なかまっ!
「やぁ、こんにちは」
――ドアを閉めた。
「ちょ、なんで閉めるんですか!?」
初めに目に入った相手が慌ててドアを開けてきた。待機していた三人のうちの一人。
そいつはにっこりと笑った、顔全体を隠すような仮面をかぶってぶかぶかの服に身を包んだ……たぶん男、いや、声も中性的だし、体のラインも見えないから性別不明。
しかしこれだけはわかる。
「敵か。いきなり討伐しなくちゃいけないとは、王様もなかなかな人だ。俺らの実力を試そうっていうんだな」
王様も初めて会う俺らに世界の運命を託すというのは不安があるんだろう。早速こんな敵を用意するとは。
そこでこいつを倒させて俺らの実力を見ようという話だな。
しかし武器が何もない。
「従者さん、剣を貸してください!」
「まってまって!!違うよ!?こんな容姿だから誤解されがちだけどね、僕は勇者パーティーの一員になる予定なんだよ!?ほら、ここにきちんと紋章も浮かんでいるじゃないか!」
紋章?なにそれ、聞いたこと無い。多分ニセモノだろう。
「本物だよ!」
「じゃあたぶん魔王の手下ってことを表すタイプの紋章だろ」
「決めつけないでくれよ!ほら、君の右手にも!」
仮面にそう言われて右手の甲を見る。
確かに自分の手の甲に日本語で「ゆうしゃ」と書かれている。俺の手にも、こいつの手にも。
「エーフィ、これ本物?」
「……そうよ」
「くそダサい」
「あたしも同意見」
「これ消えないのか?」
「……申請すれば消えるわ。ただし三十年はかかると思って」
あほか!!三十年も子供の落書きみたいな文字を手の甲に書かれたまま過ごさなくちゃいけないのか!?
手で少しこすってみるが、消えない。
……文字通り、ゆうしゃの紋章ってことか。ダサい。ダサすぎる。
顔を上げてみると、部屋の中に待機していた三人の手の甲には確かに「ゆうしゃ」の文字が浮かんでいた。
「そっちの仮面の自己紹介は終わった?なら次は私だね」
と、仮面の話を遮るように少女が前に出てくる。
「え?いえ、まだ名前を名乗ってませ……」
仮面はあわてて自分の言葉をつづけようとするも、少女の押しはすごく強かった。
仮面のほうを振り返り、手で口をふさいだ。
「あなた……私の自己紹介より紋章の説明が大事なんですか?」
「そ、そんなことないけど……。僕の名前……」
「あなたの名前は仮面でしょう」
「違うけど!?」
この少女、何となくエーフィと似た匂いを感じる……。そして仮面よ、お前の名前は知らないけど同情するぜ。
うんざりとした目でその少女を見つめるが、少女はそれをさっさと自己紹介をしろという訴えかけだと受け取ったようで、
「私ちゃんは私と言います。よろしくお願いします」
と、自己紹介をした。
……自己紹介?
「は?え?」
なんていったんだ?私の名前はなんだって?
「は?だから私ちゃんは私ですって」
「わけわからんわ!名前を教えろよ!」
「だから私ですって。まったく物わかりが悪いですね」
なんだこいつ。何言ってるのかよくわからねえんだけど。
「よくわからなくないです!私の名前!それが『私』だって言ってるんです!」
「……?私ってのがお前の名前?」
「そうです」
混乱するわ!!
私の名前は私ですってそんなアホな文章があるのかよ!理解するのにしばらくかかったわ!
見ろこの隣のアホを!お前の話がわけわかんなくて魂がどっかに言ってしまったような顔をしてるじゃないか!
しかし名前については理解できた。こいつの名前が私。ややこしいわ。こいつが私で私も私ってか!?文にすると余計こんがらがる……。考えないようにしよう。
「それでは、次は私だな。私はカノン・フェリシア・サタンだ」
「お前が魔王だろ!!討伐!!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます