Episode16 お祝いと新しい話題


 B組との試合が終わった。

 僕とフィオナが囮役に回ることによって、相手の意表をつき見事な完全勝利を果たした。主将を倒した特別ボーナスがあるらしく、メルさんの評価も大いに向上。学期末試験次第ではあるものの、教官から睨まれることもなくなるだろう。──彼女、成績不良者として要注意人物だったから。


 僕たちはいまメルさんの主将撃破を祝って、お菓子やジュースなど持ち寄ってパーティをしていた。


「おっしゃ! 今日はメルの勝利を祝って乾杯や!!」


 リヒトが中央に立って、オレンジジュースを掲げている。

 盛り上げるのが上手い。

 おかげで前よりもF組の団結が強固なものになったような気がする。


「アスベル君……」

「ん?」


 メルさんが、小声で耳打ちしてくる。

 ちょっとこそばゆかった。


「ありがとうございました……。アスベル君のおかげで、前より自信がついたような気がします。アスベル君が勝ったので、友達になってくれますか……?」


 メルさんが主将を倒すかどうか、という賭け。

 僕が勝ったらメルさんと友だちになる。

 負けたらもう二度と話しかけない。

 賭けとして意味がないと言われてもおかしくなかったが、メルさんは全力でB組の主将を倒してくれた。きっと彼女の中で、弱い自分を克服する決心がついたのだろう。


 この賭けは、僕の勝ちだ。

 

「もちろんだよ、これからもよろしくね。メル」

「は、はい──っ!」


 彼女の頬が、ほんのり赤く色づく。

 

「おやおやおやおやぁ、期待の新人アスベル君は、今度はメルに標的を定めたんかぁ?」

「次そんなこと言ったら締めるよリヒト」

「すいません俺が悪かったです」


 リヒトの悪ノリに付き合いつつ、思わずフィオナの方を見る。

 すると、ぷいっと顔をそらされた。

 え、なんで?


「アスベルってメルみたいな女の子らしい子が好きなのかしら。ねえ、どう思うユリア」

「……大丈夫。フィオナが振られても、わたしが……いる。ヨシヨシ……」

「ありがとぉーユリアー……!!」


 フィオナはユリアを抱きしめてスリスリしている。

 ユリアもユリアで、フィオナに抱きつかれて超嬉しいそう。

 というより、なんで僕がフィオナを振ることになってんだろ。

 乙女心はよく分からない。


「そういやアスベル」

「ん? どしたリヒト」

「このあと、俺と一緒に抜けて外に出えへん?」

「え、なに? 女子更衣室の覗きならお断りだよ?」

「ちゃうちゃう!! ってか俺、いつのまにそんな変態キャラになってんの!?」

「魔導ライフルのスコープで女子更衣室覗いたのは、どこのどなたさんかなぁ?」

「「「リヒト(君)ってば最低ーっ」」」

「あぁぁぁあああああアスベル君あとでゆっくり話そうか!?」


 脇で顔を締められたんだけど。

 しかし、外に出るっていったい何の用?


「度胸試しや度胸試し!」

「度胸試し? 肝試しのことか?」

「ちぃっとばかしちゃう。実はこのヴィランの森にはな、ある噂があんねん。なんでも、どこかに大昔のもんのすごい強い魔獣が封印されとるっちゅう噂や」

「すごく強い魔獣? 一級魔獣のことか?」

「それよりも強いやつ。──皇帝魔獣や」

「皇帝魔獣? でもあんなの大昔の伝説だろう? たとえ実在していたとしても、なんでこんな学生が泊まる森にそんな大物が封印されてるんだ?」

 

 ヴィランの森にいる魔獣は、せいぜい二級魔獣。

 一級やそれ以上の魔獣がいるなんて聞いたことがない。


「で、実はB組のクインが封印場所を見つけたって言っとったねん」


 B組のクインといえば、さきほどメルが倒した主将のことだ。

 大柄な体に似合わない俊敏な動きが特徴で、B組の第5Grの中ではトップクラスの実力を誇っている。その彼が、皇帝魔獣の封印場所を見つけたから度胸試しをしよう?

 あまりにも胡散臭い話に、僕はリヒトを半目で見た。


「それ絶対罠だよ。やめておいたほうがいい。変な難癖つけられて、喧嘩を吹っかけられるに決まってる」

「それがなぁ、もう吹っかけてもうたねん」

「は?」

「F組にはA組やS組に負けないもんのすごい強い男がいる。そんなんでビビるアスベルやないわーって、売り言葉に買い言葉でつい。あははははははははは……すんまそん」


 乾いた笑いを浮かべるリヒト。

 額を押さえる僕。

 確かにA組やS組に負けないくらいの気持ちで頑張ってるけど。

 罠だと分かりきった誘いに乗ってどうする。

 いや、ここで力を示してクインたちが変なことをしないよう、牽制するのもありもしれない。

 

「分かった。一緒に行こうリヒト」

「あいよー。女子たちはここにぃや。オバケ出てくるかもしれんで」

「行かないわよそんなしょうもないことで。早く行ってきなさい」


 フィオナに呆れた顔をされた……。

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