てんかい!3
と、まあこういう経緯があって今に至るわけだ。
ポケットの中で揺られながら……胸ポケットに入れられてるのにあれだな。痛いな。
そう思った瞬間、俺はポケットの中に押し込まれたような気がした。密度が高くなったわけだが、生きているころには体感できない気持ち悪さに思わず吐きそうになる。まあ吐くものはないんだけど。
「なに??」
なんでもないです……。
笑顔を作ってはいるものの、目の奥が笑っていない。怖いわ、仮にも天使がする表情じゃねえ。
天使っぽい人間に連れられて「私は人間っぽい天使よ」……ああ、自分で人間っぽいって認めちゃうのかこいつ。まあいい。
俺はこの人間に連れられて「天使はどこにいったのよ」……俺は変な人間に連れられて「それじゃあ私が変みたいに聞こえるじゃない。人間でもないけど」……そう言ったんだよ。お前は変な人間って言ったんだよ!
俺の密度がさらに高まりました!
……せ、せまい。いや、胸で圧迫される事はないんだけど。むしろそっちの方が結構ゆとりが……。
俺の密度がさらにさらに高まりました!
ご、ごめんなさい。なんか苦しいです。
「あれね。あんた瓶に入れてここに置いてくわよ?」
もう二度と言いません!
―――――――――――――――――――――――――――――
さて、貧にゅ……麗しの天使様と麗しの天使様に連れられたこの惨めな魂はそれからしばらく進み続けた。
「あ、あれね」
円形の光がその場でふわふわと揺れている。よくアニメやゲームなんかで見る魔法陣そのものだ。ポケットから出してもらい、近づいて四方から見てみたがやはりそれは浮いていた。いやぁ、死後の世界って凄いなぁ。少し安っぽいと思ったのは内緒だけど。
「でしょ」
俺のすごいという言葉だけを切り取って聞いたのか、なぜかドヤ顔の麗しの天使様。てめえの事をほめたわけじゃねぇよ、貧乳人間。
次の瞬間。
俺の体が分散した。
「うっさいわね……次はひどい目に遭わせるわよ」
もうかなりひどい目に遭ってるんですけど!体が分散する以上にひどい目ってあるの!?ここでは体が分散するなんて日常茶飯事とでもいうの!?っていうかなんで魂に物理攻撃してるんだよ!ゴーストタイプに格闘タイプは効果無しだろ!?
「天使パワーよ」
ドヤ顔うぜぇ……。
「さて、それじゃあ行くわよ」
そう言って天使(人間)が呪文を唱えだした。
おお、なんか格好いいな……天使みたいだ。なんて俺が感心していると、
「でしょ?今の全く意味ないんだけどね!適当なこと言ってみただけ!」
ならやるなよ。それ聞いてすっげー格好悪く見えてきたぞ。
「……過去にとらわれちゃダメよ」
そう言って天使 (笑)は光に触れた。
「ほら、あんたも触りなさい」
言われた通りに光にさわる。というより、すでに球のようになってしまっている体全体でくっつくようにしてその光に触れる。すると光がさらに輝き始めた。
「我が名はウンディーネ」
え!?マジで!?その名前なら聞いたことがある気がする!有名なやつなのか、こいつ!?
などと感動に体を震わせていると光が消えた。と言うより元の輝きに戻った。
え?なに?どういう事?これで完了?
「……っち。やっぱ偽名じゃだめか」
偽名かよ!?ちゃんと本名名乗れよ!!
人間(自称天使)は再び光に手を触れる。それに続いて俺も。そして光が再び輝き始める。
「我が名は……エーフィ」
今度は光が元の輝きに戻る事が無かった。と言うことはこの自称天使(実際は人間)の名前はエーフィと言うのか。なるほど、確かに日本人じゃないよな。髪とか目とか。まあ天使だから当たり前なのかもしれないけど。
「この者をサーヴァントとし」
え、ちょっと待てよ。サーヴァントってお手伝いさんじゃねえか。やめろよ。
そう思った瞬間、光が元の輝きに戻った。
「…………っち」
お前もう天使やめろ。その服と称号全部俺によこせ。
「もう一回やるわよ。……なによ、その目」
いや、目なんて無いけど。確かに目がついていたらお前のことをさげすんだ目で見てただろうけどさ。
「……まあ良いわ。もう一回やるわよ」
はいはい。今度はちゃんとやれよ?
「我が名はエーフィ。このものをスレイヴとし」
アホ!!奴隷じゃねえか!!!もっといやだわ!!!!
光が消え、天使 ()の舌打ちとともに三度目の詠唱が始まる。
「我が名はエーフィ。天界からの命によりこの者と共に世界を移動する。そしてこの者の名は……」
一見したらきれいな見た目だけど、よく見たら目もアホみたいだし、よく聞いたらアホみたいな声してるな……。
天使 (笑)は俺の方をちら、と見ると、どうやら俺の考えていた事が何となく伝わったようで凄く嫌そうな顔をした。
「この者の名は……」
そう言って下を向いたままプルプルと震える天使(人間)。
自称天使(お前に天使の資格なんて無いっての、ばーか)の顔を見る。
おい、大丈夫かなんて心配の声をかけようと一瞬でも思ってしまった俺がバカだった
天使 (っぽいなにか)が俺の方を見て優しく微笑んだ。それはまるで天使のように。
「この者の名は、『ネグボッチ』!!」
ちょっと待てぇえええ!!
「なによ、耳元でうるさいわね」
なによ、じゃねえよ!!あ、ま、まあ?どうせ光も消えるだろ。さっきみたいに偽名じゃダメだもんな。
「残念だったわね。その点は大丈夫よ。転生する人が自分で名前を決められるようになってるから。ほら、全員カタカナの世界なのに一人だけ『田中太郎』とかじゃ嫌でしょ?」
確かにそうだけど!!っていうかだったら俺に決めさせろよ!せめてそのことを教えてくれよ!せめてかっこいい名前にしてくれよおおおおおおおお!!!!!!!!
『了解しました。天使 (笑)、『エーフィ』さん、そして『ネグボッチ』さん。この二人を転送します』
「ちょっと待って。こいつ今天使の言い方おかしかったわよね?壊して良いかしら?」
やめておけ!天使 (笑)!壊したら責任がおおきいぞ!たぶん!というか俺も転移できなくなる!
っち、しゃーないわね、といってエーフィは光に唾を吐きかける。こいつが天使だったらそこらの不良だって天使になれるよ。
っていうかマジで俺の名前ネグボッチなの?しかも転送ってなんだよ。ここからいきなりどっかの街に飛ばされるのか?絶対街の人に変な目で見られるだろ。
「違うわよ。まずはその世界の神、もしくは女神の所に飛ばされるのよ。何の断りもなくいきなり他人の場所に入っていいと思ってるの?あんた常識大丈夫?」
勝手に人の名前をネグボッチにする奴に言われたくねえ。
そう言った瞬間、俺とエーフィは光に包まれた。
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