六月十日


 今朝見た夢。

 長年の友人ふたりと、神戸の南京町へゆく。現実の南京町とは多少差異があるようだが、おおよその趣は同じ。ビルとビルの隙間が細い道となり、立ちならぶ屋台や料理屋でにぎわう。煮炊きの湯気、客引きの声、軒をいろどる紅い提灯、窓に貼られた「倒福」の紙。

 途中、豚の角煮まんじゅうを買う。ビルの一階にある店で、ガレージのような吹きぬけの空間にレジや長椅子、大鍋をならべて商っている。鍋からはこってりとした煮豚のにおい。長椅子でまんじゅうを食べ、また何か麺のような軽食をすすっている人が何人かいる。

 まんじゅうは薄紙に包んでもらい、食べ歩くことにする。そのとき、長椅子に腰かけた壮年の男性が声をかけてきた。ロマンスグレイの髪をうしろに撫でつけ、灰色がかった紺の人民服を身につけている。

 上品な笑みをうかべた紳士だが、なぜか、彼が裏社会の人間だと知っている。紳士はにこやかに近づいて来、町を案内してくれた。その話を聴きながら、まんじゅうを齧る。あつあつの包子に、とろりと甘辛く煮込まれた豚の角煮。長崎の某店で食べた味だ。おいしい。

 道は変わらずにぎにぎしい。人の流れで混沌とする中を、紳士に連れられ四人で進む。道のまんなかに、簡易テーブルと椅子が何組か置かれている。脇の中華料理屋から、かわいらしい若い女性の店員が飛び出してくる。

 頭頂部でふたつの団子を結い、赤い旗袍姿という、いかにもな装いである。彼女はにっこりと笑い、中国語でおめでとう、と言いながらホールケーキを差し出した。上には、HAPPY BIRTHDAYのかたちの蝋燭。

 そうか、今日が誕生日だったのか、と気づく。見上げたビルの上層階で、紅い吉祥紋の切り絵があざやかに窓に浮かんでいた。

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