Episode22 学年第三位


「アスベル、ここの問題を教えてほしいんだけど」

「いいよフィオナ」

「俺もやアスベル! ここの数式の意味がわからへんねん!」

「りょーかいリヒト」

「……アスベル……魔法の練習、付き合って……」

「このあいだの続きだね。少しずつ出力をあげていこうユリア」

「アスベル君……えと、剣術の稽古を……」

「分かってるよメル。もっと攻撃力をあげるためには……」


「「「アスベル君!! 俺たちにも!!!」」」


「順番に行くから待ってな」


 教室で決起集会のようなものを行って、はや一ヶ月。

 僕は先日の定期試験を終え、ついに総合成績をS+にすることができた。

 実技と勉強がともに9割を越えていないと取れない成績だ。

 今はこうやってF組のリーダーとして、みんなの成績アップをはかっている。

 長期休み明けの定期試験では、F組全員がA+以上を取れるようにするつもりだ。特に、フィオナとユリアとリヒトには、早々とS+を狙いにいってほしいところ。


 すべてはF組の解体のため。

 僕はこのあいだ、初めてゲラマニ理事長に会いに行った。

 シェリーは理事長の古い友人なのだという。

 おかげで会食の席まで設けさせてもらい、落ち着いて話をすることができた。

 僕がF等級であることなど、理事長はもちろん知っている。


『ワタシが目指すべき学園の姿は、等級など関係アリマセン。ただ優秀な生徒が優秀な講師たちに教えを説かれ、己が目指すべき道とは何かを見つめる学び舎でありたいのデス』


 ゲラマニ理事長は……正直言って変人だった。

 年齢は五十を超えているはずなのに、いやに若くにみえる。かといって好青年かといえばそうではなくて、むしろ他人を蹴落としていそうな悪役面をしていた。

 

『F等級を受け入れる体制を整えるまで、ずいぶんと時を費やしまシタ。しかし、これ以上の平等を与えるのは不可能、ワタシでも貴族どもを黙らせる方法はなかったのデス。そ・こ・で、古い友人であるシェリアヴィーツ先生にご教授を賜りまシタ。こうなったら内側からメスを入れるしかないと、ネ』


 学園にはびこる等級という不平等。

 ゲラマニ理事長は、C等級からF等級を入学できるようにするだけで精一杯だった。上流貴族に色々とヤッカミをかけられ、動けないというのだ。


『そこで登場した英雄ヒーローがアナタなのデス。アスベル・F・シュトライムよ、ワタシの理想とする学園に近づけるため、どうぞ学園で嵐を巻き起こしてください。Fの名を持つ革命家なら出来るはずデス』


 理事長は立場上、表立って僕を支援することが出来ない。

 ただ静観する立場に留まる、と──

 でもF組の解体には賛成してくれた。

 そのための条件に必要なのが、F組の存在意義をあげること。

 全員の成績アップが不可欠なのだ。


「──貴様がアスベルだな」

「そうだけど、学年第三位がF組の僕に何?」


 突然目の前に現れたのは、見上げるような大男。

 腕は丸太のように太く、胸板はこれでもかというほど分厚い。

 とても同じ16歳とは思えない彼は、ロメリオ・ノーザン。

 学年で一、二を争う剣士だ。


「B組やA組の生徒をたぶらかし、己の思想に染めようと謀るのはやめてもらおう」

「思想に染める? 剣や勉強を教える行為が、テロリズム思想とでも言いたいのか?」

「そうだ。F等級のような家畜以下の存在がのさばっているだけでも我慢ならんのに、B組やA組の生徒にまでテロリズム思想を吹聴しようなど、言語道断。崇高な聖ハンスロズエリア学園に、貴様のようなゴミはいらん」


 これはまた、そうとうな貴族教育が染み込んでいる。

 F等級はゴミ、などという等級概念教育があるせいだ。現皇政のトップが考えた思想教育らしいが、ここまで来ると憎悪を通り越して呆れる。


 こういうヤツに、言葉で何を言っても無駄だ。


「まさか僕に注意勧告だけしに来たってわけじゃないだろうね」

「そんなわけないだろう。これは“生徒指導”だ」

「そう」


 何となく誰が指示をしたのか分かった。

 S組の上位七人のみが出席できる《高貴なる会レギオン》。

 そのトップオブトップ、学年第一位にして皇位継承権第一位でもあるヨハネ皇子が命令したんだろう。彼は勉学実技共に化け物級の猛者で、学園最強の魔導士とも言われている。

 ただ、皇族に代々伝わる等級概念教育のせいで格下への差別行為がひどいらしい。


 F等級の僕が頭角を出し始めたものだから気に入らないのだろう。

 S+を取得したことで、こうやって部下を送りつけて排除しようとしてきた。

 

「いいよ。その“生徒指導”、受けてたつよ」

 


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