第6話 魔王の娘の誕生

ここまでが、18年前の戦争と、私の両親の馴れ初めです。

改めて書いているとやっぱり頭が痛くなってくるのですが、ともあれそんなこんなで戦争は終結し、半年後封印が解ける時には父は討伐に来た勇者としてではなく、妻を迎えに来た男として魔王城に立っていました。


そして封印が解けた魔王を目にしたときに父は違和感を覚えます。


半年前に封印した時に比べて、明らかに母のお腹が大きくなっていたのです。

ちなみに言えば封印期間中でも生命活動は継続しています。

単に代謝を落として眠っている状態に近く、意識がない以外は特段の違いはないのです。

その間はため込んだ魔力を消費しつつ生きています。

なので妊娠から半年間、私は母の中で普通に成長していました。

そのため封印が解けたときには母のお腹は大きくなっていました。

母曰くそれが分かった時の父の慌てっぷりは、今でも宴会のネタにできるレベルだそうですが、ともあれ言ったこととヤッたことの責任は取ると男らしいことを言った父は正式に魔王エルティアを妻としました。


ちなみにこの事実をローテンブルク王国が知ったのはだいぶ後になってから。

私が父と共にローテンブルク王宮に参内した時でした。

なんで参内したのかって。


私が聖剣を持つ勇者として挨拶するためです。


母の出産は魔王城で行われました。

魔族の医務官、女官がついての出産ですが、これは厄介とは言わないまでも想定外というのが医務官たちの心情でした。

この世界における魔族と人間の間の子というのは少なくはあるものの、それなりの数、存在しています。

戦時以外は人間も魔族も行き来は多いですし、別に魔族の国に人間が来てはいけないという事もありません。

でもって行った先で家族を持つ者たちも少なくありません。

なので混血の者たちはそれなりにいます。

父親が魔族の者、母親が魔族の者、それぞれいますが、概ね母方の血統が強く出る場合が多いです。

そんな感じに魔族の母と人間の父という組み合わせでの子どもはこれまでもありましたが、

さすがに魔王と勇者の間の子どもというのは長い歴史の中でも初めての事です。

当然そんな経験がある医務官も女官も居ません。

そのうえ母の魔力は強大なので、下手に陣痛で叫んだら魔王城ごと吹き飛ばされるかもしれません。

じゃあ他のところでというわけにもいきません。街中の病院でやったら街そのものが吹き飛びます。

魔王城の方がまだマシです。


私の出産で周りにとんでもなく迷惑をかけていますが、結局父の防御魔法を病院区画に全力でかけて、万一母が叫んでも被害を極小化できるようにして出産に挑みました。

そして何とか無事に私は出てくることができました。


ちなみに母は陣痛で1回、出産直後に喜んで1回、最後に出産が終わってからいたずら心で1回、全力で叫びました。

結果、3回目の時は出産が終わって父が気を抜いていたのもあって、病院区画を含む魔王城三分の一が吹き飛びました。

おかげで私の物心ついた頃になんでこの辺りの区画だけ新しいのかなと疑問に思い、父に聞いたところ、割とひきつった笑顔で父は笑っていました。

そのうちお母さんに聞いてごらんと。


母は茶目っ気で全力で叫んでみたかったそうです。

父が防御魔法を全力でかけているなら大丈夫だろうと思ったとのことですが、結果的に3回目の茶目っ気が一番大きな被害を魔王城に与えました。医務官と女官は父の防御魔法が間に合って無事でしたが、放心状態になっていたそうです。そして生まれた直後で寝ていた私はその大爆発音に驚いて目を覚ましたそうですが、泣くわけでもなく直上に(爆発で屋根が無くなったために)広がる青空に目を輝かせていたそうです。


そうして生まれてきた私ですが、出産の際に手に小さな金色の剣を持っていました。

ええ、選ばれしものが持って生まれてくる聖剣です。それを魔族の血統が強く出ている私が持って生まれたのです。

それを見て、父も私が間違いなく自分と母の子であると確信し大泣きしながら抱きかかえていたそうですが、そうして聖剣を持った魔王の娘が誕生しました。

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