てんせい!2
声の方を見ると羽衣らしきものをつけた天使のようなものが歩いていた。魂的なものになっているのにどうやって見ることができたのか、なんて野暮な質問はしないでくれよ。
その天使はきょろきょろとあたりを見回しながら俺の方に向かって歩いてくる。俺に気づかなかったのか、それとも魂が浮いていても気にしないのかは知らないが、俺にぶつかると俺を一瞥して一言。
「……うわ、こいつ運悪いわねー」
ひどいな。まあ、確かにその通りだけどさ。
その天使はきれいな銀色をした長い髪を伸びるままに腰まで流し、ワイシャツのような服を着て、腰回りにスカート上の布を巻いているが、スカートと呼んでしまうのは衣服として意味を成しているスカートに対して申し訳ない気がする。
確かに前と後ろは隠れているのだが、横が開いている……。
「……もうこいつでいっか」
ちょっと待て。こいつでいっかって何だ。俺に何をさせるつもりだ!?俺は生まれ変わって運の良い人生を送るんだよ!
「は?あんた生まれ変われると思ってるの?あんたの徳じゃ……生き物にはなれないわね。ゴミ箱行きよ」
ひどい!?なんとかならないの!?
「だからなんとかするから、人間にしてあげるから文句言わないで。運をよくするとか、そのぐらいのオプションならつけてあげるから。さて、と。こいつが一番得意なのは……勉強……使えないわね……うわ、しかも根暗じゃん。根暗ぼっち?あっはっは~笑えるわね!」
何だこいつ。人の事をさんざんに言ってさらには笑いやがって。って言うかぼっちじゃねえよ。多分。
いや、でもまた人間にしてもらえるならまあ……。とりあえずご機嫌でも取っておくか。急にやっぱあんたミジンコね、とか言われるのは嫌だし。
「まあいいや。ネグボッチのあなたにはなんか凄い世界をプレゼント!」
なんか凄い世界ってなんだ。もうちょっと具体的に言え。っていうかネグボッチってなんだよ。たまごっちの仲間か?
「あー……私もついてかなくちゃいけないんだっけ。めんどくさ。だったらこんなネグボッチじゃなくてかわいい子にしよーっと。やっぱさっき言ったのなしで。忘れて」
おいちょっと待て。
俺はその天使にくっついた。ええ、くっつきましたとも。正直どうやってくっついてるのかわかりませんがくっつきましたさ。そりゃもうみじめにくっついたよ。自分の人生で一番必死にすがりついたさ。人生はもう終わったけど。
「なによ。あんたなんて成仏して無になりなさい」
ひでぇ!?天使失格だ!変わりに俺を天使にしろ!こいつ以上の働きはしてみせる!だから殺さないで!
「はん、誰だって初めはそういうのよ。そこら辺にいる天使を見なさい!」
言われた通りに辺りを見回す。なるほど、気づかなかったけど数人……でいいのか?……数え方はわからないけれど、あたりにはほかに数個体の天使がいた。
まあ、こいつよりめちゃくちゃ熱心に働いてるけどな。ていうかなんでこいつはこんなところでぶらぶらしてるわけ?あっちの天使たちは猫の手も借りたいほど忙しそうなのにさ。
「あ、あいつらはあれよ。新人よ。だから忙しそうにしてるの。時期にさぼり出すわ」
忙しそうっていうか忙しいんだと思うけど。
ってかなんかめちゃくちゃ威厳がありそうな人もいるんだけど。新人じゃないでしょ。
「………………仕方ないわね。あんたがそこまでごねるなら。いいわ。転生させてあげる。感謝なさい」
そこまでごねてないけど。それにお前最初にやばいとか言って誰か探してたよな。それに俺は変わりって言ってたような……。
「はいはいはい、そこまでね。大きな声を出さないで。昔の事なんて忘れなさい。それがいいわ。私もそれをおすすめするわ。男は未来に生きる生き物でしょ?それともネグボッチはそんな男らしい生き方ができないの?」
男が未来に生きるなんて初めて聞いたんだけど。それにネグボッチじゃない。大声を出すなってやっぱりやましいことがあるんじゃないか。
さっきの威厳のありそうな人に声をかければ……。
「やめなさい!ダメダメ!殺すわよ!」
死んでますけどね。ってか天使がそんなことを言っていいのかよ!?
……まあいい。転生と言えばうひょひょでわひゃひゃと相場が決まっているんだ。
あ、でも赤ん坊からやり直すのは少しめんどくさい気がする……。普通のうはうはができるまでに何年かかるんだ。
「大丈夫よ。今の状態のまま運んであげるわよ」
それ転生って言わないから。転移だから。
「細か。キモい。転生って言葉で喜んで終わりにしなさいよ。……それじゃあ行きましょう」
聞き捨てならないんですけど!?小声でさらっと言ってさらっと流そうとしないで!?
しかし、俺の言葉も聞き入れず目の前の天使は歩き出した。俺をポケットに入れて。
って言うか飛ばないの?他の天使は飛んでるんだけど。
「……私、飛べないのよ」
こいつ人間だろ。
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