第三部 F組解体編
Episode20 革命の狼煙をあげろ
ヴィランの森合宿が終了して、僕たちF組の評価がかなり良くなったように感じる。B組第5Grのマイゴティス教官の態度が軟化したことで、それを見た周りの教官たちがF組への認識を改めるようになったのだ。
また、自ら皇帝魔獣の封印場所……というより自ら封印を施して休んでいたセラフィネに怪我を負わせられたクインは、それ以降借りてきた猫のように大人しくなった。放課後に僕とすれ違うと、恐ろしいものを見るかのように目を合わせようとしない。……ていうか、彼は覚えているんだろうか? セラフィネに殺されそうになって、そのあと僕が来たとこまでは覚えているんだろうけど。
気になったのでセラフィネに聞いてみた。
『いいや、余のことはもちろん貴様と肝試しとやらをしたことすら覚えていないはずだ』
「でも僕を見て怖がってたぞ。何かしたな?」
『余は人の恐怖心を喰らうことを生きがいにしておる。たっぷりと恐怖を植え付けたあと、あの生徒をどのように味わうのかなど、こちらの勝手であろう』
「なるほど。殺さないのなら好きにしてくれ」
『あぁ。余は貴様の下僕だ、人を殺すなという命令だけは守るぞ』
セラフィネは自由気ままだ。
下僕とか言ってる割に狼の姿で勝手に動き回るし、僕にちょっかいをかけようとする生徒を陰で弄んでたりする。おかげで僕は良い意味でも悪い意味でも目立ち、1年生で知らぬ者はいないくらい有名になった。
順調だ。
ようやく次の段階に進める。
「集まってくれてありがとう」
僕はとある作戦を遂行するためにF組全員を集めていた。
壇上からF組全員を見下ろす。
僕と同じF等級のフィオナ。孤児院から出てきて、
次はユリア。
フィオナとは幼馴染で、このあいだA等級への昇格が確定した。フィオナと同じ、というよりフィオナと一緒にいたいがために学園に入学。A組への移動要請を蹴り飛ばし、F組残留を決めたすごい女子生徒。フィオナに負けず劣らず優秀な成績を修めている。
が、総合成績はA-。こちらは魔導士としての純粋な鍛錬不足が原因なので、シェリー協力のもと鍛錬を重ねればS組並みの魔導士を目指せるはずだ。
そしてメル。魔導剣士を目指しており、総合成績はDながらも
狙撃手のリヒトの総合成績はB+。意外と実技より勉強のほうが成績が良く、F組の中ではフィオナより頭が良い。てんでダメなのは実技の近接戦闘だが、後方からの攻撃・支援魔法に長けている。命中率は驚異の百発百中で、二百メートル先の空き缶を撃ち抜いた技量には驚かされた。
他の男子4人は特筆することはないものの、四人全員B-。これはB組の上位層に食い込むレベルだ。F組という劣悪な環境でも腐ることなく勉学に励む部分は、さすが名門貴族学園に食い込んできた人間だと感心するレベル。
結論。
F組には等級で差別されているだけで、優秀な人間
そこで僕は彼らを鼓舞することにした。
「僕たちは成績が悪いと退学処分にされる危機に瀕している。でも実際はどうだ? F組のみんなは総じて優秀だ。一番バカにしてくるB組に負けないレベルには、ね」
この一言で、みんなの目つきが変わった。
「先の模擬試合、ヴィランの森合宿での試合で見たように、僕たちは強い。そしてもっと強くなれる素質がある。それこそA組の上位やS組に食い込めるぐらいに優秀だ」
「でも現実問題でいうと、学園は等級が大前提で組分けされているわ。いくら優秀でも、C等級以下はF組へ。私達はそれを了承して学園に入ったのよ」
「……フィオナの言うとおり……」
「私も……」
「俺もそのつもりでここに入学したしな。まぁ、奨学金貰えるし」
リヒトの言葉に、みなが全員頷いている。
僕は続ける。
