第4話 王家の都合について勇者は全く頓着しません

「では、私の妻になってください。」

この発言の真実は、今回勇者を送り出す時にローテンブルク王家は魔王封印の報奨としてローテンブルクの王女と勇者を結婚させるとは言ってなかったのです。


というのも実は現在のローテンブルク王家の最年長の王女はわずか4歳で、あとは王子ばかりという状況。

とてもではないが嫁に出せる年齢の王女は一人も残っていなかったのです。


通常そういった状況を避けるために王は正妻以外に複数の妾を抱えて、跡取りと政略結婚の為に何人もの王女を確保しているものなんですが、何の因果か、しばらくの間続けて男児ばかりが生まれ、逆に適齢期が来ていた王女が続けざまに他国や有力貴族に嫁いだ結果、王女が幼児しか残らないという状況になっていたのです。

さすがに勇者に4歳の王女を娶らせるのはいくら政略結婚とはいっても問題ありすぎで、王家への批判のほうが大きくなるので無理です。

この状況でローテンブルクは戦争を始めてしまったので、勇者に娶らせる王女はいなかったのです。


ただこの王女を娶らせられないという問題に関してローテンブルク王家は甘く見ていた部分がありました。


それは勇者の出自です。神官の家系はその役職柄伴侶を娶らずに生涯神官として生きる者が少なくありません。勿論全員がそんな生き方をしたら即座に家系断絶になってしまうので、伴侶を娶るものもいますが、ここで重要なのは伴侶を娶らないのが割と普通というところです。

しかも遥か過去ではあるのですが、神官家系出身の勇者が自分は生涯神に仕えるとして王女を娶らなかったという実例があったのです。


王家は過去の実例をよきにつれ悪きにつれ重視します。

つまり神官の家系出身の勇者なら王女を娶らせなくてもいいだろうという判断をローテンブルク王家はしてしまったのです。


さらに悪いことに神官という厳格な家系に育った父には「魔王を倒して帰ってきたら結婚しよう」というような恋人も幼馴染もいなかったのです。

結果魔王と同じく恋人も伴侶も居ない状態でした。

ちなみにこの時の勇者は32歳でした。



勇者から王女も、伴侶も、恋人もいないと聞いた魔王は妻になることを快諾します。

ただ現状魔国アルレシャとローテンブルク王国は戦争中です。

まずはこれを終わらせなくてはのんびり一緒になることは出来ません。

とはいえ、勇者が職務放棄して魔王封印しないまま国へ帰れば断罪されるのは目に見えてます。

かといってそのまま魔王城に住んでいれば問題なしというわけにもいきません。

ローテンブルク側も勇者の動向は気にしているので、生死やおおよその現在位置は辿れるように手を打っています。


ではどうするかという話になった時に魔王が言いました。

「一回抱いてくれたら、とりあえずしばらく封印してくれても構わない。ただ封印期間は短めにしてほしいな」と。


ざっくり封印と説明しましたが、封印の期間は魔王の力と術者の技量に左右されます。

これまでに歴代魔王が封印された期間で見ても、最短だと1年未満ということもあります。ちなみに最長がおよそ100年でこの時は魔王位の継承直前で魔王の力が最も落ちていた時期に偶然封印が成功した結果で、通常は10年から30年の間というのが一般的でした。

この申し出に勇者は驚きましたが、自分の技量であれば、調整して封印期間を逆に短くすることは可能だと思い至ります。


ただ同時にもう一つの事で慌て始めます。勇者はそういった女性経験が皆無でした。


真っ赤になって律儀にあたふたとそのことを言い始める勇者にあっけにとられながらも、同様にそういった経験のない魔王は顔を真っ赤にしながら自分も経験がないことを伝え、なんとかかんとか、結ばれるとこにもちこみました。


そしてその時にできたのが私です。


ただそのとき私が出来た事に関しては狙ってやったのかどうなのかは謎です。

母に聞いてもニヤリとするだけでそれに関しては答えてくれませんでした。

ちなみに父は全く気付かなかったそうで、気づいていたら封印の時にもう少し気遣ったと言っていましたが。


その二日後に魔王の封印は行われました。

勇者としての父の封印技術は見事で、一発で魔王を氷漬けにすることに成功しました。

勿論私も一緒にです。

というか自分では記憶がないのであれですが、普通に考えたら出来て真っ先に父親にされたのが氷漬けって普通はトラウマになりますよね。その時の記憶がなくて本当に良かったです。


というか父が裏切ってがっつり封印かける事は想定しなかったのかと疑問に思いましたが、母曰く、

「もしそれであたしを裏切ってたら、封印解けると同時にすっ飛んでって、間違いなく跡形も残さず消し飛ばしてた。」だそうです。

そりゃそうですよね。魔王ですから。



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