Episode21 《高貴なる会》※3人称


 

 ハンスロズエリア学園内、某会議室。

 通称・《高貴なる会レギオン》──


 S組のなかでも、等級も成績もエリートの人間だけが集まる集会。学年成績のトップ7名しか入ることが出来ない。学年全体を取りまとめるのはもちろん、落ちこぼれそうな生徒に指導を行うというマルチタスクをこなす。賢さと強さを兼ね備えていなければならないので、総合成績S+は当たり前。


 7人中6人がS等級という超高等級の面々のなかで──


「どう思いますかねみなさん。最近のF組について」


 《高貴なる会レギオン》のまとめ役に任命された彼は、にっこりしながら出席者を見渡した。サルモージュ皇国の皇位継承権第一位、ヨハネ・ファン・アウクスブルグ。人類史上かつてない天才の舞姫と言われた、天原の巫女・メリアノの直系の子孫である。

 もちろん学年総合第一位。

 文武両道、才色兼備という優れた逸材だ。


「先の定期試験で、F組の生徒が総合成績S+を獲得したそうです。名を、アスベル・F・シュトライム」


 まとめ役ヨハネの声に場がざわめく。


「F等級がS+だと? ありえんな。奴らは怠惰であり、皇国の税金を貪る人以下の存在だ」


「あなたのお気持ちは察することができますよノーザン」


 ロメリオ・ノーザン。

 学年総合第三位の実力者にして、ノーザン公爵家の次期当主と言われる青年。剣士としての実力は学年の一位、二位を争うほど。


「彼ら──F等級は皇国の汚点。粛清すべき存在です。我が父上も、そのまた父上も、ずっと祖先から言い伝わっています。F等級に価値はない。彼らはただ、酒をあおり色恋に溺れ、皇国人なら誰もが行うべき労働の義務を放棄している」

 

「そうよ、お父様が仰っていたわ。F等級は奴隷にすら劣る最悪の人間ども。人間の尊厳すら捨て、自ら進んでゴミ溜めに暮らしているというわ。なんて嫌な人たちなの」


 学年四位、レストレア伯爵家のご令嬢フェメロも、心底嫌そうに眉間にシワを寄せる。

 皇族、貴族においてF等級に対する共通概念は、「F等級は自ら労働をしないゴミ共の集団」だ。なぜならば、みんなそういう風にF等級のことを風評するから。親から、友人から、家庭教師からF等級とはどういうものかを刷り込まれれば、誰もが自然とそうなっていく。


 この会合に出席しているほとんどが、同じような感覚でF等級のことを見ていた。

 ただ、一人の少女を除いて。


「……みんながみんな働いていないわけではないだろう……」


「何か言いましたか? 意見があるのならしっかりと大きな声で仰っていただかないと困りますね。第七位、ラクバレル財団のご息女・マクロネア」


「全員が働いていないわけではないと言ったんだ。仮にも貴族と平民が平等である理念を掲げている我が学園で、そのような発言は明らかな差別思想だと申している」


 彼女は学年第七位、ラクバレル財団の娘であるマクロネア。

 会合で唯一、S等級ではなくA等級の身分を持っている。ラクバレル財団は有名な魔法具を専門に売買するグループ。一般向けから軍事領域まで多岐に渡り、資産規模は上流貴族に迫る勢いなのだという。


 それでも、彼女は成り上がってきたA等級の身分。

 選ばれたS等級の身分である《高貴なる会レギオン》のメンバーにとって、彼女は本当に異質な存在だった。


「あなたが理事長の推薦枠で入っていなければ、この会合に出席させるつもりはなかったですね」


 そう。

 彼女は理事長の推薦で中等部からB組として入学し、順調に成績を伸ばしてS組に食い込んできたのだ。ヨハネはもちろんのこと、他のメンバーだってS等級以外の者を出席させることに反対した。

 しかし第七位の成績がある以上、出席の権利がある。

 彼女は自ら会合への参加を決めた。


「あのいけすかねぇ理事長の差し金だ。俺様はおまえを仲間だと認めないぞ」


「今回ばかりはノーザンに同意ですの。わたくしも彼女を仲間とは思いませんわ」


「どう思おうと結構だ。私は、私のやりたいようにする」


 動じない成り上がり風情マクロネア

 ノーザンとフェメロは猛抗議の姿勢を見せるが──


「まぁ、彼女はゲラマニ理事長のお気に入りだ。ここは水に流しておくとしましょう」

 

 ヨハネは笑う。


「議題を戻しましょう。アスベルという生徒がS+になったことは、驚くほどのスピードで学園中を駆け巡っています。おかげで、B組だけでなくA組の一部生徒にもF等級に剣を習おうとする者が現れたと耳にしました」


「F等級に剣を習おうなどと、不届き千万!! 教わるなら俺様にしろ!!」


「ええ。それにどうやら、F組全体が士気を高め成績アップを果たし、秘密裏に理事長と何かを交渉しているようです。何を目的に理事長と交渉しているのか、その情報収集をお願いしたいのです。ノーザン、あなたが情報収集と“生徒指導”を行ってください」


「任せておけ。俺様なら、あんなヒョロ男一捻りだ」


 ノーザンは、ニヤリと笑みを浮かべていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る