第8話 娘から見た魔王
ちなみに最近になって母に聞いたことがあります。
「なんで三日目の夜だったの。その日の夜行けばよかったじゃん。」と。
それに対して母は「いや、行こうとはしたのよ。でもその日は疲れてたし、勇気が出なくて、二日目は部屋の前まで行ったんだけど、ノックができず、それでようやく三日目にって感じ」と半ば照れながらそんなことを言っているのを見ると魔王にはとても見えないのですが、若かりし頃の母は奥手だったんだなぁとしみじみ感じています。
あ、若かりし頃と書きましたが、もし母本人の前で年齢に関するそんなことを口にしたら、笑顔で魔弾の連続射撃が飛んできますので、言うなら命と魔王城の四分の一は吹き飛ぶ覚悟で、私がいないところで言ってくださいね。
私が言ったときは気づいた父が慌てて防御魔法を展開したので、直撃は最初の数発のみで、魔王城の被害も二割程度で済みましたが、私は三日間ベッドから起き上がれなくなりましたから。
これでも魔族の中では魔力は強いほうですし、聖剣のおかげもあって魔力への耐久はかなり高いはずなんですが、魔王の力はさらに上です。
逆にこの攻撃を無力化できる父の防御力にはあきれる思いです。
ちなみに私の攻撃も父はほとんどを無力化できます。ごく一部の例外はありますが。
この例外は私以外まず無理なので一般的に挑む分には魔王を含めてすら攻撃を通すのは、なまなかなことではありません。
とはいえ父は母との夫婦げんかで一度傷を負ったことはあるので、不可能ではないです。
もし挑まれる方がいるなら頑張ってくださいね。
あと勇者について今の段階で私が書けることを書いておくと、この世界での勇者は一人ではありませんし、聖剣にしても一本ではありません。
聖剣は基本勇者が持って生まれてきて、勇者の死で消滅します。
勇者が生まれる頻度や傾向は時代によって異なりますが、以前勇者が生まれたことのある血統では勇者が生まれやすいという話はあります。とはいうものの、連続しているといっても数百年間が空いていたりするので正直当てになる話かといえば微妙です。
とはいえ勇者の直系ですぐ後の代で勇者が生まれたことはあるので、私が生まれたのはそういう事なのでしょう。
魔族の血が思いっきり入った勇者っていいんでしょうか。
周りの話を聞く限りそんなパターンの記録はないようなので多分私が初なんでしょうが、ぶっちゃけどうしたものかと悩んでいる今日この頃です。
ちなみに私は勇者として魔王討伐する気はありません。
というか、年に数回は全力で親子喧嘩をしているので、本来の一般的な感覚で言えば魔王と勇者の一騎打ちが年中やたら頻繁に起きていることになります。だから改めて魔王討伐なんかやりません。
慣例にのっとって魔王城の外から罠を回避しながらなんて迂遠なことはやるだけ無意味だと思っています。
しかも親子喧嘩をする場合の場所は魔王の間です。母はしっかりと魔王の間で待っていてくれます。
なぜかといえば魔王城の中で一番堅牢に作られていて被害が少ない場所だからです。
これに関しては家族内で取り決めがあり、母に対して気に入らないことがあってキレる場合は父か参謀長の立会いの下で魔王の間で行うことが定められています。
それというのは、過去に私が自分の部屋でキレて母に挑んだ時は私の部屋が丸々吹っ飛び、周辺区画もかなりの被害を被って半ばリフォームが必要になったからです。
私の私物の大半は吹き飛ばされ、あとで修復専門の魔力使い四人(Eeny, meeny, miny, moe)が三日かけて残骸から修復するという結構な苦労をかけてしまいました。
当の四人は「これくらいは苦労をかけたとは言いませんよ。前に魔王様に『間違ってあそこの島消しちゃったから修復して』と言われたときに比べれば全然楽な話です。あれはしんどかった。」と笑っていましたが、なんで間違えて島消したんだろう母上。というか島消すって何があったんだろ。
相変わらずあの母の行動は読めません。
後で聞いたところ、
『いや、部屋にゴキブリが出て、遠距離から魔力弾撃ったらゴキブリには当たったんだけど、そのまま窓貫通してその先の島に直撃して島が消えたの』
って言ってましたが、ゴキブリに対して島吹き飛ばすような威力の魔力弾放つ段階でやばいと気づけよこの天然魔王と心の中で叫んだのは秘密です。だって口に出したら、その魔力弾私が受ける羽目になるので。
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