第2話 魔王討伐の決まり事
元々こういった戦争時の魔王討伐の場合、魔王を殺すことはほぼ不可能で、一定期間封印状態に置き、その間に争いの主導権を握るというのが大概のやり方です。
なぜ殺すことができないかというと魔王を完全に殺してしまうと、次の魔王が現れるまでの間、魔国全体のみならず、全世界単位での深刻な悪影響が出ます。
この世界にあまねく存在する魔王が司っている魔力のコントロールができなくなるためで、例えば地殻に含まれる魔力の暴走による火山噴火の激化や、深刻な凶作など敵も味方もあったもんではない大混乱が発生します。
極論魔王を殺したら、殺した国が逆に周囲の争いに関係ない国からどつかれるレベルです。
「てめえの国の自分勝手で、うちの国の民凶作で殺す気か」って感じです。
じゃあ魔王が魔力を司っているなら、それを使って世界征服すればいいじゃないかと思う方もいるかもしれませんが、それはそれで無理です。
というのもあくまで魔力を司っているだけであり、恣意的に「あそこの火山噴火しろ。」とはなかなかいきません。魔王がいないとこの世界の魔力は安定しないが、魔王自体は万能ではないということです。とはいえ魔王は単体での魔力利用なら世界随一と言っても過言ではないので、島一つ消すぐらいはできるのですが。
ぶっちゃけその場にまで行かなければならないので、遠隔起爆で火山爆発みたいなマネはできません。
話が横道にそれてしまいましたが、そういった訳でこの世界で魔王を殺すのは基本推奨されません。
魔王が生きていれば封印されていてもいいので、封印が前提になるのですが、もちろん魔王も黙って封印されるわけもないので、ある程度消耗させてから封印という手順になります。
ところがここで齟齬が起きました。
今回の勇者である我が父ノルトラインは実は正面からの殴り合いが極端に苦手な勇者でした。
剣術、攻撃魔法、肉弾戦いずれもほとんどダメ。
その代わり、封印魔法、防御魔法、基礎防御力はピカ一という防御特化の勇者だったのです。
というかそれは僧侶とかの領域ではと思いますが、父の一族は神官なのでそれは間違っていません。とりあえずそんな父が聖剣を持って生まれてきたため勇者となったのが、今回のローテンブルクの不運でした。
ローテンブルクとしては攻撃系特化の者と組ませてその者が魔王を消耗させた上で父が封印という計算でしたが、その前提は魔王城の中で攻撃要員の前衛が罠を踏んだ瞬間破綻しました。
いや、それなら防御特化の勇者が先頭に立って探索すべきだったのではと思われる方もいるかもしれませんが、この魔王城の罠そんなに甘くはありません。
前衛をやり過ごして三人目が通った瞬間に起動する罠や、元々触らなければ作動しないが、罠を見つけて解除しようとすると作動する罠など、これでもかと嫌がらせのような罠が仕掛けられています。
ちなみに解除しようとすると作動する罠は普通に踏んだり近づいても実は全く起動しないので、気づかず素通りしていればそれだけだったりします。
罠探知スキルや各種アイテムで罠に気づける者たちを狙った嫌がらせです。
まったく考えた者の顔を見てみたいくらいです。
私よりよほど邪悪なのでしょう。
そんなこんなで死にはしなかったものの、罠で重傷を負った前衛がパーティから脱落してしまい、さりとてすでに魔王城の中で引き返すわけにもいかず、攻撃力を欠いた状態で進撃続行を余儀なくされたのです。結果魔王にたどり着くまでに他のパーティも消耗して脱落していき、魔王の間にたどり着いた時には攻撃手段をほぼ持たない防御特化勇者ただ一人という状態に陥っていたのでした。
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