第3話 はじまりのスマホ
僕の大学時代の話。
ある講義のあいだ中、ずっとスマホをいじっている学生がいた。
それはあまり面識のない男子ではあったが、比較的真面目な印象を抱いていただけに驚いた。
担当の教授はとても厳しいことで知られていて、講義中のSNSやゲームはもちろん、写真や動画で板書を撮影することもダメ。
にも関わらず彼は、堂々とスマホを取り出し一向に仕舞おうとしない。
なんなら、教授にその姿を見せびらかしているようにすら見えた。
とても正気とは思えない行いだ。
僕は彼と同じ、教室の後ろの方の長机に座っていたが、多少距離があったのでやっているのがゲームなのか撮影なのか、それとも他の何かなのかは把握できない。
近くの人に事情を聞いてみたかったが、私語が許される講義でもない。
僕は終始、教授の雷が落ちるんじゃないかと気が気ではなかった。
結局、講義はそのまま何事も無く終了してくれたのだが、そのことがますます僕の中の疑念を深める。
一体どうして教授に怒られないのか。
なんでそんな挑発ともとれる行為をしたのか。
どうしても気になった僕は、本人に直接話を聞いてみた。
そこで返ってきた答えは、彼が教授の隠し子である可能性すら疑っていた自分が恥ずかしくなるほど、真っ当なものだった。
彼は、講義の直前にコンタクトレンズを紛失してしまったらしい。
ひどく視力が悪く、最前列でも黒板が見えるか怪しい彼は、そのことを教授に相談。
そこで、講義中スマホのカメラを起動、板書を拡大しながらの受講を提案されたらしい。
ただ、前の方でスマホを取り出されると他の学生がザワついたり、コンタクトを無くしたフリをしてゲームをやり出す輩が今後出ないとも限らない。
それで、なるべく後ろの方で大人しくするのなら、今回に限ってスマホの使用を許されたとのことだった。
自身の推理力の壊滅的な不足を自覚させられた苦い思い出であると同時に、彼が教授の息子(隠し子ではない)であることを知り、彼とのその後の交友と己の直感力の自覚を促した、とても良い思い出でもある。
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