Episode15 F組vs.B組
翌日の放課後──
「メルになにか言ったの?」
「言ったって?」
「だってあのメルが、私に向かって大きな声で挨拶したのよ」
……え、そんなことで?
そう思うが、いたってフィオナは大真面目だった。
どうやら、昨日の僕の言葉が彼女の心を動かしたらしい。
彼女が「自分の心の状態」に気付き、少しでも前進してくれればいい。
そのために、何度かメルさんにちょっかいをかけている。
「なに笑ってるの? やっぱり何か言ったんでしょ。ねえ、どうやってメルの心を動かしたの?」
「大したことじゃないよ。誰しも弱い自分なんて嫌いだろう? その現実を、より良くするためのキッカケを与えただけだよ」
「なにそれ? ……まあいいわ。明日のヴィランの森探索なんだけど、作戦会議をするわよ」
「あぁ、そのことなんだけど」
僕はメルさんに賭けをしたこと話した。
フィオナは額を押さえて、うなだれている。
「突飛な発想ね。まあでもF組の今後のことを考えたら、メルにはもう少しチームプレーを頑張ってほしいところだったし、それでやる気になってくれるのならいいの。──で、返事は?」
「その賭け、乗ります……!」
ちょうどそのとき、メルさんが大きな声を挙げながら僕の目の前にやってきた。
「アスベル君……私ね、今までずっと、みんなどこかでわたしのこと、嫌ってるんじゃないかって思ってたの。ノロマで、みんなより覚えるのも遅いから」
「だから人を信じられなくなった。でもメルさんは、そんな自分を変えたいんだよね。自信をつけて、フィオナやユリアと並び立てるような魔導剣士になりたい」
「うん……」
「よし、そうとなれば作戦会議だ。メルさんを勝たせる華やかな舞台を用意しよう」
「F組のリーダーは私よ!?」
自分の役割を奪われたフィオナが頬を膨らませている。
まぁまぁ、硬いこと言わない。
いずれF組のリーダーは、僕がなるんだから。
「でもアスベル、メルに華を持たせられるほどこっちに余力はないわよ。しかも主将をメルに倒させるなんて現実的とは思えないわ」
「メルさんはすっごい強いから大丈夫」
「確かに、
「奇襲攻撃一点にしぼる。囮役なら僕とフィオナがいるじゃん」
「えぇぇえ……」
フィオナは、少しだけ残念そうに呻いていた。
◇
(B組第5Gr担当教官・マイゴティス視点)
ヴィランの森探索がいよいよ始まる。
B組の圧倒的な実力をF組の生徒に思い知らせるときだ。
私がおかしいと思ったのは、模擬試合でB組第4GrがF組に敗北を喫したときだった。
ついこのあいだ入ってきたばかりの編入生が、たった一人でB組の生徒二人を屠ってみせた。しかもそれだけではない。あとから聞いた話だと、特別授業で
F組が? いや、F等級が──?
しかもそのあと、B組の生徒がこぞって編入生に剣を教わりたいと言い始めたではないか。
私は生徒の話を信じることができなかった。
だってF等級といえば、ゴミをあさりながら皇国の税金で暮らすような穀潰しじゃないか。皇国民としての誇りすらドブに捨て、怠惰に暮らす家畜以下の生き物だと。
──まさか、その認識すら誤っていたというのだろうか。
今まで信じてきたF等級という概念そのものが、実は間違っていたとでも?
いや、そんなことはどうでもいい、と私は頭を振った。
ここではB組とF組の戦いだ。
B組の実力をF組に見せつけ、地べたを舐めさせればいいこと。
そうこうしているうちに、忌々しいF組リーダーのフィオナと
チームの構成は、剣士が三人、魔導士が一人、狙撃手が一人だ。
身体能力が高いのはフィオナとアスベルだけ。
魔導士のユリアは近接戦闘に弱く、前に出てくることはない。
狙撃手のリヒトとかいう男もそうだ。
あとはメルとかいう双剣使いがいたが、成績を見る限り中の下がいいところ。B組第5Grの精鋭を集めた我がチームの敵ではない。
「ははは! 苦戦しているな! 成績優秀とはいえ、所詮は学生だな」
双眼鏡から見える景色に、私は口角をあげてほくそ笑む。
フィオナとアスベルはたしかに脅威だが、それは無策で挑んだときのこと。罠や反則スレスレの行為が許された今なら、足止めくらい容易い。
そもそも制限時間があるのだ。
ただ個人が強いだけでは、このゲームには勝てない。
B組の勝利だ!!
「なんだ……!?」
ゴール百メートル前にいるのは、主将クインという男子学生だ。第5Grのなかでトップクラスの実力を誇っている。クインはフィオナとアスベルが魔法具を持ってゴール付近まで来たら、一気に叩きのめす算段だった。
でもいま。
クインの背後には、いつの間にか小さな女の子がいた。
奇襲攻撃だ。
クインは背後からいきなり襲いかかってきた少女に驚き、大慌てて迎撃体制にはいっている。誰だ、あの少女は──!?
「まさか……メル・ハバァーチカだと!?!? 臆病者がなぜクインの目の前に!?」
取るに足らないと切り捨てたメルが、あのクインを圧倒していた。
フィオナやアスベルならわかる。
でも、なぜだ?
「まさか……!」
私は、教官だけが見られるメルの実技の成績資料を見つめた。
メル・ハバァーチカ。
攻撃力B
敏捷性A+
隠密S+
魔元素量S+
連携力F
────総合評価:D
私は、総合評価のみを見て取るに足らない存在だと思っていた。
でも現実はどうだ。
敏捷性はA組並み、隠密と魔元素量に至ってはS組に匹敵する。
こんな逸材、F組にいたなんて。
「一人だけじゃないさ」
「シェリアヴィーツ!?」
いつの間にか背後に立っていたのは、忌々しいF等級の講師だった。
私は理事長に、なぜこんな女が学園の教官を努めているのかと訴えた。
しかし理事長は、古い友人だからと言って一掃したのだ。
「一人だけじゃないとは、どういうことだ!?」
「メルだけじゃない。ユリアも、リヒトも、他の生徒だってみんな強い。なにせあの狭き入学試験をくぐり抜けてきたエリート集団だからな。それを、等級等級って貴族どもの顔色伺ってるから、本来はA組やS組に匹敵するような人間が不当に隔離され、学園全体の生徒の質が落ちるんだ」
シェリアヴィーツは、まるで魔女のように笑っていた。
「F組は強いだろう? マイゴティス教官どの」
「くっ……!」
認めざるを得ない。
メルが主将を倒し、アスベルが目的の魔法具を持ってゴールしたからだ。
「F組は……強いな……」
「ふんっ」
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