魔王と勇者の間に生まれた娘ですが 自分のアイデンティティを探して旅に出ます
@kai6876
第1話 王女ルクレツィア
いつか見返して黒歴史になるかもしれませんが、後世の為ここに記録を残します。
王女ルクレツィアについての。
まず私の複雑な家庭環境からお話ししましょう。
というか複雑の八割は一つの系図で話が済むのですが、
母 魔王 エルティア。
父 勇者 ノルトライン。
娘 ?? ルクレツィア。
はい。恐らく知ったほとんどの者は首を傾げ(かしげ)たくなるでしょう。
ちなみに実際に傾げたものは、死刑です。魔王の娘が命じます。
…さすがに冗談ですが、なかなか冗談と受け取ってもらえないのかこれを言うと割とみんな引き攣った笑顔を返してきます。
というわけで、私は現在の魔王の娘で名をルクレツィアと言います。
現在一六歳、魔族の中ではまだまだ全くの若輩者で魔族の末席を汚しているものでございます。
こう書くと非常にかたっ苦しいように思われるかもしれませんが、私自身は全くもってそんなことはありません。
こんな口調で話さなければならないのも魔王の娘だからです。
魔王=尊大な口調でしゃべるというわけではないのですが、周囲はそうは思っていないようで、軽く話そうとすると畏まって「そのような口調で話されるのは…」と言ってくるのです。最近では面倒臭くなってしまったので、半ば意識的にこのような話し方をしています。
とはいえ、これを読むのはどうせあたしが死んだ後の者たちでしょうから、もう少し砕いて書こうと思っています。
さて、ではまず現在の周囲の勢力図から簡単におさらいしていきますね。
今あたしのいるのが魔族の国アルレシャ、その西から南にかけて接するのが人間の国ローテンブルク、東に接するのがエルフと精霊の国アルテンベルク、東北に少しだけ接しているのが同じ魔族の国トリッテンハイム、北の山岳地帯で接しているのが獣人の国ガーフェスタとなっています。
この中で北のガーフェスタと東のアルテンベルクとは特に問題を抱えてはいません。両方とも峻険な山脈で接していて通行可能ルートはわずかであり、資源やなんやと言ったものもないので、領土問題もまぁ起きません。現在のところ数年交代で、治安維持などの責任を双方で負っている形です。
東北のトリッテンハイムとは同じ魔族どうしながらも、火種を抱えています。
というのはトリッテンハイムは邪竜を主と敬う国で、ある意味それ以外認めない偏狂者の国なので、周囲に喧嘩を吹っ掛けることがよくあります。が、逆に周囲から殴りこまれて助けを求めてきたりもするので、正直面倒臭い国です。
ここに関してはまたおいおい説明します。
問題は西から南の広大な範囲で接している人間の国ローテンブルクです。
いや、もうほんとにこっち側だけやたらと火種だらけです。
接している範囲が広大な上、こちらは山脈などではなく穀倉地帯で接しているのです。作物利権、土地利権、水利権などなど、おまけに南部にある都市レ・ノヴェルタの周辺は魔力結晶が産出する為それを狙っての小競り合いも絶えません。
でもって時々本格的にやりあうとなると勇者が魔王討伐というか魔王封印に来たりするんですが、毎回来るわけでもなければ、毎回勇者が勝つわけでもなくそこそこの回数撃退もされているし、逆にこっちから勇者の討伐軍も出す時があって、何回かはこっちに来る前に勇者が撃退されることもあったりとそんな事の繰り返しです。
私が記録を見る限りだと互いに無駄なことしているように見えて仕方ないんですが、当人たちはいたって真面目にやってるようなのでたちが悪いです。
で、そんな小競り合いで一番最近本格的な戦いになったのが18年前で、水利権がきっかけで攻め込んできたローテンブルクとの殴り合いのさなかにそれは起きました。
ローテンブルクが送り込んできた勇者が魔王城まで到達し、魔王との一騎打ちになったのです。
普通のお話ならここで勇者が魔王を倒してハッピーエンド、国に戻って王女様と結婚というところでしょうが、今回はそうはなりませんでした。
というのもこの勇者、魔王が倒せず、封印もできず、さりとて自分も倒れないというどうしようもない事態に陥ったのです。
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