おうきゅう!

「あなた方。王宮まで来ていただけますか?」


 現れた兵士の中、戦闘に立っていた偉そうな、というか強そうな、ガタイのとてもよろしいお兄さんに肩をつかまれ思わず震え上がる。


「ごめんなさい!全部こいつが悪いんです!俺は何もしてません!」


「はぁ!?ち、違うわよ!全部こいつが悪いのよ!こんなかわいくてか弱い乙女が何か悪いことなんかするわけないじゃない!」


 かわいくてか弱い乙女は声を上げてそんなこと言わないし俺の髪を引っ張りながら言うセリフでもねえ!!


 俺らがお互いに罪をなすりつけていると、兵士らしき人は不思議そうな顔をしながらもさらにやってきた何人かの兵士と一緒に俺らを強制連行した。強制連行と行っても何かで縛られたり槍の先で突かれたりしたわけじゃないけど。ただ、どうやっても逃がすまいとしている感じだった。

 急なことですから、混乱するのも無理ないです。とか言ってたけど……初犯なら罪が軽くなるから落ち着けって言ってるのか?

 なんか初犯だろうと許さなそうな筋肉してますけど……。

 まあ強制連行っぽくなった理由には、俺らの罪のなすりつけあいが発展してお互いに兵士っぽい人から強引に奪った手錠を手に掛け合った、っていうのもあるけど。

 そのせいで俺らは兵士と手錠でつながる羽目になってしまった。

 この兵士、筋肉量多すぎてむさくるしいんだけど!!!



 さて、今。俺の目の前には王様。それに大臣らしき人物が数人。そして手錠で繋がれた俺ら。

 さっきまで兵士とつながれていたはずの俺とエーフィだったが、なぜ俺ら二人がつながっているのかと言うと、天使 (暴力女)が暴れすぎて兵士を負傷させてしまったため、俺ら二人が繋がれることになったのだ。言っておいてなんだが、俺たちが繋がれた理由がわからん。


 それはともかく、俺らがすることはただ一つ。


「「ごめんなさい!!」」


 そう、土下座だ。エーフィと見事に息があった。

 手を繋がれた状況でもあるのにもかかわらず、見事に手の位置をお互い調整して綺麗な土下座をすることができた。

 こいつは自分のことを天使だといって聞かないほどプライドが高いくせに土下座はうまいのか。三下臭がすごい。


「おお、顔を上げてください。それになぜ手錠なんかをなさっているのですか」


 いや、手錠をしているのは俺らもよくわからないんですが……。

 って、それよりなんで王様の目の前に呼び出されてるんだ!?この世界じゃ、万引き犯は王様の前に連れてこられるのか!?いや万引きしてないけど!!


「俺ら、どうして王様の前に?」


「そんなのあんたが何かしたからに決まってるでしょ!!謝んなさいよ!!」


 土下座はしてるけどね。ってか何かしたのはお前じゃねえのか。

 下からちらりと王様の姿を確認する。

 ひげがもじゃもじゃでいかにも王様、という感じだ。何となく異世界に来たんだという興奮がどこかに生まれたのを感じるが、この後殺されるんじゃないかという恐怖の前にはそれは無いも同然だった。


「いったい何を言っていらっしゃるのですか?」


「あ、いえ。なんか門をくぐったら音がなって……。警報……ですよね。こいつが何かしたんじゃないかって不安で不安で」


「そうでしたか。これは無礼なことをしました。あれは祝砲のつもりだったのですが……どうぞ、お許しください勇者様」


 そう言って頭を下げる王様をみてあわてて手を目の前で動かす。


「頭を上げて下さ……はい?今なんて?」


「バカね、勇者って言ったのよ。ってあれ?説明してなかったかしら?」


 聞いてねえよ!?って言うか知って他のならなんでお前はあんなに慌ててたんだよ!まさか本当になにか万引きしてたんじゃないだろうな!?


「そんな暇なかったわよ!てかあんな音聞いたら誰だってあわてるでしょ!!

 ……詳しいことは後で説明するから、まずはこの人間と話をしなさい」


「この人間って!王様だぞ!?お前みたいな人間がそんな風に呼んでいい相手じゃねえよ!っていうか、ならなんでお前は土下座したんだよ!?」


「っく……あんたが犯罪したのかと思ったからよ!忘れてたとかじゃ無いわよ!」


「忘れてたのか……。ってか犯罪行為なんてしてねえよ。そんな大声で言ってあらぬ誤解を招くわ!!」


 あわてて大声で周りに聞かせるように弁解する。

 変なこと言わないでほしい。まじで。ここで犯罪者だと思われてしまえば一巻の終わりだ。真面目に。


「それで、勇者様。勇者様はまだ冒険者としての職を選んではいないのでしょう?」


「え?何でそれを?」


「この古文書に書いてあるのです。『魔王が復活したとき、勇者が天使 (笑)を引き連れてこの地にやってくる。勇者と天使 (笑)はこの世界に来て間もない。そのため、冒険者としての資格を与えるように。さすれば魔物の驚異を無くしてくれるであろう』、と」


 古文書すげー。


「ちょっと待ちなさいよ、そこの人間」


「どうしたのですか、天使 (笑)様?」


「私のこと天使 (笑)って言うのやめなさいよ!っていうか何でその古文書に (笑)なんてついてるのよ!?」


「まあ落ち着け。天使 (笑)」


「何よ!私は正真正銘の天使よ!」


 あーはいはい。エーフィちゃんはすごいでちゅねー。天使なんでちゅかー。かーっこいいでちゅねー!!


「くぅうう!もういいっ!!」


 低劣な煽りだったが、エーフィのレベルにはあっていたようで、口をつん、ととがらせて拗ねた様子だった。まあいいか。放っておこう。

 王様は天使 (笑)が機嫌を損ねた様子を見て慌てていたようだったが、「気にしないでください」といって半ば強引に納得してもらった。

 エーフィはかなり怒った様子でつながった手錠を引っ張ってきた。仕返しが小さい……。そして地味にいやだ……。

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