第5話 戦争の終結はあっけなく
何はともあれ表面上は「勇者は魔王の封印に成功し、魔王軍は当初ローテンブルクが抑えようとした拠点を放棄して後退。」です。
ちなみに魔王軍の指揮は魔王が封印前に指揮権移管を命じた総参謀長が執っており、混乱なく整然と後退して持久体制に入りました。
そして以後両軍はにらみ合いになりました。
魔王封印と同時に一気呵成の侵攻をローテンブルク側は予定していましたが、封印成功と共に伝えられた封印期間の見積もりにローテンブルク側は騒然となりました。
封印の想定期間は半年となっていたのです。
これに関していえば勇者の調整技量が傑出していたことに加えて、魔王の力が歴代ないぐらい強いというのも要因の一つでした。
歴代最年少で魔王位を継いだ魔王はその際に先代魔王からの力と本人の素養から歴代魔王をしのぐポテンシャルを持っていたのです。それをフルで使いこなせるレベルではありませんでしたが、歴代の魔王の封印期間に比べてかなり短くなるはずだったところに、勇者の技量が合わさり、通常より短い半年という期間になったのです。
見積もりを聞いたローテンブルク側は大急ぎで休戦に着手しました。
せっかく魔王軍が後退し目的の拠点を手に入れたのに、半年で魔王が復活すれば魔王軍が盛り返すのは確実で、そうなっては元の木阿弥になってしまいます。
もう一度勇者を送り込むのはリスクが高く、今回ですら勇者とパーティを組んでいて戻ってきた者たちも一様に再度の封印は困難と当初から口をそろえていました。
彼ら自身は魔王の間までたどり着けなかったので、父と母の間に何があったのかの詳細は知りませんでしたが、逆に言えばさらに強化されるであろう魔王城の防御を今回ですら突破できなかった自分たちがわずか半年後に容易に突破できるとは考えにくく、勇者の攻撃力のなさを熟知している彼らは、今回は魔王の油断のスキを突いたかなにかで封印に成功したと正しく判断していたのでした。
もう一つ言えば魔王城内で脱落した彼らは防衛の指揮を執っていた総参謀長からポーションなどを投げ渡され、助け出されてようやく戻ってきたというところでした。
普通であれば殺されていておかしくない状態でしたが魔族側は魔王城に攻め込まれても全く余裕の体勢を崩さず、勇者パーティを助けて送り返すような余力があったのです。
これは逆にパーティメンバーの心を打ち砕きました。
全力で戦って、活路を切り開いて帰ってきたのであればよかったのでしょうが、敵に救われ、医薬品をもらい笑顔でお元気でと見送られては立つ瀬がありません。
それを半年後にもう一回行ってどうこうできる自信は彼らにはありませんでした。
その後封印を終えて戻ってきた勇者から(夜這いの一件の話は無しで)話し合いで魔王は封印に同意したので、封印できたという話を聞いた彼らはそれをそのままローテンブルク王国に伝えました。
このような有様であれば魔王が目覚める前に、今得ている拠点などを境界として利権を確定させたい、そう思ったローテンブルク王国は休戦講和に同意し、ここにアルレシャとローテンブルクの戦争は終結しました。
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