全員集合(2)
「ウェティブはなんで、あんたを…狙って。いやあれは目の敵にしてるってかんじだったな」黒澤が訊く。
「私が話そう。簡潔にいえば、ウェティブは彼に成り替わることが目的なのだよ。今回のようなIDだけでは無く本来の意味で。恐らく、彼を笠原工業に差しだす代わりに、本体ごと自由にさせろ、とでも言ったのだろう」
コーヒーを飲み、琴平が口を開いた。
「複数体いたデザイナーベイビーの中で、当時まともに成長しながら活動できたのは2体。それがウェティブと彼だ」
「そういえば湊さんって本名あるの?」高見が身を乗り出した。
「あるっちゃあるが…」
湊は遠慮がちに答える。まるで自分の口から名乗るのを拒否しているかのそぶりに、黒澤は気がついた。しかし琴平の口からあっさりと聞かされる。
「アトラス、だが今は名前の件については置いておく」琴平はそのまま続けた。黒澤も、それ以上聞くのは今は止めた。
「2体は、いやふたりは笠原工業内で実験対象になっていた。その過程で完成品と笠原工業が認めたのがウェティブだけだった。もう一体はデータ抽出後に破棄される予定だった。さっきも言ったが完全オートマタ化ができなかったせいで、その特色を見落としたからだが」
湊はうなずく。高見には、彼が少々遠い目をしているように見えた。
「そのころ、私はアタッカーとして今でいう事務局の下で働いていた。まだ笠原工業と違法オートマタの関りも知らぬ未熟な若者だった」当時を懐かしむかのように琴平は話を続ける。
「そんな最中、笠原工業内で事件が起きた。オートマタの暴走だ」
「それが湊さん?」高見が湊に視線を寄越すが、彼は即答した。
「残念。ウェティブがデータ転送を失敗したことが原因だ」
「私のチームが笠原工業に派遣された。その時に見てしまったのだよ。実験室を。まずいものをみたと肌で感じた。そこの一角にいたのがデザーナーベイビーだ。といっても少年少女の外見だが。最初は、研究員が子供をみているだけかと思ったが、全く違った。彼らはウェティブの失敗を機に証拠を隠滅しようと、彼らを破棄しようとしていた」
「なかなかヘビーですね」高見がつぶやいた。
「暴走したオートマタはチームが制圧し、私は実験室にいた研究員に少々眠ってもらい複数人の子供を見渡した。既にほとんどが機能を停止していた。彼だけが、息があった」
機能を停止した、という琴平の物言いに、黒澤の眉間に皺が入ったのを高見は見逃さなかった。
「そのおれを、琴平さんが連れ出した。おれは、あんまり覚えてないんだけどね」
「そこにあった実験データと一緒にな。それでわかったのだよ。笠原工業が諸悪の根源だと」
琴平は目を伏せてコーヒーを啜った。
「ウェティブは、おれだけが逃げたと思っているんだ。実際のところ、おれは死ぬ寸前だったのにな。結果としておれだけが自由になった。あいつは笠原工業に本体が置かれているから、直接外に出るには、他の違法オートマタにデータを転送するしかない。人間べースに製造されたと言っても肉体は弱ってるからな。しかもウェティブはデータ転送できる機能をつかって本社データを乗っ取ったんだ。暴走事件はそれが狙いだったんだろう。実質、掌握してるともいえる。データを吹っ飛ばされたくなければ外に出させろ、ってとこだな」
「ウェティブは、まぁ話などしたことがないからわからんが。自分が自由になるために彼を追っている」彼のところで琴平は湊を促した。
「わざわざIDを乗っ取ってからおれの目の前で自殺したのも、おれが戻る場所を無くすためだろう。その気になればいつでも殺せるっていう脅しだ。まえの一掃作戦で、おれが違法をたらふくぶち壊したから、その報復なのかもな」湊がそう言うと、高見は斜め上を見上げた。そういえばあの機体もそんなことを言っていたと思いながら。
「逆を言えば、おれが違法オートマタを追っ払うだけじゃなく、全部破壊したい理由はそれだ。違法オートマタは、言っちまえばその全てがウェティブの分身になり得る。数を減らせれば奴がデータ転送できる機体も減るからな。いくらウェティブでも同時に複数体へのデータ転送は確認されていない。まぁ、これも奴がこれ以上進化したり、違法機種のバージョンアップがされなければの話だが」
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