「奨学金? 奨学金という餌を目の前に出されて、君たちは自らの心を封じ込めたのかい? 学びたいという意欲を、上にいきたいという野心をすべて隠し、ただ等級が高いというだけの生徒たちに無様に嘲笑されていいのかい?」
「なによアスベル、私達をバカにしてるわけ?」
「そういう意味じゃないよ。ただ僕は、君たちなら学園創設以来の前代未聞の事件を起こせるって思ってるんだ」
「前代未聞の事件……?」
「そうさ。僕がこの学園にやってきてまず行いたかったことでもある。────F組の解体だよ」
「「「F組の解体!?!?」」」
僕の声に、F組のみんなが目を丸くして驚いている。
F組の解体、その名の通りF組をなくすこと。それすなわち、C等級以下の生徒がS、A、Bに編入することを意味する。誇り高き貴族の名門学園でそんなことが起きれば学園中、いや皇国中が注目するだろう。
そして世間はこう思うはずだ。
事件を起こしたリーダーは誰か、と──
「アスベル、あなた本気なの……?」
「本気さ。僕がやりたいのは革命なんだ。それもド底辺階級たるF等級をリーダーとする最大最高の下剋上劇。前にも言ったよね?」
「ええ、たしかにそうね……」
保健室で僕は自分の夢を語った。
半笑いされてもおかしない、F等級の子どもたちが笑って暮らせるようにしたいという夢。
フィオナは、あなたならできるんじゃないと言ってくれた。
「いいわ。あなたの野望に乗りましょう」
「フィオナ!?」「フィオナちゃん!?」「おいリーダー、ホンマかいな!?」
「本気も本気よ。あなたたちも見たでしょう? アスベルは、あの剣皇第一候補相手に互角の勝負を挑んだのよ。彼はそれを出来るくらいの逸材だし、これからどんどん強くなっていく。──あとそれと、私は今日をもってF組リーダーを降りて、アスベルにリーダーの座を渡すわ」
「え、ちょ、マジで
「何度も言わせないでよリヒト。彼はリーダーとしての才能が高いし、作戦遂行能力もある。全員への配慮もきく。それに、彼の総合成績はA+よ──」
「もうA+じゃないよ。S+になった」
「「「「ッッ!?!?」」」」
F組全員がざわめいた。
F等級が最高ランクであるS+!? 声にしなくとも驚いているのが分かる。
「暫定だけどね。定期試験を受けないと正式には認められないから」
「どういうこと? なんでそんな、急にS+になんて……」
「僕がとある魔獣と契約して、魔元素量が増えたからさ」
僕は、狼の姿になったセラフィネを壇上に呼び寄せた。
銀色の美しいその姿に、誰もが見惚れている。
「
さすがに皇帝魔獣であることは伏せる。
強さを誇示するのは大事だが、不安を与えすぎてはいけない。
「あれってあのときの狼かいな!?」
「後で説明するって言ったのに悪いなリヒト。この魔獣が、あのときの魔獣から助けてくれたんだよ。おかげで何とか生き延びることが出来た」
「そうやったんか……」
僕の嘘に、納得するリヒト。
学園内の試験などで使役した魔獣を使うことは禁止されているが、ペットとしてなら連れてきても良いということになっている。僕のように魔獣と契約して、ある程度近くにいないと《福音》の効果が表れない生徒に配慮した結果だ。
セラフィネの場合、福音という効果が常時発動しているので、別に遠くに離れていても問題はないのだが。まぁ、セラフィネが暴走しないように監視する役割もある。
まぁとにかく。
「じゃあ話をまとめよう。どうだいF組の諸君。僕の無謀で最高の下剋上劇に、役者として乗り込んでみる気はないかな?」
そのとき、F組の全員が一斉に足を踏み鳴らした。
実技の集団行動で用いる技法だ。
整った足音に、僕は満足げな笑みを浮かべる。
「革命の宣戦布告といこうじゃないか」
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