとても重い。
でも──
(
ヴェルディさんはもっと強く、もっと激しい太刀だった。
頑張って応戦したけれど、思い切り吹き飛ばされたくらいだ。
しかも華がある。
それに比べたら、高等部一年の学年トップくらいの剣技なんて、子どものお遊びくらいなものだ。
「ねぇ」
「なんだ?」
攻撃を受けつつ、僕はノーザンに話しかけた。
「ヴェルディさんは君の数倍強い一撃を放っていたよ」
「なっ────ッ!? この俺様が、B等級風情の成り上がり男に劣るとでも言いたいのかッ!?」
「そうさ」
ノーザンの軸がぶれ、わずかな隙ができる。
スピードをあげながら、思い切り剣をノーザンの腹に叩き込んだ。
思い切り吹き飛ばされるノーザン。
「っぅ…………!!」
誰が見ても勝敗は明らか。
しかしノーザンは模擬剣を手放そうとしない。
それどころか、より一層闘争心を燃やして僕に挑みかかろうとする。
「F等級には負けない。F等級は、皇国の汚点……っ、ゴミの掃討は貴族の義務だ!!」
……哀れだ。
相手がF等級だから負けを認めない。
負けを認めてしまえば、自分が今まで散々バカにしてきた存在よりも弱い、ということが証明されてしまう。ノーザンはF等級に負けた、そんな噂が立てばどれだけプライドがズタズタにされるのだろうか。
「ねえノーザン」
「なん、だ……っ?」
「君さ、どうしてF等級はゴミなんて思ってるの? 今まで僕以外のF等級の子たちを見たことがあるの?」
「そんなもの、周りの大人がそう言うからに決まってるだろう? 俺様のような高い身分の人間が、どうしてゴミの存在に目を向けなければならない? 反吐が出るな。F等級は税金を貪る家畜以下の存在だと、
あぁこれだ。
これが皇国全体に染み渡っている等級概念だ。
F等級の人々がどんな暮らしをしているのか、どれだけ辛い思いをしているのか。どれだけ優秀でも、勉強をしようと思っても、ただF等級だからという理由で一掃され、踏みにじられる。
そのくせアイツらは知ろうともせずに、ただ周りがF等級のことをゴミだと言うから、そういうものなんだと自分を納得させている。
反吐が出るのはこっちのほうだ。
僕はこれを──
(────ぶっ壊してやる)
「覚悟し、────ッッッ!?」
僕は、割れるくらいの勢いで地面を踏み抜く。音速を超える早さで振り抜かれた剣が、防御の構えをとるノーザンを叩いた。重い一撃に耐えきれず、逃げるように後退するノーザン。
「こ、こいつ…………ッ!?」
間髪入れず、すくいあげるように剣を閃かせる。剣圧で生じた衝撃波が辺りに拡散。応じたノーザンの模擬剣が、衝撃に耐えきれなくて真っ二つに折れた。
「な…………こんな、ことが……っ」
「僕の勝ちだ。これで満足かい?」
僕は、呆然とするノーザンを見下ろしていた。
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