tii Ⅰ
ヒギリは僕の事をネリネに任せた。塔の中を案内してもらっていると一つの扉があった。手を伸ばそうとすると
「アイリス!其処には行っちゃダメなんだって!」
そうネリネの声が聞こえてきた。
「そこには、目的を果たせた人しか入れない……だから、わたしたちはまだ入れないんだよ」
そう言った。
「ネリネ、君の目的は……」
「俺らの目的なんて、覚えてたら苦労しねーよ」
ふと頭上から別の声が聞こえた。見るとそこには棚の上に座った少年がいた。
「チイ!ダメだよ……確かにわたしは目的覚えてないけど……でも!」
ネリネが声を張り上げてそういうと
「……俺は目的をとっとと果たしたい。でも俺は……俺には、目的を果たすことは出来ない」
少年はそう言い、棚から飛び降り物凄いスピードで廊下を走り去った。
「チイ……行っちゃった」
心なしかしゅんとした様子のネリネに
「彼はチイというのかい?」
そう聞いてみた。すると
「うん!あの子はチイ。わたしが来る前からこの塔に居たみたいだよ。」
そう答えた。
「彼を追いかける?」
確認を取るように聞くと
「うん!」
ネリネは力強くそう答えて、チイの部屋へ案内してくれた。
ネリネがトントンとチイの部屋の扉をノックする。
「チイ……?わたし。ネリネだよ」
そう言うと
「ネリネ……お前なんで来たんだ」
苛立ちの籠った声だ。
「わたし、謝りたくて……あとね、アイリスがもしかしたらチイの目的を果たすヒントをくれるかもしれないの」
「……そいつが?」
「うん。アイリスは別の国から来た人みたい。だからもしかしたらチイの目的のヒント持ってるかも……」
最後は泣きそうな消え入りそうな声になりながら、ネリネはそう言った。
カチャリ。短い音がして扉が開いた。チイが開けたらしい。こっそりと部屋から顔を覗かせるチイに声をかける。
「チイ、目的の話聞かせてくれるかい?」
「……わかった。俺の目的は約束を果たすことだ」
彼の目的は簡単なようで難しい事だった。
「成程……じゃあ故郷の事は覚えているのかい?」
「勿論覚えているよ。青い花が沢山咲いていたあの丘へ……もう一度彼奴と……約束なんだ」
泣きそうになりながらそう言う彼は年相応だった。
僕はチイの資料を集めた。そして、彼が病死したこと。彼には弟がいたことがわかった。恐らく彼の言う彼奴は弟のことなのだろう。
『元気になったらもう一度あの丘に行こう……約束だよ。兄さん』
『もちろんだよ。俺はぜってーに元気になるんだ!』
ふと、そんな会話が聞こえた。嗚呼、これは彼の記憶だ。床に伏せてもなお、気丈に振る舞うチイの姿がそこにはあった。そして、月日は流れる。齢8歳にして彼は亡くなってしまった。
『兄さん……なんでっ……約束は……?もう一度っあの丘へ行くって約束は……守ってくれないの?』
彼の弟のその言葉に既に霊魂となった彼は泣きそうな表情を浮かべていた。
「そうか。身体が無いから彼は目的を果たすことが出来ないのか」
そう答えに辿り着く。ヒギリの元へ行かなければ。そう思った。
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